桜が満開です―ABC予想の解決のニュースがとびこんできました!

コロナウイルス対策のための自粛で、オンライン講義の用意や自宅での勉強、テレワークなどがあちこちで続いていますが皆さんお元気でしょうか。

今日は明るいニュースとして、京都大学数理解析研究所の望月新一教授のABC予想の解決の論文が、査読を終わってアクセプトされたという記事が目をひきました。望月先生のブログによると、だいぶ前に査読が終わって肯定的な査読結果を知らされたにもかかわらず、アクセプトもリジェクトもされずにずっとほったらかしの状態がつづいていたそうですが、ほったらかしにされていた雑誌をやめて別の雑誌にアクセプトされたようです。今回証明されたのは弱いABC予想と呼ばれるもので、これが証明されたことにより、実効版モーデル予想、シュピロ予想、フライ予想、そして双曲的代数曲線に関するヴォイタ予想が自動的に正しいと証明されるそうです。また今回は証明されていませんが強いABC予想というものが正しければ簡単にフェルマの最終定理の証明ができるそうです(下に書いている加藤先生の本150ページあたりより)(下線部は4月3日10時すぎに追記)。この弱いABC予想を証明するために構築されたIUT理論はとても独創的な画期的なもので、地動説や量子力学と同じほどのインパクトを与える理論のようです。この未来からきた論文と言われた論文を理解して理論に習熟している人は現在、世界で10人程度だそうです。この理論についての解説は「宇宙と宇宙をつなぐ数学IUT理論の衝撃」(加藤文元著・角川書店)にあります。私も去年の春、購入して読みました。興味のあるかたは是非ご覧ください。YouTubeに加藤先生の解説動画(日本語)もでていますよ。

それから望月先生のブログですが、全部に目をとおされることをおすすめします。紅白歌合戦や逃げ恥などテレビ番組のことが先生の理論や学問観に絡めて議論されています。またここ(ブログ記事へのリンク)には、英語で論文を書くことについて定冠詞、不定冠詞のことなどもふくめて面白い記事がのっています。先生はラテン語、ギリシャ語、サンスクリット語なども学ばれたようで、冠詞のない言語もあること、語順がSOVという言葉もあることなどいろいろ面白いことが学べます。そしてなにより、学問をするうえで英語ができることより大切なことについての議論、水村美苗さんやカズオ・イシグロの小説についての議論などにとても感銘を受けました。

下は今日撮影した公園に咲く桜の写真です(クリックして拡大可能です)。福岡も土日は外出自粛要請がでているので今日は桜を見に近くの公園にでかけました。田舎ですので人はまばらです。

桜が咲きました。春がきています!コロナウイルスに負けずに物理数学の本を勉強しましょう!

コロナウイルスで大騒ぎですが、皆さんのご健康をお祈りいたします。中国から私のラボにきていた卒業生の皆さんやそのご家族の皆さんのご無事を祈っています。私のほうは、論文の作成や論文レフリーを依頼されていたので査読作業も忙しくてブログの更新が遅れていました。昨日査読レポートのアップロードを終えたので久しぶりに外に散歩に出かけてみました。写真は道端に咲いていたきれいな水仙の花です。

今日は福岡は暖かく、なんと五月中旬並みの気温(23度ちょっと)もあったそうです。
桜はというと、気象台の開花予想はもう少し後のようですが、なんと近所の桜は咲いていました!蕾のかたいソメイヨシノが並んでいる中に一本だけ、きれいな花を数輪つけているものをみつけました。レンゲも田んぼに咲きはじめ、タンポポの花を奥さんがみつけました。写真は庭のサクランボの木の花です。一週間前にとった写真ですが、満開の花に蝶々が蜜を吸いに来ているのが写っています(クリックして拡大してご覧ください)。たくさんのかわいいメジロも蜜を吸いにてきていて、私が数メートル離れて立っていても無視して、一心にサクランボの花の中にくちばしを入れておりました。右の写真はあぜ道に咲いているアザミです。花いっぱいの春がやってきています。皆さんも花を植えたり、散歩にでかけたりすると気が晴れると思います。

