Oumuamuaは宇宙人の探査機か?プレプリントサーバーとその活用法の紹介その5

OUMUAMUAというのを聞いたことがありますか?昨年発見された、人類がはじめて確認した太陽系外からの侵入してきた物体で、宇宙人がつくった宇宙探査機ではないかという説がささやかれていたものです。これに関する多くのプレプリントがプレプリントサーバーにアップロードされていますので、興味のある方は読んでみるのをおすすめします。Cornell大学のプレプリントサーバーarXiv.orgにアクセスして、oumuamuaで検索してみてください。50ほどのプレプリントがヒットします。

2017年10月にみつかったOumuamuaは、見つかった時すでに地球からは遠ざかっており、毎秒26 km/sという高速で太陽系に侵入して通過していったのですが、形がみえるほどの高解像度の望遠鏡はなかったので、望遠鏡ではその姿はとらえられておらず、光りかたなどからは幅:長さの比が1-5~10とみつもられているそうです。その起源は太陽系のオールトの雲由来ではなく、また近くの恒星系の外辺にある星(たとえばαケンタウリ)なの周辺にあるオールトの雲由来とも考えられないそうです。とても遠い宇宙からの来訪者のようでこれが彗星か小惑星かなど皆が注目して観測したそうです。光の反射などから推定されたその形は通常の小惑星や彗星のものではなく、とても明るい表面をもつ物体のようで宇宙人のつくった探査機かもしれないとうわさされていました。形の想像図はヨーロッパ南天天文台(ヨーロッパなんてんてんもんだい、European Southern Observatory、略称:ESO)の機関誌The Messenger の173に載っているRendezvous with `Oumuamuaという記事のp15をご覧ください。プレプリントサーバーの論文にもありますが、探査機なら電波を出しているのではないかということで、FM波長で電波が放出されていないかの観測がつづけられたそうですが、電波は検出できなかったとのことです。ただ面白いのは、太陽の重力だけでは説明できない、異常な加速がみられたとのことで、これがもし彗星などなら太陽の熱で氷がとけて尾をひいて加速したと思われるのですが、尾の形成もなくただ原因不明の加速がみられたのでした。このブログで紹介しているプレプリントサーバーをご覧になるとそれを説明する論文がだいぶ前に掲載されていたのがわかります。ハーバード大学のLoeb先生たちの論文で、Oumuamuaの加速は、日本のイカロスで実用化されたsolar sail(太陽帆)によって引き起こされたとすると説明が容易であるというのです。このプレプリントは最近、査読にとおってAstrophysical Journal Lettersという雑誌に発表されて、最近新聞やネットニュースで大きくとりあげられました。
著者はさらに多くのプレプリントをアップロードしていますが、その中で最近Scientific Americanのブログにも公開されたプレプリントは著者の考えをわかりやすく書いていておすすめです。

ブログには埋め込みできないようですが、以下の動画に Loeb先生のインタビューがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=WBekHr6nrU8

もしOumuamuaが宇宙人の探査機のようなものだったとしたら、それを追いかけて確認するというのも将来可能になるかもしれません。しかしもっと簡単なのは太陽と木星の重力にとらえられている宇宙人の作った人工物を探すことではないだろうかと書いています。太陽と木星の重力場は宇宙に張られた網のようなもので、この重力網にとらえられているであろう人工物(宇宙人の作った探査機など)を探すのが、電波で宇宙人からのメッセージを探すより手っ取り早いのかもしれないというわけです。Loeb先生たちはそのような物体の頻度を見積もる論文も最近プレプリントサーバーにアップしているようです。みなさんもプレプリントサーバーをいろいろ見て、活用してみてください。

Oumuamuaの論文は、アーサー・クラークの書いたRendezvous with Ramaという作品(「宇宙のランデヴー」という題で邦訳がでています)のラストシーンが思い起こさせます。またScientific Americanの記事のプレプリントを読むと、野尻抱介さんの「沈黙のフライバイ」のラストも思い起こされました。

テキストデータをどんどん蓄積していくソフトの紹介その3―詳しいTextclipperのclipfileツールの使い方です

前に紹介したTextClipperのクリップツールの一つclipfileを作者の吉村隆樹さんがバージョンアップしてくださいました(2018/11/28)。前のバージョンを使っている方は新しいバージョンにしてください。ここからバージョンアップ版をダウンロードして解凍してできたclipfile.ctaファイルをtextclip7962フォルダ中に上書き保存するだけです。以前のバージョンでは保存日時の年号が正しく入らなかったのですが、今回のバージョンアップで2018がちゃんと入るようになりました。吉村さんによると典型的な2000年問題だったそうです。バージョンアップをお願いして数時間で新バージョンを作ってアップロードしてくださいました。吉村さん、どうもありがとうございました。

以下では先日紹介したTextClipperのクリップツールclipfileの使い方をもうすこし詳しく紹介しておきます。
1)まずTextClipperをここからダウンロードしてダウンロードしたzipファイルを解凍してください。解凍してできたフォルダがtextclip7962という名前になります。このフォルダはProgram Filesのフォルダには入れないでください。入れると動きません。このプログラムを使用するには7-zip32.dllが必要です(バックアップ時)のでここから取得してください。

