脳の神経細胞の活動の同期に量子もつれが働いている可能性を提唱した中国の科学者の論文がPhysical Review 誌に掲載されています。

上海大学から、脳の 神経細胞がもっているミエリン鞘 myelin sheath (詳しい説明はこちらの脳科学辞典をご覧ください。https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%AB%84%E9%9E%98)のリン脂質のCH bondが量子もつれをもった光子を発生させることができ、この量子もつれが、脳で神経細胞がシンクロして活動するのに役立っているのではないかという論文がでました。超有名誌のPhysical Reviewに掲載されている以下の論文です。

Entangled biphoton generation in the myelin sheath
Zefei Liu, Yong-Cong Chen, and Ping Ao
Phys. Rev. E 110, 024402 – Published 2 August 2024
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.110.024402

ペイウオールに阻まれているので無料では読めません。ただプレプリントが公開されているのでそれを読むとよいと思います。
プレプリントはこちらから読めます。
https://arxiv.org/abs/2401.11682

序文をながめてみました。今日まで、いろんな脳での量子機構が提案されていて Hameroff とPenroseの微小管による量子計算の理論あなども有名ですが、理論と実験が合わないという論文もでているそうです。ただ以前このブログでも紹介したように生物は極めて弱い光子(赤外線領域の波長を持つ光子photon)を発生させていることがわかってきており、この光子が生命にとって雑音ではなくて何か重要な働きをしているのではという可能性が高くなってきているそうです。この論文ではこうした光子がリン脂質の足にあたる脂肪酸のメチル基やメチレン基のCH結合の振動によって発生し、その発生した光子の量子もつれが、神経活動の同期(シンクロ)に働いている可能性を提唱しています。

英語ですがこちらの紹介が詳しいと思います。
Researchers Explore Quantum Entanglement’s Potential Role in Neural Synchronization
https://thequantuminsider.com/2024/08/03/researchers-explore-quantum-entanglements-potential-role-in-neural-synchronization/

日本語のITMediaの記事でも概要がわかります。
脳内の神経細胞で「量子もつれ」が発生してる? 何百万の脳細胞間の同期活動を説明か 上海大学が発表
Innovative Tech
2024年08月07日 08時00分 公開
[山下裕毅,ITmedia]
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2408/07/news047.html

物性若手夏の学校のテキストが公開されました。生物物理学関係の記事を読んでみましょう!

第68回物性若手夏の学校のテキストが昨日、J-STAGEで公開されました。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/natsugaku/list/-char/ja

おすすめの記事をいくつかあげておきます。
2次元と3次元をつなぐ 計算物質科学入門
小野 頌太
p. 1-24
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_1
です。最初の部分で密度汎関数法(Density Functional Theory)の簡潔明解な解説がありますので是非お読みください。

生命科学関連の記事としては、つぎのような記事がおすすめです:

増殖している細胞のマクロ現象論とその破れ
姫岡 優介
p. 162-183
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_162

植物のかたちと力学
山口 哲生
p. 251-258
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_251

アクティブマターとトポロジーと生命現象
川口 喬吾
p. 259-266
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_259

また去年の夏の学校のテキストも公開されています。https://www.jstage.jst.go.jp/browse/natsugaku/1/0/_contents/-char/ja

クロマチンの物理
坂上 貴洋
p. 293-303
発行日: 2023年
公開日: 2023/02/07
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.1.0_293

アクティブマター物理学:集団運動の秩序とゆらぎ
西口 大貴
p. 304-320
発行日: 2023年
公開日: 2023/02/07
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.1.0_304

細胞を擬2次元膜で包まれたミクロ3次元液滴として理解する
柳澤 実穂
p. 216-227
発行日: 2023年
公開日: 2023/02/07
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.1.0_216

このような生物物理関係の記事もあるので、是非読んでみることをおすすめします。
微分方程式モデルでの生命現象の記述という、昔ながらの理論生物学ではない、新しい生物物理の動向を知ることができると思います。

昨日紹介した糖鎖生物学の教科書についての追加情報です。

昨日は、Essentials of Glycobiologyという有名な糖鎖生物学の教科書が、無料でダウンロードできることを紹介しました。オンラインでも読めるのですが、オンライン版も是非利用してください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK579918/
オンライン版にはアップデート項目Online Appendix が追加されていますし、本文の図をオンラインで表示するとPowerPointスライド(Teaching Slide) をダウンロードすることもできます。たとえばこちらのリンクをご覧ください。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK579944/figure/CSHLP5087CH29F1/?report=objectonly

正誤表Errataも掲載されています。https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK581943/
ダウンロードした本でチェックしましたが、Errataの内容は反映されていませんでした。オンライン版のerrataを参照しながら読んでください。
私はKindleのアプリをiPadにいれていますが、この教科書をKindleにいれて読んでいます。
EPUB 型式の本ですので、iPadのブックで読むこともできます。もちろんCalibreなどのフリーソフトでpdfに変換することもできると思います。
https://forest.watch.impress.co.jp/library/software/calibre/

糖鎖生物学の有名な教科書Essentials of Glycobiology 4th editionが無料でダウンロードできます!

