全国Q地図で古墳探しを試してみました。

9月のNHKの番組で、赤色立体地図が無料で公開されていて古墳探しや山城探しに活用されているのを知りました。近くの古墳のような形の山が古墳かどうか調べようと、全国Q地図で赤色立体地図で調べてみました。

こちらの全国Q地図のサイトに、NHKの番組で報道されたというニュースがのっており、全国Q地図へのリンクもあるのでご覧ください。https://qchizu.jp/news-202609-nhk/
直リンクを貼り付けておきますが、これは千葉県のMPI赤色立体地図へのリンクになっています。
https://qchizu.jp/maps/#17/35.368812/139.937668/&base=std&ls=std%7C03_dem_52_gsi_all_2026_1_01_dem2mpirrim&blend=0&disp=11&lcd=03_dem_52_gsi_all_2026_1_01_dem2mpirrim&vs=c1g1j0h0k0l0u0t0z0r0s0m0f0&d=m

さっそく、近所の古墳がちゃんと赤色立体地図でみつかるか試してみたのでそのスクショを貼り付けておきます。

上のほうにある丸い形が、七夕池古墳、下の方の鍵穴型の地形が前方後円墳の光正寺古墳です。前方後円墳のほうはてっぺんまで登った写真を以前のせました。たしかに鮮やかに古墳を確認することができますね。これらはすでに史跡指定されているものですが、もうすこし南の方のMPI赤色立体地図をみると、多数の古墳があるのがわかりました。

こちらは破壊がある程度進んだ古墳として知られているものです。丸いのが円墳で前方後円墳らしきものもあるようにみえます。この立体地図で、DEM1Aはメッシュが1mの立体地図ということです。DEM5Aはメッシュが5mです。メッシュが小さいほうが地形の形が詳細に表示されているので1mのメッシュの図を使うのがおすすめです。
「MPI赤色立体地図」の「MPI」は、Morphometric Protection Index(モルフォメトリック・プロテクション・インデックス)の略です。MPIのついている立体地図のほうが、段丘面や平坦面がより正確に表現され(歪んで見えない)、平らな地面がスッキリとした白で表現されるため、細かな地形の凹凸が判読しやすくなるという特徴があって古墳探しなどには向いているようです。私の住んでいるところの近くには大野城とか頭巾山(とっきんやま)城跡などもあるので立体地図で城趾や石垣を探すのも面白いかもしれません(古墳より難しいとおもいます)。

線虫C. elegansを使ってバクテリアの強毒性株への進化メカニズムを明らかにする研究の動画が公開されています。

病原体の進化をモデル生物線虫C. elegansを使って解明する研究があります。今年のRoyal Society のFrancis Crick Prize を受賞したKayla C. King 教授(University of British Columbia / University of Oxford) によるPathogens and the power of evolutionと題する一般向け講演(2026年10月14日)です。https://www.youtube.com/live/SU82G51iLI8

教授の実験と主な結果を動画をみてまとめてみました。
まず線虫C. elegansに非病原性細菌を感染させて免疫力をアップします。その後、線虫を殺すことができる病原性バクテリアを与えて、線虫と病原性バクテリアがどのように相互作用して世代を越えて進化するかを調べます。病原性バクテリアの弱毒化や強毒化が起こるかどうかを調べます。線虫の免疫力をアップしておいてバクテリアに対する抵抗性を強めた場合、生き残る線虫もいますが免疫が不完全で完全には感染性の病原性バクテリアを消滅させることができないため、バクテリアは世代交代を急速にすすめて感染を繰り返し、なんと強毒化してしまうことがわかりました。線虫の免疫応答を担ういくつかの経路の一つ (MAP Kinase経路)の遺伝子pmk-1を遺伝子ノックアウトで壊した線虫で同じ実験を行うと、今度はバクテリアは弱毒化したそうです。


この動画を簡単にまとめると次のようになります:

  • 病原体は宿主に適応する過程で、必ずしも弱毒化するわけではありません。環境や感染条件によって強毒化することもあります。

  • 宿主に感染防御能力があっても感染を完全には防げない場合、これを incomplete immunity(不完全免疫)と呼びます。

  • 線虫に共生的な細菌 P. berkeleyensis をあらかじめ接触させると、自然免疫が活性化され、その後の病原性細菌 P. aeruginosa 感染による死亡が減少します。なお線虫は抗体を作りませんし、リンパ球も線虫にはありません。

