From Quantum in Pictures to Quantum AIという圏論による量子力学の動画が公開されています。

前に紹介したことがあるオックスフォード大学のBob Coecke先生の新しい本がKindle版で発売されました。Bob Coecke and Stefano Gogioso (December 2022) Quantum in Pictures. Quantinuum Pubsという本で、紙の本はまだ市販されていません。前の本 Bob Coecke and Aleks Kissinger (2017) Picturing Quantum Processes. Cambridge University Press.よりやさしく書いてある入門書だそうでKidle版は655円なので今から買おうと思っています。楽しみです。
Coecke先生の去年の12月のMacquarie Universityでの一般向け講演をYouTubeで見つけたので紹介しておきます。全く予備知識なしで絵による量子力学の定式化で量子AIについて解説してくれるそうです。(私はこの動画はまだみていません。)この絵による定式化は圏論によるもので、同じ絵が自然言語の定式化でも使えるのだそうです。ですから自然言語で動く量子コンピュータが作れるという話になるのだと思います。自然言語を入力すると量子回路がつくられるというふうに働くコンピュータだと思いますが、動画を見て確認してみてください。
https://www.forbes.com/sites/moorinsights/2021/10/13/cambridge-quantum-makes-quantum-natural-language-processing-a-reality/?sh=2fdb149613ce
昨今のChatGPTの成功をみると、新しい量子コンピュータができればものすごい革命になりそうですね。興味がある方は以下のリンクから講演動画をご覧ください。
Professor Bob Coecke_Colloquium_December 14, 2022
タイトルはFrom Quantum in Pictures to Quantum AIです。https://youtu.be/5pAKcVPBHEQ

世界を変えた100のシンボル(上・下)という本を読みました。

近所の図書館で「世界を変えた100のシンボル」(原書房)という本を借りました。
http://www.harashobo.co.jp/book/b611549.html
http://www.harashobo.co.jp/book/b611550.html
これは世界を変えた100の「何とか」というシリーズ本をいっぱい書いている、Colin Salterという人の本100 Symbols that changed the worldを上下の二冊本として翻訳したものです(甲斐理恵子 訳)。

卍とか陰陽のシンボル、♂と♀のシンボル、イスラム教の三日月と星、十字架、ダビデの星、平方根、イコール記号、イギリスのポンド記号、円周率の記号、アメリカのドル記号や日本の円記号、放射能の記号や国連の記号、オリーブの小枝をくわえた鳩、ウールマーク、洗濯表示、バイオハザードの記号、アップル社のマーク、アノニマスフェース、ツイッターのマーク、ウィンドウズのシンボルなどいろんなシンボルの由来やそれに関する面白いエピソードが、それぞれ3-4ページかけて紹介されています。私はイギリスにいたとき、町で赤いポピーの花をつけている人がいっぱいいる日があるのを知りました。なぜポピーを服につけているのかと聞いてみると、第一次世界大戦で多くの人がなくなった戦場にポピーの花がいっぱい咲いていたことに由来する戦没者追悼の日だと教えてくれました。この本には、そのポピーの項目もあって、とても興味深く読めました。またアップルのシンボルの由来も面白かったです。トマトとまちがわれないためにかじったリンゴのシンボルにしたとか書いてあります。詳しくは是非この本を読んでみてください。どれも面白く書けている良い本だと思います。

遺伝学の基礎を学べる英語サイトを紹介します。

先日、山田亮先生による遺伝統計学の基礎のオンライン講義(京都大学が無料で公開しています。KyotoUx 005x Introduction to Statistical Methods for Gene Mapping)を紹介しました。これ英語ですが動画と字幕(SubRip (.srt) file またはtextファイル形式が選べます)をダウンロードできるので、各自でゆっくり聴講するのに最適だと思います。
字幕を動画に表示するにはWindows 10などの映画&テレビアプリを使えば簡単です。ソフトウエアではVLC media playerなどが字幕表示に対応していたはずです。もちろんこの講義で使ったRプログラムやハンドアウトもダウンロードできますので、実際の講義を聞く以上の効率的な勉強ができると思います。また各種の参考資料もコース内で紹介されているのでそちらも勉強になります。今日はこの山田亮先生の講義で紹介されていた遺伝学のサイト(英語)を紹介しておきます。発生遺伝学などを学ぶのにも最適のサイトですので、適当な翻訳ソフトや辞書ツールを使いながら勉強すると、短期間で遺伝学の基礎が習得できます。紹介されていたユタ大学のサイトがこちらです。
Basic Geneticsは遺伝学の基礎が学べるページです。
https://learn.genetics.utah.edu/content/basics/
山田先生のコースではこのBasic Geneticsの以下の項目が紹介されています。遺伝統計学の基礎を学ぶにはこれら全部を理解してほしいとのことです。
Inheritance
Basics of Inheritance
What are Trait?
What are DNA and Genes?
What is Inheritance?
What is Mutation?
More about Inheritance
What are Dominant and Recessive?
The 4 Types of DNA and Molecular Genealogy?
Anatomy of DNA & Genes
Build a DNA Molecule
Anatomy of a Gene
More about Mutation
The Outcome of Mutation
Mutation and Haplotypes
こちらはNational Library of Medicineのサイトです。
A Texbook covering the majority of this component
Handbook Help Me Understand Genetics
https://medlineplus.gov/genetics/understanding/

