量子化学の密度汎関数法についての記事や動画、MateriApps(物質科学シミュレーションのポータルサイト)の紹介です。

先日、第68回物性若手夏の学校のテキストが公開されのを紹介しました。私のおすすめの記事の一つが次の記事です。

2次元と3次元をつなぐ 計算物質科学入門

小野 頌太
p. 1-24
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_1
です。

最初の部分で密度汎関数法(Density Functional Theory)の簡潔明解な解説があります。一部を以下に引用します。

1964 年と 1965 年に、ホーエンベルグ、コーン、シャムらによって量子系の基底状態を取り扱うための密度汎関数理論(Density Functional Thoery, DFT )が考案された [2, 3] 。量子力学の問題を、3N 個の変数を持つ波動関数 Ψ(r 1 , · · · , r N ) に関するシュレーディンガー方程式に帰着させるのではなく、3 個の変数を持つ電子密度 ρ(r) に関するコーン・シャム方程式に帰着させる理論である。現実物質に対して数値的にコーン・シャム方程式を解くための手法が研究され、原子・分子・結晶・薄膜・表面など様々な系の物性予測に適用さ
れ、現代のマテリアルデザイン研究における基礎を成している *1
今日では様々な特徴を持つ第一原理計算プログラムが開発されており、その多くが有償または無償で利用できる。例えば、物質科学シミュレーションのポータルサイト MateriApps を利用することで、興味ある物性を計算できるアプリを検索することができる( https://ma.issp.u-tokyo.ac.jp/ 。また DFT については、教科 [4, 5, 6, 7] などに詳細な説明がある。レビュー論文 [8, 9] は最近の応用展開を把握するのに役立つ。

この引用部分だけでも密度汎関数法についての概要がわかりますね。さらに後半で紹介されているMateriApps(物質科学シミュレーションのポータルサイト)はとてもよいサイトで、いろんなソフトウエアの情報満載ですので是非一度訪れてみてください。

裳華房から公開されている以下の動画も密度汎関数法について知るにはよさそうです。次の再生リストに
【量子化学】DFT (密度汎関数理論) の基礎① ② ③の動画へのリンクがあります。
https://youtube.com/playlist?list=PL8Lf1iTG2LKWYi1D7j6oLKF0Fkp0JZ8x8&si=xQHYk08AXVuSAABV
このブログでは、②の動画を埋め込んでおきます。

機械学習のTransformerの論文”Attention Is All You Need”の日本語での解説のサイトが公開されています。

こちらのツイートで、Transformerの基本論文の日本語詳細解説のページを教えてもらいました。

 

AI界を席巻する「Transformer」をゆっくり解説(1日目) ~Abstract編~
https://zenn.dev/attentionplease/articles/2d4b2b55ba396e

8日目までの記事でこの論文の全部が日本語で解説されています。用語の解説も1日目にありますので、これは役立つと思います。

統計入門に役立ちそうなサイトの紹介ツイートの紹介です‥‥。

お盆がはじまっています。我が家でもお迎えの行燈(行灯)をこしらえて夕方玄関先に飾って火を灯しました。昼間は猛暑が続いていますが、ここ数日は朝おきてみると、ちょっぴり秋めいた感じがします。はやく涼しくなってくれるといいですね。

さて今日は簡単な記事ですみません。奥村先生のツイートを引用します。いろんな統計に関する教材があるサイトを紹介している方の引用ツイートです。このサイトは役立つ人が多いのではないでしょうか。

写真は朝、我が家のブドウにとまっていたクマゼミです。接写しようと近づくと飛び去ってしまいました。

東京大学が公開している、高校生以上向けの一般講演の動画を紹介します。

このブログでも東京大学の公開している講演動画をたびたび紹介しています。今日は最近公開された動画を三つ紹介します。

1) 高校生のための冬休み講座2023 「匂いの世界」竹内春樹教授
https://youtu.be/1fe6mKfLysA?si=UJnyGtpwecGqKtNa

私は最近、線虫C. elegansの嗅覚の遺伝子をいろいろ調べているので、とても参考になる講演だと思いました。

2) 東京大学理学部オープンキャンパス2024 オンデマンド講演会「重力波天文学の夜明け」山本 貴宏 特任研究員
https://youtu.be/Y9eeNvpN-1Q?si=aGC4PARWqBKuGwoZ