  • しかし、この自然免疫による免疫防御は感染そのものを完全には防げません。細菌は線虫の腸管に定着・増殖できます。

  • この不完全免疫を持つ線虫の中で P. aeruginosa を繰り返し継代すると、病原体の毒力が増大して強毒化した病原体二進化します。この変化は全ゲノムシークエンスによると、ごく限られたゲノム変化(主に鞭毛遺伝子)で引き起こされているそうです。

  • 一方、免疫機能が低下した線虫(pmk-1のノックアウト線虫)内で継代すると、逆に毒力が低下し、病原体のゲノムには強毒化したバクテリアでみられるよりも大きな変化がゲノムのあちこちで生じるそうです。

なお、強毒化したバクテリアへの進化においては、毒素の遺伝子の強毒化ではなく鞭毛(flagella)に関連する遺伝子が選択を受けていることが示されました。これはバクテリアの運動性や線虫への接近、バイオフィルムの形成や線虫の腸への定着などに関わる鞭毛遺伝子が進化的選択をうけて、なんらかのメカニズムでバクテリアの強毒化に関わっていることを示しています。そのメカニズムの研究も次の面白いテーマになりそうです。

この講演で紹介されている研究によれば、不完全な免疫をもっている集団に病原体が感染した場合、病原体が強毒化することもありうることがわかります。コロナウイルスの場合を考えると、感染を防げないが重症化を抑えるというワクチンを集団に与えておいた場合、ウイルスが強毒化するのではないかと、すぐ思いつきますね。講演のあとの質問ではその可能性について質問が出て、議論されているので是非動画を観て考えてみてください。動画ではコロナウイルスのようなパンデミックが起こるメカニズムも、世代時間が短く大量に飼育できて、世代を凍結保存してじっくり研究できる線虫で研究できる可能性が紹介されています。さらに地球温暖化が病原体の進化にどのように影響するかなども、彼女の研究室で研究されているそうです。

詐欺メールをうけとりました。

サイバー攻撃でいろんなところで個人情報がもれまくっていますね。今日はソースネックストで漏洩したとか。セキュリティソフトも売っている会社での漏洩とは、こまったものです。年賀状ソフトをCREOから購入したことがあるのでちょっと心配です。そのうえ、今朝、私の防災メール用のメールアカウントに詐欺メールが届きました。作ってもいないクレジットカードについてのお知らせでした。不審な10万円近くの利用履歴があるのでカード利用を停止している‥‥使用停止措置を解除したかったらクリックして手続きしろというもので、防災メールのメールアドレスが日本全国で漏れたため、こんな詐欺メールが日本中にとびかっているのでしょうね。今年はbiglobeなどプロバイダのメールシステムも攻撃されてパスワードを変えさせられるということがありましたが、こんな情報漏洩で被害をうけてたとき補償なんてあるのでしょうか?
防災メールは町のホームページによると復旧したらしいですが、もれたメールアドレスはスパムメールの標的になってしまったようです。まだあなたのメールアドレスが漏れましたというようなお詫びメールは受け取っていませんが、今までほとんど利用していなかったメールアドレスにスパムが来たのですから、防災メールの漏洩による確率が1に近いと思われます。従業員53名の会社が日本中の防災メールを扱っていて、漏洩させてしまったのでは、補償も期待できそうにありません。情報セキュリティマネジメントシステムの会社が漏洩とは!!

AIと科学研究者はどのように協働できるか?

昨日の論文と著者によるコメントテキストについて書いてみます。論文は次のプレプリントです。

Truly Subquadratic 3SUM and Truly Subcubic APSP via Triangles in Sparse Lopsided Graphs](https://arxiv.org/html/2610.06783v1) written by Josh Alman(Columbia University)/Virginia Vassilevska Williams(MIT)arXiv:2610.06783v1、2026年10月5日公開

