生物の形態形成の理論 Turingの反応拡散モデルのその後

生物の形態形成の理論の一つにAlan Turingのreaction-diffusion modelがあります。
近藤滋さんが魚の紋様でこのモデルが実際に働いているという証拠をNatureで発表されて一躍脚光を浴びた理論です。
A reaction-diffusion wave on the skin of the marine angelfish Pomacanthus
Nature, 376 (1995), pp. 765-768
その後の発展はどうなっているのでしょうか。近藤さんがその後の発展についての論文を発表されていてこちらから読むことができます。
An updated kernel-based Turing model for studying the mechanisms of biological pattern formation
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0022519316303630?via%3Dihub
昨日紹介したJT生命誌研究館が提供する最新の動画で、この理論の最新の状況を日本語でのわかりやすく解説しているものがあったので紹介しておきます。
「研究員レクチャー」記録動画 2022.12.10 (オンラインライブ開催)
「生物の形と模様ができる仕組み」(85分)講師:渡邉正勝・荒巻敏寛・黒田純平・近藤滋
(大阪大学生命機能研究科パターン形成研究室)
https://youtu.be/1SDApMW2Lf8

Turing の原著論文はこちらから読めます。ダウンロードも可能です。
https://archive.org/details/turing_20201005/page/37/mode/2up

反応拡散方程式のモデリングはMathematicaでもできます。
関連したMathematicaのパッケージでこんなのがあっていろいろな化学反応系のネットワーク解析に使えそうです。
CRNSimulator Mathematica Package
http://users.ece.utexas.edu/~soloveichik/crnsimulator.html
Python版もあるのでさがしてみてください。

微小管をエネルギーが66オングストロームも移動することがわかったという論文がでています。

微小管をエネルギーが66オングストロームも移動することがわかったという論文がでています。
Electronic Energy Migration in Microtubules
というタイトルの論文です。プリンストン大学のGregory D. Scholesのグループによる論文で、今年の1月12日にオンライン公開されました。印刷版はまだですがこの論文の筆頭著者の図が表紙を飾るそうです。米国化学会の雑誌ACS Central Scienceにアクセプトされた論文です。筆頭著者のプリンストン大学のポスドクのAarat Kalraさんのサイト
https://www.aaratkalra.org/publicationsからも読めますし、表紙の図もみられます。また著者の関連論文も興味深いものがいいろいろあるのがわかります。

タンパク質を作っているアミノ酸であるトリプトファンは、紫外線を吸収することが知られています。微小管microtubulesでトリプトファンに吸収された光エネルギーがどれくらいの距離を移動するかを実験で測定したところ、なんと66Åも移動していることがわかったのだそうです。従来の理論conventional Förster theory ではせいぜい15Åしか移動しないはずなのに、だそうです。微小管に対するイメージが変わりますね。トリプトファンやチロシンと言ったアミノ酸の間でのエネルギー移動についていろいろ調べてある論文です。
https://pubs.acs.org/doi/10.1021/acscentsci.2c01114
pdfをダウンロードして是非読んでみてください。

体内時計についてのすばらしい動画を紹介します。

JT生命誌研究館のYouTibeチャンネルの動画は、以前 映画「シン・ウルトラマン」の話で紹介したことがあります。昨日 面白い講演会ビデオのライブ配信があったようです。サイトの紹介の部分は以下のように書かれています。
「生きものの成り立ちと時間」
講師 八木田和弘先生(京都府立医科大学 統合生理学 教授)
私たちが生きる上で欠かせない、24時間のリズムを刻む体内時計は、地球の自転に伴う昼夜の環境周期に体の機能を適応させるしくみです。この時計の成り立ちと役割について、生まれるまでの発生過程と、生まれてからの環境適応を切り口に、お話しいただきます。私たちはなぜ、今ここに、このように存るのか? という問いを、時間の視点から考えてみましょう。