2)ここまでの作業でtextclip7962というフォルダができました。バージョン番号がフォルダ名になっていますね。TextClipper本体はこのフォルダの中にあるtextclip.exeです。これをダブルクリックするとTextClipperが起動します。このソフトの使い方については

http://www.hi-ho.ne.jp/makoto_watanabe/tc/index.html などをみてください。

では次にclipfileというクリップツール(TextClipperの機能拡張のようなものです)をインストールしましょう。これはブラウザにかぎらずMS WordやAcrobat Readerで表示しているpdfファイルなど、任意のソフトで表示しているテキストを選択し、それを規定の名前のテキストファイルTc_txt.txtに次々と保存できるツールです。
一つのテキストファイルに、保存日時と出典、および保存時に追加できる任意のキーワードとともに保存してくれます。新しくクリップしたテキストはもとのテキストファイルの末尾に追加されます。これを使うと、ネットサーフィンで見つけたテキストをキーワード付きでテキストファイルで保存できますので、あとで秀丸など適当なテキストエディタでgrep検索して簡単に探し出すことができます。保存するときに将来検索の時に思いつきそうな、選択したテキストには含まれないキーワードを追加しておけるので、後々の検索時に探しもれが少なくなるのもこのツールの便利な点です。

3)では、clipfileを使えるようにしましょう。
以下のurlからクリップツールのclipfileを選んでダウンロードします。
http://takaki.la.coocan.jp/freesoft/textclipper/
ここをクリックしてダウンロードしてもいいと思います。clipfile.zipがダウンロードできますので、前に紹介した7-Zipなどのソフトで解凍します。解凍してできたclipfile.ctaというファイルを上の2)でできたtextclip7962のフォルダにドラッグして移動させます。これでclipfileを使う準備ができました。

4)TextClipperを起動して、clipfileを使ってみましょう。
まずTextClipperを起動します。

上の図のヘルプの左にある、環境設定を選び、

開いてでてくるメニューでクリップツールキーをAlt+cなど好きなキーの組み合わせに設定します。

これでAlt+Cを押したらクリップツールが動くように設定できました。

5)では、実際にテキストを適当に選んでスクラップブックのようにテキストファイルに保存してみましょう。
まずTextClipperを起動しておいてください。そのあと、ブラウザなどで適当なサイトを訪れて、保存したいテキストを選択し、さっき決めておいたクリップツールキー(Altをおして同時にCを押す)を押します。すると下の画像のようにポップアップメニューが開いて一番上に「TextFileに追加」がありますのでこれを選択します。
するとキーワード入力のポップアップ画面が開きますので、あとで検索に便利なキーワードを入れます。複数入れても構いません。自由に入力しましょう。

保存ボタンをおして完了です。Tc_text.textという名前のファイルに上の選択した部分が出典の一部、日時、キーワードとともに保存されているはずです。

ではうまく保存できたかどうかをtextclip7962フォルダ内にできているTc_txt.textというファイルを開いて確認しましょう。出典、日付、キーワード、クリップしたテキストの順に保存されていたら成功です(下図参照)。

上の例では、私の去年の学会でのランチョンセミナーの講演動画がでているYouTubeのページにあるテキストをクリップしたテキストの後に、今しがたクリップした論文のテキストが追加されています。N型糖鎖、先天性グリコシル化異常症などとあるのは、さきほどつけたキーワードです。その下にクリップしたテキストが保存されているのがわかります。

このように、ちょっと気になったテキストを、どんどんクリップして蓄積しておき、あとで秀丸エディタなどのテキストエディタのgrep検索機能で検索します。grep機能についているタグジャンプ機能を使えば該当するクリップしたテキスト全文のある場所に容易にジャンプすることができます。テキストファイルのサイズが大きくなってきたら、Tc_text.textファイルの名称をTc_text1.txtなどすきな名前に変更します。次にclipfileツールでクリップしたら、自動的にまっさらなTc_txt.txtファイルができてそこに保存されますので、またゼロからクリップがはじめられます。

こうしてできた大量のクリップファイルを一斉に grep検索したら何年にもわたって蓄積したデータを一瞬で検索できて便利です。データはテキストファイルですので、加工も活用もきわめて簡単です。英語論文の例文集の作成、アイデアメモの作成などいろいろな用途につかえるすばらしいツールですので是非活用してみてください。

写真は福岡で撮影したイチョウです。とてもきれいに黄葉しています。秋も深まってきました。

 

新しい私達の論文が公開されました―先天性グリコシル化異常症DPAGT1-CDGを線虫を使って研究するという論文です

先月投稿していた論文がアクセプトされて原稿がオンラインに掲載されました。Kanakiさんの修士論文の内容を主とした論文で、私達のCREST研究の成果を含めた論文です。Dejima君Matsudaさん、Murata君、Nomuraさん他 沢山の方々との共同研究の成果です。Oxford University Press発行の雑誌Glycobiologyを購読している方は是非ご覧ください。アブストラクトへのリンクは以下の論文のタイトルをクリックしてください。

