米国の原子爆弾による初の死者の噂と、オッペンハイマーについての本について。

78年前の今日、米国が広島に原子爆弾を投下して、多くの市民を虐殺しました。その米国では今年の7月21日に、映画「オッペンハイマー」が公開されて絶賛されているようです。
米国が人類初の原子爆弾実験に成功したのが1945年7月16日でした。
私が聞いた日本人研究者の話によると、この最初の原爆実験の際、主要な科学者は退避壕の中から爆発を観察していたのですが、若い研究者(多分大学院生といっていたと思います)は外で退避壕の上などに陣取って双眼鏡をもって、爆発を観察していたのだそうです。核爆発が終わったあと、退避壕からでてみると、外にいた彼らは爆風で吹き飛ばされて、皆いなくなっていたとのことです。ロスアラモスにいた研究者のラボに留学した日本人研究者が、ボスから聞いた話だそうで、本当だったら恐ろしいことです。

最近話題のオッペンハイマーについては、九州大学の教授、カナダのアルバータ大学の教授をしておられた計算科学のパイオニア、藤永茂先生の著書をおすすめします。

藤永茂 著『ロバート・オッペンハイマー 愚者としての科学者』(ちくま学芸文庫)という本で、筑摩書房から出ています。
https://www.chikumashobo.co.jp/product/9784480510716/
以下の内容紹介を読むと、引き込まれます。丁度Kindleで割引セールをやっていた(今日まで)ので先ほど購入しました。藤永先生のお兄さんは長崎で被爆されたそうです…。
https://www.webchikuma.jp/articles/-/2478
写真は夜明けの月が輝いている青空をバックに咲いている百合の写真です。毎年、広島、長崎の原爆忌のころに庭や山際に百合が咲きます。

pdb ファイルの立体構造表示を自分のホームページに埋め込む方法の例

昨日は人工雪の作成の時に使うバクテリアがもつ、雪の結晶形成促進作用があるタンパク質inaZの立体構造をweb pageに埋め込んでみました。
コードを書かかったので、今日はコードと、それをhtmlファイルに書き込んだ後の結果をならべてみることにします。

こちらは、3Dmolのホームページにリンクがあるembed (埋め込み)についてのページにのっているコードです。
http://3dmol.csb.pitt.edu/doc/tutorial-embeddable.html
これを自分のweb pageのhtmlに書き込むと、書きこんだページで立体表示をすることができます。このコードでは、data-pdb=’2POR’でPDBの2PORというエントリを読み込んでいます。この部分をdata-href=’https://alphafold.ebi.ac.uk/files/AF-P06620-F1-model_v4.pdb’にすると、https://以下で指定したサイトにあるpdbファイルを読み込んで表示します。またdata-style=’stick’のstickをline, cross, stick, sphere, cartoonのどれかに変えると立体構造表示が指定した表示に変わります。コードは上が、2PORの表示。その次が、昨日表示したinaZの立体構造の表示です。inaZは横に長いので、800ピクセル四方に表示するようにしてあります。

2PORの表示コード:

<script src=”https://3Dmol.org/build/3Dmol-min.js”></script>
<script src=”https://3Dmol.org/build/3Dmol.ui-min.js”></script>

<div style=”height: 400px; width: 400px; position: relative;” class=’viewer_3Dmoljs’ data-pdb=’2POR’ data-backgroundcolor=’0xffffff’ data-style=’stick’ data-ui=’true’></div>

inaZのAlphaFold2データベースにある予測構造のpdbファイルを指定して表示するコード;

<script src=”https://3Dmol.org/build/3Dmol-min.js”></script>
<script src=”https://3Dmol.org/build/3Dmol.ui-min.js”></script>

<div style=”height: 800px; width: 800px; position: relative;” class=’viewer_3Dmoljs’ data-href=’https://alphafold.ebi.ac.uk/files/AF-P06620-F1-model_v4.pdb’ data-backgroundcolor=’0xffffff’ data-style=’stick’ data-ui=’true’></div>


