寺田寅彦随筆集より―「ジャーナリズム雑感」を紹介します。

寺田寅彦は夏目漱石の弟子だった自然科学者です。随筆集はとても有名で今も読まれていますし、漱石の作品の中にある光圧の実験や首くくりの力学などは寅彦からの情報によるのだそうです。寅彦は優秀な物理学者で、X線回折の実験は英国のブラッグら(ラウエと書いていたのは間違いでした。すみません。5/17日追記)の実験に先んじており、彼の論文のほうがノーベル賞をとったブラッグの発見より時間的には先にでていたが、日本から遠く離れたヨーロッパには論文が届くのが遅れたのだそうです。ノーベル賞を授賞してもおかしくない科学者で、金平糖の形のできかたとか、今日の複雑系物理学のさきがけの実験もやっていた人物です。科学図書館には彼の未完の名著「物理学序説」がおいてあります。http://www.cam.hi-ho.ne.jp/munehiro/science/scilib.html#terada
私が中学生か高校生の時によんだ次の随筆は今も印象にのこっているので紹介しておきます。ジャーナリズム雑感という随筆です。青空文庫に公開されているので読んでみてください。https://www.aozora.gr.jp/cards/000042/files/2492_10275.html
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新聞報道は、定型に従った報道が多く、殺人事件があったらその定型に従って報道します。「事実の類型化」と寅彦は呼んでいます。これをやるので、一つ一つの事件の差異とか個性というものは顧みられず、結局報道する側も、受け取る側も思考停止して、事件の奥に潜む真実は顧みられないそうです。今でもテレビのニュースをみていると、昭和9年(1934年)の随筆に書いてあるのとそっくりの、事実の類型化という、型(かた)にそった報道があふれているのは残念なことです。今の報道でも、犯人が語る言葉としてよくでてくる、「誰でもよかった」とかいう言葉の報道はその典型かと思われます。犯罪の報道の定型にあわせて事件を報道されても、今後の犯罪抑制には、有害な効果のほうが多いのではと感じています。昔は、三原山で心中した二人が最後に語り会った会話を、そばで記者が速記したように報道する新聞もあったのだそうです。よく似たことは今でも報道にあるようで、メディアリテラシーをつけるにはうってつけの随筆だと思い、紹介することにしました。