夏のおすすめ本2020―その2 夏目漱石の「明暗」の完結編など

今日は肩のこらない小説などを紹介したいと思います。夏目漱石の本は青空文庫で簡単にダウンロードして読めるのでおすすめですが、未完に終わった最後の小説「明暗」を完結させた小説があります。「続明暗」というタイトルで、私は去年、漱石の「明暗」に続いて読みましたが、とてもうまく完結させてあってうまいハッピーエンドになっていました。

漱石が胃潰瘍で亡くならなかったら、このような完結の仕方になったかもしれないという終わり方でした。この「続明暗」は有名な小説家水村美苗さんの作品で、芸術選奨文部大臣新人賞を受賞しています。去年NHKでやっていた夏目漱石をあつかった100分de名著の番組の中にも、この本が飾ってありました。とても面白い本ですので、是非読まれるのをおすすめします。

水村さんは、小説家でその他にも多くの賞を授賞されています(野間文芸新人賞や読売文学賞)。12才の時から米国で過ごされた方でイエール大学卒業。プリンストン大学で日本文学を教えておられたこともあり、「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で」という精緻な論説も書かれています。この本は大変評判になり小林秀雄賞を受賞した他、
The Fall of Language in the Age of Englishという題でコロンビア大学出版会から英訳が刊行されています。今は文庫化されているのでこちらも是非お読みください。英語で論文を書くことについて深く考えさせられる本でもあります。松岡正剛さんの千夜千冊にも紹介されています。

以前このブログで紹介したABC予想を解決された望月新一先生のブログでも、日本語と外国語という観点の記事で、水村さんについて触れられておりました。この望月先生のブログの記事は、米軍基地問題や北朝鮮問題、数学の意義についての考察のほか、論文の書き方や英語についての考察が詰まっていて、とても示唆に富む内容ですのでご覧ください。望月先生は古代ギリシャ語、ラテン語、サンスクリットなどを学ばれたそうですが、私達の苦手な定冠詞(英語のthe)や不定冠詞(英語のaとan)についていえば、古代ギリシャ語には不定冠詞はなく、ラテン語や現代ロシア語には定冠詞も不定冠詞もないのだそうです。

夏のおすすめ本2020―その1 Rに関するおすすめ本2冊

毎日猛暑がつづきますが皆さんお元気の事と思います。今日から数回にわたって、面白そうな本、役に立つ本などを紹介していきたいと思います。第一回目はR(アール)の本です。今や統計解析にソフトの定番のプログラミング言語Rは無料で使える素晴らしいソフトですが、統計解析だけではなくゲノム解析にも活躍しているソフトです。昔はグラフィカルインターフェースがなかったのですが、今ではRのパッケージのR commanderや日本の神田善伸先生(自治医科大学)が開発されたEZR(イージーアールと読みます。これも大評判になってRのパッケージになりました)がありますので、グラフィカルインターフェースでRを使うことができて、初心者にもやさしいソフトとなりました R commanderはRをインストールしたあと、パッケージとして追加インストールして使います。EZRはR commanderの追加プラグインになっています。インストールするとどちらも日本語で使えます。EZRを中心に使いたい場合は開発者の神田先生のサイトからダウンロードして使うのもおすすめです)。また、RStudioというRの統合開発環境ソフトを使えば、Rをもっと便利にスムーズに利用することができるようになったので、Rはますます便利で使いやすくなっています。インストール法については以前の記事二つがありますので、ここここを参照してください。

今日紹介するのは、EZRの使い方を、その開発者の神田先生が解説した本です。

EZRでやさしく学ぶ統計学 改訂2版〜EBMの実践から臨床研究まで〜神田善伸 著

これ一冊あれば、生物系医学系の普通の統計解析はすべて日本語のプルダウンメニューを使ってできます。私も論文のデータ解析にはこの本を主に参照しています。大変役立つ本ですので、是非一冊購入して統計解析の勉強や研究に活用してください。私は第一版を購入して使っていますが、すでに第二版がでているほどに売れている本のようです。これがちょっと難しそうという方むけに、神田先生はもうすこしやさしい初心者向けマニュアルも書かれています。

初心者でもすぐにできるフリー統計ソフトEZR(Easy R)で誰でも簡単統計解析 という本です。立ち読みしてみて、まずこちらを買うのもありかもしれません。

Rはバイオインフォマティクスや次世代シークエンサーのデータ解析、ゲノム解析にも大活躍しているソフトです。最近英語の本ですが、こんな本が公開されています。
Computational Genomics with Rという本です。
紙の本や電子ブックはこの秋にでるようですが、Rをつかって出力されたhtml版が上のリンクから無料で読めます。バイオインフォマティクスの専門家による本ですので、役立ちそうです。
著者は日本にもいたことがある人で、Rのバイオインフォマティクス解析用のBioconductorの多くのパッケージを開発している方たちです。著者紹介によると、この本のほとんどを書いた方は、Dr. Altuna Akalin wrote most of the book and edited the rest. Altuna is a bioinformatics scientist and the head of Bioinformatics and Omics Data Science Platform at the Berlin Institute of Medical Systems Biology, Max Delbrück Center in Berlin.(以下略)ということで、ドイツのベルリンにあるバイオインフォマティクスとオミックスデータセンターのヘッドだそうです。まだ私も読んでいないのですが、勉強してみたい本ですので紹介しておきます。

写真は、散歩の途中で撮影した山百合と葛の花です。山百合の間によくみると葛の花が咲いているのがわかります。

オンラインシンポジュウム 糖の起源と進化~宇宙 & 深海~は明日zoom開催です。今日8/20中に参加登録してください

毎日酷暑が続いていますが皆さんお元気ですか。庭の百合も山百合もあちこちで満開です。さて明日21日は、比較グライコーム研究会のzoomシンポジュウムがある日です。

今8月20日木曜日中の参加申し込み受付ですので、ここから是非申し込んでご参加ください。プログラムと申込みリンクはこちらにあります。

九大伊都キャンパスのイトリーイトがなくなってしまいました。

卒業生の皆さんにおなじみだった九大伊都キャンパスのイタリア料理店ITRI ITOが倒産したそうです。消費税増税で売り上げが落ちていた上に、新型コロナウイルスの影響(伊都キャンパスでの学生の感染や大学への立ち入り制限、緊急事態宣言などで休業になったことなど)で経営難となり、ひと月ほど前に倒産したとのことです。新型コロナウイルス関連の倒産ニュースをみていて気づきました。