 


ブラウザで分子を立体表示する方法の紹介。

私のブログの様なweb pageで、分子の立体構造を表示して、マウスで動かしたりできるようにするにはどうしたらよいでしょうか。
昨日紹介した山本 典史先生がこちらのページで、そのやり方をわかりやすく書いてくださっています。

「ブラウザーで分子を立体表示する」https://yamnor.me/2022-03-14-2020/#03

先生の記事にある、3Dmol で、私が以前紹介した雪をつくるときに働くバクテリアのタンパク質inaZを立体表示したのが以下の図です。タンパク質の立体構造予測ツールのAlphaFold2のデータベースにのっている以下の予測結果を使いました。
https://alphafold.ebi.ac.uk/files/AF-P06620-F1-model_v4.pdb
マウスでドラッグしたり、拡大縮小したりできるのを確認してください。

先生のページには他に、Molmilをつかって埋め込む方法も書かれています。Molmil は、分子を立体表示する WebGL (JavaScript) プログラムで Protein Data Bank Japan(PDBj) で開発されています。Molmilの使い方については以下の動画をみるとよいでしょう。

分子ビューアMolmilの使い方
https://youtu.be/aCWyTOmdO88

 

量子化学入門に最適の資料が公開されています―千葉工業大学の山本典史先生のサイトをご覧ください。

今日は九州大学化学科卒で、九州大学大学院で修士、博士の学位をとられた、山本典史(Yamamoto, Norifumi)先生のサイトを紹介します。現在、千葉工業大学 / 応用化学科 / [計算化学研究室 https://yamlab.net] / 教授の先生です。
コンピュータ化学を専門とされている先生で、https://scrapbox.io/yamnor/には、量子化学入門や密度汎関数法計算についての資料などがあって、とても参考になります。教科書や参考書があげてあるのはもちろん、具体的な計算プログラム、計算手法の実際などが入門者にやさしく、かつ本格的に書かれている資料です。量子化学に興味があるかたは是非ごらんになるとよいと思います。

先生の研究室のホームページhttps://yamlab.net/ にも「GAMESSではじめる量子化学計算」などのわかりやすい資料がありますので、是非ご覧ください。
https://yamlab.net/gamess-intro/
また先生のブログも役だちます。
https://yamnor.me/
先生のtwitterへのリンクを張っておきます。


nitterでtwitterを見る時はこちらからどうぞ。https://nitter.net/yamnor

アカデミックライティングにおけるChatGPTの活用法(文献紹介)という記事を紹介します。

本日のカレントアウエアネスポータル(国立国会図書館のポータルサイトです https://current.ndl.go.jp/)に
「アカデミックライティングにおけるChatGPTの活用法(文献紹介)」という記事がでました。
https://current.ndl.go.jp/car/186055

これはPerspectives on Medical Educationというオランダで発行されているオープンアクセスの雑誌の最新号にのった次の記事の紹介です。
Lingard L.   Writing with ChatGPT: An Illustration of its Capacity, Limitations & Implications for Academic Writers. Perspectives on Medical Education. 2023, 12(1),p. 261?270.
https://doi.org/10.5334/pme.1072

オープンアクセスなので、論文をダウンロードしてざっと論文を読んでみました。この論文にはChatGPTのプロンプトの使い方の例が詳細に書かれているので大変役立ちます。自分の目的に合致するChatGPTの応答を導くためには、どのようにChatGPTと対話をすすめていくとよいかが、例を挙げてあるのでとてもよくわかります。各自の目的に応じてプロンプトは自作するのがよいのですが、プロンプト自作の要点がよくわかる論文です。

