Newtonのリンゴ―疫病を逃れての大発見

ニュートンのリンゴの話です。ケンブリッジ大学がペストの流行で閉鎖されたためニュートンは実家にもどっていました。重力について深く考え続けていた彼がリンゴの木の木陰で思索を続けていた時、リンゴの実が目の前を垂直に落ちていくのを見ました。その時、重力の本質についてひらめいたのだといいます。

この話は、ニュートンと直接話をした人William Stukeley(  1687-1765)が書き留めている手書きの本Memoirs of Sir Isaac Newton’s Life (1752年発行)にのっているそうで原本はここに公開されています。この本の15ページ目にニュートンの言葉がのっています。下のWikimedia Commonsからダウンロードした写真のように手書きの文字で読みにくいのですが、こちらには活字体で書いた原文が掲載されていますので写真の下に引用しておきます。

コロナウイルスで世界中の人が自宅に待機しているのですが、ニュートンのように偉大な発見が今 この瞬間に生まれているのかもしれませんね!

after dinner, the weather being warm, we went into the garden, & drank thea under the shade of some appletrees, only he, & myself. amidst other discourse, he told me, he was just in the same situation, as when formerly, the notion of gravitation came into his mind. “why should that apple always descend perpendicularly to the ground,” thought he to him self: occasion’d by the fall of an apple, as he sat in a comtemplative mood: “why should it not go sideways, or upwards? but constantly to the earths centre? assuredly, the reason is, that the earth draws it. there must be a drawing power in matter. & the sum of the drawing power in the matter of the earth must be in the earths center, not in any side of the earth. therefore dos this apple fall perpendicularly, or toward the center. if matter thus draws matter; it must be in proportion of its quantity. therefore the apple draws the earth, as well as the earth draws the apple.” That there is a power like that we here call gravity wh extends its self thro’ the universe < text from f 15r resumes > & thus by degrees, he began to apply this property of gravitation to the motion of the earth, & of the heavenly bodys: to consider thir distances, their magnitudes, thir periodical revolutions: to find out, that this property, conjointly  (下線を引いた部分は上の本の見開き右がわ―15ぺーじの写真には写っておらず、見開きの左ページに書き込まれています。)

上の写真はニュートンのPrincipia (1687年ラテン語の本として刊行されました)発刊300年を記念してイギリスで発行された記念切手の一枚です。
トップの写真は今年の4月中旬に福岡で撮影した、満開の八重桜をバックに咲くリンゴの花です。

 

新型コロナウイルス SARS-CoV-2と戦う糖鎖科学(糖鎖生物学入門 番外編)

新型コロナウイルスSARS-CoV-2(サーズ・シーオーブイ・ツーと読みます)についてのメモです。
1) このウイルスはenvelopeタイプのウイルスとよばれていて、外側に殻envelopeをかぶっているため消毒用アルコールとか、洗剤とかにふれると殻の部分のタンパク質が変性するので不活性化できます。それで70%程度のエタノール消毒(エチルアルコール=エタノールの原液では瞬間に揮発するので変性効果に乏しい)とか手洗いとかが感染予防に大事なわけです。

2) このウイルスはRNAウイルスですがRNAウイルスとしては例外的に、遺伝子配列の変異が少ないです。これはコロナウイルスが遺伝子複製のときに正確に自分のRNAを複製するメカニズム(校正機能 proofreading activity)をもっているためです。(校正機能をもつ酵素proofreading exoribonuclease / Guanine-N7 methyltransferase (ExoN)遺伝子や校正に働くとされるnsp7やnsp8の遺伝子をウイルスのゲノムにもっています。註1参照)。この校正機能が存在するので、今回の新型コロナウイルスは、インフルエンザウイルスで恐れられている激しい突然変異による強毒化する確率は低いのです。しかし最近、校正機能が低下したウイルスがヨーロッパで見つかっているようで注目されています。詳しくは註1とそこにあげた論文を参照してください。これに関しては、抗ウイルス薬として注目されているアビガンの開発者 白木公康先生たちが医事新報に掲載されている緊急寄稿1-3もご覧ください。薬剤耐性のみならず、ウイルスの感染予防についても詳しくわかりやすく書かれていて、大変参考になる内容です。

ところで新型コロナウイルスに感染しない人が存在するのをご存知でしょうか。
  以前、ウイルスは糖鎖を介して感染するという話をしました。エイズウイルスにしろコロナウイルスにしろ、ウイルスのタンパク質やウイルスと結合する細胞の受容体(レセプター)には糖鎖がついており、ほとんどすべてのウイルスは糖鎖を介して感染するので、この糖鎖が変化すればウイルス感染に影響を及ぼすことが予想できます。実際、N型糖鎖の合成の最終段階の酵素の一つMOGS (Mannosyl oligosaccharide glucosidase)の遺伝子に異常がある患者さんの場合、患者さんはウイルスに感染しないことがわかっています。この酵素が異常な患者さんでは血中の抗体の量が著しく減少しているのですが(註2参照)、なんとウイルス感染はおこりません。患者さんから取り出した細胞もテストしてみると、ウイルス感染耐性を示します(論文はここhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4066413/ からたどれます)。これは、ウイルスのもっているタンパク質のN型糖鎖と、患者さんのもっているウイルス受容体のタンパク質のN型糖鎖が共にこの酵素MOGSの欠損で異常になるため、タンパク質が正しく折りたためず正常な立体構造がとれなくなってしまうためです。ウイルスタンパクが正しく折りたためず正常な立体構造がとれない上に、ウイルスの受容体のN型糖鎖も異常で正しく折りたためないため、ほとんどのウイルスは感染能力を失ってしまうのです。