イトリーイトは、学外からのお客さんのおもてなしや、研究室でのお祝いごとなどでよく利用した素敵な伊都の食材を活かしたイタリアンのレストランでした。伊都キャンパスは周りに何にもないキャンパスですので、イタリアンレストランはなくてはならないお店でした。皆さんの思い出のお店がこんな形で消えるとは、残念なことです。日本中で本当に多くのお店や会社が影響をうけているのが身に染みてわかるニュースです。どうぞ一日も早く再出発をしてくださいますよう祈っております。

新型コロナウイルスの蔓延は止まらないようですが、季節は着実に変わっています。写真は丘のふもとの雑草の中にきれいに咲いていた百合の花と、自宅で咲いた朝顔の花です。散歩していると いたるところで白いユリや朝顔がきれいに咲いています。

オープンアクセスの電子ブックをダウンロードしてみよう―Pythonや制御理論や統計学の教科書、力学の教科書やFelix Kleinについての本などなど

以前の記事に書きましたが、分子生物学会のランチョンセミナーでオープンアクセスの電子ブック(無料で読める電子ブック)を探せるサイトDOAB(Directory of Open Access Book)を紹介しました。リンク集にもリンクをのせてあります。今日、ちょっとのぞいてみるといろいろオープンアクセスの本が新しく公開されていました。検索窓にPythonと入れて検索してみると、Pythonに関連した本がずらずらとでてきます。本のLicenseの下にある
Abstract | Keywords | Free access | Buy the book |の部分のFree accessのリンクをクリックすると本がダウンロードできます。いろいろな本がありますがPythonを学ぶにはIntroduction to Scientific Programming with Python
Authors: Dr. Joakim Sundnes in Simula SpringerBriefs on Computing。Springer Nature (2020) とか
Programming for Computations – Python
Authors: Linge, Svein — Langtangen, Hans Petter
Book Series: Texts in Computational Science and Engineering, Springer Nature (2020) などは面白そうです。
また神経科学へのPythonの応用を紹介している本で
Python in Neuroscience
Authors: Eilif Muller — James A. Bednar — Markus Diesmann — Marc-Oliver Gewaltig
Book Series: Frontiers Research (2015)Publisher: Frontiers Media SA
も神経科学に興味がある人には面白いのではないでしょうか。

検索窓にソフトウエアのMathematicaをいれて検索すると、こんどは制御理論の教科書がでてきました。Mathematicaを使って制御理論を学ぶ教科書のようです。
Control Theory Tutorial: Basic Concepts Illustrated by Software Examples
Author: Steven A. Frank Book Series: SpringerBriefs in Applied Sciences and Technology, Springer Nature (2018)

ほかにもいろいろ面白そうなオープンアクセスの本があります。Browseボタンを押して色んな本をタイトル、分野、そして出版社別にながめることもできます。Publisherで検索すると、各出版社から何冊くらいオープンアクセス本がでているかがわかります。とても多くのオープンアクセス本をだしているSpringer Nature社の面白そうなタイトル(2019-2020年発行)を以下にならべておきますので、検索してみてください(直リンクははってないので、上のサイトでタイトルで検索するなどしてみてください)。科学だけではなくて哲学、社会学の本とかもあります。たとえば王陽明の紹介本とかもありました。

Make Life Visible
Prof. Yoshiaki Toyama, Ph.D. Atsushi Miyawaki… (2020) 生物科学の可視化の技術の本のようです。

Statistical Population Genomics
Julien Y. Dutheil in Methods in Molecular Biology (2020)

Gene Drives at Tipping Points
Precautionary Technology Assessment and Governance of New Approaches to Genetically Modify Animal and Plant Populations
Prof. Dr. Arnim von Gleich… (2020) ジーンドライブについての本

Data Journeys in the Sciences
Dr. Sabina Leonelli, Dr. Niccolo Tempini (2020)

The Amazing Journey of Reason
from DNA to Artificial Intelligence
Mario Alemi in SpringerBriefs in Computer Science (2020)

Introduction to Scientific Programming with Python
Dr. Joakim Sundnes in Simula SpringerBriefs on Computing (2020) これは最初に紹介した本です。

The Pangenome
Diversity, Dynamics and Evolution of Genomes
Dr. Herve Tettelin, Duccio Medini (2020)

Bioimage Data Analysis Workflows
Dr. Kota Miura, Dr. Nata?a Sladoje in Learning Materials in Biosciences (2020)

Good Research Practice in Non-Clinical Pharmacology and Biomedicine
Editors :Anton BespalovMartin C. MichelThomas Steckler 薬学や医学での研究の再現性、正しいサンプリング、実験デザインなどを教えてくれる本です。

The Everyday Life of an Algorithm
Authors: Daniel Neyland アルゴリズムのやさしい紹介の本。

Principles of Mechanics
Fundamental University Physics
Salma Alrasheed in Advances in Science, Technology & Innovation (2019) 物理の力学の本

The Ethics of Vaccination
Dr. Alberto Giubilini in Palgrave Studies in Ethics and Public Policy (2019) ワクチン接種の必要性を議論している本

Understanding Statistics and Experimental Design
How to Not Lie with Statistics
Prof. Dr. Michael H. Herzog… in Learning Materials in Biosciences (2019) 統計学と実験計画法の教科書

The Legacy of Felix Klein 数学者フェリックス・クラインについての本
Prof. Dr. Hans-Georg Weigand… in ICME-13 Monographs (2019)

The Brownian Motion
A Rigorous but Gentle Introduction for Economists
Authors;Andreas Loffler, Lutz Kruschwitz 経済学者のためのブラウン運動の理論の教科書。

写真は5月ごろに撮影したバラの花をホテルにしているアマガエルです。昼間はこのバラの花の部屋の中でじっと休憩していますが、夜になると外にでかけて大きな声で鳴きます。今も外はカエルの声がにぎやかです。