重力波天文学というのは面白そうな分野ですね。最先端の研究者の方の講演で面白そうです。

3) 伊藤 由佳理「美しい数学の世界」第137回(2023年秋季)東京大学公開講座
https://youtu.be/WVwSiuv2NiA?si=qvYo6prKglxaf7-M

数学についての面白い講演です。

AJACSの講習会「ChatGPT等の生成AIツールを研究活動に活用する注意点を知って・学んで・使う」の動画や講義資料が公開されました!

6月に開催されたこんな講習会の講義動画、講義資料、質疑応答資料などが公開されています。
ページの講習会の案内文を引用しておきます。
『データ解析講習会:AJACS(あじゃっくす)」は、生命科学におけるデータ解析の入り口を提供する講習会です。
ChatGPTをはじめとする生成AIは、その特性を理解して活用することで、文献調査や資料作成などさまざまな作業を効率化できます。AJACS「ChatGPT等の生成AIツールを研究活動に活用する注意点を知って・学んで・使う」では、生成AI技術の基礎を振り返るとともに、生成AIツールを賢く使って研究の生産性を高めるノウハウを、fuku株式会社 代表取締役の山田 涼太氏にご紹介いただきます。』

AJACS「ChatGPT等の生成AIツールを研究活動に活用する注意点を知って・学んで・使う」
まず講義資料などがダウンロードできる、以下のリンクを見てください。
https://biosciencedbc.jp/event/ajacs/ajacs2024-06-20-generative-AI.html

動画はYouTubeでも公開されているので埋め込んでおきます。

生成AIの可能性と課題 ~賢く使いこなすために~ @ データ解析講習会:
AJACS「ChatGPT等の生成AIツールを研究活動に活用する注意点を知って・学んで・使う」
https://youtu.be/qoLntmNVzFg?si=w-9rTv_BSonU0z1Y&t=11s

研究効率化の鍵は生成AI ~文献調査・資料作成を加速するサービス~ @ データ解析講習会:AJACS「ChatGPT等の生成AIツールを研究活動に活用する注意点を知って・学んで・使う」
https://youtu.be/yWY7p8TH9HI?si=vy7pdk27wSiCMg6R

国立国会図書館デジタルコレクションで読める本の紹介(第18回)

国立国会図書館デジタルコレクションで読める本の紹介(第18回)

184)佐武一郎 著『リー環の話』,日本評論社,1987.6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12622068 (参照 2024-08-10)
数学セミナーの連載から生まれた本です。

185)小出昭一郎 著『量子力学のはなし』,東京図書,1983.6. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12592676 (参照 2024-08-10) 小出先生の量子論や量子力学の教科書は大学生のときに勉強しました。この本は、それよりさらにコンパクトで数式がほとんどない一般向けの本です。小出先生の教科書を読む前のイントロによいと思います。

186) 野口宏 著『カタストロフィーの話 : 現代数学の社会的応用』,日本放送出版協会,1976. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12622026 (参照 2024-08-10) お察しのように、今紹介している本は、詳細検索画面のタイトルのところに「の話」と入れて検索した結果の一部です。この本は、ルネ・トムのカタストロフィーの理論がでたときに野口宏先生が書かれた一般向け解説書の一冊です。

187) フランシス・ビター 著 ほか『磁石の話 : ある物理学者の生い立ち』,河出書房新社,1977.10. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12593891 (参照 2024-08-10) これは物理学者のビターの自伝です。科学者がどのように育ち、研究をすすめているのかがよくわかる本だと思います。サイエンススタディーシリーズの一冊で物理学入門レベルの啓蒙書シリーズの本です。

188) 戸倉仁一郎 著『化学のあけぼの : 化学者カンニツァロの生涯』,共立出版,1982.10. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12222972 (参照 2024-08-10) これは波乱万丈のイタリアの科学者の伝記です。アボガドロの業績を再評価して原子量や分子量が計算できるようになったのはこの人の業績のおかげです。政治家、軍人としての活躍も詳しく書かれています。こんな人がいたんだと読めば感動すること請け合いの本です。