論文にはChatGPTが、文献をでっちあげたりすることがよくあることも書かれていて、例も挙げてあって具体的によくわかります。

また論文執筆時のパラグラフを改良するにもChatGPTが使える例もあげてあります。left-branching sentencesとright-branching sentencesというのを知っていますか? 最初に例などをいろいろあげる文を並べた後に、結論の文が並んでいるのが、left-branching sentencesです。パラグラフの左の方に、ごちゃごちゃと枝葉末節みたいに文が並んでいることから、left-branching sentencesといいます。これとは逆に、結論の文が最初で。結論に関する説明やデータの文が後に並んでいるのを、right-branching sentencesというのです。left-branching sentencesは読者にわかりにくいので、ChatGPTに(プロンプトで)お願いして、right-branching sentencesに変えてもらう例が詳しくこの論文胃書いてあります。文法チェックや論文のスタイルの変更も、うまくプロンプトをつかいながらChatGPTにやらせることもできるのです。面白いことに、ChatGPTはleft-branching sentencesとright-branching sentencesの意味を逆に思い込んでいたようで、最初は真逆の説明をしていたそうです。著者がプロンプトで誤りを指摘すると、ChatGPTは謝ってきます。ChatGPTの誤りを訂正した後、スタイルの変更をさせる例が載っていて大変参考になります。ChatGPTと対話しながら、最適の応答をかえしてくるように導いていくテクニックがいろいろな例について詳細に書かれているので、これは必読の論文だと思います。

さらに、最後の方には、私達のように英語を母国語としない論文著者が英文を書くのに、ChatGPTはとても役立つとも書かれています。皆さんもこの論文などを読んで、ChatGPTを活用することで、成果や意見をどんどん発表していってください!

付記;この論文はThe Writer’s Craftというカテゴリーの記事です。トップページの検索窓にWriter’s Craftなどといれてこの雑誌の記事を検索してみてください。論文の書き方についての有用な記事や、レフリーのやり方、論文へのコメントの仕方など大変有用な発信法jに関する記事がヒットします。
今日検索したところでは、以下のようなタイトルの記事が読めるのがわかります。役立ちそうですね。興味のある記事から読んでみてください。The Writer’s Craftと検索窓にいれて、Theをつけて検索するともっとヒットしますが、あまり関係のなさそうな記事もヒットするようです。

When English clashes with other languages: Insights and cautions from the Writer’s Craft series

The story behind the synthesis: writing an effective introduction to your scoping review

Collaborative writing: Strategies and activities for writing productively together

Writing for the reader: Using reader expectation principles to maximize clarity

Developing and piloting a well-being program for hospital-based physicians

Pace, pause & silence: Creating emphasis & suspense in your writing

Don’t be reviewer 2! Reflections on writing effective peer review comments

The academic hedge Part I: Modal tuning in your research writing

Giving feedback on others’ writing

From semi-conscious to strategic paragraphing

Beyond the default colon: Effective use of quotes in qualitative research

Writing an effective literature review: Part I: Mapping the gap

Writing an effective literature review: Part II: Citation technique

Using rhetorical appeals to credibility, logic, and emotions to increase your persuasiveness

Expressive instructions: ethnographic insights into the creativity and improvisation entailed in teaching physical skills to medical students

Mastering the sentence

To fail is human: remediating remediation in medical education

Tuning your writing

Taking presentations seriously: Invoking narrative craft in academic talks

Get control of your commas

Does your discussion realize its potential?

Physicians’ professional performance: an occupational health psychology perspective

Academic promotion packages: crafting connotative frames

Bonfire red titles

The writer’s craft

Enlisting the power of the verb

The three ‘S’s of editing: story, structure, and style

The art of limitations

Avoiding prepositional pile-up

Joining a conversation: the problem/gap/hook heuristic

The power of parallel structure

Beyond feedback: 11 tips for coaching writing

Strategic Paragraphing 2.0: Techniques for Enhancing Inter-Paragraph Coherence

Metacommentary: Identifying and Mastering ‘Dear Reader’ Moments

The Art of Revising

Writing with ChatGPT: An illustration of its capacity, limitations & implications for academic writers

「シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダーの裏話。物理学者はゼットン?」という動画が面白かったです。