私達の新しい論文が公開されました―どんなGPIアンカー型タンパク質が配偶子幹細胞の発生に関与しているかを明らかにしました

私のラボの二人の修士の学生さんの修士論文をもとにできあがった論文が、6月24日に雑誌 Journal of Biochemistryにアクセプトされて、本日公開されました。
Rikitake, Matsuda et al. (2020)
です。
Analysis of GPI-anchored proteins involved in germline stem cell proliferation in the Caenorhabditis elegans germline stem cell niche
「線虫C. elegansの配偶子幹細胞ニッチでの配偶子幹細胞の増殖に関与しているGPIアンカー型タンパク質の解析」
という題です。図書館などでこの雑誌の電子ジャーナル版が見られる方は是非ご覧ください。
Analysis of GPI-anchored proteins involved in germline stem cell proliferation in the Caenorhabditis elegans germline stem cell niche
The Journal of Biochemistry,https://doi.org/10.1093/jb/mvaa075

私達はヒトと共通な糖鎖関連遺伝子を、モデル生物である線虫C. elegans(シーエレガンス)で網羅的に機能阻害してその隠された機能を明らかにしてきました。GPIアンカー型タンパク質(下の模式図と註1参照)を合成する遺伝子について調べたところ、GPIアンカー型タンパク質GPI-APの合成が阻害されている場合には、配偶子がつくれないこと、すなわちGPIアンカー型タンパク質の合成は子孫を作る時に必須であることを明らかにしました(Murata et al. MBoC 2012)
これはGPIアンカーが生命の連鎖に不可欠な分子であるという初めての発見で、学会で大変ほめていただきました。

今回の研究では、GPIアンカー型タンパク質のプロテオーム解析の結果をもとに、RNAi (RNA 干渉法)で網羅的に機能阻害を行い、配偶子幹細胞が正常に発生するために必要なGPIアンカー型タンパク質を3種類同定しました。GPIアンカー型タンパク質の合成阻害で配偶子幹細胞の数が激減するという今回の結果は、おそらくヒトにおいても同様なGPIアンカー型タンパク質の働きが存在しており、不妊の原因の一つにGPIアンカー型タンパク質合成に関わる遺伝子やGPIアンカー型タンパク質をコードしている遺伝子の異常が潜んでいることを強く示唆しています。今回の研究成果が今後、ヒトの不妊研究に役立つ可能性があり、また幹細胞ニッチの形成一般にGPIアンカー型タンパク質がかかわっている可能性が示唆されるとても興味深い成果だと考えています。

註1; 上の図で模式図を示していますが、GPIアンカー型タンパク質というのは、細胞膜表面(細胞の外界と面しているほうの膜)に存在しており、フォスファチジルイノシトール(PI)という脂質に糖(図にあるグルコサミンGlcNやマンノースMan)が結合し、さらにエタノールアミンリン酸EtNPのアミノ基を介して特定のタンパク質のカルボキシル基とアミド結合している分子です。ヒトのアルツハイマー病をひきおこすプリオンタンパク質には、GPIアンカー型タンパク質として存在しているタイプがあることがわかっています。その他200を超える種類のGPIアンカー型タンパク質(酵素や受容体、接着分子、補体制御因子、その他)が存在すると推定されており、膜上で信号伝達に働くなど様々な役割が知られています。

雨が毎日続きますが、皆様のところは被害がないでしょうか。北海道まで豪雨が到達したようですが、皆様のご無事をお祈り申し上げます。写真は最近撮影した、近所で巣立ったモズの若鳥と実をつけたクリの木の写真です。金蘭の花もねむの木の花も終わって今はアジサイがきれいです。ヒグラシも鳴き始めて季節は着実にすすんでいます。

windows7のサポート終了:windowsをやめてLinuxへうつるチャンスです(2)

さて、今日は前回の続きで、windows7を残したままで、外付けHDDやSSD、あるいはUSBメモリからLinuxを起動して使う方法を紹介します。(どんな外付けのSSDがよいかについては、記事の末尾の註1をみてください。) 下のギャラリーの写真は最新のUbuntu Desktop 20.04 LTS日本語版Remix をインストールする手順です。起動直後から日本語入浴ができる上にLong Time Support (LTS)版ですので5年間のサポート(2025年4月まで)付です。

今回の記事はウインドウズ7を残したまま、Linuxを外付けSSDやHDD、あるいはUSBメモリにインストールして使う方法と題していますが、もちろんwindows10とかのパソコンに外付けディバイスをつないで(註1)、そこにLinuxをインストールして使いたいという時にも使えますサポート切れのwindows7のパソコンの場合は、使う時にネット接続を遮断しておき、Linuxを起動したときのみ、Linux側でネット接続するのが安全でしょう(註2)

以下では、windowsユーザーでLinuxを初めて使ってみようと思う人のために、具体的なインストール手順をまとめておきます。

1)まずLinuxのインストール用メディアを作ります。
インストールするLinuxのディストリビューションを決めてインストール用のDVDあるいはUSBドライブを作成します。(この操作は、前に紹介した本の付録などについているインストール用DVDを使うなら不要です。)前回紹介したいろいろなLinuxのディストロの中でまず試してみようと思うもののISOファイルをダウンロードしてください。前回紹介したubuntu Linuxの日本語版のISOファイルとか、Linux mintのisoファイルとか、puppy Linuxのisoファイルとかお好きなものを選んでダウンロードしてください。次にisoファイルをwindowsのburn dvdの機能を利用してDVDに焼きます。usbメモリをインストール用に使う場合は、rufusというソフトをダウンロードして空のUSB(4G以上は必要でしょう。isoファイルのサイズによってはもっと容量の大きいものを用意してください。)をLinuxインストール用のUSBメモリとします。

2)次はwindowsのパソコンにインストール用メディアをいれた後、電源を入れたら、このインストール用メディアからパソコンが起動するように設定します。
インストール用のDVDやUSBが用意できたら、windows7のパソコンの設定を変えて、電源を入れた時にインストール用のDVDやUSBの入っているドライブからパソコンが起動するようにします。やり方はwindows7のパソコンのBIOS (あるいは最近のパソコンならUEFI(Unified Extensible Firmware Interface))の設定を変えて、「まず最初に起動設定を探しにいくドライブ」を、DVDドライブあるいはUSBドライブに設定するのです。やり方は、パソコンの電源を入れた直後の最初の起動画面で、BIOS設定(古いパソコンはこれ)やUEFI設定(最近のパソコンはこっちでしょう)をするにはどのキーをおすかという指示がでます (F2キーとかを押すとよいとか英語で書いてあると思います)。すぐメッセージが消えてwindowsが起動するので、よくわからない人は、起動の様子をムービーで撮影しておいて、あとでムービーを再生して、ゆっくりどのキーを押せばよいのかを確認してください。起動時に押すキーがわかったら、電源を入れた直後にそのキーを押して、BIOS画面やUEFI設定画面を表示させ、最初に起動のときにコンピュータがみにいくドライブを指定します。こうしておけば、USBメモリやUSB接続の起動ディスク(SSDやHDD)をつないで起動したときはLinuxのインストーラー(インストールが終わった後なら、Linux)が起動し、これらをつながないで起動すればwindows7が起動します。