卒業式がなくなった大学も多いのですが、自宅にこもることが多い今の時期にはいろいろな勉強ができると思います。ときどき紹介しているようにネットでいろんな勉強ができますので、しっかり時間をとって勉強するチャンスかもしれません。以前紹介した学習院大学の田崎晴明先生の物理数学の優れた教科書ですが、数日前には主成分分析なども加筆された改訂版を公開されました。絶対おすすめの本ですので勉強してみてはどうでしょうか。また英語ですがCambridge University Pressではコロナの感染拡大にともなっていろいろなサービスの無料公開を始めています。ここをご覧ください。教科書のhtml版の無料公開(5月末まで)を始めていたので紹介しようと思ったのですが、アクセス数がものすごくて今は公開を停めたようです。再開すると書いてありますのでちょくちょくみてもらうと良いと思います。(結局、一般公開はとりやめになって、大学などでCambridge University Pressのサービス―Cambridge Coreなど―を購読している場合のみ大学経由でアクセスできるようになったようです。4月3日追記)

windows7のサポート終了:windowsをやめてlinuxへうつるチャンスです(1)

福岡では2月17日に、ちらちらと初雪を観測しました。今まで一番遅い初雪の記録2月6日を111年ぶりに更新したそうです。

さて今日はこのところいろいろトライしているウインドウズ7のサポート停止に対する対策を書いておきます。そろそろlinuxを中心にパソコン生活を始めようというわけです。
上の写真はLinux  Mintを起動した時のデスクトップです。windowsとよく似ていますね。linuxといえばターミナルでのコマンド操作というのがよく話題になりますが、windowsとそっくりのデスクトップでマウスで操作するだけで使えますので、まずはこうしたwindowsなみのグラフィカルインターフェイスで使うのがおすすめです。

私はwindows7で動くパソコンをもっているのですが、windows7のサポートが今年の1月14日で終了した(windows defenderの更新はつづいているようです)ので、それに対する対策を講じなくてはなりませんでした。九大図書館などに自宅からwindows7を使っているパソコンでアクセスするとき文献をダウンロードしようとすると、画面一杯に警告画面が表示され、windows10への切り替えを促され、文献のダウンロードはできなくなっています。セキュリティを考慮した措置ですが、まだまだ問題なく使えるwindows7なのにうっとうしいサポート切れ対策を余儀なくされるのにはほとほと、うんざりさせられます。以前windowsXPのサポート切れにともなって、XPからwindows7にアップグレードするときも研究室の多数のXPパソコンをいちいちアップグレードするのは大変でした。今回は大学で使っているwindows7のenterpriseエディションからwindows10へのソフトやデータを残したままでのバージョンアップは結構簡単にできるのですが、それも結構時間と手間がかかるわけです。また使っているパソコンによってはスペックが不足してwindows7のように快適には使えないことがわかりました。windows7でインストールしたソフトもあるし、それがwindows10で動くのかも不明です。パソコン自体はwindows7で問題なく動いているので、無駄な追加投資をしたくないと思い、windows7はネットワークから切り離して利用することとし、ネット接続するときはlinuxを使うことにしました。参考になったのは日経からでているムックの「Windows 7パソコンをLinuxで復活させる本」です。日経Linuxの最近の記事をまとめたものですが、丁度windows7のサポート停止でウインドウズを止めようと思っている方には最適の本だと思います。

