RNA研究の発展の歴史を生き生きとたどり現代の最新の知見まで紹介する本の紹介です。

RNA, the Epicenter of Genetic Information by John Mattick  and Paulo Amaral
という本が今年出版されました。オープンアクセスの本ですので、以下からダウンロードできます。https://directory.doabooks.org/handle/20.500.12854/90454

RNAはDNAに蓄えられた情報を展開する役割をもつ重要な分子です。RNAといえば昔はリボソームRNAとメッセンジャーRNAとtRNAしか知られていなかったのですが、近年の様々な種類の制御RNAの発見はまさにルネッサンスのような革命でした。RNA研究は21世紀の生物学だといわれています(注参照)。この本は、RNA研究で著名な研究者である二人の著者が、RNA研究の歴史をたどりながら、RNAの生命における役割を読みやすく紹介している本です。RNA研究の歴史を先人の誤りや偏見、試行錯誤などをたどりながら、RNAの機能と科学研究の進展の実際の姿を理解できるよい本ですので、是非pdf版をダウンロードして読んでみてください。ワトソンの有名な本「二重らせん」をしのぐ本かもしれません。Kindle版もAmazonで0円で売っていますので、Kindleでも無料で読めます。

今日は福岡は初雪でした。午後、宝満山のほうをみると、白い雪が舞っているのが見えました。自宅のほうでも雪がちょっと舞っていました。いよいよ冬到来です。

註:糖鎖生物学も21世紀の生物学の中心だと個人的には思っています!

日本語で物理学をしっかり解説しておられる田崎晴明 先生のサイトは必見です。

https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/indexJ.html
こちらは、学習院大学理学部物理学科 教授学の田崎晴明(たざき はるあき)先生( Hal Tasaki) のホームページです。このページには、こちらには私がたびたびこのブログで紹介して推薦している教科書「数学:物理を学び楽しむために 」へのリンクもあります。先生によると、「これは、主として物理学(とそれに関連する分野)を学ぶ方を対象にした、大学レベルの数学の入門的な教科書である。 高校数学の知識を前提にして、大学生が学ぶべき数学をじっくりと解説する。 最終的には、大学で物理を学ぶために必須の基本的な数学すべてを一冊で完全にカバーする教科書をつくることを夢見ているが、その目標が果たして達成されるのかはわからない。 今は、書き上げた範囲をこうやって公開している。」という無償提供されている優れた教科書です。
https://www.gakushuin.ac.jp/~881791/mathbook/

その他、講義資料や、動画へのリンクもあります。動画には、先生が公開されている量子力学や熱力学などに関する一般向け、学生向けの講義の他、先生の英語の講義も観ることができます。また日本語や英語で書かれた教科書などのへのリンクやサポートページへのリンクもありますのでご覧ください。物理学が好きな人には一般の方をふくめて、必見のサイトです。次の動画は、2022年6月の理系一般向け講義で『相転移と臨界現象の統計物理学:小さくてあまり面白くないものがすごくたくさん集まると勝手にびっくりするような面白いことをやり始めるという話』というタイトルです。https://youtu.be/GxH7cD6I1zo

スライドも先生のサイトからダウンロードできます。

雪の話 2022 その2

雪といえば雪の結晶の美しさは有名です。雪ができるためには摂氏マイナス40度以上では氷晶核の存在が必要とされています(その温度以下では自発的に雪になるそうです)。地上に積もったばかりの新雪で、地面や樹木に汚染されていない部分を慎重に調べたところ、世界各地の新雪のほとんどの核が生物由来だとわかったという論文が2007年に雑誌Scienceに掲載されています。核をリゾチームで消化するとか、100度で熱処理すると核としての活性を失うそうで、まちがいなくバクテリアが雪の結晶ができるための最初の段階で働いていることがわかったそうです。最近の論文では実際バクテリアが回収されたりもしています。バクテリアは糖鎖をふんだんにふくんだ外膜などをもっていますから、おそらくバクテリアの周期的に配列している糖鎖が、水分子を配向させて雪をつくっているのだろうと私は考えています。人工雪をつくるときには、殺菌したPseudomonas syringae (グラム陰性菌) を加えているそうです。このグラム陰性菌は植物に感染すると霜害をひきおこすバクテリアです。一般にグラム陰性菌は外膜という構造をもっていますが、このバクテリアの外膜に存在するタンパク質であるinaZが氷晶形成をするように水分子を配置するのだそうです。それでマイナス2度くらいでもバクテリアが氷晶核形成に働いて氷ができるそうです。 inaZはアイナ ジーと読みます。ice-nucleation active bacteriaが持っているタンパク質なのでinaと命名されているのです。inaXとかいうタンパク質もあります。詳しく書いてある論文を一つ紹介しておきます。タイトルは
Ice-nucleating proteins are activated by low temperatures to control the structureof interfacial waterというもので、以下のリンクからpdfがダウンロードできます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7895962/pdf/41467_2021_Article_21349.pdf