ということで、生き物の体内時計がどのようなもので、どのような分子メカニズムで動いているのか、なぜ存在するのかなどの問題を考える上での基礎知識が得られるすぐれた動画です。日本語ですので是非ご覧ください。
https://youtu.be/LLOH7Bpm46c

量子コンピュータのZoom 勉強会(英語)の動画が公開されています。

昨日は、匂いの受容に量子力学的な効果が働いているという動画を紹介しました。これは以前紹介したZoom勉強会の動画です。

量子生物学入門コースかZoom開催されています。

カリフォルニア大学ロサンゼルス分校UCLAのQuantum Biology Tech (QuBiT) LabのYouTubeチャンネルに動画が掲載されています。
https://www.youtube.com/@quantumbiologytechlabatucl6800/playlists
この再生リストには、同じく開催されたZoomでの量子コンピュータの勉強会動画もアップロードされています。
https://www.youtube.com/playlist?list=PLqT9CpqIkT4MH34V9j-8JXU0EK1mJfaYj
興味のあるかたはのぞいてみてください。こちらは第一回の勉強会動画です。量子力学入門となっています。
https://youtu.be/cttTDxRS4fg

新型コロナウイルス感染の量子生物学

プレプリントサーバーをみていたら、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質がレセプターに結合する際に、電子の量子トンネル効果によるトンネリングが重要な役割を果たしている可能性があることを議論している論文をみつけました。匂いの認識に非弾性量子トンネル効果が働いているという有名な説から思いついた研究のようです。

Bad vibrations: Quantum tunnelling in the context of SARS-CoV-2 infectionというタイトルの論文で、こちらにプレプリントがあります。https://arxiv.org/abs/2111.10259

この論文は、Scientific Reportに去年10 月にアクセプトされて掲載されていました。
https://www.nature.com/articles/s41598-022-21321-1
興味深い論文ですね。この論文で議論している嗅覚に量子生物学的効果(量子トンネリング)が主要な役割を果たしているという説についは、おなじくプレプリントサーバーに掲載されている以下の論文をご覧ください。

Quantum Biology: Can we explain olfaction using quantum phenomenon?

賛否両論を扱っている総説です。https://arxiv.org/abs/1911.02529
もっとやさしい匂いの量子生物学についての解説は、「量子力学で生命の謎を解く」の第5章をご覧ください。https://www.sbcr.jp/product/4797384369/
原書を読んでのセミナーの動画はこちらです。https://youtu.be/JliKgsH8y_

最近のニュースをいくつか紹介します‥‥。

今日はいくつかニュースを書いておくことにします。

1)このブログで閉鎖の危機にあると書いていた京都大学のオープンコースウエアは、閉鎖を免れて強化されるようです。京大のホームページでアナウンスがありました。
https://www.kyoto-u.ac.jp/ja/news/2023-01-17

いままでのコンテンツも維持されるとのことでよかったですね。

2)国立国会図書館の個人送信資料の印刷機能は無事実装されて動き出しているようです。印刷が一度に画像50コマですが可能になっています。一コマに2ページはいていますから100ページ印刷できることになります。ただしpdfのページ下に、印刷者のIDと氏名が透かしではいるようになっています。

3)英語を読む時には、DeepLなどの翻訳サイトを使っている方が今や主流だと思います。最近、英語で書いたものを書き直してくれるDeepL Writeというのも無料で利用できるベータ版が公開されました。
英文を左側の欄にいれると、校閲した文が右側に表示されるという簡単なしくみです。チェックしたい英文を左にペーストすると自動的に右に校閲済みの文が表示されます。こちらで試してみると英文を書くときに役立ちそうです。https://www.deepl.com/write

4)AIのChatGPTで遊んでいる方が多いようですが、けっこういいかげんな答えを教えてくれるようです。Wolfram 言語を開発した(MathematicaやWolframAlphaの開発者)の Stephen WolframさんがChatGPTに質問して誤った答えを返してくる例を、WolframAlphaとの対比でいろいろあげてくれています。こちらをご覧ください。https://writings.stephenwolfram.com/2023/01/wolframalpha-as-the-way-to-bring-computational-knowledge-superpowers-to-chatgpt/