このようにN型糖鎖が異常になることでウイルスに感染しないという人が存在することが明らかになっています。この例は、糖鎖についてよく理解して研究してその成果を応用すれば、ウイルス感染のない世界がやってくるかもしれないと期待させてくれます。(実際、MOGS酵素の活性を阻害するイミノ糖を与えることでSARS-CoVやエイズウイルスHIV、そしてジカ熱をおこすZika ウイルスなどの培養細胞への感染を抑えられるという論文もでています。)

さて、新型コロナウイルスの糖鎖です。新型コロナウイルスはその一番外側に突出しているスパイクタンパク質が、ヒトの細胞表面にあるACE2という分子に結合、細胞表面のタンパク分解酵素の作用でヒトの細胞膜と融合してウイルスの遺伝情報を細胞に感染させます。
上のわかりやすい図はAMED(日本医療研究開発機構)の研究成果のプレスリリース(2020.3.23)
Identification of an existing Japanese pancreatitis drug, Nafamostat, as a candidate drug to prevent transmission of SARS-CoV-2 からの引用です。膵炎の治療薬として使われているナファモスタットという薬が新型コロナウイルスの感染を抑える薬として使える可能性を報じています。

図にあるスパイクタンパク質は高度に糖鎖修飾されていて以前紹介したグリカンシールドを作っています。

上の図は新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の糖鎖を示しています。ウイルスタンパク質の糖鎖はグリカンシールドをつくって抗体の攻撃をかわします。エイズウイルスのグリカンシールドは、抗体による攻撃を免れるのにきわめて有効でワクチンがつくりにくいのですが、新型コロナウイルスの場合は、幸いなことにこのグリカンシールドは不完全であちこちにグリカンシールドの穴があります。

図では一つのスパイクタンパク質を二つの異なる方向からみています。グリカンシールド(N型糖鎖のみ示してあります)の部分はball and stick模型で表示されており、糖鎖の種類によって色分けしてあります。緑がマンノース9個からなるN型糖鎖の部分、濃い黄色がマンノース5つを含むN型糖鎖、オレンジがハイブリッドタイプのN型糖鎖、ピンクが複合型のN型糖鎖です。タンパク質部分での抗体のアクセスしやすさも表示してあって、黒が最もアクセスしにくい部分、赤が最もアクセスしやすい部分です。赤い部分は抗体がアクセスしやすいのでワクチンの標的になり得ることがわかります。こうした糖鎖科学の知識にもとづいて、スパイクタンパク質のどの部分がグリカンシールドで覆われていないかを知って、その部分を標的とした抗体を作れば、有望な新型コロナウイルス予防ワクチンができるはずです。(糖鎖の存在を無視してやみくもに抗体を作ろうとしてもグリカンシールドで覆われているところを標的としてはうまくいかないのです。)この図はBioRxivにあるGrant et alの論文の図1です。https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.07.030445v2.full#F3

グリカンシールドをものともせずにウイルスを攻撃できる抗体というのはあるのでしょうか?その候補の一例についてもBioRxivの論文にでていました。以前流行したSARSコロナウイルスから回復した人の血清中にはウイルスを攻撃する抗体が存在します。その抗体を増やして調べてみると(註3参照)新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のN型糖鎖の一つと、その糖鎖がついているタンパク質の一部分(ACE2と結合するreceptor binding domain RBDとは違う部分です)に強力に結合することがわかりました。S309と名付けられたその抗体ともう一つの、同様に得られた抗体を併せて使うと新型コロナウイルスの感染を強力に阻害することができるそうです(記事の末尾のBioRxivの論文参照)。

現在、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と、スパイクタンパク質に結合している糖鎖、そしてグリカンシールドの立体構造の研究が急ピッチですすんでおり、糖鎖を理解することで新型コロナウイルスの感染を抑え込む有力なアプローチとして注目されています。

最新の糖鎖生物学の研究成果によると、新型コロナウイルスSARS-CoV-2は感染するときに、ACE2だけでなく細胞表面にあるシアル酸とも結合して感染していることがわかっています。まずスパイクタンパク質がシアル酸に結合し、その後でACE2と結合するようです。(シアル酸はインフルエンザウイルスの感染でもでてきましたね)また、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列にはグリコサミノグリカンとの結合配列というのが見つかっており、グリコサミノグリカンの中でもヘパリンと結合するのだそうです。これは血液凝固阻害で治療によく使われる物質ですので特に重要ですね。またN型糖鎖だけでなくO型糖鎖の果たす役割の研究も進んでいます。こうしたすべての研究は、糖鎖がウイルス感染に決定的な役割を果たしていることを示しています。