UDP-N-acetylglucosamine-dolichyl-phosphate N-acetylglucosaminephosphotransferase is indispensable for oogenesis, oocyte-to-embryo transition, and larval development of the nematode Caenorhabditis elegans

糖鎖遺伝子の異常というのはアメリカ合衆国の人口の20%程度でみられるとされており、なんか具合が悪いと病院を訪れる患者さんや、100件近くの医療機関を訪れても原因がわからなかった患者さんのゲノム配列やmRNA配列をシークエンサーで調べてみると、糖鎖遺伝子の異常が原因であるということがわかったという例が頻出しています。それでアメリカでは糖鎖生物学者は病院、j研究所でひっぱりだこになっているということです。
今回の研究は先天性グリコシル化異常症CDG(congenital disorders of glycosylation)の原因遺伝子の一つでCDG-IjあるいはDPAGT1-CDGと呼ばれる病気の原因遺伝子DPAGT1の線虫での研究成果です。線虫でわかった結果をヒトの病気の解明に役立てようとする研究手法の実施例でもありますので是非ご覧ください。
先天性グリコシル化異常症についてはGoogle検索で「先天性グリコシル化異常症」といれてすぐにヒットする和田芳直先生の論文「先天性グリコシル化異常症CDGの分子診断」 (Proteomics Letters, 2017, 2, 1-6)をご覧ください。

私達の今回発表した論文ではヒトのN型糖鎖合成の第一段階ではたらく酵素DPAGT1の線虫版遺伝子algn-7を線虫で初めて同定し、遺伝子産物の酵素活性を確認、その遺伝子algn-7を阻害すると幼虫致死、卵母細胞形成異常、卵母細胞から胚への遷移(oocyte-to-embryo transition)が異常となることなどを報告しています。このDPAGT1遺伝子のノックアウトはマウスでは胚発生の初期での致死を引き起こしますが、お母さんマウスの体内でおこる死亡で詳しいことはなかなかわかりません。そこで線虫の登場となるわけです。
線虫は体が透明なので、発生していく卵母細胞などの様子が生きたまま観察できます。そこでこの研究では、この遺伝子の生殖巣での役割(幹細胞ニッチの形成から卵母細胞形成、そして受精)と初期胚分裂と幼虫期での役割を詳しく調べてみました。この遺伝子産物DPAGT1は従来日本で発見されてこの酵素を阻害する定番の薬であるツニカマイシンのターゲットとされてきましたが、ツニカマイシンはN型糖鎖の合成以外にも様々な副作用があります。実際 線虫で調べてみると、線虫でツニカマイシンを与えたときと、DPAGT1遺伝子を阻害したときとでは少々違った結果がでるのがわかりました。ツニカマイシンを使うより遺伝子そのものを阻害するのが一番確実です。線虫ではこの遺伝子の阻害がRNAiで強力かつ安定的に実施できます。そこで今回の研究ではDPAGT1遺伝子の機能をRNAiや遺伝子破壊で阻害したらどうなるかを詳しく調べた研究にもなっています。

このalgn-7遺伝子を阻害するとたしかにN型糖鎖の合成が抑えられることも確認できたので、さらに一歩すすめて生殖巣で発現しているどの「N型糖鎖がついているタンパク質」の阻害がalgn-7遺伝子の阻害でおこるのと同じ異常をひきおこすかも調べてみました。生殖系列で発現している遺伝子のリストとはすでに公開されています(RNA-Seqでの結果がすでに公開されています)。また線虫でN型糖鎖が付加されていることが実験的に確認されている遺伝子のリストもすでに公開されています(これもデータベースGlycoProtDBが公開されています。線虫、ヒト、マウスのデータがあります)、この二つのデータの胸痛部分456個の遺伝子をデータベース検索で選び出し、その遺伝子機能をRNAiで阻害した結果を調べてみました。その結果、同定できた5つの遺伝子は、algn-7の遺伝子阻害と同様の異常を引き起こします。これらの5つの遺伝子には、従来のCDGの原因遺伝子のほか、ごく最近にCDG遺伝子と同定されたもの、およびおそらくCDGでの異常症状の原因となる遺伝子ネットワークに関与していると推定されるものが含まれていることがわかりました。

  今まではN型糖鎖を阻害すると糖鎖付加が不十分なタンパク質が蓄積して小胞体ストレスが引き起こされてその結果、様々な表現型がでると漫然と考えられていましたが、小胞体ストレスはたいした影響は与えておらず、実はpatched遺伝子ネットワークなどいくつかの重要な遺伝子の機能阻害がCDGでの異常を引き起こしているのではないかと考察しています。是非、ご一読ください。

