風姿花伝について調べてみました。世阿弥の芸術論を現代語で読める本や能の入門書も紹介します。

2024年2月8日の記事で、世阿弥の『風姿花伝』を紹介しました。その記事の後に知った内容を本日の記事とします。過去記事は末尾にペーストしておきますのでそちらもご覧ください。

では、いくつかの『風姿花伝』に関するサイトを紹介することにします。
1)世阿弥の業績についてのサイト:独立行政法人日本芸術文化振興会の能に関する素晴らしいまとめサイトです。https://www2.ntj.jac.go.jp/dglib/contents/learn/edc9/zeami/gyouseki/index.html

2)室町後期写観世宗節署名五巻本『風姿花伝』(付「音曲口伝」
東京大学のサイトです。室町時代に写された風姿花伝の実物をみることができます。
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/33d415f0-4d44-3fe7-7920-488239a3128b

3)こちらも東京大学のサイトです。これは風姿花伝の第一巻に注釈を入れたもので、出版を意図していたと書かれています。能関係者の間のみで読まれていた風姿花伝ですが、この時期に出版しようとする動きもあったことがわかります。
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/04f1f019-3b78-1a30-0506-234b60020888

4)また、世阿弥自筆の秘伝というのも東京大学で公開されています。
世阿弥直筆『花伝第七別紙口伝』
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/258bfd52-0cb6-a2d2-23c4-dad9648f5ad3

5)こちらも世阿弥直筆です。
世阿弥直筆『花伝第六花修』
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/297c497d-39ff-3803-3549-68854c310de4

6)また、徳川家康が風姿花伝を所持していたという奥書がある資料も公開されています。
天正六年観世宗節筆『花伝第七別紙口伝』
https://da.dl.itc.u-tokyo.ac.jp/portal/assets/15ba083c-1e4c-2511-0cfe-1e53be3f7599
このサイトから、解題の部分を引用します。
『第七世大夫観世宗節筆の『風姿花伝』。奥書に「此本十良大夫方之を書写也、又此家之本も有、同之/以上十ヶ条少もちかハす、十良かたの書ハ家康に御所持也、二札の外あるへからす、秘伝々々、於遠州写之/天正六年十月吉日 宗節(花押)/後花伝抄、信忠様家康へ御懇望なされ、御所持候乍去、大事之書物ハ御残し候て不参候」とある。本文は、四郎へ相伝したと推測される『第七別紙口伝』(0/3)との相違点が多くある。表紙の裏に貼られている料紙が、元来の共表紙と認められる。その旧表紙中央上部に「秘伝」と書かれている。濁点と句読点を朱筆で記す。片面八行。斐紙。内曇模様表紙。朱色題簽。』
以下は、奥書部分のスクショです。家康の名前がみつけられますか?1578年、徳川幕府を開く遥か前に、戦国大名の家康が風姿花伝を持っていたというのは興味深いですね。

結局、風姿花伝は、室町時代から江戸時代を通じて、能楽家や一部の大名家などの限られた範囲で、写本として守り伝えられてきたといえるでしょう。その間、能楽の専門家によって読み継がれ、書写され、注釈も加えられていました。しかし、一般の人々が読む機会はほとんどありませんでした。明治末期に吉田東伍が写本を調査・校訂し、1909年に公刊したことで、初めてこの伝書は広く研究・読書の対象となったのです。その後、ただちに在日のドイツ人による研究がはじまり、ヨーロッパに能が紹介される契機になったようです。吉田の発見によって、秘伝として伝えられた書物がはじめて一般に公開され、同時に世阿弥という芸術思想家の存在とその芸術論が日本と世界に公表されたわけです。ユネスコが世界の芸術論10篇を選んで英訳して出版した時、日本を代表したのは世阿弥の『風姿花伝』だったそうです。また、フランス知識人の間では、フランス語版の『風姿花伝』が出版された時、その本を書棚に置くことがステータスになっていたとも言われています。

この風姿花伝と、世阿弥の芸術論を現代語で読めて、能への入門用解説がまとまっているのは、中央公論社からでていた日本の名著『世阿弥』です。国立国会図書館デジタルコレクションで読むことができるので是非読んでみてください。巻末には増田正造さんの『能への招待』という素晴らしい能入門記事がのっています。古典能の演目の一覧もあるので能に興味をもちはじめた人には必見の本だと思います。