註1:ウイルスの複製のときは、RNA合成酵素RdRp(RNA dependent RNA polymerase=ウイルスのRNAを鋳型としてウイルスのRNAを合成する酵素) とnsp 7 (nonstructural protein 7) とnsp8、およびExoNが複合体をつくって校正機能を示すようです。最近、RdRpの変異したウイルスがヨーロッパやアメリカでみつかっており、これは校正機能がうまく働かなくなっているらしいです。校正機能をもつExonN, nsp7, nsp8などとの相互作用がうまくいかないことがその原因と想像できます。そのウイルスでは点突然変異のメジアンが1から3に増えているのがわかったそうです。校正機能が低下して配列に突然変異を多く起こすとそのウイルスは滅びるのでしょうか?あるいは強毒化するでしょうか。もっとも重要な遺伝子の複製酵素が異常になったいわば病気のウイルスですので、どうなるか注目したいと思います。論文はここにあります。
https://translational-medicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12967-020-02344-6

註2:これは抗体の糖鎖修飾が損なわれているため、血中での抗体の寿命が短くなることでおこる現象です。抗体にも糖鎖が結合して重要な働きをしているということを覚えておいてください。

註3: SARSから回復した人の血中にあったメモリーB細胞をEBVウイルスに感染させて不死化して株細胞にした細胞が産生するモノクローナル抗体で、S309と呼ばれています。


より詳しく知りたい人のために―動画と文献の紹介です;
グリカンシールドの研究では、 分子動力学(MD: Molecular Dynamics)による解析(MD解析)が盛んです。スパイクタンパク質のタンパク質部分の立体構造をもとに、それにN型糖鎖付加(どんなN型糖鎖が実際付加されているかもかなり詳しくわかっています。ウイルスが育つ細胞によって糖鎖構造は変化するのですが、どのような糖鎖でもグリカンシールドとしては働くようです)をさせた分子を計算機中にモデル化して、その時間的な動きを計算で追跡していきます(ニュートン力学に基づく分子内の運動の計算を行います)。この方法で、生きている細胞中でグリカンシールドの糖鎖がどのように動いているか、スパイクタンパク質のどの部分がワクチン候補の抗体がねらうべき部分かなどを解析できるわけです。上にあげた図も分子動力学による解析で作成されました。実際SARS-CoV-2のスパイクタンパク質について解析したムービーとしてはNIHで今月初めに開催されたオンラインワークショップのムービーをご覧ください。NIHからダウンロードしたムービーの3時間9分47秒あたりからMD解析の結果の一部がみられます。同じムービーの3時間46分52秒あたりにもMannoseが9個つらなった糖鎖部分M9がスパイクタンパク質のポケット部分に這っていく動画がでていますのでご覧ください。
このオンラインワークショップ“Coronavirus, SARS-CoV-2, & Glycans”は以下のリンクにありますのでダウンロードしてご覧ください。
https://videocast.nih.gov/Summary.asp?file=29093&bhcp=1
最新の糖鎖生物学がどのように新型コロナウイルスと闘うのに役立っているかがよくわかります。下の写真はこのワークショップのオープニング画面のキャプチャです。
新型コロナウイルスと戦う糖鎖生物学の成果については、BioRxivの論文をみると大いに役立ちます。BioRxivの論文は査読をうけていませんが、しばらくすると有名雑誌に掲載されるものが多数ありますので是非、定期的にチェックしてみてください。たとえばOxford大学のWatanabeらによるBioRxivにでた論文
Site-specific analysis of the SARS-CoV-2 glycan shield
Yasunori Watanabe, Joel D. Allen, Daniel Wrapp, Jason S. McLellan, Max Crispin
最近Scienceに査読を終えて以下のリンクに掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/05/01/science.abb9983

以下の論文も注目されています。
Analysis of the SARS-CoV-2 spike protein glycan shield: implications for immune recognition:doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.07.030445

Structural and functional analysis of a potent sarbecovirus neutralizing antibody
doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.07.023903

他にもいろいろあるので検索してみてください。

コロナ感染拡大にともない公開されている無料で使えるサービスのいろいろ(4/18追記あり)

今日はコロナで外出できなくなっている人のために公開されている、面白そうな無料サービスをいくつか紹介します。

Ohmshaからマンガでわかる免疫学という本その他が無料公開されています。4月19日まで無料公開ということなので急いでご覧ください。(無料公開は終了しています)自然免疫とは何かとか、コロナウイルス感染の報道を理解する上での基礎知識です。(九大の人はMaruzen eBook Libraryにログインしたら読めますし、50ページづつのダウンロードも可能です。)同じサイトに公開されている本には、算数の本とかコスプレ入門とかもあって面白そうです。

英語で書かれた線形代数の教科書Linear Algebra Done Right (Sheldon Axler著、Springer)が演習問題解答やスライドなども含めて無料でダウンロードできます。本はSpringerのコロナ感染拡大にともなう無料公開措置で7月末までここからダウンロードできるそうです。https://link.springer.com/book/10.1007/978-3-319-11080-6 また、スライドやビデオは、ここにあります数学のお好きな方はこの本はおすすめです。物理や化学の人にはこんなのはどうでしょうか。Linear Algebra and Analytic Geometry for Physical Sciences (Giovanni LandiとAlessandro Zampiniの共著。)これもSpringerが公開してくれている本です。もっといろいろな本がコロナ流行にともないSpringerから公開されています。リストは下のほうに載せてある九大の公開しているリンク集からダウンロードできます ( 九大図書館のリンクは今日ー4/18ーみたところ消えていたので下のほうにあるリンクあるいは、こちらをご覧ください。日本語でのアナウンスはここです。リンク集のExcelファイル中に本の名前とダウンロード用urlなどがのっています)。