写真は先日 福岡市動物園に行ったときに撮影したお猿の子供たちの写真です。左上でブランコに上り初め、右で上まで到達。左下で下へとジャンプして落下し、右下で回転楕円体のような黄色の部分にのって遊んでいる一連の動きの写真です。朝早くでしたが元気にあそびまわっていて、子ザルの元気さがとてもよかったです。

 

AntConcの使い方と活用法その2―自分専用の英語論文例文集(コーパス)の作り方pdftotextの使い方

前回紹介した英語論文用の例文集に使えるAntConcはテキストファイルやhtmlファイルを扱いますが、最も身近な英語の例文集の素材はpdfファイルだと思います。そこで今回は英語の例文集の作成のために重宝する、「pdfファイルをテキストファイルに変換する方法」を紹介します。AcrobatやFoxit Readerなどでpdfを開いて、textファイルとして保存する方法は、pdfファイルが数百、数千ある場合は手作業では対応できません。こんな場合は、Acrobatなどで複数のpdfファイルを一つのpdfファイルに結合してからtextファイルに変換するという方法もありますが、そんなめんどうくさいことをしなくてもpdftotextという無料ソフトを使えば一括で複数のpdfファイルをそれぞれ別のテキストファイルに変換でますので、やってみましょう。

まずpopplerというpdfを扱うプログラミングライブラリ(その中にpdftotextが入っています)をお使いのWindows, Mac, linux用のものを選んでダウンロードしてインストールします。linuxではsudoコマンドでpopplerをダウンロードしてインストールできますし、Mac版もアプリストアからダウンロードできるはずです。私が使っているWindows 10やWindows 7のPCの場合については、ここに詳しいインストールの仕方が書いた記事がでているのを見つけました。大変丁寧に書いてありますのでそのよく読んでインストールしてください。私もこの記事のとおりにインストールして利用しています。

私はCドライブ直下にpoppler-0.68.0というフォルダ(ダウンロードしたPopplerの圧縮ファイルを解凍(解凍ソフトは註1をみてください)してできるフォルダ名のままコピーしただけです)を作り、その直下にあるbinフォルダ(binaryフォルダの意味で、実行ファイルが入っているフォルダのことです)に自分の必要なpdfファイルを集めてテキストファイルに変換しています。shareフォルダの下にはpopplerとrenameしたデータファイル(上述のホームページにあるリンク
https://poppler.freedesktop.org/poppler-data-0.4.9.tar.gz からダウンロードしたpoppler-data-0.4.9.tar.gzファイルを解凍したもの。註1参照)をおいてください。あとは以下のコマンドを記述したバッチファイルをテキストファイルエディタで作ることが必要です。

for %%i in (*.pdf) do (pdftotext %%i %%i.txt)

このコマンドをテキストファイルエディタにうちこみ、できたファイルに適当な名前(pdf2txt.batとかすきな名前)をつけて保存します。保存のときデフォルトではテキストファイルで保存されれウため、pdf2txt.txtになりますのでファイル名の変更でpdf2txt.batにするか、保存時に.batで保存してください。保存場所はpdftotextのあるフォルダ(上の例ではbinフォルダ)にします。

あとは、変換したいpdfファイルを上のbinフォルダにコピーして、コマンドプロンプトでpdf2txt.batファイルを実行するだけです。日本語のファイルも英語のファイルもともにテキストファイルに変換されます。(invalid font weightというエラーが出るかもしれませんが無視してよいようです。不都合があったら教えてください。)

以下はコマンドプロンプトが初めての人むけの簡単な説明です(註2参照)。

バッチファイルというのはwindowsのコマンドプロンプト(windows7では「すべてのプログラム」の部分をみていくと、アクセサリフォルダの下にあります。windows10では下の図の左端の写真ようにシステムツールの下にあります。)でファイル名を入力してエンターを押すと、ファイル内に書いてあるコマンドを逐次実行するというものです。

矢印のコマンドプロンプトをクリックして起動するとき右クリックで、管理者として実行を選んで起動しておくと管理者としてログインしていないときにおこるトラブルをさけられますので注意してください。

今回のバッチファイルは以下のような内容で動きました。

for %%i in (*.pdf) do (pdftotext %%i %%i.txt)

意味は、iという変数にpdfのファイル名をいれ、それにpdftotextコマンドを実行してpdfのファイル名(%%i)のついたテキストファイル(%%i,txt)を作るという操作をフォルダ内にあるすべてのpdfファイル(*.pdfというワイルドカード*を使っている部分で、任意のファイル名のpdfファイルを表しています) がなくなるまで一個ずつ繰り返す(for    doの部分)というものです。