要は、windows7のパソコンはネット接続をせずに利用し続け、ネット接続には外付けハードディスク(あるいはSSD, USBでもだいじょうぶです)にインストールしたlinuxを使うという方針です。近頃はほとんどの作業はブラウザでやるので、linuxでブラウザを使う、メールをやりとりするなどができればネットでの作業はことたり、ネット接続していないwindows7を起動すれば、今まで使っていたwindows7で動いていたソフトもそのまま利用できます。(linuxにはwineというソフトがあって、幸運ならwindows7で使っていたソフトもlinuxのwineで動くかもしれません。)

ubuntu などの、日本語入力システム付のlinuxのインストールディスクを使って、USBや外付けのSSDや外付けHDDにlinuxをインストールします。こうしておけば、linuxをインストールした外付けのSSD(HDDでもUSBでもいいです)をwindows7で動くパソコンにとりつけてUSB接続したSSD(HDDあるいはUSBメモリ)から起動すればLinuxが使えますし、USB接続を外して(つまりUSBケーブルを外して)起動すればあいかわらず今まで使っていたwindows7が使えます。(他のwindowsとの共存のやり方としてはデュアルブートといって、起動したらlinuxかwindows7かどちらを使うかを選んでから起動すると言う便利な方法もありますが、これはどちらか一方が壊れたときとかにトラブルがおこることが多いそうですのでやめました。またlinuxの中でwindows7の仮想マシーンを起動して利用するというのもありますが、パソコンのスペックがいるし、windows7の仮想ディスクをつくるのにproduct IDがいるとかいろいろめんどうくさいのでやめました。)というわけで以下は外付けSDDにlinuxをインストールする手順です。

いろいろあるlinuxの配布版(ディストリビューション、ディストロ)のどれを使うか?distributionにはいろいろあってどれを使うか迷うのですが以下のようなdistributionは有名です。

Ubuntu Desktop 日本語 Remix
Linux Mint これには3種類あってCinnamonというのがおすすめです。32bit版と64bit版があります。
・puppy linux日本語版
・Pop!_OS(プライバシーを重んじているlinuxでファイルは自動で全部暗号化され、この配布版を作成している会社にデータを送ることもないそうです。日本語の利用設定も簡単)
・Zorin OS(これはwindowsからの乗換え用をうたっているものです。商用版あり)

これらはwindowsからの乗換えの記事でよくとりあげられています。私は最初 puppy linuxをUSBメモリに入れて使ってみました。linux mintは世界で一番多く利用されているlinuxだそうで、壁紙もきれいなのでこれもおすすめです。私はネットで情報が多い、Ubuntu Desktop 日本語 Remixを採用しました。これも他のdistributionと同じではじめから日本語入力システムMozcがセットでついていて便利ですし、windowsでつかっていたIMEの辞書も簡単に移行できるのでおすすめです。(下はLinux Mintの画面で、windowsのスタートボタンにあたるところをマウスでクリックした様子です)
長くなりましたので、今日はこの程度にして次回からは具体的なインストールの手順を書いていこうと思います。(次回のリンクはここです。

他のやり方としてはVirtualboxというソフトをウインドウズのパソコンにインストールして、仮想マシーンとしてlinuxを動かすこともできます。これは私が大学の授業でlinuxの導入実習で使っていた方法です。以前のブログの記事にはこのやり方とlinuxの入門書があげてありますのでご覧ください。

特許庁が攻勢にでています―商標拳!

以前 弁理士の動画を紹介しましたが、今回は特許庁が最近公開した面白い動画を教えてもらったのでお知らせします。商標権についての動画ですが、面白いのでご覧ください。動画公開の趣旨はこちらに記載されています。

詳しくは特設サイトをどうぞ。

https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei/shohyoken/index.html
このところ福岡は暖かい日が続いています。なんと四月上旬から5月上旬なみの気温のところもありました。梅の花も月末には満開になるかもしれません。

 

今朝は 「ほんげんぎょう」 をみにいきました

一月七日は「ほんげんぎょう(どんと焼き)」の日です。

写真は今朝撮影した「ほんげんぎょう」 の様子です。まだ暗い中、点火直後の炎がまるで火の鳥のように見えています(写真をクリックすると拡大します)。私達のところは点火が午前6時半だったので暗い中をどんと焼きの場所にいくと、ちょうど火がついたところでした。風が強い朝だったので、火の粉が舞いあがり、燃え盛る竹組からはバン! パン!という物凄い爆竹さながらの音が聞こえて壮観でした。炎が下火になるころには夜があけてきて、
新しい年の幸を祈る行事が終わりました。

