あけましておめでとうございます。(2011.01.10)

福岡は大晦日に雪が激しく降り例年に無く雪の多いお正月でした。今日も雪がちらついています。雪は天からの手紙といいますが雪の結晶の種は多くは微生物であること(Christner他 2008. Ubiquity of biological ice nucleators in snowfall. Science, 319:1214のpdfがリンク先の著者のホームページにあります )がわかってきました。微生物の表面は糖鎖を中心とする表層でおおわれているので、糖鎖のつくる周期的構造が雪の結晶を作り出すのかもしれないと思うとわくわくします。

我が家では積もった雪が屋根の波板からゆっくり動いて、バネのようなつららができあがりました。うさぎ年ですので、うさぎと この雪でできたスプリングにあやかって跳躍の年としたいと思っております。本年も皆様にとって幸多き年でありますように。

真夏の怖い話(2010.08.26)

今、卒論の4年生二人が線虫糖鎖遺伝子のノックアウト・ノックダウン結果のデータベースを作ってくれています。来年卒業までには公開予定です。Wormbaseというすぐれたデータベースも参照しながら作ってくれていますが、先日怖いことがありました。

私達の実験結果以外に、糖鎖遺伝子のRNAiの結果をWormbaseからとってきて検討しています。この前、四年生が「おかしい、前調べた遺伝子のRNAi異常の表現型がなくなっている!」と騒いでいました。ある遺伝子のRNAiの結果で、locomotion abnormalの他、様々な異常があると記入していたのに、今調べたら異常なしになっているというのです。私達が以前、異常なしというのを確かめていた遺伝子だったので、どうせみまちがえていたんだろうと思いました。しかし

「二人で別々に確認したので、絶対まちがっていません!」 ときっぱり。

うーん。良くある間違いは、「No abnormalities were observed in the following experiments:以下の実験では以下の異常な表現型はみられなかった」という部分を間違えて表現型があると思いこむことです。しかし今回はその部分にはlocomotion abnormalなんてないし、やっぱり彼らが正しいかも、と思いました。

彼らが調べた時期は6月頃。そのころのWormbaseはWormbase release 210, 今のはrelease 215です。ひょっとして、と思い、Wormbase のtop pageの右下のほうにあるReferential Data Freezesを使ってrelease 210のデータを調べてみる事にしました。Wormbaseでは作業をしたときに使ったWormbaseのversionが変わってしまってデータベース検索結果が再現できないということがないように、それぞれのreleaseが保存してあります。これがfreezeと呼ばれるものです。WS210というのを選んで調べてみました。

結果は四年生が正しかったのです。ごめん!よくも注意深くデータベースの変化に気づいてくれました。さすがです。

彼らの調べた遺伝子のRNAiの表現型の欄にはlocomotion abnormalなどいろいろずらっと表現型の異常の項目が並んでいます。リンクをたどるとリンクの先にも異常に関するデータが並んでいます。しかしより古いversionや最新のversionのデータベースには、異常な表現型なしとなっています。念のためRNAiのoriginalの結果をみましたがやはり異常な表現型なしが正しかったのです。
ということで、教訓は

四年生を信じましょう、というのと、
Wormbaseほどのデータベースでも時として誤りがまぎれこんでいることがあるということです。
Wormbase release 210でデータマイニングの作業をしていた方は注意して下さい。

昔、四年生の論文購読の演習授業で先生がわざと誤りの入った論文を教材として読ませて、論文や書物にも誤りがありうるのだというのを、体得させる授業をされていたのを思い出しました。データベースでも同じです。こういう経験はやはり大事ですね。
(写真は同じ生物科学部門の仁田坂先生から大学院説明会でいただいた種から育って我が家の庭で咲いた朝顔です。)

 

今年も九州大学生物学科の公開講座の季節になりました。(2010.08.03)

参加無料で、来る8月14日(土曜日)13:30分から16時まで九州大学箱崎地区国際ホールで開催されます。

今回は発生生物のヒドラ(小早川先生)や進化生物学(舘田先生)のお話が聞けるそうです。参加無料ですので、高校生から一般市民のかた、研究者の方々も是非おさそいあわせのうえお越し下さい。やさしい話なので、他分野のことがよくわかり勉強になるからと毎年参加される研究者も多い講演会です。

ドイツのEMBLにいってきました。(2010.07.02)