コマンドプロンプトを上に説明したように起動すると、黒いバックに白い字の画面が開きます(上の真ん中の図)
自分の今いるディレクトリ(フォルダ)の名前が表示されています。これから目的のpopplerのフォルダを探すとき、たとえばCドライブの直下にpopplerのフォルダがあるなら、コマンドプロンプトでcd ..(cdとうって、ピリオドを二回うちます)というコマンド(これはディレクトリを上に登って行くコマンドです)を何回かうってディレクトリをC:¥>にします。上の図の右端の図。
dirとうつとディレクトリやファイルの一覧が表示されます。
popplerのフォルダへ移りたいのでcd poppくらいまでをタイプしてあとはタブキーを押してください。タブの自動補完機能でcd poppler-0.68.0と自動入力されます。(このタブ補完の機能はlinuxで重宝するのですがWindowsのコマンドプロンプトでも利用できますので活用してください。) enterキーを押すとC:¥poppler-0.68.0>と表示されてディレクトリを移動したのがわかります。ここでdirとうってenterを押すとディレクトリ内のファイルとフォルダが表示されます。プログラムファイルのあるbinのフォルダ(ディレクトリ)があるのを確認してください。cd binとうってenterを押すとbinのディレクトリに移動します。C:¥poppler-0.68.0\binとなっていたら成功です(上の右端の図)。再びdirとうってenterをおします。これでこのbinフォルダ内にあるすべてのファイルとフォルダが表示されます。あとはそこにコピーしてあるバッチファイルpdf2txt.batを実行する(コマンドラインにpdf2txtとうってenterを押す)と、自動的にファイル名のついたtxtファイルができあがります。

こうして一括でpdfファイルをテキストファイルに変換したら、あとはこれらのテキストファイルをAntConcに読み込んでコーパスとして論文を書くときに参照すればいいわけです。

もちろんテキストファイルですから、テキストファイルを一括検索して、検索結果にタグジャンプして参照できるgrepコマンドも使えます。適当な、grepコマンドが使えるエディタ(たとえば有料ですが秀逸なエディタでおすすめの秀丸エディタ)でpdfの内容を串刺し検索するのもよいですね。pdfgrepというソフトもあって、これを使えばpdfファイルのままでgrepができるそうです。これはまだ使っていません。windows版をダウンロードしてさきほどのbinファイルにコピーしておけば、コマンドプロンプトで使えるのですが、linux版とちがって検索語がハイライトしなかったりしてまだ使いこなせていません。興味のある方は使ってみてください。

註1:圧縮ファイルの解凍には私は7-zipを使っています。たいていの圧縮解凍はこれでできます。
註2:パスの通し方とかは説明しないでpdftotextを使う方法を説明していますので、良く知っている方はパスを通して適当な場所にpdftotextをおいて使ってください。

AntConcの使い方と活用法その1―自分専用の英語論文例文集(コーパス)の作り方

京都でひらかれた大学の同窓会にでかけたりして更新が遅くなりました。京都は快晴で、まだもみじの季節ではなかったですが美しかったです。しかし観光客が多いこと多いこと。スペイン語や中国語、韓国語、さらにはノルウエーの旗を立てた団体もみかけました。

さて、昨年の分子生物学会のランチョンセミナーの中でAntConcというフリーソフトウエアの紹介をしました。英文を書くときに自分専用の例文集を作っておいて、それが簡単に検索できればとても役立ちます。前回紹介したTextClipperで役にたちそうな例文をテキストファイルに集めておいて、AntConcというフリーウエアでコンコーダンス検索してヒットした例文を参考に英語を書く方法を紹介します。もちろん自分の関係分野の論文のpdfをテキストファイルに変換して集めておき、それをAntConcで検索してもいいわけです。pdfをテキスト化するには、pdfをAcrobatなどで開いておいてtextファイル形式で保存するのも一つのやり方ですが、一斉にpdfをテキスト化するならLinuxやWindows、macなどにあるpdftotextといったソフトを使うのが便利です。ウインドウズにもこれが含まれているLooperというソフトがありますのでそれを使うといいでしょう。これについては次回紹介します。

それではAntConcの使い方の解説をはじめます。AntConcはコンコーダンスソフトウエアという種類のソフトウエアで、検索語を入力するとテキストファイルからその単語を拾い出し、文中に含まれるその単語の前後をふくめて表示してくれるソフトです。単語の文中での出現頻度などその他の様々な情報もわかります。まず早稲田大学のLaurence Anthony先生ホームページから自分のパソコンのOS(mac, windows, linux)にあったソフト(無料です)をダウンロードします。ここのリンクをご覧ください。
AntConcのホームページには、YouTubeの解説動画や日本語の解説pdf(バージョン3.2,2の解説ですがとても参考になります)などへのリンクもありますので適宜参照するといいでしょう。
ダウンロードしたファイルは実行ファイルなのでダブルクリックして起動します。詳細な使い方は先生のhelpファイルのpdfがあるのでダウンロードしてみてください。

写真はダブルクリックして起動した直後の画面です。起動時にはConcordanceタブが開いています。 Fileメニューが上にあります。Fileメニューをクリックするとプルダウンメニューが開き、その一番上にあるOpen File(s)を選んで検索したいファイル(複数選択可能です)を読み込みます。(下の図)