毎日暑いですね!暑いからかどうかはわかりませんが、午後、PCが起動しなくなってあせりました。HDDドライブを認識しなくなったので、入っているHDDを一つずつ止めて起動するかどうか調べていきました。外したら起動するという悪いHDDを見つけたので、そのHDDを止めたまま起動させ、その後 悪いHDDを修復して無事もとどおり起動できるようになりました。時間が結構かかったので今日は映画の話です。

前にシン・ウルトラマンの話をしましたが、同じ監督さんで今度はシン・仮面ライダーという映画ができたのですね。Amazon Prime Videoに入ったので、さっそく見始めたのですが最初だけみて観るのを止めてしまいました。今日、この二作品について、科学監修をしているお二人がインタビューをうけるという動画が公開されました。お二人とも物理学者で、映画の科学監修というのをどのようにするのかが良くわかる面白い動画でした。シン仮面ライダーのほうはAIがでてくるのですね。時間ができたら見てみようと思います。朝ドラの「らんまん」の寿恵子役の浜野美波さんもでておられるようです。

シン・ウルトラマン、シン・仮面ライダーの裏話。物理学者はゼットン?【京大収録】#001-1
https://youtu.be/5DE1YZX_TdQ

最新の医学・生物・臨床系の文献検索サイトを網羅的に紹介している論文がでました。ChatGPT時代の無料文献検索サイト一覧ができる論文です。

ChatGPT時代の最新の医学生物学・臨床医学系の文献検索法のまとめ論文がでました。
プレプリントサーバーにでいている以下の論文がそれです。
PubMed and Beyond: Recent Advances and Best Practices in Biomedical Literature Search
https://arxiv.org/abs/2307.09683

36の公開ツールを使ってのベストな検索方法を紹介しています。PubMedPubMed Central, Europe PMCなどの よく知られているサイトから始まって、PubMed系列の各種データベースがまず紹介されています。その後、さまざまな検索場面に応じて使えるサイトが次々と紹介されているのは圧巻です。基本的に無料で利用できるツールを利用しているのですが、7日間のトライアル期間のみ無料で使えるというツールもまじっていました(Scite)。また、論文のTable 1のリンクには(まだ全部のリンクを確認したわけではないのですが)つながらないもの(BEST という韓国のサイト)や、リンクが誤っているもの(Sciteのリンクで正しくは、https://scite.ai/)もあるので注意してください。リンク名などでGoogle検索すれば、ただしサイトは簡単に探せます。

この論文は、文献検索の最新事情を知るには大変役立つものです。是非ダウンロードしていろいろなサイトを試して、どれが自分にあっているかを探ってみてください。サイトには大規模言語モデルを利用した検索サイトもリストされています。
このブログでも紹介したElicit https://elicit.org/や、Consensus https://consensus.app/、あるいは
医学系の検索用のstatpearls semantic search https://hippocratic-medical-questions.herokuapp.com/
(このサイトは接続がerrorになる時があります)がそれぞれ役立つと思います。

あと、この論文にはのっていませんが、以前このブログで紹介したTextpressoは線虫や酵母、シロイヌナズナ、コロナウイルス関係の文献検索(全文検索ができます)には最強です。まだ使ったことがないなら、是非こちらから利用してみてください。https://textpresso.org/
アルツハイマー関連の論文検索もできるはずなのですが、今はリンクが動いていませんでした。

「予測: 原理と実践 (第3版)」というRを使った社会人向けの予測の教科書が無料で日本語、英語で読めます。

「予測: 原理と実践 (第3版)」という教科書があります。Rob J Hyndman と George Athanasopoulos(オーストラリア モナシュ大学)による教科書で日本語版、英語版、ギリシャ語版、イタリア語版、中国語版、韓国語版が無料公開されています。
オンラインの英語版はこちらから読めます。https://otexts.com/fpp3/
日本語版はこちらから読めます。
https://otexts.com/fppjp/
まず日本語版でどんな本なのか、読んでみてください。以下のクレジットによると英語版は昨日改訂されたようです。中国語版と韓国語版は第2版、日本語版やギリシャ語版、イタリア語版は第3版の翻訳です。