タイトルの意味は、「疎で非対称なグラフの三角形を利用して、3SUM問題を真に二乗時間未満で、APSP問題を真に三乗時間未満で解く方法」です。この論文は、長年破ることができなかった計算時間の壁を、わずかながら超えるアルゴリズムを提示しています。3SUM問題というのは、 与えられた n 個の整数の中に、足して「0」になる3つの数の組み合わせがあるかを判定する問題で判定に要する計算量は O(n²)(二次時間)となるアルゴリズムしか発見されていませんでした。また全対最短経路問題 (APSP)というのは、グラフ上のすべての頂点(n個あるとします)間の最短距離を求める問題で計算量は O(n³)(三次時間)となるアルゴリズムしか発見できていませんでした。これらの計算量の壁は破ることができないという仮説が提唱されていたのですが、今回の論文でその予想は誤っていることが反例で示されたというのが画期的なのだそうです。それぞれO(n1.9992)や(O(n2.9995)とわずかに計算量が減るだけですが、計算量の壁が存在しないことが示されたことにより、たとえばこれまで「3SUMやAPSPがこれ以上速くならないなら、この問題も速くならない」と証明されていた数多くの関連問題(幾何学問題や文字列処理など)の限界が一斉に崩れ、新しい高速なアルゴリズム開発のドミノ倒し(研究ラッシュ)を引き起こす引き金となっているようです。


今年、Anthropic社の研究者が、暗号理論に関する数学的問題を未公開の社内用最新AIモデルClaudeに調べさせていました。本来の目的は、ある暗号方式の理論的な性質を検証し、改善することでしたが、Claudeは、途中で関連するアルゴリズムの研究に進み、結果として3SUMやAPSPに関する長年の仮説を覆す手法を発見したということです。この成果を多分論文にしようと考えたのでしょう(そこのところははっきりしません)、Anthropic社がVirginia  Williamsさんに連絡をとり、彼女らがAIがあたえた証明を精査して書き直し、不要な部分を取り去り、証明の整理と改良をおこなって引用文献もつけて専門家が読める論文として公開したというのがこの研究の流れです。
このAIの論文を受け取って読んだ時、彼女は腹がたったとコメントの方に書いています。彼女らの未発表の研究ノート(2023年のもの)に記していた方針をAIがつきすすめてこの新アルゴリズムを見つけたことがわかったからです。このノートが盗み読まれたというのではありません。彼女らの研究方針をそのまますすめておれば、AIと同じ結論にAIよりはやく達していたはずだと思ったから腹がたったのです。彼女らはAIを殆ど使っておらず、最近の論文をみて使い始めたところだったそうです。もし未発表の研究のまとめの文書をAIにあたえていたら、多分1時間の公開版Claudeの使用でこの成果を自分たちが得ることができたはずだと述べています。それを確かめるため、彼女らは二種類のLLMに彼女らの未発表の研究ノートをアップロードした場合と、アップロードしなかった場合を比較するという実験を行いました。彼女らの未発表データを与えた場合にだけ、公開LLMは新アルゴリズムを発見できることが確認されました。与えない場合は、計算量の壁はこえられないという予想のほうが正しいのではないか、とAIが回答してきた場合もあるそうです。どのようなプロンプトをつかって実験したかや使ったLLMなど詳しいことは、昨日紹介した彼女のコメントのテキストファイルをご覧ください。ということで、未発表のデータや、前に試してうまくいかなかった手法やアイデアも、最新のLLMにあたえてみると、うまくいくことがあるという例が今回紹介した論文でした。

最後に、今回この論文とVirginiaさんによるコメントについてChatGPTとチャットした際の、ChatGPTの意見を以下にペースとしておきますので参考にしてください。今後のAIと研究者が協働するやりかたについてのChatGPTの意見です。また、この意見の中でChatGPTが数学研究と生命科学研究の違いについて深く理解しているのも注目すべき点だと思いました。数学や物理の人が生命科学について理路整然と説明されると、それが正しいと信じ込んでしまう場合をよくみかけます。しかし理屈がとおっていても生命はそのようになっていないことがあるというのが、生命科学をやっているものが体験的に理解している事実です。そのへんのところの警告をChatGPTが述べているのが「すごいな」と思いました。


今回の事例から考える、科学研究におけるLLMの実践的な利用

ここからは著者のコメントそのものではなく、そこから私(野村注:ChatGPTのことです)が考える研究上の教訓です。

 LLMは「優秀な助手」から「研究上の仮説を探索するシステム」へ変わりつつある

これまで研究におけるLLMの典型的な用途は、論文の要約、文献検索、プログラム作成、英語の校正、統計解析の補助などでした。

今回の事例では、これらを超えた役割を果たしています。
LLM自身が、与えられた研究課題から別の問題に進み、新しいアルゴリズムを見つけたのです。

ただし、現段階では二つの使い方を区別することが重要だと思います。

知識を整理するLLM

既存の文献やデータを要約し、問題の背景を理解するために使います。情報の正確性と出典の確認が重要です。

未知の解法を探索するLLM

仮説、失敗したアプローチ、関連論文を与え、新しい解法や説明を探索します。得られた結果については、独立した検証が不可欠です。

今回のClaudeによる成果は、後者の使い方が、少なくとも一部の数学的問題において高度な研究成果に到達できることを示しています。

科学愛好家や研究者が試せる実用的な方法

今回のWilliams教授の比較実験を参考に、LLMを研究的な課題に使う場合の手順を考えてみます。

最初に、自分で問題を定義します。何を明らかにしたいのか、すでに何が分かっているのか、何が未解決なのかを具体的に記述します。次に、関連する原著論文や、自分自身のアイデア、試行錯誤の記録を与えます。