3)以上の設定が終わったらいよいよlinuxのインストール作業に入ります。
パソコンに上の2)で作成したインストール用DVD(USBやCDの場合もあるでしょう)を入れて起動します。先ほどのBIOS(またはUEFI)設定がうまくいっていたら、Linuxインストール用のDVD あるいはLinuxインストール用のUSBからパソコンが起動します。ubuntuのインストーラーの場合では下のギャラリーの1~3のようにいろいろ画面が変化した後、下のギャラリーの4の画面がでてきます(ギャラリーのサムネールをクリックすると写真がみられますので、クリックしながらみてください)。

ubuntu desktop LTS 20.04 Remixのインストール用DVDの場合、2のようにディスクチェック (インストール用DVDのチェックのようです)が最初に行われ4の画面で止まります。4の画面の「Ubuntuを試す」のほうを押すとインストールなしでubuntu Linuxを使ってみることができます。今回は「Ubuntuをインストール」のほうを選んでクリックします。

すると、5のようにキーボードを選ぶ画面がでて、「続ける」ボタンをクリックすると、6の「アップデートと他のソフトウエア」の画面に変わります。ここでは「通常のインストール」で、「Ubuntuのインストール中にアップデートをダウンロードする」を選んでおきましょう。「続ける」ボタンを押して次に進むと7の「インストールの種類」の画面がでてきます。「コンピュータにはwindows7がインストールされています。どのようにしますか?」ときいてきます。ここでは必ず一番下の選択肢「それ以外」を選んでください。一番上の選択肢は一見よさそうでwindows7とLinuxが共存できそうですが、これを選ぶとトラブルが起こった時対処が大変なので選ばないでください。必ず「それ以外」を選んで「続ける」ボタンを押して次に進みます。

次の8の画面ではコンピュータのハードディスクなどの構成が表示されます。いよいよLinuxをインストールするディバイスとパーティションの設定を開始します。8にでているsdaとかsdbなどというのがHDDドライブなどのディバイス類のことで、sda1、sda2などの数字はそのパーティションです。ディスクの大きさ、使用しているサイズ、空サイズ、パーティションの種類(ntsfなどの種類)やサイズが表示されています。写真では私のHDDドライブの使用量や空サイズの部分は念のためぬりつぶして隠してあります。一番下に空のSSDの空き領域128G余りが表示されているのをご覧ください。フォーマットもしていないので空き領域となっているだけで、ここにLinuxをインストールします。まちがってwindows7や10が利用しているドライブやパーティションなどを選ばないことが大事です。写真9の一番下にはブートローダーをインストールするディバイスという項目があります。これがLinuxをインストールするドライブになっていることを確認し、もしwindowsのドライブなど残しておきたいドライブになっていたら、プルダウンで正しいディバイスを選びなおします。写真ではちゃんと128GのSSDがえらばれていることがSSDのメーカーの型番で確認できます。
(注意:もしこの段階のドライブの表示でどれがwindows7の使っているドライブか、どれが新しいSSDかがどうしてもわからないようでしたら今はこれ以降の作業はとりあえず中止してLinuxにもうすこしなれたほうがよいです―記事の末尾にある註3を参照してください。)

では、下のギャラリーの9の画面から128G余りのSSDにLlinuxをインストールするためのパーティションを設定していく例を紹介します。
9の図のように128Gちょっとある空領域を選択します。(買ったばかりで未フォーマットの、まっさらのSSDでまだ空き領域がない場合は空き領域が表示されません。その場合はdev/sdcなどSSDを選びます。この場合、9の画面で選べるのは「新しいパーティションテーブル」だけですので、それをクリックすると、空き領域ができます。)

9の図にある+/-変更というボタンの+ボタンを押します(この画面では選べるのは、+ボタンと元に戻すボタンだけです)。すると10のように「パーティションを作成」という画面がポップアップします。空き領域のサイズが表示されていますね。まずスワップ領域を設定します。基本パーティションと場所は図のとおりにして、利用方法という部分からプルダウンメニューを11のように表示させ、「スワップ領域」を選びます。サイズの部分を変更して、メモリーと同じくらいに設定します。12の図では4G(4000MB)にしてあります(図12)。マウントポイントの項目はきえていますね。OKを押してこの画面を閉じます。

swap 領域が13の図のようにできました。swap領域のしたに約4Gバイトへった空き領域が表示されています。そこで14のように空き領域をクリックして選択し、+ボタンを押すと、ふたたびパーティションを作成する画面15になります。今度は残りの空領域全部を使ってルートパーティションを作成します。128GのSSDの使用可能領域がswapに設定した4G分減少しているのを確認してください。ここでの設定は 15の図のように「基本パーティション」(論理パーティションにチェックがはいっていたら、基本パーティションに変えてください)と「この領域の始点」、そして「ext4ジャーナリングファイルシステム」はデフォルトのままにして、マウントポイントのみをプルダウンメニューから選択して「/」に変えます。OKをクリックします。