この氷核細菌は空にも飛んでいて、雪や雲の形成に働いていると考えられています。氷晶核形成の能力が高いので、人工降雪機では氷晶核形成のためにinaZをもつバクテリア菌体を添加した水を使っているそうです。inaZってどんな形をしているかは以前の記事で紹介しました。こんな形のタンパク質です。


これは面白い形ですね。βシートがやたらに長いです。これを見ると、たしかに氷晶核をつくりそうな気がしませんか?二つほどYouTubeの動画を貼り付けておきますのでご覧ください。

ソチオリンピックでこのバクテリアが人工雪つくりに使われたという動画も貼り付けておきます。

雪の話 2022 その1

日本の各地で雪が降り始めました。今年の1月17日の記事で、雪について、中谷宇吉郎さんの本を紹介しました。以下に再録しておきます。
2022/1/17
今年は雪が多いので、雪についての記事をブログに書こうとしています。雪といえば中谷宇吉郎の有名な本、「雪」が思い浮かびます。青空文庫で読むことができます。世界ではじめて人工雪を作った先生が、はじめて顕微鏡で雪の結晶の写真をとったときの苦労話など、楽しく読めて感銘をうけること請け合いの名著です。https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/52468_49669.html
また雪華図説などについての随筆などもおすすめです。
https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57860_60232.html
https://www.aozora.gr.jp/cards/001569/files/57861_60233.html

今日、個人送信資料を利用しようと国立国会図書館デジタルコレクションのトップページをみると、ちょうど雪の話が掲載されていました。https://dl.ndl.go.jp/
そこにある常設展示.第134回「雪-冬に咲く華-」よりというリンクには、世界の雪の研究のはじまりについての文献がいろいろあげられていました。天文学者のケプラーが雪が六角形だと知っていたとか、「中国の前漢時代の学者韓嬰は 2000 年以上も昔に雪の結晶が六角形であることを「韓詩外傳」の中に記しています。」などという記述もあって興味をかきたてられます。
https://dl.ndl.go.jp/view/download/digidepo_999411_po_134.pdf?contentNo=1

また、中谷宇吉郎さんの画像がきれいで読みやすい本が紹介されていました。創元文庫の
「冬の華抄 上」 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/1372146
です。この本は、検索で中谷宇吉郎というキーワードではでてきませんでした。なぜかはよくわかりません。この本の下巻も探しにくいので、私がみつけたリンクを下に載せておきます。個人送信資料がみられる人はご覧ください。
「冬の華抄 下」 https://dl.ndl.go.jp/info:ndljp/pid/2421593

明日は、雪と生物の話をする予定です。

量子テクノロジーを理解するための新刊書(無料の英語版)を紹介します。

量子テクノロジーを鳥瞰するという本が最近でました。 Olivier EzrattyさんによるUnderstanding Quantum Technologiesというタイトルの本で、著者のサイトからpdf版の本が無料でダウンロードできます。
https://www.oezratty.net/wordpress/2022/understanding-quantum-technologies-2022/
量子物理学の応用を量子力学の基礎からはじめて、量子コンピュータや量子アルゴリズム、量子暗号、量子生物学など、ほんとうに広範囲にわたってまとめている本です。読者が非専門家の場合はどこを読めばよいか、学部生が読むべき部分はどこかなどの読み方の手引きもはじめのほうにあります。もともとはフランス語ででていた本の英語版(フランス語版から数えて第5版、英語版の第二版)だそうです。なんと図版は900以上、ページ数は1128ページという本で2021年にでた英語版が836ページだったそうで、大幅な改定版ですね。本の後のほうには量子物理学の疑似科学での利用例なども取り上げられています。病気をbiphotonというもので診断治療するとか、水に記憶が残るとかいうNatureにでた論文の詳しい解説もあって、その最近までの発展なども詳しく書かれています。一昨日、日本での講演動画を紹介したハメロフ、ペンローズの意識の量子論なども酷評されています。面白いです。無料でダウンロードできる英語の本ですので、是非著者のサイトからダウンロードして面白そうなところを読んでみてください。 著者はもともとはマイクロソフトの技術者でVisual Basicを作ったりしていた人だそうで、現在は量子テクノロジーの会社を経営したり、フランス政府のコンサルタント、企業のコンサルタントなどをしている方らしいです。