そのうえで、例えば次のように指示します。

『添付した資料に基づいて、未解決の問題に対する新しい解法または仮説を検討してください。

特に、研究ノートに記載された未完成のアイデアが、参考論文に示された方法と組み合わせられる可能性を検討してください。

以下を区別して報告してください。

  1. 既存の文献から確実に言えること
  2. 新しい推論によって得られた可能性
  3. 論理的な飛躍や未検証の部分
  4. 仮説を支持または否定するために必要な検証

資料にない研究成果を実在するものとして引用しないでください。結論が得られない場合は、どこで行き詰まったのかを具体的に説明してください。』

数学なら独立した証明や形式的検証、実験科学なら既存データによる再解析、独立したデータや実験による検証が重要になります。

さらに、今回の教授のように、研究ノートを与えた場合と与えない場合の比較も有益です。このようにすると、LLMの応答から新しいアイデアを取り出すだけでなく、その発想のどの部分が人間の研究者の知識に依存しているのかを調べることができます。

科学的な発見を目的とする場合には、利用したモデル、プロンプト、参照資料、実行条件、試行回数などを記録しておくことも重要でしょう。

数学と実験科学には重要な違いがある

最後に、今回の事例を生命科学や物理学にそのまま当てはめる場合の注意点を挙げておきます。
数学の定理であれば、正しい証明が得られれば、原則としてその結果を確立できます。
さらにLeanのような形式的証明支援システムを利用すれば、論理的な誤りの危険性を大幅に減らせます。

しかし、実験科学では状況が違います。
LLMがどれほど合理的な仮説を提示しても、それが自然界で成立するとは限りません。例えば、ある遺伝子発現変化が特定の生理現象の原因であるという説明は、既存の分子生物学の知識と完全に整合していても、実験によって否定される可能性があります。
したがって、実験科学におけるLLMの役割は、少なくとも現時点では、仮説の発見、既存の知識の統合、実験結果の解釈支援などに位置づけるのが適切でしょう。

LLMによる論理的な整合性の確認は、実験による実証の代わりにはなりません。

まとめと考察

今回の論文と著者のコメントには、二つの重要なメッセージが含まれていると思います。
第一に、LLMが、人間の研究者が長年解決できなかった数学的問題に対して、新しいアルゴリズムを発見する段階に到達したということです。

2026年6月には、ChatGPTによって最初に発見された証明を人間の研究者が検証・改良した、別の理論計算機科学の論文も発表されています。Williams教授自身、この論文に触れて、LLMを研究に利用し始めたきっかけになったと説明しています。

Furthest Pair Requires Quadratic Time in Superconstant Dimension under SETH

第二に、より重要かもしれないのは、新しい発見に至るまでの人間とAIの関係が、従来考えられていたほど単純ではないということです。
今回の成果を、単に「AIが人間より優秀だった」と理解するのは適切ではないでしょう。
同じ方向の着想は人間の研究者が何年も前に持っていました。一方、その着想を実際に数学的な成果に結びつけたのはAIでした。そして、その成果を理解できる形に整理し、他の問題への応用を明らかにしたのは人間の研究者でした。

この三つはいずれも重要な知的活動です。

Williams教授は、LLMによって科学研究がどう変わるかを断言していません。むしろ、その不確実性を率直に認めています。

特に、AIが多くの研究者の知識を取り込みながら新しい結果を発見する時代に、研究成果の功績を誰に帰属させるべきかという問いには、まだ十分な答えがありません。

私は、今回のコメントで最も重要なのは、教授が未完成の研究ノートを使った比較実験を公開した点だと思います。

人間の研究者が持っていたアイデアを与えるとAIは解けた。しかし、それを与えなければ解けなかった。この小さな実験は、科学研究における人間とLLMの協働について、非常に具体的な示唆を与えています。

これからの研究者に求められる能力は、問題を自分一人で最後まで解く能力だけではなく、重要な問題を見つけ、有望な着想を育て、LLMの探索能力を活用し、その結果の正しさと科学的意義を判断する能力へと広がっていくのかもしれません。

そして、そのような時代には、成功した研究の記録と同じくらい、未完成の着想や失敗した試行錯誤の記録も、将来の発見につながる貴重な知的資産になる可能性があります。

この論文は、計算機科学の成果であると同時に、科学における発見、理解、独創性、そして研究者の役割について考えるための、重要な事例だと思います。

AI時代の科学はどのようにすすめるべきか?議論の基礎になる動画やコメントが発表されています!