複数のファイルを読み込んで串刺し検索もできます。またOpen Filesの下のOpen Dirを選ぶと、フォルダ(あるいはDirectory)内にあるすべてのテキストファイル(とかhtmlファイル)を検索してくれます。こうして必要なファイルを開いてやると以下のような画面になります。
下の写真は私達の論文(AkiyoshiさんのCGGDBデータベースについての論文をpdfからテキストファイルにしたものでcggdb.txtという名称にしました)を開いたところです。
Current Filesというところに検索するファイル名が表示されます。複数選択した時は選択したすべてのファイルが列挙されます。
では検索してみましょう。resultという単語を検索することにします。Search Termの部分にresultといれて検索窓の下にあるStartボタンを押して検索してみましょう。(このとき右にあるwordsにチェックをいれています(下図参照)。単語としてのresultが検索されます。Caseにもチェックをいれると大文字小文字の区別をして検索できますし、Regexにチェックを入れると正規表現(Perlタイプのもの)が検索に利用できます)ヒット数は上のほうのConcordance Hits に表示されます。

6個ヒットしています。注意したいのはWordsにチェックを入れた状態で、resultを検索するとresultsは検索されないことです。Wordsのチェックを外してresultとして検索すると、resultだけでなくresultsもresultedもresultingもひっかかってきます。(下図)

ヒット数が57となっているのがわかると思います。
Concordanceメニュ―では、resultというキーワード(Key Words)が文のコンテクストの中で(In Context)どのように使われているかが表示されています。この表示を略してKWIC表示といいます。結果の表示法は、いろいろ下のメニューで変更可能です。たとえばSearch Window Sizeはデフォルトで50文字(腱索キーワードの前後50文字ずつ)となっていますが、これは増やしたり減らしたりできます。ちょっと表示を左右に広げてみるとよくわかります。

Search Termの検索窓の下のほうにKwic Sortとあるのは、検索結果のソートボタンです。

図ではLevel 1が1R(キーワードresultの右の語でアルファベット順にソート)、Level 2が同じ右の単語の場合は、キーワードの二番目の単語でさらにソートします。それがLevel 2 2Rという部分です。Level 3は三番目の単語でさらにソートとなります。もしresultの左の単語でソートしたいときは、Level 1以下の部分を下向きの矢印ボタンを何回かクリックして、下の図のようにかえて、Sortボタンを押してください。

すると検索キーワードの左の単語で再ソートされますので、resultの前にくる単語がわかります。

次にKWIC画面で表示されている原文をみてみましょう。みたいヒット行の青字で表示されているキーワードをクリックしてみましょう。クリックした文を含む原文がFile Viewタブが開いてそこに表示されます。

Hit Locationという部分の上下の矢印をクリックすると、前や後のresultを含む原文が表示されます。カーソルをFile View画面で動かせるようにしておくと、マウスの中央ホイールをくるくるまわして前後のresultを表視することもできます。

皆さんもご自分でつくったテキストファイルやテキストファイル群をこのソフトで開いて遊んでみてください。大変有用なソフトです。ちょっと長くなったので今回はここで止めます。次回はAntConcのその他の機能と、どうやってpdfからtextファイルを作るかについてpdftotextの使い方を紹介したいと思います。

写真は元寇のとき筥崎宮が避難していた場所を訪れたときのものです。とてもいい天気で気持ちがよかったです。バス停をおりると案内板があって、650mほどのぼりの道を行くと古い社があって記念碑がたっていました。人はだれもいません。一番最後の写真は帰りの川面です。波紋がきらきらと川底に映えてハヤも泳いでいました。このへんはホタルも初夏には見られます。

テキストデータをどんどん蓄積していくソフトの紹介―その2 TextClipperの紹介です。

HeartyLadder (ハーティー・ラダー)というソフトをご存知ですか?このソフトのサイトにある文章をそのまま引用させてもらいます。
だれでもみんな人に伝えたい「こころ」があります。
笑みで、言葉で、手紙で、そしてE-mailで・・・・

本ソフトウエアは手などが不自由なため、キーボードやマウスでの入力が出来ない方のために 開発した文章入力用のソフトウエアです。
 ハーティーラダーは、文章の作成やメール、そしてWindows操作を支援するソフトウェアです。キーボードやマウスが使えなくても、漢字交じりの文章を書けて  E-mailのやりとりができます。またホームページを見たり、ワードやエクセルなど一般のアプリケーションの操作もできます。  このソフトを使ってラブレターも書いてもらえたら素敵だなぁと思いながら、  私たちも心を込めて作っています。また、2011年に公開したマイボイスというソフトを使うことで、自分の声での読み上げができるようになっています。 このHeartyLadderがあなたの『心の架け橋(HeartyLadder)』になればうれしいです。

Xoops(註1参照)でつくられているHeartyLadder のサイト ハーティー・ラダー・サポーターのぺ―ジhttp://heartyladder.net/xoops/をみるとこれが、物凄いソフトだということがわかります。このソフトの開発改良が多くの方々の参画を得て、日々 着実に進んでいるのを拝見して頭がさがりました。たとえば以下をご覧ください。
http://heartyladder.net/xoops/modules/whatsnew/
ハーティー・ラダーの開発者は吉村隆樹さん。以下に紹介するTextClipperの開発者でもあります。吉村さんについてはご自身の本、パソコンがかなえてくれた夢 (高文研)や、吉村さんのホームページ まなつのみかんにある、ブログをご覧ください。なおこのまなつのみかんのHeartyLadderの記述は古いようなので、上にあるリンクをご覧ください。