Hyndman, R.J., & Athanasopoulos, G. (2021) Forecasting: principles and practice, 3rd edition, OTexts: Melbourne, Australia. OTexts.com/fpp3. Accessed on <July 30, 2023>. This online version of the book was last updated on 29 July 2023.
The print version of the book (available from Amazon) was last updated on 31 May 2021.
著者による本の紹介はこちらです、https://youtu.be/7TglVxNgbKQ

この本は、会社経営や経済分野、社会分野での予測を中心にすえて、R言語を用いて予測を行う原理とやり方を解説している、無料公開されている教科書です。ほとんど数学の予備知識なしで読める教科書で、英語版のほうは章のはじめにYouTubeビデオが見られるようになっています。たとえば第一章の付属ビデオはこちらからみられます。https://youtu.be/zvd9oboayEc

こちらが再生リストです。
https://youtube.com/playlist?list=PLyCNZ_xXGzpm7W9jLqbIyBAiSO5jDwJeE

日本語版ですが、翻訳は塩田光男さんが行い、井上智夫教授(成蹊大学)がチェックされたとのことです。塩田光男さんは日立総合計画研究所の元チーフエコノミストで、東京大学法学部卒(1983年)、ニューヨーク大学MBA(経済学専攻、1991年)。現在は引退したエコノミストとして御自身のサイト(英文)に時々ブログ
https://mitsuoxv.rbind.io/
を書いておられる他、twitterも活発に利用されています。
https://nitter.net/mitsuoxv
コロナの感染状況の解析結果も公開されています。
https://mitsuoxv.shinyapps.io/covid/

スペースシャトル コロンビアの空中分解事故から20年、事故の唯一の生存者は線虫 C. elegansでした。

今年2023年はスペースシャトルのコロンビア号の悲惨な空中分解事故から20年目にあたります。20年前の2003年2月1日 コロンビア号はミッションを終えて帰還する際、大気圏突入後 空中分解して搭乗員7名が犠牲になりました。コロンビア号では、モデル生物である線虫C. elegansを搭載した宇宙での実験が行われており、空中分解して地上に激突したスペースシャトルの残骸の中から、C. elegansを収容していたキャニスタが回収されました。驚いたことに、キャニスタの中に収容されていた線虫は生きていたのです。線虫はスペースシャトル事故の唯一の生存者でした。回収された生きた線虫からは多数の子供が生まれたそうです。

コロンビア号では、線虫C. elegans用の完全合成培養液(培養液の成分がすべて既知の化学物質のみからなる完全合成培地)でこしらえたアガー(寒天)上で線虫が飼育されていました。通常の大腸菌を餌に生やしたアガーでの線虫と比較して、完全合成培地が宇宙実験に有効かどうかを検討する実験を行っていたのです。線虫の筋肉に対する無重力の影響などを研究することで、無重力の人間の宇宙飛行士の筋肉への影響を調べる実験の一環でした。この実験のメンバーには、この化学合成培地を開発したオハイオ大学のNathaniel J Szewczykさんが入っていました。私も彼からこの宇宙実験で利用された完全合成培地を沢山もらって実験していたことがあります。普段線虫の飼育に利用している、(成分不明の部分がある)酵母エキスや大腸菌を使わないので、完全に制御した条件下での実験を行うことができるのがこの合成培地のメリットです。

さて、スペースシャトル・コロンビアには、線虫をいれたシャーレを収容したキャニスタが5本搭載されていました。空中分解したスペースシャトルの残骸や乗組員の遺体、遺品を回収する大規模な捜索がおこなわれ、線虫のキャニスタも5本とも回収されました。その結果、4本のキャニスタから生きた線虫が回収されたそうです。詳しくは、次の Szewczykさんたちの論文をご覧ください。論文には、線虫を入れた容器の回収地点の地図、一部穴があいている回収された線虫コンテナの写真、回収された生きている線虫の写真やその線虫の子孫の写真などがのっています。
Astrobiology 2005 Dec;5(6):690-705.(doi: 10.1089/ast.2005.5.690)
Caenorhabditis elegans survives atmospheric breakup of STS-107, space shuttle Columbia
Nathaniel J Szewczyk , Rocco L Mancinelli, William McLamb, David Reed, Baruch S Blumberg, Catharine A Conley PMID: 16379525 DOI: 10.1089/ast.2005.5.69
全文はこちらから読むことができます。回収地点の地図と、キャニスタの写真を論文から引用しておきますのでご覧ください。

