生命科学に興味を持っている人のためのベイズ統計入門の動画がでています。

いつも紹介しているBroad InstituteのMPG Primerの動画にベイズ統計入門動画(ベイズ統計ソフトの使い方ではなく、概念の解説からベイズ統計に入門できる動画)が出ているので紹介します。前にも同じ演者によるMPG Primerのベイズ統計の講義を紹介しました。この動画で興味をもったらそちらもご覧ください。記事のリンクはこちらです。

MPG Primer: Bayes in Action: Inspiration, Observation, Perspiration (2026)
https://youtu.be/Ne5cffjhOY8

これは、ベイズ統計解析のツールの使い方ではなく、ベイズ統計の直感的な理解と、それが遺伝学や医学のデータにどのように応用されるかという「概念」に焦点を当てている動画です。

遺伝学や医学の文脈でベイズが語られているので生命科学や医学に興味を持っている人におすすめの動画です。講演者のSarah Urbut博士は統計遺伝学のバックグラウンドを持っており、動画内では生命科学、医科学に馴染みのあるトピックが随所に登場します。例えば、多重検定やp値の限界に関する話題から始まり 、中盤では「SNP(一塩基多型)」や「GTExプロジェクト」における組織特異的な遺伝子発現パターンの解析を例に、多変量正規分布や共分散行列の考え方を説明しています。また、導入では、キリンの身長を用いた直観的な例をつかって、事前分布(Prior)、尤度(Likelihood)、事後分布(Posterior)といったベイズ統計の基本概念を導入してくれています。いきなり複雑な数式で説明するのではなく、「キリンの身長(2つの異なる集団が混ざっている場合)」というシンプルな混合モデルの例を用いて解説しており、とてもわかりやすいです。これにより、新しいデータ(新しいキリンとの出会い)によって、自分の事前の予測がどのようにアップデートされていくか(ベイズ更新)を視覚的に理解できます 。
またベイズ統計解析のソフトウェアの知識が全くない人でも「計算の壁」を概念的に学べるのもよさそうです。動画の終盤(Perspirationの部分)では、ベイズ統計でよく使われる計算手法であるMCMC(マルコフ連鎖モンテカルロ法)について触れています。彼女はMCMCを「計算機を壊す、みんなが嫌がる言葉」とユーモアを交えて表現し、大規模な集団スケールのデータに対しては計算コストが高すぎるという実用上の問題を指摘しています。その上で、現代の機械学習における最適化手法(勾配降下法など)を使ってその問題をどう解決するかを概念的に解説しており コードの知識がなくても「なぜ計算が大変で、どう工夫するのか」の全体像を掴むことができます。後半はやや高度になってくるのでこんなこともできるのかというのがわかれば十分かもしれません。話題としては患者の疾患リスク(心臓病など)の確率モデル や、時系列の変化を捉えるガウス過程(Gaussian Process)、機械学習用語とのマッピング(Rosetta Stone)などがとりあげられています。この動画は、ソフトウェアの使い方を学ぶ前の「ベイズモデリングのインスピレーションと直感」を養うための最高の入門講義(Primer)です。遺伝学の知識がある人には、他の一般的な統計の教科書よりも格段に内容が頭に入ってきやすいはずですので、ぜひ視聴をおすすめします。