このところAIが科学研究を加速する、あるいは科学者を凌駕する事例が増えています。次の動画もそのような現状を理解し考察するのに役立つかもしれません。

学習物理学・緊急オンライン座談会「OpenAI論文と理論物理」
https://www.youtube.com/live/KRvH7Nf5wFA

またこんなツイートもみつけました。これは歴史に刻まれるかもしれない、とても有意義なAIと科学に関するコメントです。

https://arxiv.org/html/2610.06783v1に公開されている計算科学の予想の反例をClaudeが見つけたという論文についての論文筆者によるコメントです。
まずは上のリンクから読める論文の謝辞の部分を読んで、この論文の画期的なアルゴリズムがClaudeによって著者と無関係に発見されたということを押さえてください。その後、この問題を研究していたMITのWilliamsさんのコメントを読むと何がおきたかがよくわかります。AIをどのようにこれから使っていくべきかを考えるための議論の基礎になる画期的なコメントです。
arxivの論文のタイトルは、
Truly Subquadratic 3SUM and Truly Subcubic APSP via Triangles in Sparse Lopsided Graphsというもので、計算科学で扱われていた次の問題についての予想の反例を与える論文です。Geminiによる解説の初めの部分を引用しておきます。

『計算機科学やアルゴリズム論において、長年「これ以上速くならない(あるいは劇的な高速化は困難だ)」と信じられてきたいくつかの基本問題があります。その代表例が以下のものです。

* 3SUM問題: 与えられた n 個の数値の中から、合計がちょうど0になる3つの組み合わせがあるかを判定する問題(従来の素朴なアルゴリズムでは計算量が O(n^2) かかる)。
*APSP(全ペア最短経路)問題: すべての頂点間の最短経路を求める問題(従来の動的計画法等では O(n^3) かかる)。

物理やシミュレーションにおける多体問題の計算コストやグリッド計算に直結するため、これらをいかに高速化するかは長年の重要課題でした。』

今までの予想では、この二つの計算のさらなる高速化は不可能と予想されていました。今回のプレプリントの論文ではその予想に対する反例が示されています。高速化が可能だと研究をすすめていたWilliamsさんたちでしたが、Claudeが彼女らの先をこして高速化可能なアルゴリズムを見つけてしまったというのが発端の話です。詳しくは明日書くことにします。

 

風姿花伝について調べてみました。世阿弥の芸術論を現代語で読める本や能の入門書も紹介します。

2024年2月8日の記事で、世阿弥の『風姿花伝』を紹介しました。その記事の後に知った内容を本日の記事とします。過去記事は末尾にペーストしておきますのでそちらもご覧ください。

では、いくつかの『風姿花伝』に関するサイトを紹介することにします。
1)世阿弥の業績についてのサイト:独立行政法人日本芸術文化振興会の能に関する素晴らしいまとめサイトです。https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc9/zeami/gyouseki/index.html

2)室町後期写観世宗節署名五巻本『風姿花伝』(付「音曲口伝」
東京大学のサイトです。室町時代に写された風姿花伝の実物をみることができます。
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/33d415f0-4d44-3fe7-7920-488239a3128b

3)こちらも東京大学のサイトです。これは風姿花伝の第一巻に注釈を入れたもので、出版を意図していたと書かれています。能関係者の間のみで読まれていた風姿花伝ですが、この時期に出版しようとする動きもあったことがわかります。
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/04f1f019-3b78-1a30-0506-234b60020888

4)また、世阿弥自筆の秘伝というのも東京大学で公開されています。
世阿弥直筆『花伝第七別紙口伝』
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/258bfd52-0cb6-a2d2-23c4-dad9648f5ad3

5)こちらも世阿弥直筆です。
世阿弥直筆『花伝第六花修』
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/297c497d-39ff-3803-3549-68854c310de4