HeartyLadderはキーボードやマウスが使えない方でもラブレターが書けるようにというコンセプトのソフトですが、どんどん改良を重ねておられて、今では視線入力装置と連携してALSの患者さんも使えるようになっているそうです。視線入力装置対応のHeartyLadderも無料で公開されています。昔は150万円くらいした視線入力装置が2014年に12000円くらいで入手できるようになったそうで、この視線入力装置を使うためのソフトHeartyAiと、このHeartyLadderと組み合わせるとよいとのことです。以下に説明のpdfがありますのでご覧ください。http://heartyladder.net//upload/takaki/hearty/HeartyAi.pdf
関連した新聞記事もリンクが切れるかもしれませんが、ご覧ください。
https://mainichi.jp/articles/20180331/k00/00m/020/106000c

さて、TextClipperです。これは以下のページにある吉村さんの説明を引用しますと、こんなソフトです。http://takaki.la.coocan.jp/freesoft/textclipper/

TextClipperについて
本プログラムはテキストのデータベースです。
某ユーザーさん曰く
  テキストのデータベースなんてかたぐるしく言わずに、「アイデアクリップ」とか
「アイデアメモ」なんて紹介するともっとユーザーが増えると思います。

と・・・・・
多くのテキストをツリー構造で管理します。
データーベースというと、データの入力が結構大変です。特にテキストのデータベースになると、テキストファイルを読み込んだり、ソフトを切り替えてコピー&ペーストを繰り返してと言うことになるでしょう。でもこのソフトではそういう作業は必要としません。
世はインターネットブーム。ネットサーフィンに興じている人も多いでしょう。
そこで得た情報はどうやって管理しておられるでしょうか。
この部分の文章はとっておきたいと思っても、すぐに簡単には保存できないと思います。
でもこのソフトを常駐させておくと、ネットスケープやインターネットエクスプローラで保存したい部分を反転して後はボタンを1つ押すだけです。
タイトルを付けたりする必要もいっさいありません。
プログラミングやネットサーフィンをしながら手間をかけることなく自然とデータベースにデータが蓄積されていく感じです。これより簡単な保存方法はないでしょう。
また、その逆のデータベース化したテキストを利用するときも、簡単に使用中のワープロやエディタ、通信ソフトにペーストできます。
本プログラムはいろんな場面で応用できると思います。」

私はこのソフトのクリップツールという機能拡張を主に使っています。ネットサーフインしていてこれはと思ったテキストをキーワードをつけて(つけなくてもいいです)、どんどん一つのテキストファイル(Tc_txt.txtという名前のテキストファイルです)に保存していくことができます。新しくクリップしたテキストはこのテキストファイルの最後尾にクリップした日時、簡単な出典表記、自分でつけたキーワード(なしでもOKです)とともに追記されていきます。こうしてテキストデータベースを構築しておけば、あれはなんだったっけと思いだせないときにも、保存したテキストファイルをgrepソフトなどで検索したら一発で該当テキストをみつけられます。キーワードを保存時に追加しておけばなおさら検索は容易になります。保存には自分で保存用キーを設定することもできます。私はたとえばshift+Cにして保存しています(12月1日追記:すみませんshift+Cでは大文字のCを入れる時にクリップツールが起動してしまいだめです。alt+Cとか、shiftのダブルクリック+Cとかにしてください。)が、キーコンビネーションは環境設定メニューの、キー割当から設定できます。

クリップボードに入ったテキストファイルが保存されますので、TextClipperを常駐させておけば、Microsoft Wordやpdfリーダー(Acrobatなど)、ブラウザで表示したテキストなど任意のソース中のテキストファイルを保存することができます。一つの決まったファイルにクリップするごとに付け足されていきますので、このクリップをどんどんつづけていけば、結構充実したテキストデータベースができます。このクリップツールは以前、吉村さんにお願いして作ってもらったものですが、大変便利です。
これはTextClipperのページにあるクリップツールのなかの、作者のところに木谷さん 野村さんとあるものをダウンロードして解凍してできたファイルclipfile.ctaを、TextClipperフォルダに入れると使えるようになります。私はこんなツールがあったら良いなぁとうお願いをしただけです。プログラムは木谷さんと吉村さんです。

私の去年のランチョンセミナーで、論文の例文集をつくっておいて、それをコンコーダンスソフトで検索して、英文執筆に役立てると言う話をしました。その例文集の作成にもピッタリのソフトですので、お試しください。その際、改行の処理とかが必要になるかもしれませんが、いろいろ工夫してみてください。とても便利なソフトですよ。

(12月2日追記:clipfileの使い方についてさらに詳しく説明しましたのでここを次にご覧ください。)