オンラインで読める糖鎖生物学の標準的教科書Essentials of Glycobiology 4th editionが無料でダウンロードできるようになっています。
出版社であるCold Spring Harbor Pressの次のページにepub版のダウンロードリンクがあるので、クリックするとダウンロードできます。

https://cshlpress.com/default.tpl?action=full&–eqskudatarq=1358
オンライン版については昔紹介しました。オンラインでよむより自分のタブレットやPCにダウンロードして読めるのははるかに便利ですね。
是非読んでみてください。検索もできるので糖鎖生物学について何か知りたいときには、知りたい単語を検索してみるのがおすすめです。

糖鎖生物学の教科書Essentials of Glycobiologyの最新版(第4版)がオンラインで公開されました。

最後におまけです。糖鎖生物学者でクリックケミストリーの仕事でノーベル賞を受賞したBertozziさんのポドキャストが聴けます。こんな言葉がサイトに掲載されていました。いい言葉です。https://shows.acast.com/nobelprizeconversations/episodes/carolyn-bertozzi

“Your purpose as a scientist is not to achieve fame or money, that is not your purpose, those might be side effects and good for you, that could be wonderful for you but it is a side effect, it is not the main goal. The main goal is to make discoveries and gift them to humanity. And those discoveries and that knowledge stays with humanity long after you are gone.” — Carolyn Bertozzi on the scientist’s purpose.

国立国会図書館デジタルコレクションの使い方―公式動画が公開されています。

いつも紹介している国立国会図書館のデジタルコレクションについてのツイートをみつけました。図書館員向けと銘打ってありますが私達でも十分役立つ動画で参考になると思います。


こちらのリンクに教材の動画へのリンクと、資料のダウンロードリンクがのっています。
https://www.ndl.go.jp/jp/library/training/remote/index.html

新しい研修教材は三つあります。
上のリンクにある2番目の資料の紹介をしておきます。他の2つも役立ちそうですので興味があればご覧になるとよいと思います。

『国立国会図書館デジタルコレクション―国立国会図書館の提供するレファレンスツールを使いこなす―』
https://www.ndl.go.jp/jp/library/training/remote/referencetool_dl.html
https://youtu.be/pAz_QloQ3cw?si=ssCkF62C215xImm3

チューリッヒ工科大学のAI in the Sciences and Engineeringというすごい講習会が公開されています!!

英語の講演会ですがこんなすごい講習会が開催されて、YouTubeで動画をみることができます。スイスの名門校チューリッヒ工科大学で開催された講習会です。
AI in the Sciences and Engineering (2024)
動画をみることができるだけでなく、スライドや教材もダウンロードできて手を動かして学ぶことができるようになっています。これは夏休み必見の講習会ですね。毎日暑いですが物理、化学、生物、工学などでのAIの応用について学べるのでおすすめです。修士レベルの講習会のようですが、(スライドを見ただけで動画はまだみていないのですが)ちょっと背伸びして学びたい学部生にもお勧めできる内容だと思います。
こちらの講習会のホームページをご覧ください。
https://camlab.ethz.ch/teaching/ai-in-the-sciences-and-engineering-2024.html

解くのが難しかったり、コストがものすごくかかったりする偏微分方程式PDEを深層学習で解くという話を軸に、AIの基礎と応用が学べるようになっているようです。チュートリアルもGitHubにまとめてあって、最初はPyTorchの実習です。
https://github.com/camlab-ethz/AI_Science_Engineering
イントロの動画はこちらです。
ETH Zürich AISE: Course Introduction
https://youtu.be/LkKvhvsf6jY?si=KEpC8A9o5-bgVq2P

数学嫌いの人のための動画や、圏論の新しいソフトパッケージが公開されています。

How does maths influence our everyday life? – with Eugenia Chengというタイトルの動画が公開されました。
https://youtu.be/_FNpKjs0Va0?si=JkICJpPHEqjh4zeC
これはRoyal Institutionでたびたび講演しているChengさんの最新動画です。彼女の新刊 Is Maths Real? How Simple Questions Lead Us to Mathematics’ Deepest Truthsの紹介を兼ねた講演です。

Chengさんの圏論の入門動画は以前紹介しました。以下の記事でChenさんについても簡単に紹介していますのでご覧ください。

圏論Category Theoryの英語の入門講演を紹介します。

圏論と言えば、圏論の無料ソフトが公開されています。Wolfram Languageで動くものでMathematicaなどから使えるようです。こちらにどんなことができるかなどが書いてあるプレプリントがありますので、興味のある方はご覧ください。

Applied Category Theory in the Wolfram Language using Categorica I: Diagrams, Functors and Fibrations
Jonathan Gorard
https://arxiv.org/abs/2403.16269
著者のツイートはこちら。https://nitter.poast.org/getjonwithit
Categorikaのコードが公開されている彼のGitHubはこちらです。https://github.com/JonathanGorard
Gorardさんは、Wolfram Physics Projectの主要な研究メンバーで、新しい枠組みで一般相対性理論や量子力学などを再構成している人です。万物の理論の一つであるWolfram Physicsにも注目してみると面白いかもしれません。