私は一昨日、下のリンク集にあるサービスで大図書館にログインして使えるサービスAcademic Video Online(授業や自学自習に役立つ質の良いビデオコンテンツを61,000件以上収録している、ストリーミングビデオのデータベースです。2020年6月30日まで特別トライアル)というのを試してみました。いろんな教育関係のビデオがあるのですが、BBCの番組が多いのに気づき、では昔BBCのHorizonという番組でやっていたというドラマLife Storyがないかなと探してみました。ありました!これはDNAの二重らせん構造を解明した科学者たちの競争と研究の様子をかなり忠実にたどった感動のドラマです。昔、数万円でビデオが売られていたのですが高くで買えませんでした。無料トライアルの今ならその番組が英語字幕付きでみられます。契約している大学も多いと思いますので、アクセスできる方は是非ごらんください。舞台はLondonとCambridgeですが、私がいたCambridge大学の研究室は昔Watson, Crickが研究していた旧キャベンディッシュ研究所の隣にありました。ワトソンが音連れたことがあるプレハブもあって、のぞいていたのを覚えています。この番組は Crickによるとかなり忠実に史実をなぞっているとのことで、Watsonの二重らせんという本を読むより、最初このドラマをみるほうが感動が深いのではないかと思いました。ブラッグとロザリンド・フランクリンが、完成した二重らせんモデルを身にやってきて二人で語り合う最後の場面は感動です。(写真はケンブリッジのMRC分子生物学研究所のノーベル賞関係展示にかざってあったWatsonとCrickが作ったDNAの模型です。ドラマにもこの模型が登場します)
この番組はロザリンド・フランクリンの協同研究者で彼女を良く知るAaron Klug(MRC LMBの所長だった方で、ノーベル賞受賞者)も作成に協力しており、実際こんな会話がかわされたのかもしれないと思われます。Klugさんはロザリンドフランクリンは本当に偉大な科学者だったと語っていたそうです。MRC LMBには彼女とKlugさんが研究していたタバコモザイクウイルスの模型が飾ってありました。(下の動画ですがAcademic Video Onlineの動画リンクなので、認証失敗とかの表示がでて絵がでないときは無視してください。ログインできる人はログインして鑑賞してください。同じ動画はDailymotionにもだれかがアップロードされていますが、字幕抜きなので聞き取りにくいかもしれません。Part 1とPart 2にわかれているようです)

Life Story

ブラッグ:模型を前にしてフランクリンにIt looks as if they have got it right.
フランクリン:Yes.
ブラッグ:I’ve given my life to crystallography.I never thought I’d live to see this.
フランクリン: It’s your work too.
ブラッグ:And yours.
フランクリン:And mine.
ブラッグ:I know how you must feel. I’m sorry.
フランクリン:I might have seen it, but I didn’t. I see it now.
ブラッグ:This race, this winning and loosing, it’s not the way I was taught to do science.
フランクリン:It doesn’t matter. モデルをあおぎみて、This is what matters.
Life is the shape it is for a purpose. When you see how things really are, all the hurt and the waste falls away. What’s left is the beauty.

様々な大学の図書館のホームページには、自宅から使える様々な便利なサイトが載っていると思いますが、コロナ感染拡大にともなってさらに新しいサービスが無料で使えるようになっているので是非大学の図書館のホームページを見てください。たとえば九州大学の図書館のニュースページをみると、先日紹介したCambridge University Pressの無料で教科書で読めるサービスへのリンクがでていますし、様々なサービスが無料で使えるようになっているのがわかると思います。九大図書館が新設した「新型コロナウイルス感染症対応 特設ページ」には上のリンク集以外にいろいろ参考になるリンク(ログインしなくても使えるサービスも含む)がありますので学外の方もふめてご参照ください。ログインなしで無料で使えるサービスリストも同じところにでていますので九大以外のかたも是非ニュースページをご覧ください。たとえばこんなのがのっていました(九大図書館のニュースから引用。詳しくは上のリンクを参照してください。)


期間限定の無料アクセスなど(認証不要)

※新型コロナウイルス感染症拡大への対応として、各社のご厚意により提供して頂いております。

Project MUSE
50以上の出版社の電子ジャーナルと電子ブックを無料で提供しています。
出版社及びアクセス可能範囲・期限の一覧
おおむね2020年6月30日まで無料アクセス。

Annual Reviews
全ての電子ジャーナルを無料で提供しています。
2020年4月30日まで無料アクセス。

Royal Society
全ての電子ジャーナルを無料で提供しています。
当面の間、無料アクセス。

雑誌記事索引データベース ざっさくプラス
2020年5月31日まで無償公開。

Springer
教科書などを無料で提供しています。
タイトルリスト
2020年7月31日まで無料アクセス。

ACM Digital Library
2020年6月30日まで無料アクセス。

自宅で手軽にみられる生命科学系のビデオの紹介です―コロナウイルスに負けずに日本生化学会での有名な先生がたの講演をみましょう!