ドイツのEMBLにいってきました。
シーエレガンスの発生と遺伝子発現に関する学会がドイツのハイデルベルグにあるEMBLで開催されましたので参加してきました。
EMBLというのはThe European Molecular Biology Laboratoryの略で、ヨーロッパ分子生物学研究所です。 ハイデルベルグは古い大学都市です。ネッカー河のほとりにたたずむ古い街並みと、川のむこうにひろがる新しい街並みともにきれいです。学会開催前にハイデルベルグ大学も訪問しました。教授をつとめた人から 10人ものノーベル賞受賞者をだしています。卒業生などをふくめるとその数はずっと増えます。私達が大学を訪れた前日、 柳田充弘先生がハイデルベルグ大学で講演されたとききました。ブンゼン、キルヒホッフ、ハーバー、オットー・マイヤーホッフ、ワールブルクなどの科学者、マックス・ウエーバーやヘーゲル、フォイエルバッハや幸福論で有名なヒルティなどもこの街ですごしています。
写真の端の向こうの山には哲学の道があり、ゲーテやヘーゲルも散歩していたはずです。(ヘーゲルはハイデルベルグ大学の教授だったこともあります。)会議の行われたEMBLは近くの山の中です。タクシーで町の中心部から14ユーロほど払うと到着します。
写真は会議が開催された新築のAdvanced Training Centerです。中にはDNAの二重らせんを模したスロープがつくられています。
helix(らせん)Aとhelix Bというのがあってそれぞれのらせんの部分でポスター発表が行われました。らせんAとらせんBの間をいききするには、DNAの塩基対に相当する渡り廊下を渡らなくてはなりません。DNAの二重らせんの中に入った気分を味わえます。

外周にエレベーターはありますが、エスカレーターはないので、下から上までポスターをみてあるくのは、ちょっとした山登りです。右の写真で上から3つのらせん部分にポスターパネルがあるのがわかるでしょうか。息をきらせて私達のポスターにかけつけてくれた人もいてありがたかったです。その人は5回もポスターを見に来てくれました。

写真は熱心な訪問者に研究成果を説明する大学院生の村田君です。右はポスター会場のhelix Aとhelix Bを下からみあげたところ。
渡り廊下を渡らないと決してとなりのhelixにはいけません。

英語で話すコツ(3):英語で講義をしてみたい

将来英語で講義が出来るようになりたいという場合には、まず 外国の大学の講義をきいてみるのが手っ取り早い方法です。
今回は英語で大学の授業を配信しているサイトを二つ紹介します。最初はマサチューセッツ工科大学MITのOpen CourseWareです。
ビデオで講義が聴けるだけでなく、ダウンロードもできますし、なんと講師のしゃべった言葉を文字にしたもの(清書したもの=トランスクリプトtranscript:これはDNAの転写産物を表すtranscriptという単語の使い方の起源でもあります)もつけてあるので、聞き取れなかった部分を確認することもできます。へたなラジオ講座より、ずっと実践的に科学英語が学べます。
リンクから生物学や化学、数学などお好みの講義を探して聴いてみるとよいでしょう。
生物学の講義をきいてみるには、たとえばこのリンクをお試し下さい。

カリフォルニア大学バークレー分校も同様な講義のwebcastを配信しています。
(2018年追記:以下のリンクについての記述は現在あてはまりません)
生物学ですとここ などがあります。iTunes Uのvideoやaudio,あるいはYouTubeのビデオへのリンクがあります。年度を選んで講義をききたければ上のView by Semesterというプルダウンメニューから年度とfall, springのどちらかを選んで下さい。Departmentsのプルダウンメニューから生物だけではなく、化学、数学、工学など各種講義がみられます。

みてもらえればわかりますが、これらの講義は英語で自分の研究成果を発表しなくてはならない大学院生や研究者にとっては、英語の話し方を身につけるのに役立つ最高の機会でしょう。科学英語の初心者にもとても役立つので暇があるときに是非、聞いてみて下さい。上級者が聴けば、どのような英語の表現で自分の知識を英語で伝えるかが身に付くと思います。videoの他に、音声podcastの配信がありますので、車の中などで英語の教材代わりに聞いてみて下さい。生物学をはじめとする科学分野のほぼすべての領域をカバーしている講義集ですから基本的な語彙と表現が身に付くと思います。他にも、上のサイトからリンクをたどると初歩の物理の講義や、数学(線形代数や微積分学)の講義とか、コンピュータープログラミングの講義などいろいろあります。好みに従って聞いてみると面白そうです。

 

iPS細胞の山中先生の講演会と、糖鎖生物学 (2010.1.29)

私の発生生物学の授業で紹介したiPS細胞で有名な山中伸弥先生のNIHでの最新の講演会のビデオ(January 14, 2010)へのリンクをあげておきますのでiPS細胞について興味のあるかたは是非ご覧下さい。ビデオはダウンロード可能ですし、Podcastとしてもダウンロードできるようになっています。字幕もついています(字幕はけっこういいかげんなことが多いですから自分の耳のほうを信用したらよいです)ので英語の勉強にもなるかと思います。