あと、山田先生の講義では紹介されていないのですが、同じくユタ大学のこちら(Teach Genetics)もやさしい遺伝学の紹介でおすすめします。中高生向けの内容になっています。https://teach.genetics.utah.edu/

追記:京都大学ではedXで他に以下のようなコースを公開しているようです。
https://www.edx.org/search?q=Kyoto+Ux&tab=course

バクテリアの新たな免疫系の発見とヒトの免疫系の起源についての動画を紹介します。

NIH video castでバクテリアに対する免疫防御メカニズムについての講演がありました。
イスラエルのワイズマン研究所のProf. Rotem Sorekによる講演です。
https://videocast.nih.gov/Summary.asp?file=32893
タイトルはThe Immune System of Bacteria: Beyond CRISPRです。

バクテリアはウイルスであるファージの攻撃を絶え間なくうけています。ファージとバクテリア、相互の生き残りをかけた進化の戦いのなかで、バクテリアは制限酵素とCRISPR-Casのシステムを生み出しました。制限酵素はファージのDNAを特定の配列で切断してファージを無効化するもので、バクテリア自身のDNAが誤って切断されないように自分のもっている酵素で切断される配列はメチル化しておくことで酵素の切断から逃れています。制限酵素は分子生物学の道具として遺伝子クローニングを中心に活用されました。CRISPR-Casのシステムは、これをもっていない大腸菌などもいるため、発見が遅れました。感染してきたウイルスの配列の一部を獲得免疫のようにバクテリア自身のゲノム内にとりこんでおき、次に同じウイルスが感染してきた際に、その配列を利用して相補RNAをこしらえて酵素Casを使ってファージのDNAを切断して無力化します。CRISPR-Casシステムの発見によって、ゲノム編集技術の革命が生み出されました。

この講演では、バクテリアは他に免疫システムをもっていないだろうかという疑問に答える研究の成果がわかりやすく解説されています。バイオインフォマティクス、メタゲノム解析などを駆使した研究の結果、CRISPR-Casを越える新たなバクテリアの免疫システムが沢山発見されました。発見された新しい防御システムの一つは、Cyclic GMP-AMP signaling (cGAS )というシステムで、真核生物ももっているシステムです。ファージが感染したバクテリアは、cGASシステムでphospholipaseを活性化して自分の膜を破壊して自殺します。この手法で、感染したバクテリアがファージの複製前に死んでしまうのでバクテリアのコロニーは死ぬことを免れるわけです。講演ではそのほかの様々な防御システムの発見、そしてヒトの抗ウイルス遺伝子のバクテリアシステムからの起源や、バクテリアの免疫系からヒトの自然免疫への進化に関する仮説なども紹介されています。盛りだくさんの講演ですがわかりやすいのでおすすめします。
YouTubeにも動画がアップロードされています。
https://youtu.be/_COeBSfG53g

雑誌Cellにでた記事、
Tal N, Sorek R.
SnapShot: Bacterial immunity
Cell, 185(3):578 (2022).がまとめになっています。ホームページからダウンロードできるので読んでみてください。
https://www.weizmann.ac.il/molgen/Sorek/publications.html

竹市雅俊先生の新刊「あつまる細胞」が出版されました。

今日はカドヘリンを発見された竹市雅俊先生の新刊を紹介します。

「あつまる細胞 体づくりの謎」(岩波科学ライブラリー316)という本です。
https://www.iwanami.co.jp/book/b618302.html

この本は竹市先生が、カドヘリン発見のはげしい国際競争の過程やカドヘリン研究の現況、そして今後の展望をわかりやすくまとめられた本です。

竹市先生が2020年のカナダのガードナー国際賞(ガードCanada Gairdner International Award)を授賞された時は、オンラインの授賞式が行われ私も参加しました。竹市先生は高校の生物の教科書にものっているカルシュウム依存性細胞接着分子カドヘリンの発見で有名です。カドヘリンと相互作用する分子として同定されたβカテニンは、細胞接着以外に、Wnt(ウイントと読みます)シグナル伝達系の構成分子として転写因子としてDNAに結合することも判明し、私達の九大の発生生物学研究室(当時は山名清隆教授)のメインテーマであったアフリカツメガエルの背腹軸の形成の因子(具体的にはβカテニンの作用でアフリカツメガエルの背側構造が誘導されます)であることも衝撃的な発見でした(GumbinerやMoon、Kemler他)。先生は私が大学院生時代に属していた岡田節人教授の研究室で助教授をされていて、丁度私の在籍時はカドヘリンの研究がまさに花開く直前でした。それでカドヘリンの発見への試行錯誤の様子を、研究室内の研究進捗報告セミナーで逐一みせてもらうことができたのは幸いでした。