すると17のような画面になり、今作ったswapファイルとext4の領域のサイズや名称が表示されます。/dev/sdcがSSDでその中に/dev/sdc1のswap領域、/dev/sdc2のルートパーティションが設定されています。/dev/sdc2にはチェックが入っています。sdcをクリックして選んでおき、一番下のブートローダーの場所がSSDであることを確認します。インストールボタンを押したら18の最終確認画面「ディスクに変更を書き込みますか?」がでてきます。 「続けると以下に挙げた変更はディスクに書きこまれます 云々」という警告が表示されています。ここまでの設定作業は、戻るボタンを押せば一段階づつもどってキャンセルできます。「続ける」ボタンをおすとディスクに変更が加えられて戻せませんので、ここでゆっくり確認してください。ディスク表示されているのがlinuxをインストールするディバイスであることを確認し(この例ではsdc)、そのパーティションが変更されるのでよいかどうか確認し、よければsdc1 がスワップ領域、sdc2がext4というファイル管理システムに設定されるようになっていることを確認してください。サイズもあっていますか?この18の画面で「続ける」を押すと、ディスクに書き込みが始まり、もとに戻れないので注意してください。間違いなければ設定完了です。「続ける」をおしてディスクに変更がはじまったらubuntuのインストールが始まります。

ubuntuのインストールが始まったら、「どこに住んでいますか?」(時刻を日本標準時にする設定)(19)とか、ログイン名とパスワードの設定(20)、などがはじまります。各項目の設定が終わって画面に指示がでたら指示に従って、再起動してください(22)。ubuntuのログイン画面がでてきますので、先ほど設定したパスワードでログインすると、cloudの初期設定とか(24)いろいろ初期設定項目をきいてきますが、私は全部設定をスキップして使っています。これで日本語入力が使えるubuntu の最新版が windows7と同様にグラフィカルインターフェイスで使えます。ブラウザのFirefoxとか電子メールソフトのThunderbirdとかもはじめから入っていますし、無料のMicrosoft Office互換のOffice Suite一式も入っています。またプログラム言語のpythonもはいっていますので、python入門にも最適です。ただ日本語版ではフォルダ名が日本語になっていて、pythonなど英語圏のソフトを使うとき困りますのでフォルダ名は英語にもどしておきましょう。やりかたはたとえばここにありますのでやってみてください。あとwindows7でつかっていた日本語変換辞書のubuntuの日本語入力システムMozc(Google日本語入力)への移行を行えば日本語入力もとてもスムーズにできます。

別のやり方としてはVirtualboxというソフトでwindows7内にLinuxの仮想マシーンを起動するという方法もあります。これは私が授業で「BioLinux8をwindowsで起動してLinuxの使い方を説明したときに使った方法」です。ubuntuとかを動かすにはメモリーが最低4G、普通は8Gいるようです。それでは4Gくらいしかメモリをつんでいない私のパソコンでは動かないので、ubuntuの代わりにLinux mint 32bit版を使っています。

註1:内蔵型のHDDやSSDでもHDD/SSD用のクレードルとかスタンドという名前で売られているUSB接続ケーブルでパソコンとつなぐスタンドを使えば外付けドライブとして使えてLinuxをインストールできます。このクレードルは、古いパソコンからHDDを取り出してHDDの中身を利用したいときにも便利です。私が最近買ったのは、内蔵型の2.5インチのSSDドライブ(480G)と、そのSSDを入れてUSBでPCと接続するケース(USB3.0 2.5インチHDD/SSDケース SATA I/II/III対応)のものです。ケースが1000円ちょっとでSSDが6000円ほどでした。

註2:windows7を起動しているときネット接続を切るには、LANケーブルを抜くとか、wireless接続用のアダプタを無効化する(USB接続のものならUSBポートから抜くか、windowsのネットワーク設定で接続を切る)方法もあります。あるいはNetDsablerとかのソフトをインストールしておいて、クリック一つでネット接続を切る方法もあります。

註3:ここでいったんubuntuのインストールを中止して、ちょっとpuppy LinuxをUSBドライブから起動するようにして、puppy Linuxで遊んでみてください。puppy Linuxではデスクトップにディスクドライブが画像で表示されるのでpuppy LinuxをUSBから起動してしばらく遊んでみて、自分の使っているwindows7のドライブがどれかを理解してから、この作業に挑戦すると間違いないと思います。windowsのパーティションは、パーティションのサイズやntsfなどというフォーマットの種類でわかると思います。(あるいは究極の安全策としてLinuxをインストールする前に、パソコンの箱をあけてwindows7で使っているHDDドライブなどの配線を外しておいてもよいでしょう。しかしそれができる人ならたぶん間違わないでしょうね。)まちがいなくSSDなどLinuxをインストールするドライブやUSBメモリが選べたら、MBRの書き込み先もまっさらのSSD(あるいは自分のインストールにつかうUSBやHDDなどのディバイス)に設定します。
最初私はpuppy Linuxを最初USBにいれて起動する方法を試しました。これはLinuxに慣れるには最適ですし、プログラムの本体自体は300Mb程度、ハーディスクやUSBメモリの容量も10Gもあれば十分つかえるので最初はこれでいいと思いました。しかし私のUSBメモリはエラーを起こしやすかったため、ランプが点滅を繰り返して起動しなくなってフォーマットしなおしたりして面倒なので結局やめました。ちょうど余っていた古いSSD(128G)があったので、これをUSB接続してそこにUbuntu Desktop 日本語 Remix をイントールして使っています。

新型コロナウイルスに対するワクチンはもう存在している?―新型コロナウイルスと闘う糖鎖生物学

先日の記事で新型コロナウイルスSARS-CoV-2について糖鎖生物学からのアプローチを紹介しました。    その記事で紹介していたbioRxivに公開されているプレプリントの論文が査読を終えて有名な科学雑誌Natureに掲載され無料公開されています
   2003年のSARSの流行の時ロンドンで感染から回復した人がいます。その人のもっているメモリーB細胞(memory B cell)をとりだし、SARSウイルスと結合する中和抗体が存在することをつきとめ、その抗体を産生する細胞を不死化してモノクローナル抗体をつくりました(S309と名付けられています)。この抗体分子の全アミノ酸配列もわかっています。この抗体がSARS-CoVおよびSARS-CoV-2の共通の部位(具体的にはウイルスのスパイクタンパク質の、ヒトの細胞表面にあるアンギオテンシンコンバーティングエンザイムACE2分子と結合する部位とその周辺のN型糖鎖)と結合してウイルスを不活性化することがわかりました。Vir Biotechnologyという企業がこの抗体を新型コロナウイルに対する予防薬、治療薬として開発しており、まもなくフェーズ1と2の臨床試験を開始するそうです。これはワクチンではなくて洗練された血清療法のようなものです。新型コロナウイルスにかからないように医療関係者にあらかじめこの抗体を投与しておくとか、コロナウイルスにかかった患者さんの治療薬として使うわけです。この抗体は遺伝子操作で血中の半減期を伸ばしてあり、さらにvaccinal effect という効果で、投与した人に新型コロナウイルスの免疫を与えるように抗体の改変がおこなわれているそうです(Vir Biotechnologyのホームページによる情報)。Natureにでた論文は、前の記事の末尾で紹介したbioRxivにアップロードされていた論文ですので、bioRxivのようなプレプリントサーバーの素晴らしさをこの例からも実感できることと思います。
   このNatureの論文の責任著者は、David Veesler先生(ワシントン大学)で、新型コロナウイルスが結合するヒトの細胞表面分子(ウイルスレセプターと呼ばれます)がアンギオテンシン・コンバーティングエンザイム(ACE2) であることを発見した人です。コンバーティングエンザイムというのは、要するにタンパク質分解酵素のことで、アンギオテンシンの前駆体蛋白質を一定箇所で切断して活性型のアンギオテンシンペプチドを作り出すタンパク分解酵素です。Veesler先生の5月27日に行ったジョンズホプキンス大学セミナーの講演が、NIHのvideo castで公開されていますので下にリンクを載せておきます。SARS, MERS, SARS-CoV, SARS-CoV-2ウイルスのグリカンシールドの解析、ACE2との結合の様子、ウイルスの侵入の様子、様々なコロナウイルスに対する抗体の解析など情報満載の講演です。

