相分離生物学の解説ビデオを紹介します

昨年秋に開催された日本生化学会の年会(オンライン開催でした)に参加しました。大会シンポジュウムの特別講演にはノーベル賞を授賞したPhillip A. Sharp先生の Biochemistry and cell biology of multivalent condensates in regulation of gene expressionと題する講演
https://vimeo.com/channels/jbsoc/648376880と、

水島昇先生の「細胞内分解:特に小器官の分解について」の二つの講演が行われました。https://vimeo.com/648376788

今回は最初のSharp先生の講演で出てきた細胞内の液滴(lipid droplet, biomolecular condensate, coacervate)について紹介します。この液滴という概念は線虫シーエレガンスのP-granule(P顆粒)の研究から生まれたものです。P顆粒は膜に覆われていない細胞内小器官で、発生の初期(1細胞期)に多数のP顆粒が細胞の後側へと移動し、分裂につれてP細胞(将来の生殖細胞を生み出す細胞)だけに集まっていきます。P-granuleはタンパク質やRNAを含む顆粒で、この顆粒の局在している細胞が将来生殖細胞へと分化することが知られていました。タンパク質やmRNA などを含む顆粒で含まれるmRNAが生殖細胞の形成に働くとされています。このP顆粒を蛍光タンパク質タグをつけて光るようにして観察したところ、P顆粒は相互に融合したり分裂したりする液滴であることがわかったのでした。P顆粒は液体―液体間の相分離で液体中に形成されるあらたな液相(液滴)であることがわかったのです。この顆粒がliquid droplet(液滴)であり、液体中に相分離して現れる膜をもたない顆粒であることが報告されたのが2009年でした。このように液体中に別の成分が濃縮された液滴ができるのですが、核小体(仁)も同様に相分離した液滴であることがこの発見に続いて明らかにされました。さらにカハール小体とかG顆粒とか従来知られていた多くの細胞内の顆粒が、相分離してできたliquid dropletであることがわかって、世界中を興奮の渦で包んだのでした。さらにSharp先生の講演で紹介されているように、スーパーエンハンサーも転写因子やmediator, RNA ポリメラーゼなどが集まったlipid dropletである証拠が沢山あります。タンパク質の立体構造を研究していた多くの人が、特定の構造をとらない天然変性領域とよんでいた謎のタンパク質内のアミノ酸配列の部分が、実はこの液滴形成に働いていることもわかったのです。詳しいliquid dropletの総説はここにあります。大学などで読める方は読んでみるといいと思います。日本語の解説書として一番のおすすめは「相分離生物学」白木 賢太郎  著(東京化学同人)です。入門書としては最高の出来の本だと思います。講演としては英語ですが相分離生物学の創設者による解説ビデオがiBiologyから公開されています。NIH videocastの講演も紹介しておきます。

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NIH videocastにも講演がありますのでご覧ください。