コロナウイルスの感染で遠隔授業が始まったりしている学校も多いと思います。またテレワークしておられる方も多く、自宅に新しい椅子を買ったという人も多いそうです。福岡はもうすぐ緊急事態宣言がでそうですが天気がよくて空が青く、満開の桜が息をのむほどきれいです。写真は車で通りかかったとき撮影した山際の桜の写真です。丘の上と丘の周りをとりまいている桜がきれいでした。
さて今日は自宅で手軽にみられる生命科学系の科学講演会のビデオを紹介します。日本生化学会が以下のページで近年の日本生化学会大会でのシンポジュウムの講演13本を公開しています。生命科学、免疫学、細胞生物学、医学の日本語での講演ですのでちょっと背伸びをして最先端の生命科学の講演をききたい高校生や中学生、そして一般の方々にも最適のビデオです。コロナに負けないで勉強するのには絶好の番組ですので、是非ご覧ください。講演者はノーベル賞をもらわれた大村 智 (北里大学北里生命科学研究所)先生、山中 伸弥(京都大学iPS細胞研究所)先生、大隅 良典(東京工業大学 科学技術創成研究院)先生、本庶 佑(京都大学高等研究院)先生、そしてノーベル賞候補の先生がたです。
Vimeo日本生化学会チャンネルに動画がありますのでご覧ください。

以下に生化学会の会長からのメッセージの一部を転載しておきます。

「生化学会のホームページ(http://www.jbsoc.or.jp/)の右上のバナー(日本生化学会チャンネル)にConBio2017のプレナリーレクチャー10編の動画と2018年第91回生化学会大会(京都)の特別講演3編の動画を配信しています。内容は専門的ではありますが、このような(外出自粛要請が発出されている)機会に、日本を代表する最先端の科学研究の成果を高校生や市民に知っていただくことも、私共の活動の一つかもしれません。現在、生物科学学会連合を通して、これらの講演動画の存在を知っていただくように、スーパ―サイエンスハイスクール等に連絡をしていただいているところです。会員の皆様におかれましては、研究室や自宅でご覧になることに加えて、生化学会関係者以外の方に、この存在をお伝えいただければ幸いです。終息への道筋はまだ見えませんが、私達は、新型コロナウイルスの性状を正しく理解し、その感染拡大を防ぐための適切な行動をしながら、なすべき活動の質と量を低下させることなく継続できる教育者・研究者の集団です。会員の皆様方が協力して、この難関を乗り切られることを心から願っています。 日本生化学会 会長 菊池 章」

桜が満開です―ABC予想の解決のニュースがとびこんできました!

コロナウイルス対策のための自粛で、オンライン講義の用意や自宅での勉強、テレワークなどがあちこちで続いていますが皆さんお元気でしょうか。

今日は明るいニュースとして、京都大学数理解析研究所の望月新一教授のABC予想の解決の論文が、査読を終わってアクセプトされたという記事が目をひきました。望月先生のブログによると、だいぶ前に査読が終わって肯定的な査読結果を知らされたにもかかわらず、アクセプトもリジェクトもされずにずっとほったらかしの状態がつづいていたそうですが、ほったらかしにされていた雑誌をやめて別の雑誌にアクセプトされたようです。今回証明されたのは弱いABC予想と呼ばれるもので、これが証明されたことにより、実効版モーデル予想、シュピロ予想、フライ予想、そして双曲的代数曲線に関するヴォイタ予想が自動的に正しいと証明されるそうです。また今回は証明されていませんが強いABC予想というものが正しければ簡単にフェルマの最終定理の証明ができるそうです(下に書いている加藤先生の本150ページあたりより)(下線部は4月3日10時すぎに追記)。この弱いABC予想を証明するために構築されたIUT理論はとても独創的な画期的なもので、地動説や量子力学と同じほどのインパクトを与える理論のようです。この未来からきた論文と言われた論文を理解して理論に習熟している人は現在、世界で10人程度だそうです。この理論についての解説は「宇宙と宇宙をつなぐ数学IUT理論の衝撃」(加藤文元著・角川書店)にあります。私も去年の春、購入して読みました。興味のあるかたは是非ご覧ください。YouTubeに加藤先生の解説動画(日本語)もでていますよ。

それから望月先生のブログですが、全部に目をとおされることをおすすめします。紅白歌合戦や逃げ恥などテレビ番組のことが先生の理論や学問観に絡めて議論されています。またここ(ブログ記事へのリンク)には、英語で論文を書くことについて定冠詞、不定冠詞のことなどもふくめて面白い記事がのっています。先生はラテン語、ギリシャ語、サンスクリット語なども学ばれたようで、冠詞のない言語もあること、語順がSOVという言葉もあることなどいろいろ面白いことが学べます。そしてなにより、学問をするうえで英語ができることより大切なことについての議論、水村美苗さんやカズオ・イシグロの小説についての議論などにとても感銘を受けました。

下は今日撮影した公園に咲く桜の写真です(クリックして拡大可能です)。福岡も土日は外出自粛要請がでているので今日は桜を見に近くの公園にでかけました。田舎ですので人はまばらです。

桜が咲きました。春がきています!コロナウイルスに負けずに物理数学の本を勉強しましょう!