189)スティルマン・ドレイク 著 ほか『ガリレオの生涯』1 (ピサの斜塔と自由落下),共立出版,1984.12. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12624095 (参照 2024-08-10) これはガリレオの詳しい伝記です。これは第1巻ですが、第3巻まであっていずれも個人送信資料で読むことができます。科学者としての業績を中心に書かれたガリレオの伝記です。

190)V.I.アーノルド [著] ほか『古典力学の数学的方法』,岩波書店,1980.5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12592921 (参照 2024-08-10) 解析力学や力学系の理論を学ぶときに役立つ有名な教科書です。

191)吉仲正和 著『ニュートン力学の誕生 : 現代科学の原点をさぐる』,サイエンス社,1982.5. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12592855 (参照 2024-08-10) よみやすい科学史の本です。

192)G.E.アレン 著 ほか『20世紀の生命科学』1,サイエンス社,1983.8.. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12603205 (参照 2024-08-10) 全2巻からなる翻訳書はすべて個人送信資料で読めます。どちらかといえば発生学の歴史という感じの本です。シュペーマンの実験発生学からはじまる生物学の歴史書は珍しいのではないでしょうか。

193)G.ショケー [著] ほか『初等幾何学』,岩波書店,1971. 国立国会図書館デジタルコレクション https://dl.ndl.go.jp/pid/12622131 (参照 2024-08-10)私が幾何学を学んでいた時、角度って何かわからなくなって、本屋でみつけて購入した本です。現代的な観点から初等幾何学をまとめてある本です。角度とは何かもはっきり書かれていて、読んですっきりできる本です。

英語の統計解析の教科書が無料公開されています。

無料公開されているのは次の二冊の本です。本のなかに載っているコードとかもダウンロードできます。

Active Statistics by Andrew Gelman and Aki Vehtari. Published by Cambridge University Press in 2024 (March)
https://avehtari.github.io/ActiveStatistics/
もう一冊は、上の本の教科書にあたる同一著者による本です。

Regression and Other Stories by Andrew Gelman, Jennifer Hill, and Aki Vehtari, including the code and data for the examples.
Published by Cambridge University Press in 2020.
https://avehtari.github.io/ROS-Examples/

結構評判になっている本のようですので、いちどダウンロードしてながめてみると、役立つ本かもしれません。

AIが科学や数学に今後どのように貢献するかというテーマの、フィールズ賞受賞者の講演を紹介します。

毎日暑い日がつづいています。夕方、地震警報のけたたましい音に驚きました。外のスピーカーからは「大地震です。大地震です」という大音量のアナウンスが流れたので、S波の揺れを覚悟しましたが、結局感じられるような揺れは来ませんでした。最初のP波も気付かなかったので私たちのところ(福岡県北部)は地震警報やアナウンスは空振りでした。揺れの激しかった宮崎方面の皆様のご無事をお祈りします。

今日は講演会の動画を簡単に紹介してさっさと寝ることにします。
Oxford Mathematicsのチャンネルの最新の動画です。
The Potential for AI in Science and Mathematics – Terence Tao
Tao先生は、カリフォルニア大学ロサンジェルス分校の教授で、数学のノーベル賞といわれるフィールズ賞受賞者です。一般向けにChatGPTで代表されるAIの科学、数学への応用について解説してくださっています。将来はAIの数学者と人間の数学者が対話しながら証明をすすめたり研究するようになる時代、Big Mathematicsの時代がくるだろうという話もありますので是非ごらんください。後半は数学者のPo-Shen Loh教授との対談になっています。この動画はちょっと早めの英語ですが、ききとりやすい英語ですので字幕なしでもついていけるかもしれませんが、理解しやすいので私は字幕を表示することをおすすめします。
https://youtu.be/_sTDSO74D8Q?si=fsYgc2paD80qJC3m

気候変動の無関係な情報パネルというものが表示されていますが、これもYouTubeのAIによる表示かもしれませんね。AIは間違うというこの動画の中の話(7*4+8*8=120とAIが答えたという話がこの動画で紹介されています)の一例かもしれません。