新撰組の女剣士―中沢琴について調べてみましょう。

昨日は、アメリカに剣術を広めた森寅雄の話をしました。紹介した本、『上毛剣術史 下巻』に森寅雄の話が書いてありました。上毛剣術史には上巻、中巻もあります。

諸田政治 著『上毛剣術史』上,煥乎堂,1979.11. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12145526 (参照 2024-07-31)
上毛というのは群馬県のことで、上巻は法神流という群馬県赤城村で生まれた剣術の流派についてまとめられています。法神流の剣士といえば新撰組にはいっていた中沢良之助が有名ですが、その妹の中沢琴もやはり新撰組に男と偽って入っていた剣士として有名です。NHKの時代劇でとりあげられていましたが、最近のゲームにも登場するとか聞いたことがあります。次の本に琴のことも書いてあるので興味のあるかたはご覧ください。

小西敬次郎 著『上毛剣豪史』上,みやま文庫,1969. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12142133 (参照 2024-07-31)

こちらにもっと詳しい文献調査の結果がのっています。
『新徴組に参加していた中沢琴についての資料があるか』 レファレンス協同データベース(レファ協)
https://crd.ndl.go.jp/reference/detail?page=ref_view&id=1000206468

これは、国立国会図書館が全国の図書館等と協同で構築している、レファレンス(調べものの相談)のデータベースです。
https://crd.ndl.go.jp/reference/

調べ物のやり方も学べるのでこの機会にいちどいろんな調査事例をながめてみるとよいでしょう。調査の仕方も学べるようになっています。

上毛剣術史 中巻は上泉信綱の伝記になっています。
諸田政治 著『上毛剣術史』中 (剣聖上泉信綱詳伝),煥乎堂,1984.12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12149827 (参照 2024-07-31)
新陰流の創始者の詳しい伝記です。海道龍一郎の『真剣』(新潮文庫)はこの上毛剣術史をもとに書かれたそうです(著者あとがきによる)。昔は古書店を巡って探さなくてはならなかったこうした本がオンラインで読めるのはすごいことですね。

フェンシングの金メダルの報を聞いて思い出した名前。

オリンピックで続々とメダルがでていますね。フェンシングでは加納虹輝選手がエペで、個人として日本初の金メダルを獲得したと大きく報じられていました。おめでとうございます。このオリンピックのフェンシングのニュースで思い出しました。皆さんは森寅雄という名前を聞いたことがありますか?

ベルリンオリンピック(1936年)の時のアメリカチームのコーチだった森寅雄は、アメリカに剣道を普及させた昭和の武蔵と呼ばれていた天才剣士です。
渡米してアメリカでフェンシングを習い、最初は負けていたのですが剣道の経験を生かして工夫し、負けた相手に再戦を挑み完勝。さらに3本勝負を連続で6人の相手に行い、18連勝したという話です。こちらの本に書いてありました。
諸田政治 著『上毛剣術史』下,煥乎堂,1991.6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12144163 (参照 2024-07-30)
該当箇所はこちらです。
https://dl.ndl.go.jp/pid/12144163/1/360
たったフェンシングを習い始めてわずか6ヵ月のトレーニングで全米フェンシング選手権準優勝(誤審で優勝を逃したともいわれています)を勝ち取っています。1960年、1964年、1968年のオリンピックにコーチとして参加したと、国際フェンシング連盟のサイトに書いてありますからすごいですね。以下に引用しておきます。
Torao Mori practiced Kendo (Japanese fencing) before moving to the United States and discovering fencing. He came 2nd at the U.S. National Fencing Championships. It was a great shock to see him almost winning the championship after training only for 6 months. Due to his strength as well as his name, he was called “Tiger Mori.” He participated in the 1960, 1964 and 1968 Olympic Games as a coach.

アメリカでは尊敬をこめてタイガー・モリと呼ばれていたそうです。このサイトHall of fameには日本人は三名しか掲載されていません。
https://fie.org/fie/structure/hall-of-fame

加納選手も太田選手のようにこのサイトにのるのでしょうね。金メダルおめでとうございます。

森寅雄というのは司馬遼太郎さんのエッセイではじめて知った名前だったのですが、こちらのサイトにさらに詳しく書かれています。
よいサイトなのに」広告があって見にくいのでBraveでのアクセスをおすすめします。
https://serai.jp/tour/1040630

シッフの量子力学の教科書が無料でダウンロードできます。

ツイートをみていたら、有名なSchiffの量子力学の教科書が無料でダウンロードできるのを知りました。


この出版社のサイトからは他にも数学の本https://www.bwpest2018.org/books/mathematics.htmlなどが無料ダウンロードできます。

これとは別に統計の本も無料で読めるのを知りました。統計的手法の誤った使い方について学べるよい本ですので是非ダウンロードしてみてください。

『ダメな統計学』 https://repun-app.fish.hokudai.ac.jp/pluginfile.php/6536/mod_resource/content/1/%E3%82%BF%E3%82%99%E3%83%A1%E3%81%AA%E7%B5%B1%E8%A8%88%E5%AD%A6.pdf
英語版はこちらで公開されています。https://www.statisticsdonewrong.com/