Cas9によるゲノム編集を開発してノーベル賞を受賞したDoudnaさんの最新講演動画が公開されました!

4月15日(米国時間)に以前このブログで紹介していたNIHでのJennifer A/ Doudnaさんの講演がありました。
動画が公開されているのでご覧ください。https://videocast.nih.gov/watch=54303
”WALS NIH Director’s Lecture: The Future of CRISPR: What’s Ahead for Genome Editing”

Doudnaさんはゲノム編集の画期的方法「CRISPR-Cas9システム」の開発者の一人でノーベル化学賞を受賞しています。彼女の本、A Crack In Creation: Gene Editing and the Unthinkable Power to Control Evolution (English Edition)では、人の組織や臓器特異的にCRISPR-Cas9システムを導入する方法についてレンチウイルスのシステムが紹介されていました。今回の講演は、この本の後、ゲノム編集がどれほどすすんだか(ヒトの遺伝病の治療にも利用され始めています)が手に取るようにわかるよい講演です。Cas9酵素としては、ヒトの腸内細菌由来で最もよく利用されているSpyCas9にかわる酵素が開発されたそうです。好熱菌由来のCas9であるGeoCas9は、高温で生活している細菌が持つ酵素なので、熱に強く、体内でもSpyCas9よりも格段に安定に存在することができます。これはヒト体内に入ると瞬時に分解してしまうSpyCas9に変わる臨床治療用の酵素として有望そうでした。ただ一つの致命的欠点はSpyCas9にくらべてゲノム編集効率がものすごく低いということでした。そこでin vitroでdirected evolutionを起こす方法を使ってGeoCas9配列を進化させて、編集効率が高く、温度にも安定な新酵素iGeoCas9を作ったそうです。

次はどうやってこのiGeoCas9と遺伝子ターゲットを認識するためのガイドRNAを目的の細胞、組織へ届けるかです。優れた方法が開発されています。
今までのレンチウイルスやアデノ随伴ウイルス。アデノウイルスを利用する方法ではウイルスを利用するので、ヒトの臨床利用ではなるたけ避けたいと思う人も多いです。Doudnaさんのグループは、iGeoCas9とガイドRNAからなるリボヌクレオタンパク質を、レンチウイルスの殻のようなenvelopeにいれて、そのenvelopeの表面に目的の組織や細胞に結合できるscFv抗体を発現させておきます。(この抗体は英国MRC LMBのWinter先生が開発した抗体で、ノーベル賞を受賞しています。
https://www.nobelprize.org/uploads/2018/10/winter-lecture.pdf
scFv抗体についての簡単な用語解説はこちらがわかりやすいです。https://www.yodosha.co.jp/jikkenigaku/keyword/147.html)
このエンベロープは、ウイルスのように増殖性がありませんので安全性が高いです。またscFv抗体で目的の細胞に結合した後、細胞と融合して内容物を細胞内へ放出するために必要な細胞融合を引き起こすfusogenと呼ばれるタンパク質も表面に発現させておくそうです。これはenveloped delivery vehicle (EDV)と名付けられ、ウイルスに替わる安全で核への到達効率が高いツールに仕上げられています。動画を見ると詳しく解説されていてわかりやすいですが、興味のある人は次の最新の論文をご覧になるとよいと思います。

Hamilton JR, Chen E, Perez BS, Sandoval Espinoza CR, Kang MH, Trinidad M, Ngo W, Doudna JA. In vivo human T cell engineering with enveloped delivery vehicles. Nat Biotechnol. 2024 Jan 11. doi: 10.1038/s41587-023-02085-z. Epub ahead of print. PMID: 38212493.

NIHの講堂が満員になっていた講演です。動画を高画質でダウンロードできますし、スクリプトファイルもダウンロードできるので是非じっくり勉強してみてください。

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