どんと焼きともいわれるこの行事は、しめ飾りや門松、お正月飾りなどを写真のような竹組の火にくべて、無病息災・家内安全をお焚き上げの炎に祈る行事です。
昔はめいめいのお宅の庭で、午前3時ごろに竹でつくった飾りに火をつけて、お習字の紙とかしめ飾りとかを火にいれてみんなで燃やしていたのだそうです。子供たちがわいわいいって参加して、煙が高くあがるとお習字が上手になるとされていたと、古老の方の本にありました。今夜は大宰府天満宮の鬼すべや、久留米の大善寺玉垂宮の鬼夜など火祭りが行われ、福岡は終日、火祭りの一日でした。
今年が皆様にとって素晴らしい一年でありますように!

岡潔に大きな影響をあたえた数学の本―ポアンカレの「科学の価値」など

今日はこの写真(註1)を紹介します。

これは日本の有名な数学者 岡潔があちこちで語り、いろんなところで書き遺しているフランスの数学者エルミートの中年の肖像写真です。エルミートというのは物理学ではエルミート演算子というのでおなじみです。以下は岡潔の曙(講談社現代新書 絶版)という本からの引用ですが、同じ話は現在容易に入手できる「一葉舟」などにものっていますのでご覧ください。私がはじめてこの話を聞いたのは高校生のとき、NHKのラジオFMでやっていた岡潔さんと秋月康夫さんお二人の対談の中でした。テープレコーダーに録音して何度も聞いていたのを思い出します。

フランスの数学者アンリ ポアンカレは、微分方程式論やトポロジー、三体問題、ポアンカレ予想、カオス発見のさきがけ、など様々な偉大な業績を残し、さらにポアンカレ変換が相対性理論ででてくることからわかるように、アインシュタインがいなくても特殊相対性理論は彼が発見したであろうといわれる偉大な科学者です。多くの随筆を書いていて、岡潔はそのなかの「科学の価値」(註2)という本を読みその中の以下の言葉が深く印象に残ったと書いています。
「エルミットの語るや、如何なる抽象的概念もなお生けるが如くであった」
エルミートは、ポアンカレの先生です。「科学の価値」という本のなかで、ポアンカレはこんなことを書いています。
「其反対にフェリックス・クライン(Felix Klein) を考えると、彼は函数論の最も抽象的な問題の一つを研究した。即ち一の与えられたリーマン面に、与えられた特異性を有する所の函数が常に存在するかという問題である。さて此有名なドイツの幾何学者は如何にしたであろうか。彼はリーマン面に置換えるに電導率が一定の法則に従って変化するごと如き金属面を以てし、其二つの極を連結するに電池の両極を以てした。かくして彼は電流が之に通じなければならぬ事、其電流の面に分配され方が問題に要求せられた特異性をまさに持つ所の函数を定義する事を述べたのである。もちろん勿論クラインは之を以て彼がただ概観の見取を為したに過ぎないことをよく知って居た。其にもかかわらず彼は之を発表するに躊躇せず、又厳密なる証明でないにせよ、之によって彼は一種感情上確実と思わしめるものを発見したと信じたごと如く思われる。しかるにもし此が論理家であったならば、かような考は嫌悪排斥したであろう、否むしろ排斥するどころか かような考を起すことが無かったであろう。」(田辺元訳 「科学の価値」より引用)この後、ポアンカレはベルトランとエルミートを比較して論じているのですが、この文章に刺激をうけて岡潔や秋月康夫はクライン全集を丸善にいって買って帰ってきてその論文を読んだそうです。以下は岡潔の上記の本からの引用です。
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「エルミットの語るや、如何なる抽象的概念もなお生けるが如くであった」

この言葉も深く私の印象に残った。

これは後の話であるが、私が大学二年(京大数学科)のとき、秋月(康夫、群馬大学学長)は(同じ 科の)一年だった。そのとき丸善へクライン全集が来た。私達は三卷とも買って帰って、ポア ンカレがいった論文だけ読んだ。三十ページほどのごく短いものである。

