|
野村一也 「科学を学ぶ人のために」 九大野村研ホームページの拡張版です
|
福岡は大晦日に雪が激しく降り例年に無く雪の多いお正月でした。今日も雪がちらついています。雪は天からの手紙といいますが雪の結晶の種は多くは微生物であること(Christner他 2008. Ubiquity of biological ice nucleators in snowfall. Science, 319:1214のpdfがリンク先の著者のホームページにあります )がわかってきました。微生物の表面は糖鎖を中心とする表層でおおわれているので、糖鎖のつくる周期的構造が雪の結晶を作り出すのかもしれないと思うとわくわくします。
我が家では積もった雪が屋根の波板からゆっくり動いて、バネのようなつららができあがりました。うさぎ年ですので、うさぎと この雪でできたスプリングにあやかって跳躍の年としたいと思っております。本年も皆様にとって幸多き年でありますように。
今、卒論の4年生二人が線虫糖鎖遺伝子のノックアウト・ノックダウン結果のデータベースを作ってくれています。来年卒業までには公開予定です。Wormbaseというすぐれたデータベースも参照しながら作ってくれていますが、先日怖いことがありました。
私達の実験結果以外に、糖鎖遺伝子のRNAiの結果をWormbaseからとってきて検討しています。この前、四年生が「おかしい、前調べた遺伝子のRNAi異常の表現型がなくなっている!」と騒いでいました。ある遺伝子のRNAiの結果で、locomotion abnormalの他、様々な異常があると記入していたのに、今調べたら異常なしになっているというのです。私達が以前、異常なしというのを確かめていた遺伝子だったので、どうせみまちがえていたんだろうと思いました。しかし
「二人で別々に確認したので、絶対まちがっていません!」 ときっぱり。
うーん。良くある間違いは、「No abnormalities were observed in the following experiments:以下の実験では以下の異常な表現型はみられなかった」という部分を間違えて表現型があると思いこむことです。しかし今回はその部分にはlocomotion abnormalなんてないし、やっぱり彼らが正しいかも、と思いました。
彼らが調べた時期は6月頃。そのころのWormbaseはWormbase release 210, 今のはrelease 215です。ひょっとして、と思い、Wormbase のtop pageの右下のほうにあるReferential Data Freezesを使ってrelease 210のデータを調べてみる事にしました。Wormbaseでは作業をしたときに使ったWormbaseのversionが変わってしまってデータベース検索結果が再現できないということがないように、それぞれのreleaseが保存してあります。これがfreezeと呼ばれるものです。WS210というのを選んで調べてみました。
結果は四年生が正しかったのです。ごめん!よくも注意深くデータベースの変化に気づいてくれました。さすがです。
彼らの調べた遺伝子のRNAiの表現型の欄にはlocomotion abnormalなどいろいろずらっと表現型の異常の項目が並んでいます。リンクをたどるとリンクの先にも異常に関するデータが並んでいます。しかしより古いversionや最新のversionのデータベースには、異常な表現型なしとなっています。念のためRNAiのoriginalの結果をみましたがやはり異常な表現型なしが正しかったのです。
ということで、教訓は
四年生を信じましょう、というのと、
Wormbaseほどのデータベースでも時として誤りがまぎれこんでいることがあるということです。
Wormbase release 210でデータマイニングの作業をしていた方は注意して下さい。
昔、四年生の論文購読の演習授業で先生がわざと誤りの入った論文を教材として読ませて、論文や書物にも誤りがありうるのだというのを、体得させる授業をされていたのを思い出しました。データベースでも同じです。こういう経験はやはり大事ですね。
(写真は同じ生物科学部門の仁田坂先生から大学院説明会でいただいた種から育って我が家の庭で咲いた朝顔です。)
|
|
|
|
|
|
前回はオハイオ州立大学がうんだ大科学者Paulingさんのことにふれました。先日99才でなくなった阿武 喜美子(あんの きみこ)先生(お茶の水女子大学名誉教授)もオハイオ州立大学に留学されていたのを思い出しました。阿武先生は日本の女性科学者の地位を確固としたものにするのに大きく貢献された有名な糖化学者です。
糖鎖生物学を学ぶとき糖の化学をどんな本で勉強したらいいですかと先生にきいたとき、まず推薦されるのが
「糖化学の基礎」 (阿武 喜美子・ 瀬野 信子 著) というすぐれた教科書です。残念ながら絶版になっているようで古書でしか手に入りませんが、図書館には所蔵しているところが多いので是非、手にとって勉強してみて下さい。
阿武 喜美子先生の業績については「女性科学者のパイオニア達」というシリーズのテレビ番組で詳しく紹介されています。番組をみてから上の教科書を開いてみるとまた理解も格段にすすむのではないでしょうか。
理化学研究所のビデオ配信サービスやYouTubeでみられますので、是非ご覧下さい。