高画質でダウンロードも可能ですのでこちらにアクセスしてご覧ください

コロナウイルスは、ウイルスの表面にあるSpike タンパク質(S protein) が三つ集まった複合体(三量体といいます)でACE2分子と結合します。Veesler先生たちの研究で、このSタンパク質三量体が開いたり閉じたりして、ACE2と結合することがわかりました(上の動画にありますので探してみてください)。さらに上で述べたようにS309抗体はACE2分子に結合するウイルスのSタンパク質の、特定のアミノ酸配列と付近のN型糖鎖と結合する抗体であることもわかっています。この配列はすべてのコロナウイルスに共通しており、S309抗体はSARSウイルス、コロナウイルスSARS-Co-V、そして新型コロナウイルスSARS-CoV-2を中和することができるのです。S309抗体(抗体は糖鎖が付加されたタンパク質です)の全アミノ酸配列も遺伝子配列もわかっており、ウイルスのS タンパク質と結合する部分であるFab(Fragment antigen bindingといいます)よりは、IgGの抗体分子そのものの方が中和活性は強いようです。S309といくつかのコロナウイルスに対するモノクローナル抗体を混ぜたものが最も中和活性が強く、この抗体カクテルを使えば、変異したコロナウイルスがまじっていてもきれいに中和できるのでウイルスが変異したものがまじっていても一網打尽に中和・不活性化できると期待されています。

S309抗体は、そのままでは予防薬、治療薬になるだけなのですが、遺伝子配列を変更することでSタンパク質への結合力を上げたり(分子進化の手法)、血清中での安定性を高めたりできます。またIgG抗体は糖鎖修飾されているのですが、その糖鎖からフコースを取り去ると抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)が劇的に上がります(日本の糖鎖生物学の有名な成果です)。こうした様々な方法で抗体の作用を高めることもできます。もちろんADCCとかがやたらにおこると致命的になるかもしれませんし、予備的な十分な研究が必要なのはいうまでもありません。また上で述べたvaccinal effectというのも期待できそうです。癌の治療に使うモノクローナル抗体を投与した後、抗体が消えたあとにも癌細胞を攻撃する免疫が生み出される場合があることで有名です。エイズの治療とかでもvaccinal effectはみられるようで、S309モノクローナル抗体で新型コロナウイルスに対してvaccinal effectをひきおこすことができればこれは、ワクチンにもなるわけです。

昔はウイルス感染症から回復したり、感染しても症状が出ない人がみつかってもS309のような抗体を分離することは不可能でした(映画やSFではそれができるかのように描いているものが多かったですね。たとえばアウトブレイクという映画では、ウイルスの宿主で症状がまったくでないサルをみつければその宿主の血清から治療薬がすぐできたりしていたと思います。アウトブレイクの映画をもとにした看護学の教科書―アウトブレイクの映画をみて間違い探しをしながら学ぶという趣旨の本も図書館でみたことがあります。時代が進んだ今では、新型コロナウイルスに感染して回復した人の免疫細胞から抗体をとりだすというアプローチが盛んにおこなわれているそうです。たとえばこちらの雑誌Scienceにのった記事です。生命科学の飛躍的発展によっていまやそれが可能になってきているのですね。新型コロナ対策のみならず多くの感染症対策の一つの道が拓かれていっているのが実感されます。

Newtonのリンゴ―疫病を逃れての大発見

ニュートンのリンゴの話です。ケンブリッジ大学がペストの流行で閉鎖されたためニュートンは実家にもどっていました。重力について深く考え続けていた彼がリンゴの木の木陰で思索を続けていた時、リンゴの実が目の前を垂直に落ちていくのを見ました。その時、重力の本質についてひらめいたのだといいます。

この話は、ニュートンと直接話をした人William Stukeley(  1687-1765)が書き留めている手書きの本Memoirs of Sir Isaac Newton’s Life (1752年発行)にのっているそうで原本はここに公開されています。この本の15ページ目にニュートンの言葉がのっています。下のWikimedia Commonsからダウンロードした写真のように手書きの文字で読みにくいのですが、こちらには活字体で書いた原文が掲載されていますので写真の下に引用しておきます。

コロナウイルスで世界中の人が自宅に待機しているのですが、ニュートンのように偉大な発見が今 この瞬間に生まれているのかもしれませんね!

after dinner, the weather being warm, we went into the garden, & drank thea under the shade of some appletrees, only he, & myself. amidst other discourse, he told me, he was just in the same situation, as when formerly, the notion of gravitation came into his mind. “why should that apple always descend perpendicularly to the ground,” thought he to him self: occasion’d by the fall of an apple, as he sat in a comtemplative mood: “why should it not go sideways, or upwards? but constantly to the earths centre? assuredly, the reason is, that the earth draws it. there must be a drawing power in matter. & the sum of the drawing power in the matter of the earth must be in the earths center, not in any side of the earth. therefore dos this apple fall perpendicularly, or toward the center. if matter thus draws matter; it must be in proportion of its quantity. therefore the apple draws the earth, as well as the earth draws the apple.” That there is a power like that we here call gravity wh extends its self thro’ the universe < text from f 15r resumes > & thus by degrees, he began to apply this property of gravitation to the motion of the earth, & of the heavenly bodys: to consider thir distances, their magnitudes, thir periodical revolutions: to find out, that this property, conjointly  (下線を引いた部分は上の本の見開き右がわ―15ぺーじの写真には写っておらず、見開きの左ページに書き込まれています。)