歴史年表 「情報の歴史21」(pdf版)を買いました。

購入を予約していた電子書籍版「情報の歴史21」(pdf版)を買いました。

これはよい本です。PCでダウンロードしたpdfをiPadに入れてみています。pdfに印刷制限などはかかっていません。このpdf版は、検索できるのが紙の本にない最大の強みでしょう。最強といってもよいと思います。自分の生まれた年には日本と世界でどんなことがあったのかと調べてみました。政治や文化両方の二本と世界についての記載があるので、その時代が良くわかります。赤穂浪士の仇討事件のおこったとき、世界ではなにがおこっていたのか(この頃ニュートンの光学が出版されており、スイフトがいてライプニッツとニュートンが微積分の先取権をめぐって大論争をしていたなど)もわかります。試しにいろんな検索語をいれて、ヒットしたページをみると、さまざまなできごとの相互の網の目のような関係に思い至ることができます。2021年までのデータがはいっているので、CRISPRとかも のっています。日本の人名では、岡田善雄さんとかものっています。(私は大学院生のとき、岡田善雄先生のラボで、当時開発されたばかりの蛍光セルソーターで細胞をわけてもらいに、阪大微研に何度も通っていました。)。HVJ (Sendai virus)による細胞融合の発見者です。詳しくは以下の生命誌研究館のサイトをご覧ください。
https://brh.co.jp/s_library/interview/17/
機械学習というキーワードで検索すると、PyTorchの公開された年まででてきます。ただジョン・ガードンさんはみつけられませんでした。情報の歴史という本のタイトルからすると、コンピュータ関係の歴史年表かと思うかもしれません。この本で情報というのは、生物としての人間が人として生み出してきた情報と、人が社会として生み出してきた情報の全体を言っているように思います。大変すぐれた歴史年表で、検索しては文明の発展と今後につぃていろいろ考えることができる本です。

以前の投稿はこちらです。

ユニークな歴史年表 「情報の歴史21」(松岡正剛 監修)の高画質・検索可能なpdf版が出版されます。

意識と微小管が関係あるの?東京大学でのハメロフ先生の講演動画(日本語翻訳付)が公開されています。

今年6月に東京大学で茂木健一郎さんが司会する、Stuart Hameroff先生の講演があったと聞きました。YouTubeで探してみると翻訳字幕付きでアップロードされていたので紹介しておきます。
https://www.youtube.com/watch?v=EzmcYUGuPAo
日本語字幕がでないときは、YouTubeで「東京大学駒場キャンパスでのスチュアート・ハメロフ講演」で検索してみてください。

ハメロフ先生は、2020年にノーベル物理学賞を授賞したRoger Penrose教授と共同研究している生物学者で、意識の生成に微小管が関与しているという斬新な仮説をたてた方だと思います。私はちゃんとその学説を聞いたことがないので、これを機会にこの動画を見てみようと思っています。

自分用のテキストデータベースの作り方について

今日はメモを体系的にとって、自分用のデータベースを作る方法jについてのブログを紹介します。

テキストエディタでいろいろな思い付きとか、学んだ知識などを蓄えて知識データベースとして利用する方法が紹介されている2つのブログを見つけました。最初のブログは、ソフトとしてはわりに新しいテキストエディタであるObsidianというソフトを使っているという方のブログです。

”Obsidianは最高のマークダウン『メモ』アプリである”
https://pouhon.net/obsidian-introduction/5666/

もう一つは、Obsidianを使っていたが止めて別のシステムに移りましたというブログです。

”すみません、もうObsidian使ってません…テキストエディタを乗り換えた5つの理由 | jMatsuzaki”
https://jmatsuzaki.com/archives/28115
こちらの方はドイツ在住の方で、ブログの過去記事をみていくと、Obsidianを使い始めてから、止めて他のシステムに移行した経過が良くわかります。

私は、以前紹介したTextclipperを愛用していますが、これは記事をテキストで保存するとき、自分なりのキーワードも付け加えて保存できるのがいいところです。このソフトについては以下の二本の過去記事をご覧ください。

テキストデータをどんどん蓄積していくソフトの紹介―その2 TextClipperの紹介です。

テキストデータをどんどん蓄積していくソフトの紹介その3―詳しいTextclipperのclipfileツールの使い方です

 