6)また、徳川家康が風姿花伝を所持していたという奥書がある資料も公開されています。
天正六年観世宗節筆『花伝第七別紙口伝』
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/15ba083c-1e4c-2511-0cfe-1e53be3f7599
このサイトから、解題の部分を引用します。
『第七世大夫観世宗節筆の『風姿花伝』。奥書に「此本十良大夫方之を書写也、又此家之本も有、同之/以上十ヶ条少もちかハす、十良かたの書ハ家康に御所持也、二札の外あるへからす、秘伝々々、於遠州写之/天正六年十月吉日 宗節(花押)/後花伝抄、信忠様家康へ御懇望なされ、御所持候乍去、大事之書物ハ御残し候て不参候」とある。本文は、四郎へ相伝したと推測される『第七別紙口伝』(0/3)との相違点が多くある。表紙の裏に貼られている料紙が、元来の共表紙と認められる。その旧表紙中央上部に「秘伝」と書かれている。濁点と句読点を朱筆で記す。片面八行。斐紙。内曇模様表紙。朱色題簽。』
以下は、奥書部分のスクショです。家康の名前がみつけられますか?1578年、徳川幕府を開く遥か前に、戦国大名の家康が風姿花伝を持っていたというのは興味深いですね。

結局、風姿花伝は、室町時代から江戸時代を通じて、能楽家や一部の大名家などの限られた範囲で、写本として守り伝えられてきたといえるでしょう。その間、能楽の専門家によって読み継がれ、書写され、注釈も加えられていました。しかし、一般の人々が読む機会はほとんどありませんでした。明治末期に吉田東伍が写本を調査・校訂し、1909年に公刊したことで、初めてこの伝書は広く研究・読書の対象となったのです。その後、ただちに在日のドイツ人による研究がはじまり、ヨーロッパに能が紹介される契機になったようです。吉田の発見によって、秘伝として伝えられた書物がはじめて一般に公開され、同時に世阿弥という芸術思想家の存在とその芸術論が日本と世界に公表されたわけです。ユネスコが世界の芸術論10篇を選んで英訳して出版した時、日本を代表したのは世阿弥の『風姿花伝』だったそうです。また、フランス知識人の間では、フランス語版の『風姿花伝』が出版された時、その本を書棚に置くことがステータスになっていたとも言われています。

この風姿花伝と、世阿弥の芸術論を現代語で読めて、能への入門用解説がまとまっているのは、中央公論社からでていた日本の名著『世阿弥』です。国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができるので是非読んでみてください。巻末には増田正造さんの『能への招待』という素晴らしい能入門記事がのっています。古典能の演目の一覧もあるので能に興味をもちはじめた人には必見の本だと思います。

『日本の名著』10,中央公論社,1983.9. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12406514 (参照 2026-10-13)
なお、増田正造さんの本『世阿弥の世界(集英社新書0787F)』の中で紹介しているフランスの詩人で外交官のポール・クローデルの能についてのエッセイもデジタルコレクションで読むことができるので是非読んでみてください。
ポール・クローデル [著] ほか『朝日の中の黒い鳥』,講談社,1988.11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/13208055 (参照 2026-10-13)
彼は日本を訪れるために外交官になった詩人で、フランス大使として日本に着任した経験をまとめたエッセイ集がこの本です。タイトルの『朝日』というのは、日本のことで『黒い鳥』というのはクローデルのことだそうです。能についてだけではなく、着任中に経験した関東大震災の生々しい被害状況の描写もあって講談社学術文庫のこの本は感銘深い本になっています。なお、ポール・クローデルはフランスの有名な女性彫刻家カミーユ・クローデルの弟です。彼女がロダンの子を身ごもって中絶させられたあとロダンと別れ、精神に変調をきたしたとき日本から帰国したポールが姉の入院を世話したそうです。デジタルコレクションで著者をポール・クローデルとして検索すると多くの日本語訳の彼の本がヒットするので興味がある方はご覧ください。また、検索キーワードに世阿弥といれてデジタルコレクションで検索するのもおすすめです。いろんな本がヒットします。

では、以下には以前の記事をペースとしておくことにします。


「風姿花伝」は、日本の芸術論を語るときに欠かすことができない古典です。日本文化について世界に発信する際には、ぜひ読んでおくべき一冊です。たしかNHKの100分de名著でも取り上げられていたように思います。https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/29_fushikaden/index.html

