竹市先生の新刊 「あつまる細胞 体づくりの謎」を読みました。

先日紹介した竹市雅俊先生の新刊 「あつまる細部 体作りの謎」を読みました。竹市さんは、細胞接着分子にはその機能がカルシウムに依存する分子(Calcium Dependent Site: CDS)と、カルシウムに依存しない分子 (Calcium Independent Site: CIDS)の二種類があることをまず明らかにされました。私の大学院生時代には竹市先生が CDSの同定をめざし、大学院生の漆原秀子さんがCIDSの同定を目指して精力的な研究が展開されていました。この本には、竹市先生が江口吾郎さんの元で水晶体の研究をされていたのが、どうして細胞接着の研究へと向かわれたのか、留学されたカーネギー研究所のPaganoのところでCDSの分子を同定された経緯などが興味深く書きこまれています。そしてCIDSの同定は抗体がとれてまず成功したのですが、なぜかCDSの抗体がとれずに同定が難儀していたことも書かれています。テラトーマの細胞にCDSの存在を確認して、これに対する抗体も今までのウサギに抗体を作らせるのではなく、大学院生の野呂千加子さんがモノクローナル抗体をとることにしたら、うまく抗体が取れたという話が続きます。当時のラボにいた小合宗一君や渥美忠男君の顔も目に浮かびます。ラボのボスだった岡田節人先生はいつもCDSとかCIDS とかいう分子の名前では発音もしにくいし、外国人にうけいれられるセンスがないので世界には広まらない。なんとかいい名前をつけてくれとおっしゃっていました。ちょうど分化転換の研究で岡田研にきていた英国人のde Pomeraiさんがいたので、新しく抗体で同定できたカルシウム依存性細胞接着分子の名前をいろいろ野呂さんたちと考えて、de Pomeraiさんに選んでもらったのがカドヘリンの名前の誕生だったそうです。de Pomeraiさんは私のやっていた分化転換の研究者だったので、カドヘリンの名前を決めた後、九州大学の私のところに訪ねてきてくれました。
私の家に泊まって九大でセミナーをしたり観光したりしていました。写真は当時の彼の写真(九州大学の発生生物学研究室での写真)です。彼は後には、私と同様に材料を線虫 C. elegansに替えて、携帯の電磁波が生物 (モデル生物の線虫 C. elegansに悪影響を与えるかどうかを研究したりしていました。今でも携帯電話が体に悪いという人は必ず目をとおす有名な論文も書いています。また英国国教会の牧師にもなっていて、Dawkins やAtkinsやHollidayと、神の存在に関する激しい論争を展開したりしています。所属機関で読める人は彼のこんな投書を読んでみると、科学者で信仰がある人の意見を興味深く知れると思います。

God, dawkins, holliday, the universe and other matters
David De Pomerai
BioEssays, 19, Issue10 October 1997 Pages 937-938
https://doi.org/10.1002/bies.950191015