コロナウイルスで大騒ぎですが、皆さんのご健康をお祈りいたします。中国から私のラボにきていた卒業生の皆さんやそのご家族の皆さんのご無事を祈っています。私のほうは、論文の作成や論文レフリーを依頼されていたので査読作業も忙しくてブログの更新が遅れていました。昨日査読レポートのアップロードを終えたので久しぶりに外に散歩に出かけてみました。写真は道端に咲いていたきれいな水仙の花です。

今日は福岡は暖かく、なんと五月中旬並みの気温(23度ちょっと)もあったそうです。
桜はというと、気象台の開花予想はもう少し後のようですが、なんと近所の桜は咲いていました!蕾のかたいソメイヨシノが並んでいる中に一本だけ、きれいな花を数輪つけているものをみつけました。レンゲも田んぼに咲きはじめ、タンポポの花を奥さんがみつけました。写真は庭のサクランボの木の花です。一週間前にとった写真ですが、満開の花に蝶々が蜜を吸いに来ているのが写っています(クリックして拡大してご覧ください)。たくさんのかわいいメジロも蜜を吸いにてきていて、私が数メートル離れて立っていても無視して、一心にサクランボの花の中にくちばしを入れておりました。右の写真はあぜ道に咲いているアザミです。花いっぱいの春がやってきています。皆さんも花を植えたり、散歩にでかけたりすると気が晴れると思います。

卒業式がなくなった大学も多いのですが、自宅にこもることが多い今の時期にはいろいろな勉強ができると思います。ときどき紹介しているようにネットでいろんな勉強ができますので、しっかり時間をとって勉強するチャンスかもしれません。以前紹介した学習院大学の田崎晴明先生の物理数学の優れた教科書ですが、数日前には主成分分析なども加筆された改訂版を公開されました。絶対おすすめの本ですので勉強してみてはどうでしょうか。また英語ですがCambridge University Pressではコロナの感染拡大にともなっていろいろなサービスの無料公開を始めています。ここをご覧ください。教科書のhtml版の無料公開(5月末まで)を始めていたので紹介しようと思ったのですが、アクセス数がものすごくて今は公開を停めたようです。再開すると書いてありますのでちょくちょくみてもらうと良いと思います。(結局、一般公開はとりやめになって、大学などでCambridge University Pressのサービス―Cambridge Coreなど―を購読している場合のみ大学経由でアクセスできるようになったようです。4月3日追記)

windows7のサポート終了:windowsをやめてlinuxへうつるチャンスです(1)

福岡では2月17日に、ちらちらと初雪を観測しました。今まで一番遅い初雪の記録2月6日を111年ぶりに更新したそうです。

さて今日はこのところいろいろトライしているウインドウズ7のサポート停止に対する対策を書いておきます。そろそろlinuxを中心にパソコン生活を始めようというわけです。
上の写真はLinux  Mintを起動した時のデスクトップです。windowsとよく似ていますね。linuxといえばターミナルでのコマンド操作というのがよく話題になりますが、windowsとそっくりのデスクトップでマウスで操作するだけで使えますので、まずはこうしたwindowsなみのグラフィカルインターフェイスで使うのがおすすめです。

私はwindows7で動くパソコンをもっているのですが、windows7のサポートが今年の1月14日で終了した(windows defenderの更新はつづいているようです)ので、それに対する対策を講じなくてはなりませんでした。九大図書館などに自宅からwindows7を使っているパソコンでアクセスするとき文献をダウンロードしようとすると、画面一杯に警告画面が表示され、windows10への切り替えを促され、文献のダウンロードはできなくなっています。セキュリティを考慮した措置ですが、まだまだ問題なく使えるwindows7なのにうっとうしいサポート切れ対策を余儀なくされるのにはほとほと、うんざりさせられます。以前windowsXPのサポート切れにともなって、XPからwindows7にアップグレードするときも研究室の多数のXPパソコンをいちいちアップグレードするのは大変でした。今回は大学で使っているwindows7のenterpriseエディションからwindows10へのソフトやデータを残したままでのバージョンアップは結構簡単にできるのですが、それも結構時間と手間がかかるわけです。また使っているパソコンによってはスペックが不足してwindows7のように快適には使えないことがわかりました。windows7でインストールしたソフトもあるし、それがwindows10で動くのかも不明です。パソコン自体はwindows7で問題なく動いているので、無駄な追加投資をしたくないと思い、windows7はネットワークから切り離して利用することとし、ネット接続するときはlinuxを使うことにしました。参考になったのは日経からでているムックの「Windows 7パソコンをLinuxで復活させる本」です。日経Linuxの最近の記事をまとめたものですが、丁度windows7のサポート停止でウインドウズを止めようと思っている方には最適の本だと思います。