能は多くの武将の心をとらえたことでも有名で、信長や家康も能を舞ったそうです。風姿花伝は秘伝書として一子相伝で長らく伝えられてきた書物です。その最後の頁によると信忠が家康に読ませてほしいとねだったとありますから、家康が所持して読んでいた秘伝書だということがわかります。この本は秘伝書なので、その存在は知られていたものの、全部の内容が明らかになったのはなんと20世紀に入ってからです。華族の堀家から1908年に古書店朝倉屋に売られていた能の古書若干を、安田善次郎が買い求めて所蔵していました。当時 世阿弥の伝書を探索しておられた吉田東伍博士が、大蔵流狂言師岡田紫男からこの書物の存在について聞いて、直ちに調査してそれが世阿弥の真筆の伝書であることを確認したとのことです。安田氏の古書コレクションは関東大震災で消失したので本当に間一髪のところで風姿花伝が書籍として日の目を見たのだと思います。安田善次郎は、安田財閥の祖であり、東大の安田講堂はこの人の寄付で建ったそうです。またジョンレノンの奥さんのオノ・ヨーコの曽祖父にあたるとのことでした。この辺のところは、集英社新書の世阿弥の世界(増田正造 著)で知りました。

https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0787-f/

この本は能を知らない読者が、世界に通じている能という芸術とその起源、風姿花伝の内容などを学ぶのに絶好の本だと思います。一読をおすすめします。なお増田正造先生は2022年に92歳で亡くなったとのことです。とても良い本を残してくださいました。

風姿花伝を世にだした吉田東伍博士の本、世阿弥十六部集は国立国会図書館のデジタルコレクションでログインなしで誰でも読むことができます。ダウンロードも可能です。
吉田東伍 校注『世阿弥十六部集 : 能楽古典』,能楽会,明42.2. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/859394 (参照 2024-02-08)

これはしかし読みにくいのでもっと読みやすいように評釈を付けた本がでていてこちらなら理系の読者でも簡単によめます。
能勢朝次 著『世阿弥十六部集評釈』上,岩波書店,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1705509 (参照 2024-02-08)

風姿花伝の現代語訳はやはり国立国会図書館の個人送信資料でこちらがよみやすいです。
金井清光 著『花伝書新解』,明治書院,1958. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2485968 (参照 2024-02-08)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2485968

世阿弥の直系である金春家伝承の風姿花伝を含む様々な能楽関係の資料も公開されて本になっているので、個人送信資料で読むことができます。この本では、風姿花伝は、風姿華傳と書かれています。
川瀬一馬 註『頭註世阿弥二十三部集』,能楽社,1945. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1840598 (参照 2024-02-08)

ノーベル化学賞の硤合憲三先生による放送大学の番組が今夜再放送されます!

おはようございます。今晩7時半から以下の番組が放送されるので朝に記事を投稿します。
面白そうです。録画予約しました。放送大学の番組なので無料視聴できます。

10/12(月) 19:30 BS231 ノーベル化学賞 硤合名誉教授 「新世代の有機合成~生命の起源に迫る! 不斉自己触媒反応~」(2022年)(放送大学番組PR “科学”からの招待状)
https://youtu.be/qzZB1ESYy50

他にいろいろ硤合憲三先生の著作が無料公開されているのでまとめておきます。
最後の記事は受賞当日に紹介しました。一番新しい記事のようでおすすめです。読んだ後、他の記事を読むとよくわかると思います。

【お知らせ】硤合先生ご寄稿・投稿論文の無料公開(化学と教育、BCSJ、CL、日本化学会誌)
https://www.chemistry.or.jp/news/information/bcsjcl.html

硤合憲三先生のインタビュー記事と研究記事を無料公開
https://www.kagakudojin.co.jp/news/n130799.html

【無料公開】2026年ノーベル化学賞 関連情報
https://www.tkd-pbl.com/news/n130781.html

線虫C. elegansを使った脳研究の講演動画が面白いので紹介します。

今日は暑い一日でした。朝から日がまぶしいくらいさして、30度をこえる夏日がもどってきました。
でも夕方になると急激に温度が下がるのは、やはり秋らしさですね。

今日の動画はこちらです。線虫C. elegansの神経系はそのすべての神経細胞のネットワーク(コネクトーム)が解明されており、C. elegansは世界で初めてコネクトームが解明された生物です。これは私が留学していたJohn White先生の有名な業績で、ショウジョウバエのコネクトームが解明された今、そろそろノーベル賞が授与されるのではと噂の業績です。今回は線虫を使って脳を理解するという面白い動画があったので紹介します。
東京大学理学部オープンキャンパス2026 講演「脳をまるごと理解する」豊島有准教授
https://youtu.be/DEEL30gXvHk

