病原体の進化をモデル生物線虫C. elegansを使って解明する研究があります。今年のRoyal Society のFrancis Crick Prize を受賞したKayla C. King 教授(University of British Columbia / University of Oxford) によるPathogens and the power of evolutionと題する一般向け講演(2026年10月14日)です。https://www.youtube.com/live/SU82G51iLI8
教授の実験と主な結果を動画をみてまとめてみました。
まず線虫C. elegansに非病原性細菌を感染させて免疫力をアップします。その後、線虫を殺すことができる病原性バクテリアを与えて、線虫と病原性バクテリアがどのように相互作用して世代を越えて進化するかを調べます。病原性バクテリアの弱毒化や強毒化が起こるかどうかを調べます。線虫の免疫力をアップしておいてバクテリアに対する抵抗性を強めた場合、生き残る線虫もいますが免疫が不完全で完全には感染性の病原性バクテリアを消滅させることができないため、バクテリアは世代交代を急速にすすめて感染を繰り返し、なんと強毒化してしまうことがわかりました。線虫の免疫応答を担ういくつかの経路の一つ (MAP Kinase経路)の遺伝子pmk-1を遺伝子ノックアウトで壊した線虫で同じ実験を行うと、今度はバクテリアは弱毒化したそうです。
この動画を簡単にまとめると次のようになります:
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病原体は宿主に適応する過程で、必ずしも弱毒化するわけではありません。環境や感染条件によって強毒化することもあります。
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宿主に感染防御能力があっても感染を完全には防げない場合、これを incomplete immunity(不完全免疫)と呼びます。
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線虫に共生的な細菌 P. berkeleyensis をあらかじめ接触させると、自然免疫が活性化され、その後の病原性細菌 P. aeruginosa 感染による死亡が減少します。なお線虫は抗体を作りませんし、リンパ球も線虫にはありません。
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しかし、この自然免疫による免疫防御は感染そのものを完全には防げません。細菌は線虫の腸管に定着・増殖できます。
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この不完全免疫を持つ線虫の中で P. aeruginosa を繰り返し継代すると、病原体の毒力が増大して強毒化した病原体二進化します。この変化は全ゲノムシークエンスによると、ごく限られたゲノム変化(主に鞭毛遺伝子)で引き起こされているそうです。
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一方、免疫機能が低下した線虫(pmk-1のノックアウト線虫)内で継代すると、逆に毒力が低下し、病原体のゲノムには強毒化したバクテリアでみられるよりも大きな変化がゲノムのあちこちで生じるそうです。
なお、強毒化したバクテリアへの進化においては、毒素の遺伝子の強毒化ではなく鞭毛(flagella)に関連する遺伝子が選択を受けていることが示されました。これはバクテリアの運動性や線虫への接近、バイオフィルムの形成や線虫の腸への定着などに関わる鞭毛遺伝子が進化的選択をうけて、なんらかのメカニズムでバクテリアの強毒化に関わっていることを示しています。そのメカニズムの研究も次の面白いテーマになりそうです。
この講演で紹介されている研究によれば、不完全な免疫をもっている集団に病原体が感染した場合、病原体が強毒化することもありうることがわかります。コロナウイルスの場合を考えると、感染を防げないが重症化を抑えるというワクチンを集団に与えておいた場合、ウイルスが強毒化するのではないかと、すぐ思いつきますね。講演のあとの質問ではその可能性について質問が出て、議論されているので是非動画を観て考えてみてください。動画ではコロナウイルスのようなパンデミックが起こるメカニズムも、世代時間が短く大量に飼育できて、世代を凍結保存してじっくり研究できる線虫で研究できる可能性が紹介されています。さらに地球温暖化が病原体の進化にどのように影響するかなども、彼女の研究室で研究されているそうです。