 Wolfram 言語は自然言語を解するように設計されているので、これを自然言語を解するChatGPTとつなぐことができれば強力なAIができるというようなことが書かれています。ChatGPTがめちゃめちゃな答えを返してくるという例とともに、その将来性を考察している文章なので一読をおすすめします。そのブログをみているとWolframさんが書かれた本、Combinatorsの宣伝が載っていました。日本のKindle unlimitedでも米国と同様、無料で読めますので契約している方は読んでみると面白いかもしれません。」

2022年度 PAGS・DDBJ合同 中級者情報解析講習会の動画や講義資料が一般公開されました!是非ご覧ください。

先日実施された講習会 <2022年度 PAGS・DDBJ合同 中級者情報解析講習会>の配布資料と講義ビデオが今日公開されました。以下のサイトに動画と配布資料、講習会のときの質疑応答へのリンクがのっていますので是非ご覧ください。
https://www.genome-sci.jp/lecture202212

このサイトから、配布資料のあるGithubサイトにいけば資料をダウンロードできます。YouTubeのPAGS-Genomeチャネルでも動画がみられます。https://www.youtube.com/@pags-genome

受講のための事前準備についてはこちらのサイトをご覧ください。https://www.genome-sci.jp/bioinformatic#1
開いたページの、2022年度の中級講習会のアナウンスの部分の一番下にある「詳しくは」という部分をクリックすると事前準備やPythonの入門書などが紹介されているので参考にしてください。
https://youtu.be/EIQLd8KGYAc
これは一番最初のイントロをかねた講演動画です。

私はLinuxでMinicondaではなくAnacondaをインストールして、資料のJupyter notebookをひらきながら受講しました。

講習会を受講するより動画サイトでみるほうが、断然ゆっくり勉強できるので是非受講してみてください。
ちょっとむずかしいと思われる方でも一応、全編ご覧になるのをすすめます。これくらいできればゲノム解析をPythonでやっていけるんだというのがわかると思います。この講習会の動画をみると、ゲノム解析にはPythonをどの程度やればよいのか、Pythonの何をまず学べばゲノム解析に役立つのかがわかります。詳しい事はわからなくても、ゲノム解析でPythonの何が役立つのかをこの動画で把握してから、Pythonを学ぶのが初心者にはおすすめです。そうすれば学習意欲も増して、スムーズに余計なことを学ばずにPythonを使ったゲノム解析にはいっていけると思います。もちろん統計解析にはPythonよりRの方が向いているわけですし、Rで行ったほうが簡単なゲノム解析も多いので、そのあたりは門田先生のサイトで補っていくのをお勧めします。

 

「Rで塩基配列解析」 (東大 門田幸二先生のサイト)を紹介します

よいバイオインフォマティクスの教科書を紹介します。

The Software Engineering at Googleという本が無料で読めるようになっています。

今日はMRC LMBのWebinarに参加していたので、長い記事の代わりにオンラインで無料で読める本を一冊紹介しておきます。

The Software Engineering at Googleという本は「Googleのソフトウェアエンジニアリング ―持続可能なプログラミングを支える技術、文化、プロセス」というタイトルで翻訳もでていますが、英語の原書はオンラインで無料で読めます。翻訳書についてはこちらのリンクをご覧ください。英語版はO’Reilly Media, Inc.から2020年に出版されています。書籍版や電子ブックも結構な値段ですが、無料公開されたオンライン版でじっくり読むのも良いと思います。興味のある方は以下のリンクで読んでみてください。
https://abseil.io/resources/swe-book
https://abseil.io/resources/swe-book/html/toc.html