要は、windows7のパソコンはネット接続をせずに利用し続け、ネット接続には外付けハードディスク(あるいはSSD, USBでもだいじょうぶです)にインストールしたlinuxを使うという方針です。近頃はほとんどの作業はブラウザでやるので、linuxでブラウザを使う、メールをやりとりするなどができればネットでの作業はことたり、ネット接続していないwindows7を起動すれば、今まで使っていたwindows7で動いていたソフトもそのまま利用できます。(linuxにはwineというソフトがあって、幸運ならwindows7で使っていたソフトもlinuxのwineで動くかもしれません。)

ubuntu などの、日本語入力システム付のlinuxのインストールディスクを使って、USBや外付けのSSDや外付けHDDにlinuxをインストールします。こうしておけば、linuxをインストールした外付けのSSD(HDDでもUSBでもいいです)をwindows7で動くパソコンにとりつけてUSB接続したSSD(HDDあるいはUSBメモリ)から起動すればLinuxが使えますし、USB接続を外して(つまりUSBケーブルを外して)起動すればあいかわらず今まで使っていたwindows7が使えます。(他のwindowsとの共存のやり方としてはデュアルブートといって、起動したらlinuxかwindows7かどちらを使うかを選んでから起動すると言う便利な方法もありますが、これはどちらか一方が壊れたときとかにトラブルがおこることが多いそうですのでやめました。またlinuxの中でwindows7の仮想マシーンを起動して利用するというのもありますが、パソコンのスペックがいるし、windows7の仮想ディスクをつくるのにproduct IDがいるとかいろいろめんどうくさいのでやめました。)というわけで以下は外付けSDDにlinuxをインストールする手順です。

いろいろあるlinuxの配布版(ディストリビューション、ディストロ)のどれを使うか?distributionにはいろいろあってどれを使うか迷うのですが以下のようなdistributionは有名です。

Ubuntu Desktop 日本語 Remix
Linux Mint これには3種類あってCinnamonというのがおすすめです。32bit版と64bit版があります。
・puppy linux日本語版
・Pop!_OS(プライバシーを重んじているlinuxでファイルは自動で全部暗号化され、この配布版を作成している会社にデータを送ることもないそうです。日本語の利用設定も簡単)
・Zorin OS(これはwindowsからの乗換え用をうたっているものです。商用版あり)

これらはwindowsからの乗換えの記事でよくとりあげられています。私は最初 puppy linuxをUSBメモリに入れて使ってみました。linux mintは世界で一番多く利用されているlinuxだそうで、壁紙もきれいなのでこれもおすすめです。私はネットで情報が多い、Ubuntu Desktop 日本語 Remixを採用しました。これも他のdistributionと同じではじめから日本語入力システムMozcがセットでついていて便利ですし、windowsでつかっていたIMEの辞書も簡単に移行できるのでおすすめです。(下はLinux Mintの画面で、windowsのスタートボタンにあたるところをマウスでクリックした様子です)
長くなりましたので、今日はこの程度にして次回からは具体的なインストールの手順を書いていこうと思います。
他のやり方としてはVirtualboxというソフトをウインドウズのパソコンにインストールして、仮想マシーンとしてlinuxを動かすこともできます。これは私が大学の授業でlinuxの導入実習で使っていた方法です。以前のブログの記事にはこのやり方とlinuxの入門書があげてありますのでご覧ください。

特許庁が攻勢にでています―商標拳!

以前 弁理士の動画を紹介しましたが、今回は特許庁が最近公開した面白い動画を教えてもらったのでお知らせします。商標権についての動画ですが、面白いのでご覧ください。動画公開の趣旨はこちらに記載されています。

詳しくは特設サイトをどうぞ。

https://www.jpo.go.jp/introduction/soshiki/design_keiei/shohyoken/index.html
このところ福岡は暖かい日が続いています。なんと四月上旬から5月上旬なみの気温のところもありました。梅の花も月末には満開になるかもしれません。

 

今朝は 「ほんげんぎょう」 をみにいきました

一月七日は「ほんげんぎょう(どんと焼き)」の日です。

写真は今朝撮影した「ほんげんぎょう」 の様子です。まだ暗い中、点火直後の炎がまるで火の鳥のように見えています(写真をクリックすると拡大します)。私達のところは点火が午前6時半だったので暗い中をどんと焼きの場所にいくと、ちょうど火がついたところでした。風が強い朝だったので、火の粉が舞いあがり、燃え盛る竹組からはバン! パン!という物凄い爆竹さながらの音が聞こえて壮観でした。炎が下火になるころには夜があけてきて、
新しい年の幸を祈る行事が終わりました。

どんと焼きともいわれるこの行事は、しめ飾りや門松、お正月飾りなどを写真のような竹組の火にくべて、無病息災・家内安全をお焚き上げの炎に祈る行事です。
昔はめいめいのお宅の庭で、午前3時ごろに竹でつくった飾りに火をつけて、お習字の紙とかしめ飾りとかを火にいれてみんなで燃やしていたのだそうです。子供たちがわいわいいって参加して、煙が高くあがるとお習字が上手になるとされていたと、古老の方の本にありました。今夜は大宰府天満宮の鬼すべや、久留米の大善寺玉垂宮の鬼夜など火祭りが行われ、福岡は終日、火祭りの一日でした。
今年が皆様にとって素晴らしい一年でありますように!