線虫C. elegansの神経系を研究している先生の講演で、九大の石原先生のラボの四次元顕微鏡なども登場します。システム生物学とはなにかという解説や、線虫の化学走性の実験、線虫の神経細胞の活動の生きたままでの観察、同定など面白い話満載です。高校生むけのオープンキャンパスの講演ですので、皆さんにおすすめします。

この講演でもでてくる化学走性の実験は、よく話題になる癌検査キットでも有名ですが、実施には大変丁寧な実験条件の設定が不可欠な実験です。注意深い化学走性実験を実施した経験のない人が、自分で再現実験して失敗している例は私も見たことがあります。

化学走性実験について詳しくは今はリンク切れになっている昔紹介したpdfファイルをご覧ください。Wayback machineのリンクです。

http://www.wormjp.umin.jp/jp/%E7%B7%9A%E8%99%AB%E3%81%AE%E5%8C%96%E5%AD%A6%E8%B5%B0%E6%80%A7%E3%81%AB%E9%96%A2%E3%81%97%E3%81%A6220217.pdf

生命科学研究にLLMをどのように活用するか―参考になる動画2つを紹介します。

TogoTVのYouTubeチャンネルの最新動画2本を紹介します。

2026年8月27日に開催されたAI駆動バイオインフォマティクス研究会(第1回)の、金城玲氏による「TogoMCP開発にみるAI-ready dataの理想と現実」
https://youtu.be/L9nI8ehE2TQ

TogoMCPについては前に紹介しましたが、強力なツールだということがよくわかる動画です。

TogoMCPのチュートリアルも公開されていますので勉強してみましょう。
https://togomcp.rdfportal.org/tutorial/ja

この動画の中で紹介されている山本さんのIIBMP2026の講演
AI時代の生命科学データ基盤をデザインする
https://www.jsbi.org/iibmp2026/program/joint-workshops/#dbcls-ai-database
の動画はあるのでしょうか?
探したのですが見つけられませんでした。しかしスライドは公開されています。


糖鎖付加部位とリン酸化部位の検索の例など、本格的な応用例として参考になる動画やスライドです。

もう一つの動画は、こちら。
2026年8月27日に開催されたAI駆動バイオインフォマティクス研究会(第1回)の、追川優菜氏による「仮説生成のためのAI readyなゲノムデータ」
仮説生成のためのAI readyなゲノムデータ
https://youtu.be/AoUZ_apQ8C4

ファージ設計AIの作成談で、ローカルLLM(ここではGemma)にphage用のMCPを使って得た情報を入力して仮説生成までもっていくという実例です。ハーネス設計にはCodexを駆使しているそうです。これは自分でもまねしてみたい研究ですね。この動画の最後のQ&Aは特におすすめです。是非視聴してみてください。

意識の量子論の現状を解説するNew Scientistの動画がでました。(10/10 追記あり)

The Experiment That Could Explain Consciousness
https://youtu.be/VjlX7w_CjqQ

New Scientist (有名な一般向け科学解説誌で英国では駅の売店やニューススタンドで売っています)のチャンネルに掲載された最新の動画です。Jacklin Kwanが、意識の量子論について解説してくれています。意識の量子論といえばノーベル物理学賞をもらっているPenroseと麻酔学者のHameroff(アリゾナ大学名誉教授)によるOrch ORが有名です。この理論の解説や、Penroseの観測問題に対するアイデア、チューブリンの示す量子効果の実験、キセノンによる麻酔がチューブリンに作用していることを示唆する同位体実験などがわかりやすく紹介されています。Googleで量子人工知能ラボを創設して研究をしているHartmut Nevenも登場して解説しています。彼は、ショウジョウバエや脳のオルガノイドでこのキセノン実験の追試をしているそうです。また彼は量子力学の観測問題の解決にむけて、人間の脳と量子コンピュータをつなぐことで、多世界理論と意識の関係について研究するという大胆な実験計画を披露してくれています。面白い動画なので是非ご覧ください。次の動画も参考動画としてあげられています。
We May Never Understand Reality
https://youtu.be/LJ_l_DQ1AnU

10/10追記:8月のこちらの記事も参考にしてください。

量子生物学の核スピン効果についての厳密な実験の動画がでていて面白そうです!