https://www.researchgate.net/publication/7390925_Caenorhabditis_elegans_Survives_Atmospheric_Breakup_of_STS-107_Space_Shuttle_Columbia

Location of recovered canisters. The Global Positioning System locations of recovery provided by the CAIB were plotted in red against a map of the area. Labeling of the recovery sites is on the left of the site for canisters 1, 3, and 5 and on the right for the site for canisters 2 and 4. For reference, San Augustine is located at 313147N, 0940621W; Bronson at 312038N, 0940048W; and the CAIB numbering of recovered debris was as follows: canister 1, 68292; canister 3, 1676; canister 4, 2463; canister 2, 1487; and canister 5, 8144. 

https://www.researchgate.net/profile/Rocco-Mancinelli/publication/7390925/viewer/AS:101992718405639@1401328367609/background/10.png

図 aでは左が地上にずっとあった比較対照用のキャニスタ、右が地上に激突したキャニスタです。穴があいているもの(e)ありますね。論文では地上に激突した時の衝突の衝撃などもみつもっていて、こういうキャニスタなら恒星間での生命の撒布も可能だということが議論されています。線虫は丈夫ですね。

シベリアの永久凍土から回収された46000年前の線虫が復活したそうです!

今日のGigazineのニュースによると、
https://gigazine.net/news/20230728-worm-resurrected-permafrost/
シベリアの永久凍土から回収された線虫が4万6000年前のもので、凍結状態から復活して今も元気にどんどん増殖しているそうです。多細胞生物の線虫がこれほど長期にわたって生存していたのは新記録です。この線虫は実験でよくつかわれているC. elegans(シーエレガンス)とは異なる種で、Panagrolaimus属にふくまれる新種です。シベリアのコリマ川の下流の永久凍土から発見されたことにちなんで、Panagrolaimus kolymaensisと名付けられました。

論文はこちらから読めますので興味のある方は読んでみてください。
https://journals.plos.org/plosgenetics/article?id=10.1371/journal.pgen.1010798

C. elegansはダウアー(dauer)とよばれる耐性幼虫になるのですが、この新発見の線虫はダウアーにはなりません。ダウアーについては、次の記事をご覧ください。

線虫が空を飛ぶという論文がでました!

この新発見の線虫は、ダウアーにはならないものの、C. elegansがダウアーになるときに必要な遺伝子をいろいろもっています(daf-2, daf-16, daf-11, daf-7, daf-9, daf-12他多数のdaf遺伝子があります)。またC. elegansがダウア―になるときに体内でトレハロース(trehalose)という糖の含有量が急上昇するのですが、この線虫でもトレハロースを合成する遺伝子や関連の代謝遺伝子がすべてそろっているそうです (tps-2gob-1などの遺伝子)。トレハロースは、C. elegansを凍結するときに加えると、解凍後の生存率が目覚ましく上昇することが知られていて私達もC. elegansの凍結保存にトレハロースを利用していました。おそらく糖の存在が水の水素結合のネットワークに作用して、凍結時の氷晶形成による細胞傷害を抑制するのだと思います。この新発見の線虫は、遺伝子解析から三倍体であること、雄がなくて単為発生で増殖することなどもわかったそうです。
線虫って丈夫ですね。実はC. elegansはスペースシャトルに搭載されて宇宙にいったこともあるモデル生物なんですが、宇宙実験の後、地球に帰還するスペースシャトルコロンビアが空中分解した時の唯一の生存者だったことでも有名です。これについては明日書くことにいたします。