
今日の大宰府は最高気温37.8℃で全国一暑かったそうです。台風9号からの南東の風が九州山地にあたってフェーン現象をおこしているとのこと。明日、明後日はもっと暑くなり福岡市でも38℃になる可能性もあるそうです。一昨日、今年はじめてヒグラシの鳴き声を聴きました。また昨日ははじめてクマゼミの声をきいて夏が始まったのを実感しています。写真は一昨日、散歩の途中でみつけた ねむの木(合歓の木)に咲いた花です。このまえ写真をとったのは一か月前ですから、二回目の花が咲いたことになります。結構たくさん花がついていて見事でした。今回は花が低いところで咲いてくれていたので、ピントがあってぼけていない写真がとれてうれしかったです!
今日はAlphaFold2でヒトのキナーゼを網羅的にモデリングして研究しているという講演があったので紹介します。
以前の記事で、演者の Roland DunbrackさんによるAlphaFoldの入門動画を2本紹介しました。
今回の動画は、この入門動画を見た人が、実際の研究でどのようにAlphaFoldを活用していくかを実感するのに最適の内容になっています。単に「AIが構造を予測した」というレベルにとどまらず、構造バイオインフォマティクスを駆使して立体構造予測データをどう料理し、どう研究や創薬に役立てるかが詳細に語られている素晴らしい動画です。
Structural Bioinformatics & AlphaFold Modeling of the Human Kinome & Its Interactions.
https://youtu.be/o1s13RGEWFY
演者の Roland Dunbrackさんが、フランスのナント大学 理学・科学技術学部(NANTES UNIVERSITÉ – UFR SCIENCES ET TECHNIQUES)で、今年の6月10日に行った講演の動画です。ヒトのKinaseの網羅的モデリングの話で、AlphaFoldを使う研究の実技編にあたる講演で、上の二つの講演を聴いたあとに聴くのに最適の講演です。もちろんイントロもちゃんとあるので、上の二つの講演を聴いていない人にも理解できます。例によってオームというのはオームの前の対象物の全部を集めた集合のことです。kinase (リン酸化酵素)のすべてということで、kinomeと呼ぶわけです。
以下はGeminiによる動画の要約です。動画はまだみていないのですが、要約をみるとものすごく面白そうですね。明日見てみようと思います。 以下の要約に書いてある[20:30]など[ ]で囲まれている数字は再生位置を示しています。この例では20分30秒の部分をみなさいという意味です。
1. なぜ「ヒト・キノーム(リン酸化酵素群)」を標的にするのか?
ヒトには約500種類のキナーゼ(リン酸化酵素)ドメインが存在し、がん細胞の異常増殖などに直接関わるため、極めて重要な創薬ターゲットです [00:09]。
キナーゼは、ATPと基質(別のタンパク質)に結合してリン酸化反応を触媒しますが、常にオンになっているわけではなく、「活性型」と「不活性型」などの様々な状態(コンフォメーション)を行き来しています。実は、既存の実験手法(X線結晶構造解析など)で構造が解明されている「活性型」キナーゼは、全体の約25%に過ぎませんでした [43:40]。残りの構造をどう予測するかが大きな課題でした。
2. 独自のスコア「IPS」による複合体予測の精度向上
AlphaFoldが出力する予測モデルには、構造の信頼性を示すスコアが付属しています。
pLDDT: 各アミノ酸の局所的な構造の確からしさ。構造を持たない天然変性領域などの判別に有用です [20:30]。
PAE (Predicted Aligned Error): 離れたドメイン間や、2つのタンパク質間の相対的な位置関係の誤差予測。
巨大なタンパク質同士の複合体を予測する際、AlphaFold標準の評価スコア(ipTMなど)では、構造を持たない「天然変性領域」の不確実性にスコア全体が引っ張られてしまい、本当に結合しているドメイン間の評価が不当に下がってしまうという弱点がありました。
そこでDunbrack博士のチームは、AlphaFoldが「自信を持っている(PAEが低い)領域」だけを抽出してドメイン間の相互作用を評価する「IPSスコア」を独自に考案しました [29:46]。これにより、生体内での真の相互作用と偽の相互作用を高精度で見分けられるようになりました。
3. AlphaFoldに「活性型構造」を強制的に作らせる
通常のAlphaFoldは、PDB(タンパク質構造データバンク)に登録されている最も安定した状態や一般的な状態を予測しがちです。博士らは、過去のPDBの膨大なデータから、キナーゼが基質やATPと結合して「活性型」になるための厳密な立体構造の条件(特定アミノ酸の二面角や距離など)を数学的に抽出しました [33:34]。
そして、その条件を満たす構造を鋳型(テンプレート)としてAlphaFoldに与えることで、未解明だった残り75%のキナーゼ群についても、「活性型」の立体構造モデルを人為的に予測させることに成功しました [45:24]。
4. タンパク質デザイン(人工タンパク質創出)への応用
これらの精密な構造解析とIPSスコアは、次世代の創薬にも繋がっています。例えば、標的のキナーゼの活性を抑え込むための「人工ミニタンパク質」をコンピュータ上で設計する際、生成された無数の候補の中から「本当に標的に強固に結合するデザイン」を、IPSスコアを用いて的確にスクリーニングできることが示されています [57:48]。
この動画から学べること(まとめ)
この講演の最大のメッセージは、「AlphaFoldは、ただ配列を投げ込めば望み通りの答えを出してくれる魔法の箱ではない」ということです。対象となる生体分子のメカニズム(キナーゼの活性化ループの挙動など)を深く理解し、計算機科学の力(スコアの再定義や条件のチューニング)を掛け合わせて初めて、生物学的に意味のあるデータを取り出すことができます。基礎的な生化学の知識が、最先端のインフォマティクス研究でどう活用できるのかを感じられる必見の講演です。