私が担当していた大学院の分子発生生物学特論の授業では、必ず竹市先生のカドヘリン発見のseminal paper (ある分野での画期的な、新しいパラダイムを導入するような論文)を学生さんに読んでもらって、カドヘリンの発見にいたる試行錯誤の様子を解説していました。今回出版されたこの本では、発見者みずからによる発見談に加えて、カドヘリン研究の現況、将来の展望、竹市先生の科学観なども学べるので、科学を学ぶすべての分野の学生、研究者におすすめできる本だと思います。是非読んでみてください。簡単なカドヘリンの発見談はこちらにすでに公開されています。http://www.cdb.riken.jp/ctp/cadherin.html

またこちらの生命誌研究館の記事「細胞から個体へ - 脇道から到達した発生生物学の本流」は、この本を買うかどうか迷っている方におすすめします。
https://brh.co.jp/s_library/interview/51/

 

子供から大人まで楽しめる生体高分子の学習サイト(日本語)を紹介します。

PDBj (Protein Data Bank Japan)が公開しているPDBj入門というサイトを紹介します。こちらのページにアクセスすると子供向け、一般向けそれぞれについて、タンパク質など生体高分子を学習できるコンテンツがそろっています。https://numon.pdbj.org/

子供向けコンテンツではアンドロイドスマホを使ってVRで分子を立体的に観察するコンテンツ(残念ながらiPhoneには対応していません)
https://numon.pdbj.org/vr/
があります。また分子をPymolで表示するように画面に立体構造表示して調べることができるページもあります。
https://pdbj.org/emnavi/pop_molmil.php?prime=1
この立体表示ビューワーは万見(よろずみ)というPDBjの公式の研究用にも使っているビューワーを利用しています。ひものような分子の表示のほか、きりかえれば原子を立体表示したり、原子をボール、原子間結合を棒で表示するball and stickモデルで表示することもできます。もちろんマウスで画像をドラッグすると回転できます。また立体表示のチェックを入れると、左目が赤、右目が青の立体メガネでみると立体視できる表示に変わります。眼鏡をかけて画像を見ながらマウスで回転させながら眺めると、しばらくすると目がなれて本当に飛びてている様な立体感が得られますので是非試してみてください。
よろずみについて詳しくは以下にあります。

https://pdbj.org/emnavi/doc.php?id=about_ym
このビューワーは研究者も使うものですから、クライオ電顕による立体構造とかまで、探し方させ教えれば小学生の子供でも立体構造を表示させてマウスで動かして調べてみることができます。自由研究にも最適ですね。

子供向けサイトでは、利用しやすいように面白そうな立体構造が 25ほどあげてあります。ミオグロビンとかDNAとかいろいろあるので遊んでみてください(下の図はその部分のスクリーンショットです)。図の下にあるIDかキーワードという部分にIDや英語のキーワードを入れて送信ボタンを押すと、ヒットした分子のサムネイルが表示されるのでそこから選んで登録してあるありとあらゆる分子の立体構造表示をすることもできます。

小学生や中学生などが生体高分子にはじめてふれるのに最適のサイトだと思います。また分子おりがみとかもありますよ。pdfの型紙をダウンロードして、印刷しておるとDNAなどの模型がつくれます。またゲームもあります。アミノ酸で神経衰弱とかいろいろあるので一人や二人で遊んでみることができます。
一般向きの項目については後日紹介します。
今月の分子というコーナーもあって、月替わりで日本語で分子の立体構造をまじえた機能の解説が読めます。たとえばこちらにはカドヘリンの解説と分子構造の絵や触って動かせる立体構造がのっていますのでご覧ください。

https://numon.pdbj.org/mom/99?l=ja

研究のためのPython 開発環境についての無料本、およびRによる系統樹解析の無料本を紹介します。

今日は福岡はめちゃくちゃ暖かかったです。室温20℃を越えました。4月の気温だったそうです。
さて今日の記事では二冊、無料で読める本を紹介します。

1)「研究のためのPython開発環境」という無料で読める本があることをtwitterで知りました。
https://zenn.dev/zenizeni/books/a64578f98450c2/viewer/e5747f
筑波大で自然言語処理を研究している大学院生の方が製作しているまだ執筆中の本です。生命科学系の私とは違う分野の研究者の方ですので、生物系とはまた違った、新鮮な観点が学べて興味がひかれました。一度ご覧になると参考になると思います。