宇宙人ピピとシン・ウルトラマン

宇宙人ピピというNHKが放送していた子供むきドラマを子供の時いつもみていました。
https://www2.nhk.or.jp/archives/tv60bin/detail/index.cgi?das_id=D0009010119_00000

小学生の子ども達のところに、小さな円盤型宇宙船にのった宇宙人ピピ(いたずら坊主の宇宙人)がやってきて友達になり、いろいろいたずらをして騒動をまきおこすというドラマ。手に持てる大きさの小さな円盤に、ピピがでたり入ったりしているのですが、子ども達が一緒に中にいれてもらうと、ものすごく広い。ピピが子供たちに、「この円盤の中の空間はヒルベルト空間になっているんだ」といっていたと記憶しています。ピピのこのセリフで、「ヒルベルト空間」という言葉を覚えました。なんか不思議な空間なんだろうなぁと。あこがれを持ったのを覚えています。こういう経験が科学への興味をかきたてるのに大きな役割をはたしていると思います。最近、アマゾンプライムビデオで、シン・ウルトラマンという新しいウルトラマン映画がみられるようになりました。これをみると、人間の形のまま巨大化したら体が自重で壊れてしまうはずなのになぜ壊れないかという説明もはいっていて、科学的考証がけっこうとりいれられているのに感心しました。人間が巨人に変身したり、怪獣が巨大化するメカニズムも、超弦理論をもとにしたもっともらしい説明がとりいれられていました。これは京都大学教授の橋本幸士先生が映画の監修をされているからだそうで、先生は超弦理論や学習物理学(機械学習と物理学をむすびつける新分野)を研究しておられるそうです。そういえばスピントロニクスなどの物性物理学でも超ひも理論の手法は活用されているときいたことがあります。この映画の中に、プランクブレーンPlanck braneという専門用語や、スペシュウム133という超重元素、ウルトラマンが人類に彼らの種族の科学を紹介するために手渡した論文、あるいは数式がかかれたマグカップなどもでてきて、物理エンターテイメントとして楽しめそうです。なんと日経サイエンスではこの映画の特集号もでていたのですね。ウルトラマンのスペシュウム光線の考察とかものっているようです。詳しくはこちらをみてください。https://togetter.com/li/1938964
子ども達がこんな映画をみると、きっと超弦理論や宇宙論に興味をもって勉強するようになるでしょうね。いい時代になりました。橋本先生の動画としては、生命誌研究館の以下の動画(永田和宏先生との対話)が生命科学をやっているものにはおすすめです。下には01を載せています。

01-06までの6本の動画が公開されています。生命誌研究館のチャンネルの再生リストからは探しにくいので、最後に5本分のリンクをのせておきます。
https://youtu.be/e_s2gNZbg08
https://youtu.be/iXnEIPcZLI8
https://youtu.be/FFVnccvd9ik
https://youtu.be/4ZJatGlTJ_0
https://youtu.be/m6hLBQWUMtA
https://youtu.be/gxiJk36lAbY

エピジェネティクスについてわかりやすく、かつ本格的に解説してある入門書(教科書)を紹介します。

昨日は投稿にタイトルをつけるのを忘れてしまいました。すみません。「21世紀の量子コンピュータ時代に量子力学の骨組みを理解するための本の紹介です。」というタイトルです。
今日はエピジェネティクス (epigenetics)のオープンアクセスの入門書を紹介します。
epigeneticsというのはLife Science Dictionaryによると、
「epigenetics **
(DNA配列には変化がないがメチル化等により細胞分裂を経て伝達される遺伝子機能の変化とそれを扱う学問領域) エピジェネティクス, エピジェネティックス, 後成遺伝学 」
とあります。脳科学辞典のエピジェネティクスの項目もご覧ください。
https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E3%82%A8%E3%83%94%E3%82%B8%E3%82%A7%E3%83%8D%E3%83%86%E3%82%A3%E3%82%AF%E3%82%B9
このエピジェネティクスについてとてもわかりやすく、かつ本格的な入門書が出ているので紹介しておきます。Springer NatureからでているIntroduction to Epigeneticsという本で、手っ取り早くエピジェネティクスとは何かを身につけたい人におすすめの本です。クロマチンの構造、ヒストンの修飾、RNAの役割などが動物、植物両方についてスイス人著者によって、わかりやすく解説されています。修士、博士課程の学生向けの教科書ということですが、日本の学部学生なら楽に読みこなせる、よい入門書だと思います。ダウンロードはこちらから可能です。
https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-030-68670-3

著者についてはこちらをご覧ください。
https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-030-68670-3#affiliations