暫く経つと丸善へエルミット全集が来た。前のはドィツ語だったからまだしもよかったが、 今度はフランス語だから私達は全く読めない。然し各卷の初めにエルミットの肖像がある。それで私達はまた三巻とも買って帰った。その第二巻の巻頭のものは中年のエルミットの読書姿態である。それを見ていると、なんだかポアンカレの言葉がわかって来るような気がする。

秋月はそれを切り抜いて、額に入れて机の上に立てた。それを見て化学二年の、哲学の西田先生の息子の外彦君まで、一人で丸善へ行ってエルミット全集三巻を買って帰って、その肖像 を切り抜いて、机の上に立てた。

頭頂葉に理想を掲げるとは、こうすることである。
======================================最初に載せた写真は、秋月さんが買って帰って切り抜いて額にいれて机の上にたてた、そのエルミート全集第2巻の写真です。岡潔の著作のあちこちで紹介されているエピソードですが、写真をご覧になった方は少ないかと思い、ブログにのせておくことにしました。

下はエルミート全集第1巻の肖像です。「若いころの目はまさしく詩人の目をしている」(一葉舟)と岡潔が書いている写真です。写真はどちらも九州大学図書館からダウンロードしました(注1参照)

註1:この最初の写真は九州大学図書館の貴重図書のページでHermiteといれて検索すると、Hermite全集(Oeuvres de Charles Hermite)がでてくる(フランス語です)、その第二巻がpdfで掲載されているのですが、その最初のpdfにのっています。あるいは画像そのものを見ることもできて、その画像をダウンロードしてもいいです。ブログに載せたのは私が解像度を落としたものですが、オリジナルの高画質版もダウンロードできますので必要な方はダウンロードしてみてください。下の写真の左下のダウンロードボタンを押すと、高解像度、低解像度を選んでダウンロードできます。
註2:ポアンカレの「科学の価値」は、田辺元訳が科学図書館にありますのでダウンロードしてお読みください。

高校生に知ってほしい強力ツール:ベンゼンの異性体を描いてみよう!

高校生に知ってほしい強力ツール ベンゼンの異性体を描いてみよう!:化学式から異性体の構造(環や二重結合、三重結合の存在可能性)を推定する方法

今年も残すところあと一日となりました。今年の福岡はことのほか紅葉がきれいで長く続きました。写真は11月に大宰府近くにある竈門神社(かまどじんじゃ)に行った時に境内で撮影した紅葉です。青空に映えてとてもきれいでした。

さて、今日は一足早いお年玉ということで、有機化学を学び始めた高校生や受験生、一般の方々に是非覚えておいてほしい強力なツールを紹介します。試験問題を解くのにも大活躍しますので、活用してみてください。

先日のブログで、三炭糖のdihydroxylacetoneが隕石の中から発見されているというお話をしました。C3H6O3という分子式で示される物質がどのような構造をしているかを推定する簡単な方法を紹介します。これは有機化合物の構造を質量スペクトルやNMRなどで推定する際に常用される方法です。(たとえば「有機化合物のスペクトルによる同定法 (第8版)」(東京化学同人)をご覧ください)

分子式はその物質がどのような元素からなり、それぞれの元素が何個あるかという情報の他に、分子内にある環や不飽和結合(二重結合や三重結合)の数についても教えてくれるのです。不飽和結合の存在や環の存在によって結合している水素の数が、環や不飽和結合がない場合にくらべてどれくらい減っているかを示すhydrogen deficiency indexという数を分子式から計算することができます。このインデックス(数)を計算すると、分子式内の二重結合の数、三重結合の数の二倍の数、および環状構造の個数の合計がわかります。計算の仕方は以下のとおりです。

hydrogen deficiency index=(炭素数+1)ー水素数/2ーハロゲン数/2+三価の窒素数/2です。

たとえばC3H6O3(つまり炭水化物C3(H2O)3の場合)なら、上の式で炭素数3、水素数6、酸素数3なので、(3+1)-6/2ということで1がインデックスとなります。つまりこの分子式で表される分子には二重結合が1個あるか、または環が一個あるだろうと予測できるわけです。ケトースもアルドースもありうることがわかりますね。