2)もう一つ、中国の南方大学のバイオインフォマティクスの教授のGuangchuang Yu先生によるRパッケージを使った系統樹解析の手引き書が出版されているのを知りました。
Data Integration, Manipulation and Visualization of Phylogenetic Treesという本です。
https://www.routledge.com/Data-Integration-Manipulation-and-Visualization-of-Phylogenetic-Trees/Yu/p/book/9781032233574

先生はゲノム解析や系統樹などバイオインフォマティクスの研究者で、数多くのRパッケージも開発しておられます。紙の本は有料ですが、オンライン版は無料で全部読めます。
https://yulab-smu.top/treedata-book/index.html
R パッケージの tidytree, treeio, ggtree and ggtreeExtraなどの使い方がわかりますので興味のある方はご覧ください。

データサイエンスと計算物理の教科書でよくみかける誤りを列挙した論文の紹介です。

プレプリントサーバーをみていて気づいた論文です。参考になるかもしれないので記事にしておきます。
データアナリシスの教科書でよくみかける誤りというのが列挙してあります。
“Six textbook mistakes in data analysis”
https://arxiv.org/abs/2209.09073
サイトから一部引用しておきます。
Authors: Alexandros Gezerlis, Martin Williams
Abstract: This article discusses a number of incorrect statements appearing in textbooks on data analysis, machine learning, or computational methods; the common theme in all these cases is the relevance and application of statistics to the study of scientific or engineering data; these mistakes are also quite prevalent in the research literature. Crucially, we do not address errors made by an individual au… ▽ More
このプレプリントはJournal ref: Eur. Phys. J. Plus 138, 19 (2023) に査読が終わって掲載されているようです。

またこちらには同じ著者による計算物理でよくみかける誤りが同じく6つ列挙されています。
著者は計算物理の教科書 Numerical methods in physics with Python (ケンブリッジ大学出版会)を書いている人です。
https://numphyspy.org/
2020年の本ですが、今年2023年に第二版がCambridge University Pressからでるそうです。

“Six textbook mistakes in computational physics”
https://arxiv.org/abs/2006.08592
Authors: Alexandros Gezerlis, Martin Williams
Abstract: This article discusses several erroneous claims which appear in textbooks on numerical methods and computational physics. These are not typos or mistakes an individual author has made, but widespread misconceptions. In an attempt to stop these issues from further propagating, we discuss them here, along with some background comments. In each case, we also provide a correction, which is aimed at su… ▽ More
このプレプリントはAm. J. Phys. 89, 51 (2021) に査読済み論文として掲載されています。

遺伝統計学のオンライン講義や講義資料の紹介です。

今日の福岡はひさしぶりの快晴となりました。空がとても青くてきれいでした。気温もあがって20度近くになりました。
さて、先月の記事中で「遺伝統計学の基礎」という本を紹介して、著者の山田亮先生のサイトにいろいろ役立つ資料があると書きました。

21世紀の量子コンピュータ時代に量子力学の骨組みを理解するための本の紹介です。

今日、先生のサイトを久しぶりにみたところ、新しい教材や記事がいろいろあることがわかったので、ご覧になることをおすすめします。
http://statgenet-kyotouniv.wikidot.com/handouts-slides
こちらは先生のGithubサイトです。いろんな資料があるのでおすすめです。

https://github.com/ryamada22/JD_lectures

山田先生は昨年オンライン講義をされていたようです。これはおすすめです。

https://www.highedu.kyoto-u.ac.jp/connect/news/post_6.html

オンライン講義はすでに終了していますが、アーカイブされた講義はみることができます。以下のリンクのView course materialsをクリックしてedxに登録するとfreeで学べます。
https://www.edx.org/course/introduction-to-statistical-methods-for-gene-mappi

ElicitというAIサービスは最強の研究ツールです!

ElicitというAIを利用したResearch Assistantサービスを使ってみました。とても役立つ研究ツールだと思います。
こちらから使えます。https://elicit.org/

英語で研究に関する質問文を入れると、それに対する答えが返ってきます。キーワードではヒットしない文献も見つけて教えてくれるので文献検索も思いもよらない論文が見つかったりして、助かります。自分の論文をアップロードして関連論文を探すこともできます。質問欄にいろんな質問文をいれてみると結構ちゃんと答えてくれるので皆さんも是非、いろいろ使ってみてください。ChatGPTに質問してもいいかげんな答え(ウソの文献とか)が返ってくることが多いそうですが、Elicitはちゃんとした論文をもとに答えてくるので研究には最適のAIです。twitterはこちら。
https://twitter.com/elicitorg
YouTubeチャンネルの再生リストはこちらです。
https://www.youtube.com/@Oughtinc/playlists