岡潔に大きな影響をあたえた数学の本―ポアンカレの「科学の価値」など

今日はこの写真(註1)を紹介します。

これは日本の有名な数学者 岡潔があちこちで語り、いろんなところで書き遺しているフランスの数学者エルミートの中年の肖像写真です。エルミートというのは物理学ではエルミート演算子というのでおなじみです。以下は岡潔の曙(講談社現代新書 絶版)という本からの引用ですが、同じ話は現在容易に入手できる「一葉舟」などにものっていますのでご覧ください。私がはじめてこの話を聞いたのは高校生のとき、NHKのラジオFMでやっていた岡潔さんと秋月康夫さんお二人の対談の中でした。テープレコーダーに録音して何度も聞いていたのを思い出します。

フランスの数学者アンリ ポアンカレは、微分方程式論やトポロジー、三体問題、ポアンカレ予想、カオス発見のさきがけ、など様々な偉大な業績を残し、さらにポアンカレ変換が相対性理論ででてくることからわかるように、アインシュタインがいなくても特殊相対性理論は彼が発見したであろうといわれる偉大な科学者です。多くの随筆を書いていて、岡潔はそのなかの「科学の価値」(註2)という本を読みその中の以下の言葉が深く印象に残ったと書いています。
「エルミットの語るや、如何なる抽象的概念もなお生けるが如くであった」
エルミートは、ポアンカレの先生です。「科学の価値」という本のなかで、ポアンカレはこんなことを書いています。
「其反対にフェリックス・クライン(Felix Klein) を考えると、彼は函数論の最も抽象的な問題の一つを研究した。即ち一の与えられたリーマン面に、与えられた特異性を有する所の函数が常に存在するかという問題である。さて此有名なドイツの幾何学者は如何にしたであろうか。彼はリーマン面に置換えるに電導率が一定の法則に従って変化するごと如き金属面を以てし、其二つの極を連結するに電池の両極を以てした。かくして彼は電流が之に通じなければならぬ事、其電流の面に分配され方が問題に要求せられた特異性をまさに持つ所の函数を定義する事を述べたのである。もちろん勿論クラインは之を以て彼がただ概観の見取を為したに過ぎないことをよく知って居た。其にもかかわらず彼は之を発表するに躊躇せず、又厳密なる証明でないにせよ、之によって彼は一種感情上確実と思わしめるものを発見したと信じたごと如く思われる。しかるにもし此が論理家であったならば、かような考は嫌悪排斥したであろう、否むしろ排斥するどころか かような考を起すことが無かったであろう。」(田辺元訳 「科学の価値」より引用)この後、ポアンカレはベルトランとエルミートを比較して論じているのですが、この文章に刺激をうけて岡潔や秋月康夫はクライン全集を丸善にいって買って帰ってきてその論文を読んだそうです。以下は岡潔の上記の本からの引用です。
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「エルミットの語るや、如何なる抽象的概念もなお生けるが如くであった」

この言葉も深く私の印象に残った。

これは後の話であるが、私が大学二年(京大数学科)のとき、秋月(康夫、群馬大学学長)は(同じ 科の)一年だった。そのとき丸善へクライン全集が来た。私達は三卷とも買って帰って、ポア ンカレがいった論文だけ読んだ。三十ページほどのごく短いものである。

暫く経つと丸善へエルミット全集が来た。前のはドィツ語だったからまだしもよかったが、 今度はフランス語だから私達は全く読めない。然し各卷の初めにエルミットの肖像がある。それで私達はまた三巻とも買って帰った。その第二巻の巻頭のものは中年のエルミットの読書姿態である。それを見ていると、なんだかポアンカレの言葉がわかって来るような気がする。

秋月はそれを切り抜いて、額に入れて机の上に立てた。それを見て化学二年の、哲学の西田先生の息子の外彦君まで、一人で丸善へ行ってエルミット全集三巻を買って帰って、その肖像 を切り抜いて、机の上に立てた。

頭頂葉に理想を掲げるとは、こうすることである。
======================================最初に載せた写真は、秋月さんが買って帰って切り抜いて額にいれて机の上にたてた、そのエルミート全集第2巻の写真です。岡潔の著作のあちこちで紹介されているエピソードですが、写真をご覧になった方は少ないかと思い、ブログにのせておくことにしました。

下はエルミート全集第1巻の肖像です。「若いころの目はまさしく詩人の目をしている」(一葉舟)と岡潔が書いている写真です。写真はどちらも九州大学図書館からダウンロードしました(注1参照)

註1:この最初の写真は九州大学図書館の貴重図書のページでHermiteといれて検索すると、Hermite全集(Oeuvres de Charles Hermite)がでてくる(フランス語です)、その第二巻がpdfで掲載されているのですが、その最初のpdfにのっています。あるいは画像そのものを見ることもできて、その画像をダウンロードしてもいいです。ブログに載せたのは私が解像度を落としたものですが、オリジナルの高画質版もダウンロードできますので必要な方はダウンロードしてみてください。下の写真の左下のダウンロードボタンを押すと、高解像度、低解像度を選んでダウンロードできます。
註2:ポアンカレの「科学の価値」は、田辺元訳が科学図書館にありますのでダウンロードしてお読みください。