分化能力が高い「幹細胞」(かんさいぼう。ステムセルstem cellといいます)とよばれる細胞には特定の配列の糖鎖が出現しており、こうした糖鎖は幹細胞であることの目印(マーカーといいます)とされています。しかしなぜ幹細胞で特定の糖鎖が発現するかは謎なのです。癌であることの目印(癌細胞のマーカー)として病院でつかわれているものの中には特定の糖鎖配列があります。病院でこうした糖鎖の出現を癌の診断に役立てていることや、幹細胞のマーカーに糖鎖が多いことからも、細胞の状態を糖鎖が反映しているのは確実です。しかしその意味や役割は全く不明です。これが理解されれば、細胞の一番外側にある分子である糖鎖を変化させて細胞の状態を自由に変化させたり、制御したりすることができると私達は考えています。実際、細胞膜表面にでているコンドロイチンを消化すると細胞分裂ができなくなるという私達の発見や、細胞外の糖鎖を抗体で阻害するとクラゲの横紋筋が分化転換して別の細胞に変わるというさきごろ亡くなったスイスのVolker Schmid先生の発見は、この方法がたしかに実行可能であることを証明したものといえるでしょう。糖鎖生物学からiPS細胞研究が格段にすすむことを期待しています。

iPS細胞の具体的な実験方法については下のバックナンバー2009年3月20日分にあるビデオをご覧下さい。外国のビデオですがiPS細胞を研究している実験室を実際に案内してもらうのと同じ体験ができます。

あけましておめでとうございます。(2010/1/13)

あけましておめでとうございます。 
本年も皆様にとってよい年となりますようにお祈り申し上げます。

年末にはひさしぶりに英国を訪問してきました。ロンドンの年末カウントダウンをはじめてテレビでみました。11時45分から0時15分までの間、テレビで中継します。ものすごい人混みだそうで現場にいってみるのは今回は躊躇しました。テムズ川のそばにあるロンドンアイとよばれる大観覧車で花火をうちあげてカウントダウンします。泊まっていたアパートからも花火で空が光っているのだけは見えました。

PubMedの使い方などは今週から解説を再開する予定です。ことしもどうぞよろしくお願いいたします。

生命科学の文献検索のやりかた:PubMedを使ってみよう(1) ( 2009/11/11)

今回は、PubMedの検索の仕方を紹介します。PubMedは生物学・医学の文献の検索に大いに役立つ信頼できるすぐれたサービスで米国の国立研究所NCBI(National Center for Biotechnology Information)によって無料で公開されています。検索キーワードの入れ方は簡単で、Googleでのように検索キーワードを入れればよいのです(検索窓に複数のキーワードを入れるとAND検索となります)。これを使うのは初めてという方は以下の図のように検索窓に好きなキーワード(この例ではchondroitin とelegansをいれています)を何個かいれて検索するとよいでしょう。ご自分の好きなキーワードをいれて検索してみて下さい。ANDとORを括弧( )と組み合わせて検索すればかなりこまやかな検索が可能です。

今回はもうすこしプロ風の検索式の入れ方、作り方を紹介したいと思います。
自分の興味のある文献を定期的に検索してその結果を確認したり、自分の興味ある文献についての情報をまとめてファイルにしてダウンロードしたりするのがPubMedを使えば簡単にできます。論文がでた日付で絞り込んだ検索をしたり、著者名で検索したりする時には以下のようにタグを使うと簡単です。例をみていただければ簡単に応用できるようになると思います。
タグを使った検索式で定期的にPubMedをチェックしたりする方法については次回以降に解説します。

例1:

2003年3月から2003年5月までの期間にPubMedに登録されたelegansとchondroitinについての文献を探したいとき。(登録日を使った絞り込み検索)
検索ボックスに、elegans AND chondroitin 2003/03/01:2003/05/31[edat]といれます。[edat]がタグです。2つ論文がヒットすると思います。
2003[edat]なら2003年のものだけ、2003/05[edat]なら2003年5月のものだけがヒットします。は範囲を表すのに使っています。[edat]タグの代わりに出版年月日のタグである[dp]または[pdat]を使えば出版された年月日で検索の範囲を絞れます。

elegans AND chondroitin 2003/03/01:2003/05/31[pdat]とすると3つ論文がヒットします。

例2:

2009年に出版されたDejimaによる論文を探してみましょう。この場合は著者のデータベースのレコードフィールドを検索する[au]タグを併せて使います。
検索ボックスにDejima[au] 2009[dp]といれて検索します。6つヒットして、出嶋克史君の論文が2つみつかりました。[au]はauthorの略で著者です。

例3:

” “に囲んで検索語をいれるとAll Fields(論文のレコードの、タイトルや著者、アブストラクト、出版年月日などほとんど全てのデータベースのフィールド)の検索となります。引用符で囲む代わりに検索語の後に[all]と入れて検索しても同じです。
“elegans” AND “chondroitin”
でやってみましょう。

検索語にはもちろんglyco*のようにアスタリスクのワイルドカードも使えます。しかしワイルドカードを使うとglycosyltransferaseとかglycomeとかいろいろ変化させて最初の600種類までの変化しか検索してくれないので注意して下さい。600でカットしたときには警告がでますので、もうすこしアスタリスクの前の文字を増やすなどしてください。

以上の例で示したように、検索語のあとにつける[ ]の中に、allだとかedatとかauとか、いろいろタグを入れると検索範囲を絞って検索できるわけです。使えるタグの一覧は
ここをクリックして、ページのずいぶん下のほうにあるSearch Field Descriptions and Tagsの部分をご覧ください。
検索で使えるものと、使えないものも含めた全タグの一覧はこちらをご覧下さい。

糖鎖化学の教科書の紹介  (2009/10/17)

前回はオハイオ州立大学がうんだ大科学者Paulingさんのことにふれました。先日99才でなくなった阿武 喜美子(あんの きみこ)先生(お茶の水女子大学名誉教授)もオハイオ州立大学に留学されていたのを思い出しました。阿武先生は日本の女性科学者の地位を確固としたものにするのに大きく貢献された有名な糖化学者です。

糖鎖生物学を学ぶとき糖の化学をどんな本で勉強したらいいですかと先生にきいたとき、まず推薦されるのが
「糖化学の基礎」 (阿武 喜美子・ 瀬野 信子 著) というすぐれた教科書です。残念ながら絶版になっているようで古書でしか手に入りませんが、図書館には所蔵しているところが多いので是非、手にとって勉強してみて下さい。

阿武 喜美子先生の業績については「女性科学者のパイオニア達」というシリーズのテレビ番組で詳しく紹介されています。番組をみてから上の教科書を開いてみるとまた理解も格段にすすむのではないでしょうか。

理化学研究所のビデオ配信サービスYouTubeでみられますので、是非ご覧下さい。

 

 

 

 

 

実験ノートについて (3) (2009/10/10)

ノーベル賞のわくわくする発表も終わりに近づいてきました。イギリスのケンブリッジにあるMRC LMBからまた一人、(出身者というのなら二人)の受賞者が化学賞(リボソームの構造に関する業績)に選ばれています。ざっと数えて15個ほどのノーベル賞メダルがこの研究所からでています。

さて先日紹介したポータルサイトをみていたらノーベル賞を2つもらった科学者Linus Paulingさんの実験ノートがオレゴン州立大学の図書館のサイトに公開されているのに気づきました。以前紹介したBrennerFaradayの実験ノートとあわせてのぞいてみてください。そしてどんなことをノートに書かなくてはいけないかを考えてみて下さい。(最近ではコンピュータが発達してきたのでパソコンで電子ノートブックというのが使われるようにもなってきています。ノートにどのようなことを書くべきかをしっかり考えてこうしたノートを使うことが大切です。)

この大学の図書館にはLinus Pauling onlineというサイトができていて、彼の実験ノートの写真や鎌状(鎌形)赤血球貧血症の研究、化学結合論の研究、DNAの構造の研究などの紹介などの他に、長時間の講演会の動画も公開されています。DNAの構造解明でノーベル賞を受賞したCrickPaulingを回顧する講演などもありますし、講演のスクリプトがついていますので英語の勉強にも使えます。是非ご覧下さい。

Paulingは化学結合論の権威で量子化学を創始した科学者の一人です。DNAの構造を研究していたWatsonがPaulingさんの本「化学結合論 The Nature of the Chemical Bond…」が必要になって探し回っていた場面が有名な「二重らせん」という本の中にあったと思います(11章後半)。今話題のノーベル化学賞と平和賞を、後者は核兵器根絶運動の功績で受賞しています。47年も前のノーベル平和賞ですが、まだ核兵器はいっぱいあります。Paulingのノート(画面一番下のSelected Highlightsを見ると面白いです)には奥さんのコメントなどもはいっていてほほえましいものもあります。画像を拡大して上の方をご覧下さい。