C7H7NOの場合だと、炭素原子数が7、水素が7、窒素が一個で酸素が1個ですので、インデックスは(7+1)-7/2+1/2となり、5となります。この分子はたとえばベンズアミドでありうるわけです。ベンゼン環には二重結合3つ、環が一個ありますからそれだけで4となりあとはアミド結合の酸素と炭素の間の二重結合が1となり合計5になります。この分子式でインデックスが5になるような異性体を練習に書いてみてください。

簡単な練習としてはC6H6が面白いです。良く知られているのはベンゼンです。しかしこの化学式で示される分子はもっといろんなものがあり得ます。

C6H6という分子のインデックスは炭素6個に水素6個ですから、(6+1)-6/2で4です。ベンゼンなら環が1個で二重結合3個ですのでたしかに4となってあっています。しかし環が1個で三重結合が1個(1x 2=2)、二重結合が1個でも4ですよね。大学生のときこのインデクスを使ってものすごい数の構造異性体を書いて遊んでいたのを思い出します。うちの奥さんが地味な遊びや、といっている声が聞こえますが‥‥。
解答例をはりつけておきます。もっといろいろ(合計30種類以上)書けますので試してみてください。(図は、ChemSpider(無料の化学構造のデータベースで、テキスト検索や構造検索ができます)という便利な化学のサイトで分子式C6H6の異性体を検索した結果から、一部を抜き出して、図を改変したものです。もとのページを見たい方はこちらです。)

もっと一般化したインデックスの計算式は以下のようになります。
hydrogen deficiency index =(Ⅳ)+1-(/2)+(Ⅲ/2)
ここでⅣというのは4価の元素(炭素Cとかケイ素Siの原子の数)
Ⅰは一価の元素の数、つまり水素Hやハロゲン(ClとかFとか)の原子数の合計
Ⅲは三価の元素の原子の数、つまり窒素Nとかリン原子Pなどの数です。

下の写真は竈門神社本殿そばの池に浮かんでいた もみじの落ち葉です。ゆっくりと風にふかれて水面をただよっていました。

隕石に糖が発見されました―宇宙に存在する糖鎖の発見も間近か!

ニュースでご存知かもしれませんが、日本の東北大学の研究者がNASAの研究者と共同で、有名なマーチソン隕石(初版のブログでマーチンソンと書き誤っておりました。お詫びして訂正します)などの炭素質隕石に宇宙起源の糖を発見したと報告しています。 有名な米国科学アカデミー紀要に発表されたこの論文です。オープンアクセスのようで誰でも読めます。 簡単な日本語の紹介pdfは東北大学のサイにあります。

Murchison 隕石は丁度50年前に落下した隕石で今年記念行事が開催されていました。この隕石ともう一つNWA801という隕石の中に、地球に落下してからの汚染ではない、宇宙起源と考えられる糖が複数種類検出されました。Murchison隕石からはすでに宇宙起源のアミノ酸が検出されていましたが、今回RNAや生命のエネルギー通貨といわれるATPその他のリボヌクレオチド、リボヌクレオシドの成分でもあるriboseが検出された他、 コンドロイチンプロテオグリカンやヘパラン硫酸プロテオグリカンのタンパク質とのリンカー部分の構成成分の糖であるxylose(タンパク質中のSer, Thrに結合する)、そしてarabinose、最後にlyxose(これは珍しい糖)が検出できたそうです(なおDかLかという、検出されたそれぞれの糖のキラリティーは決定されていません)。 以前(1962年や1963年の論文―以下の参考論文の項を参照)にも隕石中にglucoseまたはmannose、xylose, arabinoseを検出したという報告がありましたが地球の生物による汚染の可能性が議論されていました。また2001年にNatureに載った論文では、宇宙起源の3単糖であるdihydroxylacetone (ケトースです)が検出されており、同時に各種の糖アルコールも発見されています。しかし5単糖以上の糖は検出されていませんでした。隕石の中に確実に5単糖の存在が検出されたのは初めてで画期的なことです。また今回の論文では、これらの糖鎖がどのような化学反応で合成されたかについても実験を交えて議論しており、おそらくこの糖鎖がformose反応によってできたであろうという推定の実験も行っています(formose反応については、以前の記事も参照のこと)。糖鎖の起源については平林淳先生の以下の論文もご覧ください。
Hirabayashi J. On the origin of elementary hexoses. Q Rev Biol. 1996;71(3):365–80. [PubMed] []

