英国のRoyal Societyのライブ動画で面白いものがあったので紹介します。
The Royal Society(王立協会)が公開した動画「Weighing molecules with light」は、2026年のClifford Paterson Medal and Lectureを受賞したPhilipp Kukura教授(オックスフォード大学/Refeyn社 共同創業者)による受賞記念講演です。Mass Photometry (分子量光度法という訳を見かけました)という数マイクロリッターの溶液中(溶液とガラスの界面付近)に存在する生体分子の分子量をレーザー光を利用して一分子で計測できる画期的技術の解説動画です。マスフォトメトリーの開発者のKukura教授から、Mass Photmetryの基礎から最新の応用まで学べるという素晴らしい動画になっています。現在は分子量40 kDaから5000 kDaくらいの範囲の分子量(複合体形成しているものも測れます)を計測できる装置が一般的に販売されていますが、教授のグループは5kDa程度から計測できるように改良中だそうです。また偏光を利用することで球状蛋白か棒状の蛋白かなどを区別できるようになるとのことで、将来は溶液中でのタンパク質の形状の情報も得られると期待されています。AlphaFoldなどが予測するのは結晶構造中の立体構造で、溶液中の立体構造ではないので実は実際に働いている生体内のタンパク質の形はちゃんと予測されているとはいえません。このMass Photometryで得られる実際の計測情報が増えれば、生体内での実際に機能しているタンパク質の姿が予測できるようになると思われます。また糖タンパク質についても分子量が計測できるので、サンプル中の糖蛋白質の糖鎖の長さの分布なども容易に知ることができるそうです。ノーベル賞はまちがいない新技術だと思います。
従来の質量分析を超える技術についての動画ですが、質量測定の歴史も学べるので質量分析(マススペック)について聞いたことがあるだけの初心者にもおすすめの動画です。この講演では、遺伝子治療(Gene Therapy)分野での活用も強調されていました。AAV(アデノ随伴ウイルス)は遺伝子導入によく使われるウイルスですが、ウイルスのカプシドの中に遺伝子が入っているもの「Full」と、入っていない「Empty」の粒子を、質量の違い(DNAの有無)によって明確に区別・定量できる点が、製薬企業にとってのキラーアプリケーションとなっているそうです。また最近はやりのワクチンなどに使われるmRNA/LNP: 脂質ナノ粒子(LNP)のように、サイズや組成が極めて不均一なサンプルの評価にも適していることが強調されました。将来有望な技術のわかりやすい解説ですので是非視聴してみてください。