上の写真はニュートンのPrincipia (1687年ラテン語の本として刊行されました)発刊300年を記念してイギリスで発行された記念切手の一枚です。
トップの写真は今年の4月中旬に福岡で撮影した、満開の八重桜をバックに咲くリンゴの花です。

 

新型コロナウイルス SARS-CoV-2と戦う糖鎖科学(糖鎖生物学入門 番外編)

新型コロナウイルスSARS-CoV-2(サーズ・シーオーブイ・ツーと読みます)についてのメモです。
1) このウイルスはenvelopeタイプのウイルスとよばれていて、外側に殻envelopeをかぶっているため消毒用アルコールとか、洗剤とかにふれると殻の部分のタンパク質が変性するので不活性化できます。それで70%程度のエタノール消毒(エチルアルコール=エタノールの原液では瞬間に揮発するので変性効果に乏しい)とか手洗いとかが感染予防に大事なわけです。

2) このウイルスはRNAウイルスですがRNAウイルスとしては例外的に、遺伝子配列の変異が少ないです。これはコロナウイルスが遺伝子複製のときに正確に自分のRNAを複製するメカニズム(校正機能 proofreading activity)をもっているためです。(校正機能をもつ酵素proofreading exoribonuclease / Guanine-N7 methyltransferase (ExoN)遺伝子や校正に働くとされるnsp7やnsp8の遺伝子をウイルスのゲノムにもっています。註1参照)。この校正機能が存在するので、今回の新型コロナウイルスは、インフルエンザウイルスで恐れられている激しい突然変異による強毒化する確率は低いのです。しかし最近、校正機能が低下したウイルスがヨーロッパで見つかっているようで注目されています。詳しくは註1とそこにあげた論文を参照してください。これに関しては、抗ウイルス薬として注目されているアビガンの開発者 白木公康先生たちが医事新報に掲載されている緊急寄稿1-3もご覧ください。薬剤耐性のみならず、ウイルスの感染予防についても詳しくわかりやすく書かれていて、大変参考になる内容です。

ところで新型コロナウイルスに感染しない人が存在するのをご存知でしょうか。
  以前、ウイルスは糖鎖を介して感染するという話をしました。エイズウイルスにしろコロナウイルスにしろ、ウイルスのタンパク質やウイルスと結合する細胞の受容体(レセプター)には糖鎖がついており、ほとんどすべてのウイルスは糖鎖を介して感染するので、この糖鎖が変化すればウイルス感染に影響を及ぼすことが予想できます。実際、N型糖鎖の合成の最終段階の酵素の一つMOGS (Mannosyl oligosaccharide glucosidase)の遺伝子に異常がある患者さんの場合、患者さんはウイルスに感染しないことがわかっています。この酵素が異常な患者さんでは血中の抗体の量が著しく減少しているのですが(註2参照)、なんとウイルス感染はおこりません。患者さんから取り出した細胞もテストしてみると、ウイルス感染耐性を示します(論文はここhttps://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC4066413/ からたどれます)。これは、ウイルスのもっているタンパク質のN型糖鎖と、患者さんのもっているウイルス受容体のタンパク質のN型糖鎖が共にこの酵素MOGSの欠損で異常になるため、タンパク質が正しく折りたためず正常な立体構造がとれなくなってしまうためです。ウイルスタンパクが正しく折りたためず正常な立体構造がとれない上に、ウイルスの受容体のN型糖鎖も異常で正しく折りたためないため、ほとんどのウイルスは感染能力を失ってしまうのです。

このようにN型糖鎖が異常になることでウイルスに感染しないという人が存在することが明らかになっています。この例は、糖鎖についてよく理解して研究してその成果を応用すれば、ウイルス感染のない世界がやってくるかもしれないと期待させてくれます。(実際、MOGS酵素の活性を阻害するイミノ糖を与えることでSARS-CoVやエイズウイルスHIV、そしてジカ熱をおこすZika ウイルスなどの培養細胞への感染を抑えられるという論文もでています。)

さて、新型コロナウイルスの糖鎖です。新型コロナウイルスはその一番外側に突出しているスパイクタンパク質が、ヒトの細胞表面にあるACE2という分子に結合、細胞表面のタンパク分解酵素の作用でヒトの細胞膜と融合してウイルスの遺伝情報を細胞に感染させます。
上のわかりやすい図はAMED(日本医療研究開発機構)の研究成果のプレスリリース(2020.3.23)
Identification of an existing Japanese pancreatitis drug, Nafamostat, as a candidate drug to prevent transmission of SARS-CoV-2 からの引用です。膵炎の治療薬として使われているナファモスタットという薬が新型コロナウイルスの感染を抑える薬として使える可能性を報じています。

図にあるスパイクタンパク質は高度に糖鎖修飾されていて以前紹介したグリカンシールドを作っています。

上の図は新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の糖鎖を示しています。ウイルスタンパク質の糖鎖はグリカンシールドをつくって抗体の攻撃をかわします。エイズウイルスのグリカンシールドは、抗体による攻撃を免れるのにきわめて有効でワクチンがつくりにくいのですが、新型コロナウイルスの場合は、幸いなことにこのグリカンシールドは不完全であちこちにグリカンシールドの穴があります。

図では一つのスパイクタンパク質を二つの異なる方向からみています。グリカンシールド(N型糖鎖のみ示してあります)の部分はball and stick模型で表示されており、糖鎖の種類によって色分けしてあります。緑がマンノース9個からなるN型糖鎖の部分、濃い黄色がマンノース5つを含むN型糖鎖、オレンジがハイブリッドタイプのN型糖鎖、ピンクが複合型のN型糖鎖です。タンパク質部分での抗体のアクセスしやすさも表示してあって、黒が最もアクセスしにくい部分、赤が最もアクセスしやすい部分です。赤い部分は抗体がアクセスしやすいのでワクチンの標的になり得ることがわかります。こうした糖鎖科学の知識にもとづいて、スパイクタンパク質のどの部分がグリカンシールドで覆われていないかを知って、その部分を標的とした抗体を作れば、有望な新型コロナウイルス予防ワクチンができるはずです。(糖鎖の存在を無視してやみくもに抗体を作ろうとしてもグリカンシールドで覆われているところを標的としてはうまくいかないのです。)この図はBioRxivにあるGrant et alの論文の図1です。https://www.biorxiv.org/content/10.1101/2020.04.07.030445v2.full#F3