九州大学のデータサイエンス講義資料です。

今日は九大が公開している、データサイエンスや統計などの講義資料を紹介します。
九州大学 数理・データサイエンス教育研究センター が公開している講義資料です。
このセンターは文部科学省が全国6大学(北大、東大、滋賀大、京大、阪大、九大)に、数理及びデータサイエンスを中心とした全学的な教育を行うセンターの設置をサポートすることにした結果設置されたセンターです。講談社からでているデータサイエンス入門シリーズもこの企画から生まれた教科書シリーズです。

九大が公開している講義資料は以下のようなものです。詳しくはサイトをご覧ください。
http://mdsc.kyushu-u.ac.jp/lectures
ほとんどの資料はクリックするとpdfがダウンロードされます。ただ講義によってはslideshareを使っているものがあり、こちらはslideshareが有料化されてしまったため、無料お試しでダウンロードする必要があります。ダウンロードしないでもみられますが、広告が頻繁に入るのはうっとおしいです。
肝心の講義資料ですが: 

・データサイエンス概論Ⅰ&Ⅱではわかりやすい以下の講義資料が公開されていて一括ダウンロードも可能です。
  データとデータ分析
  データのベクトル表現と集合
  平均・分散・相関
  データ間の距離と類似度
  クラスタリングと異常検出
  線形代数に基づくデータ解析の基礎
  主成分分析
  予測と回帰分析
  可視化
  確率と確率分布
  信頼区間と統計的検定
  非構造化データ解析
  パターン認識と分類
  データ収集とバイアス
  人工知能入門
他にも以下の3つの講義資料があります。

・データサイエンス実践Ⅰ~Ⅳ
・情報科学 【AI・データサイエンス 】
・統計基礎(英語版)
他に、参考資料へのリンクものっていますので是非、サイトをご覧ください。

余談ですが、よい無料サービスだと喜んで使っていると、突然有料になってサブスクリプション料金が必要になるというのは近頃よく経験する事例です。Udemyの講座などでも、無料のシステムを利用して講義していたところ、有料化されたのであわてて別の無料サービスを探して動画をとりなおしたという講師の先生が多いようです。有料化されると使わなくなりますよね。昔はサブスクリプションに変えてもお金を払って使い続ける人が多かったのでしょう。しかし最近はなんでもかんでもサブスクリプション化されてきていて、サブスクリプション代金がかさんで、もう払えないという人が増えています。サブスクリプションというビジネスモデルも、多分限界がみえてきているのだと思います。

未来を創るナノマティリアルについての講演動画です。マイケル・ファラディーの研究も沢山紹介されています。

英国のRoyal Institutionの講演はいつも面白いものがあって楽しみです。昔Michael Faradayが研究して講演していたところですので、Faradayの業績を引用しながら講演する講演者の方も多いです。今回紹介する2日前に公開された動画もそうした講演の一つです。Nguyen TK Thanh 教授(University college London)https://ntk-thanh.co.uk/による講演で、彼女はナノパーティクルの医学への応用で有名な方です。昔 グリコサミノグリカンの研究もしておられました!
https://youtu.be/SFUgdUWw6S8

彼女の講演ではイントロの部分で、Faradayが金のナノ薄膜をつくって観察していた話(ファラデーの実際につくっていた実物の金の薄膜もみせてくれます)やFaradayの作った金のナノパーティクルの話も聴けますし、本物のファラデーの実験日誌もみられます。講演者は以前このRoyal Institutionのラボで研究していた方で、地下に保存されているファラデーの実験室や実験ノートにもアクセスできたそうです。ファラデーの実験室に残されているサンプルでのgold nanoparticleの示すチンダル現象も実際にみせてくれます。ファラデーの実験室とか作った電磁コイルとかもみせてくれるので、ファラデー・フアン必見の講演です。
彼女はロザリンド・フランクリン賞2019とか、https://youtu.be/Z5FG1dSdI7E これは日本語字幕付きの動画です。

Royal Society of Chemistryの 2022 Interdisciplinary Prizeも獲得しておられます。https://www.rsc.org/prizes-funding/prizes/2022-winners/professor-nguyen-thi-kim-thanh/