国産の高性能クライオ電子顕微鏡で、タンパク質内の立体構造や電荷分布とほとんどの水素原子が可視化できたそうです!

今日は、タンパク質内の水素原子がクライオ電子顕微鏡によって可視化できたというニュースを紹介します。

クライオ電子顕微鏡を用いてタンパク質の立体構造が次々と解明されています。昨日、東北大学と理化学研究所の、高性能国産クライオ電子顕微鏡(CRYO ARM 300)を用いた共同研究で、アポフェリチン(apoferritin)というタンパク質内のほとんどの水素原子の位置や、化学結合の様子、アミノ酸の示す正負の電荷分布などをなんと1.2Å以下の精度で決定することに成功したという論文が発表されました。アポフェリチンというのは、鉄を運ぶタンパク質ですが、クライオ電顕の性能テストに標準品としてよく使われるので有名なタンパク質です。今回の論文の著者らによる立体構造がこちらに掲載されているので眺めてみてください。
https://pdbj.org/emnavi/quick.php?lang=ja&id=emdb-9890
今回は、高性能のクライオ電子顕微鏡を使って、ついにこのアポフェリチンの立体構造を原子が一個一個見えるほどの精度で決定することができたそうです。タンパク質内に存在するほとんどの水素原子を(上のtwitterの図に緑で示しているように)、球殻としてみることができるようになりました。これは水溶液中のほとんどの水素原子の分布が原子レベルでみられるということで、アミノ酸の水素原子や水素結合の他、タンパク質内の水分子も見えています。結晶化することなくタンパク質の構造がわかるクライオ電子顕微鏡をつかって、水溶液中に存在するタンパク質の立体構造を原子一個一個のレベルで見ることができるのは画期的です。サンプルは凍っているので、生体内の体温で動いている分子の構造とは(水分子の空間分布が水溶液と氷とではがちがうので)同じとはいえません。しかしこの凍結しているタンパク質の構造をもとに、常温でのタンパク質の水和構造や水素結合、プロトン移動反応などを解明するための第一歩がふみだされたのは間違いありません。私達の研究している糖鎖が付加された蛋白質の糖鎖の構造も読めるようになることを期待しています。
Saori Maki-Yonekura, Keisuke Kawakami, Kiyofumi Takaba, Tasuku Hamaguchi, Koji Yonekura, “Measurement of charges and chemical bonding in a cryo-EM structure”, Communications Chemistry, 10.1038/s42004-023-00900-x
論文はこちらからダウンロードできます。https://www.nature.com/articles/s42004-023-00900-x

内容はこちらの日本語のプレスリリースを読んでみてください。大変詳しくわかりやすく書かれています。理解できない部分はGoogle検索やChatGPTを使えば理解できると思います。
https://www.riken.jp/press/2023/20230531_3/index.html