グリカンシールドをものともせずにウイルスを攻撃できる抗体というのはあるのでしょうか?その候補の一例についてもBioRxivの論文にでていました。以前流行したSARSコロナウイルスから回復した人の血清中にはウイルスを攻撃する抗体が存在します。その抗体を増やして調べてみると(註3参照)新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のN型糖鎖の一つと、その糖鎖がついているタンパク質の一部分(ACE2と結合するreceptor binding domain RBDとは違う部分です)に強力に結合することがわかりました。S309と名付けられたその抗体ともう一つの、同様に得られた抗体を併せて使うと新型コロナウイルスの感染を強力に阻害することができるそうです(記事の末尾のBioRxivの論文参照)。

現在、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質と、スパイクタンパク質に結合している糖鎖、そしてグリカンシールドの立体構造の研究が急ピッチですすんでおり、糖鎖を理解することで新型コロナウイルスの感染を抑え込む有力なアプローチとして注目されています。

最新の糖鎖生物学の研究成果によると、新型コロナウイルスSARS-CoV-2は感染するときに、ACE2だけでなく細胞表面にあるシアル酸とも結合して感染していることがわかっています。まずスパイクタンパク質がシアル酸に結合し、その後でACE2と結合するようです。(シアル酸はインフルエンザウイルスの感染でもでてきましたね)また、新型コロナウイルスのスパイクタンパク質のアミノ酸配列にはグリコサミノグリカンとの結合配列というのが見つかっており、グリコサミノグリカンの中でもヘパリンと結合するのだそうです。これは血液凝固阻害で治療によく使われる物質ですので特に重要ですね。またN型糖鎖だけでなくO型糖鎖の果たす役割の研究も進んでいます。こうしたすべての研究は、糖鎖がウイルス感染に決定的な役割を果たしていることを示しています。

註1:ウイルスの複製のときは、RNA合成酵素RdRp(RNA dependent RNA polymerase=ウイルスのRNAを鋳型としてウイルスのRNAを合成する酵素) とnsp 7 (nonstructural protein 7) とnsp8、およびExoNが複合体をつくって校正機能を示すようです。最近、RdRpの変異したウイルスがヨーロッパやアメリカでみつかっており、これは校正機能がうまく働かなくなっているらしいです。校正機能をもつExonN, nsp7, nsp8などとの相互作用がうまくいかないことがその原因と想像できます。そのウイルスでは点突然変異のメジアンが1から3に増えているのがわかったそうです。校正機能が低下して配列に突然変異を多く起こすとそのウイルスは滅びるのでしょうか?あるいは強毒化するでしょうか。もっとも重要な遺伝子の複製酵素が異常になったいわば病気のウイルスですので、どうなるか注目したいと思います。論文はここにあります。
https://translational-medicine.biomedcentral.com/articles/10.1186/s12967-020-02344-6

註2:これは抗体の糖鎖修飾が損なわれているため、血中での抗体の寿命が短くなることでおこる現象です。抗体にも糖鎖が結合して重要な働きをしているということを覚えておいてください。

註3: SARSから回復した人の血中にあったメモリーB細胞をEBVウイルスに感染させて不死化して株細胞にした細胞が産生するモノクローナル抗体で、S309と呼ばれています。


より詳しく知りたい人のために―動画と文献の紹介です;
グリカンシールドの研究では、 分子動力学(MD: Molecular Dynamics)による解析(MD解析)が盛んです。スパイクタンパク質のタンパク質部分の立体構造をもとに、それにN型糖鎖付加(どんなN型糖鎖が実際付加されているかもかなり詳しくわかっています。ウイルスが育つ細胞によって糖鎖構造は変化するのですが、どのような糖鎖でもグリカンシールドとしては働くようです)をさせた分子を計算機中にモデル化して、その時間的な動きを計算で追跡していきます(ニュートン力学に基づく分子内の運動の計算を行います)。この方法で、生きている細胞中でグリカンシールドの糖鎖がどのように動いているか、スパイクタンパク質のどの部分がワクチン候補の抗体がねらうべき部分かなどを解析できるわけです。上にあげた図も分子動力学による解析で作成されました。実際SARS-CoV-2のスパイクタンパク質について解析したムービーとしてはNIHで今月初めに開催されたオンラインワークショップのムービーをご覧ください。NIHからダウンロードしたムービーの3時間9分47秒あたりからMD解析の結果の一部がみられます。同じムービーの3時間46分52秒あたりにもMannoseが9個つらなった糖鎖部分M9がスパイクタンパク質のポケット部分に這っていく動画がでていますのでご覧ください。
このオンラインワークショップ“Coronavirus, SARS-CoV-2, & Glycans”は以下のリンクにありますのでダウンロードしてご覧ください。
https://videocast.nih.gov/Summary.asp?file=29093&bhcp=1
最新の糖鎖生物学がどのように新型コロナウイルスと闘うのに役立っているかがよくわかります。下の写真はこのワークショップのオープニング画面のキャプチャです。
新型コロナウイルスと戦う糖鎖生物学の成果については、BioRxivの論文をみると大いに役立ちます。BioRxivの論文は査読をうけていませんが、しばらくすると有名雑誌に掲載されるものが多数ありますので是非、定期的にチェックしてみてください。たとえばOxford大学のWatanabeらによるBioRxivにでた論文
Site-specific analysis of the SARS-CoV-2 glycan shield
Yasunori Watanabe, Joel D. Allen, Daniel Wrapp, Jason S. McLellan, Max Crispin
最近Scienceに査読を終えて以下のリンクに掲載されています。
https://science.sciencemag.org/content/early/2020/05/01/science.abb9983

以下の論文も注目されています。
Analysis of the SARS-CoV-2 spike protein glycan shield: implications for immune recognition:doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.07.030445

Structural and functional analysis of a potent sarbecovirus neutralizing antibody
doi: https://doi.org/10.1101/2020.04.07.023903

他にもいろいろあるので検索してみてください。