脳の神経細胞の活動の同期に量子もつれが働いている可能性を提唱した中国の科学者の論文がPhysical Review 誌に掲載されています。

上海大学から、脳の 神経細胞がもっているミエリン鞘 myelin sheath (詳しい説明はこちらの脳科学辞典をご覧ください。https://bsd.neuroinf.jp/wiki/%E9%AB%84%E9%9E%98)のリン脂質のCH bondが量子もつれをもった光子を発生させることができ、この量子もつれが、脳で神経細胞がシンクロして活動するのに役立っているのではないかという論文がでました。超有名誌のPhysical Reviewに掲載されている以下の論文です。

Entangled biphoton generation in the myelin sheath
Zefei Liu, Yong-Cong Chen, and Ping Ao
Phys. Rev. E 110, 024402 – Published 2 August 2024
https://journals.aps.org/pre/abstract/10.1103/PhysRevE.110.024402

ペイウオールに阻まれているので無料では読めません。ただプレプリントが公開されているのでそれを読むとよいと思います。
プレプリントはこちらから読めます。
https://arxiv.org/abs/2401.11682

序文をながめてみました。今日まで、いろんな脳での量子機構が提案されていて Hameroff とPenroseの微小管による量子計算の理論あなども有名ですが、理論と実験が合わないという論文もでているそうです。ただ以前このブログでも紹介したように生物は極めて弱い光子(赤外線領域の波長を持つ光子photon)を発生させていることがわかってきており、この光子が生命にとって雑音ではなくて何か重要な働きをしているのではという可能性が高くなってきているそうです。この論文ではこうした光子がリン脂質の足にあたる脂肪酸のメチル基やメチレン基のCH結合の振動によって発生し、その発生した光子の量子もつれが、神経活動の同期(シンクロ)に働いている可能性を提唱しています。

英語ですがこちらの紹介が詳しいと思います。
Researchers Explore Quantum Entanglement’s Potential Role in Neural Synchronization
https://thequantuminsider.com/2024/08/03/researchers-explore-quantum-entanglements-potential-role-in-neural-synchronization/

日本語のITMediaの記事でも概要がわかります。
脳内の神経細胞で「量子もつれ」が発生してる? 何百万の脳細胞間の同期活動を説明か 上海大学が発表
Innovative Tech
2024年08月07日 08時00分 公開
[山下裕毅,ITmedia]
https://www.itmedia.co.jp/news/articles/2408/07/news047.html

物性若手夏の学校のテキストが公開されました。生物物理学関係の記事を読んでみましょう!

第68回物性若手夏の学校のテキストが昨日、J-STAGEで公開されました。
https://www.jstage.jst.go.jp/browse/natsugaku/list/-char/ja

おすすめの記事をいくつかあげておきます。
2次元と3次元をつなぐ 計算物質科学入門
小野 頌太
p. 1-24
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_1
です。最初の部分で密度汎関数法(Density Functional Theory)の簡潔明解な解説がありますので是非お読みください。

生命科学関連の記事としては、つぎのような記事がおすすめです:

増殖している細胞のマクロ現象論とその破れ
姫岡 優介
p. 162-183
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_162

植物のかたちと力学
山口 哲生
p. 251-258
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_251

アクティブマターとトポロジーと生命現象
川口 喬吾
p. 259-266
発行日: 2024年
公開日: 2024/08/05
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.2.0_259

また去年の夏の学校のテキストも公開されています。https://www.jstage.jst.go.jp/browse/natsugaku/1/0/_contents/-char/ja

クロマチンの物理
坂上 貴洋
p. 293-303
発行日: 2023年
公開日: 2023/02/07
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.1.0_293

アクティブマター物理学:集団運動の秩序とゆらぎ
西口 大貴
p. 304-320
発行日: 2023年
公開日: 2023/02/07
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.1.0_304

細胞を擬2次元膜で包まれたミクロ3次元液滴として理解する
柳澤 実穂
p. 216-227
発行日: 2023年
公開日: 2023/02/07
DOI https://doi.org/10.57393/natsugaku.1.0_216

このような生物物理関係の記事もあるので、是非読んでみることをおすすめします。
微分方程式モデルでの生命現象の記述という、昔ながらの理論生物学ではない、新しい生物物理の動向を知ることができると思います。