隕石中の糖についての参考論文:1) Degens, E. T. & Bajor, M. Amino acids and sugars in the Bruderheim and Murray meteorite. Naturwissenschaften 49, 605–606 (1962).
2) Kaplan, I. R., Degens, E. T. & Reuter, J. H. Organic compounds in stony meteorites.
Geochim.Cosmochim. Acta 27, 805–834 (1963).

宇宙には前に書いたように炭水化物が検出されていましたが、昔イギリスの有名な天文学者Fred Hoyleが宇宙塵の示す赤外線吸収スペクトルパターンはsporopolleninやポリサッカライド、あるいはバクテリアの外壁の多糖類類似のもの由来であるという説を唱えて論文がNatureに掲載されていました。
HOYLE, F., WICKRAMASINGHE, N. Polysaccharides and infrared spectra of galactic sources. Nature 268, 610–612 (1977) doi:10.1038/268610a0

宇宙由来の糖鎖がついに発見された今、はやぶさ2が小惑星りゅうぐうのサンプルを採取して帰還の途へつこうとしています。ひょっとしたら りゅうぐうのサンプルの中に、世界ではじめて糖鎖が検出されるかもしれませんね。とても楽しみです。(写真は1週間ほど前に撮った金星と木星の写真です)

 

元寇防塁の上で毎日暮らしていました!九大箱崎キャンパスの遺跡が国の史跡指定へ

今日夕方のNHK福岡の放送で、九大跡地の元寇防塁が国の史跡指定へというニュースを放送していました。調べてみると、九州大学が伊都へ移転する前に私達がいた箱崎キャンパス、それも理学部本館から中央図書館、農学部などにわたって元寇防塁跡の石組や溝のあとが点々とみつかっているようです。防塁あとは工学部へものびています。箱崎キャンパスの卒業生の皆さんはこの地図を見ると興味津々でしょう。この地図は九大が昨年発表したこの報告のpdfにある図からとったものです。理学部では理学部会議室の下あたり、ちょうどバーベキューをやれるスペースの周辺に石積み遺構あと(赤い線で表示)や溝状の遺構(青い線で表示)がみつかっているようですね。赤い石積み遺構は図の右上にある赤い点線(地蔵松原公園の元寇防塁遺跡)から農学部、中央図書館、理学部本館へと連続して続いているように見えます。理学部本館にあった私達の研究室は理学部会議室のすぐそばの二階にありましたから、毎日窓から眺めていたあたりに元寇防塁があったわけです。箱崎キャンパスは、昔は海に近かったようで松林の名残の松も点々としていました。去年、筥崎宮が元寇のとき避難してきた史跡を訪れた記事を書きましたが、やはり博多は元寇にまつわる史跡が多いですね。しかしまさか箱崎キャンパスの理学部や中央図書館、防音講義室、システム生命学府棟、農学部あたりに防塁があったとは驚きでした。

下の図は九大の所蔵する蒙古襲来絵詞(模本)の高精細画像です。主人公である竹崎季長(たけざき・すえなが)の活躍を描く絵巻物で18世紀末に発見された原本をかなり早い時期に複製したものと考えられているそうです。絵巻物の「季長、生の松原の石築地の前を通過する」の場面で防塁を通過しているところが描かれています。