『日本の名著』10,中央公論社,1983.9. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12406514 (参照 2026-10-13)
なお、増田正造さんの本『世阿弥の世界(集英社新書0787F)』の中で紹介しているフランスの詩人で外交官のポール・クローデルの能についてのエッセイもデジタルコレクションで読むことができるので是非読んでみてください。
ポール・クローデル [著] ほか『朝日の中の黒い鳥』,講談社,1988.11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/13208055 (参照 2026-10-13)
彼は日本を訪れるために外交官になった詩人で、フランス大使として日本に着任した経験をまとめたエッセイ集がこの本です。タイトルの『朝日』というのは、日本のことで『黒い鳥』というのはクローデルのことだそうです。能についてだけではなく、着任中に経験した関東大震災の生々しい被害状況の描写もあって講談社学術文庫のこの本は感銘深い本になっています。なお、ポール・クローデルはフランスの有名な女性彫刻家カミーユ・クローデルの弟です。彼女がロダンの子を身ごもって中絶させられたあとロダンと別れ、精神に変調をきたしたとき日本から帰国したポールが姉の入院を世話したそうです。デジタルコレクションで著者をポール・クローデルとして検索すると多くの日本語訳の彼の本がヒットするので興味がある方はご覧ください。また、検索キーワードに世阿弥といれてデジタルコレクションで検索するのもおすすめです。いろんな本がヒットします。

では、以下には以前の記事をペースとしておくことにします。


「風姿花伝」は、日本の芸術論を語るときに欠かすことができない古典です。日本文化について世界に発信する際には、ぜひ読んでおくべき一冊です。たしかNHKの100分de名著でも取り上げられていたように思います。https://www.nhk.or.jp/meicho/famousbook/29_fushikaden/index.html

能は多くの武将の心をとらえたことでも有名で、信長や家康も能を舞ったそうです。風姿花伝は秘伝書として一子相伝で長らく伝えられてきた書物です。その最後の頁によると信忠が家康に読ませてほしいとねだったとありますから、家康が所持して読んでいた秘伝書だということがわかります。この本は秘伝書なので、その存在は知られていたものの、全部の内容が明らかになったのはなんと20世紀に入ってからです。華族の堀家から1908年に古書店朝倉屋に売られていた能の古書若干を、安田善次郎が買い求めて所蔵していました。当時 世阿弥の伝書を探索しておられた吉田東伍博士が、大蔵流狂言師岡田紫男からこの書物の存在について聞いて、直ちに調査してそれが世阿弥の真筆の伝書であることを確認したとのことです。安田氏の古書コレクションは関東大震災で消失したので本当に間一髪のところで風姿花伝が書籍として日の目を見たのだと思います。安田善次郎は、安田財閥の祖であり、東大の安田講堂はこの人の寄付で建ったそうです。またジョンレノンの奥さんのオノ・ヨーコの曽祖父にあたるとのことでした。この辺のところは、集英社新書の世阿弥の世界(増田正造 著)で知りました。

https://shinsho.shueisha.co.jp/kikan/0787-f/

この本は能を知らない読者が、世界に通じている能という芸術とその起源、風姿花伝の内容などを学ぶのに絶好の本だと思います。一読をおすすめします。なお増田正造先生は2022年に92歳で亡くなったとのことです。とても良い本を残してくださいました。

風姿花伝を世にだした吉田東伍博士の本、世阿弥十六部集は国立国会図書館のデジタルコレクションでログインなしで誰でも読むことができます。ダウンロードも可能です。
吉田東伍 校注『世阿弥十六部集 : 能楽古典』,能楽会,明42.2. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/859394 (参照 2024-02-08)

これはしかし読みにくいのでもっと読みやすいように評釈を付けた本がでていてこちらなら理系の読者でも簡単によめます。
能勢朝次 著『世阿弥十六部集評釈』上,岩波書店,1949. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1705509 (参照 2024-02-08)

風姿花伝の現代語訳はやはり国立国会図書館の個人送信資料でこちらがよみやすいです。
金井清光 著『花伝書新解』,明治書院,1958. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/2485968 (参照 2024-02-08)
https://dl.ndl.go.jp/pid/2485968

世阿弥の直系である金春家伝承の風姿花伝を含む様々な能楽関係の資料も公開されて本になっているので、個人送信資料で読むことができます。この本では、風姿花伝は、風姿華傳と書かれています。
川瀬一馬 註『頭註世阿弥二十三部集』,能楽社,1945. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/1840598 (参照 2024-02-08)