(註1:Xoopsはこのブログで使っているWordPressのような、コンテントマネジメントシステムCMSというもので、研究室の内部ホームページで必要な資料を共有する、連絡をするなどに活用していたこともあります。いろんなレンタルサーバーで使えるので活用するのもいいかもしれません。私達は、MicrosoftのOneNoteに変えてしまったので今は使っていません。OneNoteで各人の実験結果を毎日報告してもらい、進捗状況を把握しコメントする、通勤電車の中で各メンバーの進捗状況を確認してコメントする、情報を共有する、などの使い方をしていましたが、これは役立ちました。OneNoteは絶対おすすめのソフトです)

画面、動画、テキストなどデータをクリップするソフトの紹介―その1

今日は私が使っているいくつかのソフトを紹介します。まず画面の静止画像をキャプチャするソフトです。これはWinShotを使っています。昔からあるソフトですが私のwindows10環境、windows7環境で作動しています。(残念ながらwindows10ではヘルプはでません)。起動して範囲を指定してスクリーンキャプチャするには、デフォルトではAlt+PrintScreenを押します。範囲指定の十字が出てきますので、マウスを左クリックしてドラッグして範囲を決定してクリックするとクリップボードに範囲の画面がjpgで保存されます。もちろんビットマップ保存、jpeg保存などを、アクティブウインドウ、デスクトップ、台形範囲指定、などで保存できます。保存先のフォルダの指定ももちろんできます。このソフトは教材のスライドに資料として使いたい画像を挿入するのに使っていました。

一方、論文セミナーのスライド作りでは、論文のpdfを表示させておき、pdf表示ソフトの画像キャプチャ機能’(Adobe Acrobat Professionalならスナップショットツール)を利用して必要な図や表をクリップボードにコピーして、パワーポイントファイルにペーストします。図をコピーするときにはpdfの拡大表示(ズームインの拡大率)機能を活用して、表示倍率を100%ではなく300% 以上くらいにした上で、キャプチャしたい範囲を指定してキャプチャするのがいいです。100%でやると、できた画像はスクリーンに投影すると解像度が悪くてぎざぎざが目立って使い物になりません。パワーポイントで投影したときに図の画質が十分になるためには、pdfの表示倍率を高くしてキャプチャすると覚えておいてください。

話がそれましたが、上で紹介したソフトWinShotには、さらに定期実行キャプチャというのもあって、指定した秒の間隔で、デスクトップやアクティブウインドウ、指定した台形範囲などを定期的にキャプチャして一か所のフォルダにビットマップかjpegで保存してくれるモード(ファイルに自動ナンバリングもできる)もあります。これも重宝しています。定期的にキャプチャした画像をまとめてpdfにしたりするのも簡単にできますから、この機能の応用範囲は広いです。

あと、画面上で再生されている動画やカーソルの動きなどを動画で記録するためのソフトとしては、OBS Studioとかいうソフトが有名なようです。一度ダウンロードして使ってみようと思いますので次回に報告します。また次回にはクリップボードにコピーしたテキストファイルをどんどん集めていくソフトの紹介もしますのでお楽しみに。

写真は散歩コースの途中でみかけた萩の花です。秋も深まってきました。

 

秋のおすすめ本その1―量子生物学(1)

ノーベル賞の発表がはじまり、本庶佑先生が授賞されてみなが大喜びですね。秋も深まってきて福岡では農家の稲刈りも9割がた終わったようです。

量子生物学 Quantum Biologyというのを聞いたことがありますか?数年前にでた本でLife on the Edgeという面白い本があります。細胞生物学の授業で物理や化学専攻の2年生にお奨めと紹介した本です。日本語訳もされていて「量子力学で生命の謎を解く」(水谷淳訳、SBクリエイティブ発行)といいうタイトルで本屋に並んでいます。

動画は英国のRoyal Institutionでのこの本の著者の講演です。この本が出たときにはイギリスで大評判になり、ベストセラーとなりました。雑誌NatureやNew Scientistでも紹介されたほどです。Royal Institutionは、かのマイケル・ファラデーが「ロウソクの科学」などの講演をした場所ですが、様々な演者を呼んでの講演が常に行われており、講演は公開されています。YouTubeのチャンネルもありますので、ご覧ください。電車の待ち時間や通勤時間に視聴すると楽しいです。英語が聞き取りにくいときは字幕を表示させるとよくわかると思います。Royal Institutionでは評判の科学書の著者を読んで講演してもらうことも多く、この本もそうですが、ほかに例えばHow to clone a mammothという評判の本の著者のBeth Shapiroさんの講演など、本の内容がよくわかる講演がいろいろありますので、本を買う前に聞いてみてください。本を買わなくても良いかもしれないほど面白い講演が多いです。

さて量子生物学ですが、この本では酵素反応にプロトンのトンネル効果が働いて効率化に寄与していたり、コマドリの季節の渡り(地磁気を感知するコンパス)にコマドリの体内にあるクリプトクロームというタンパク質分子内の電子の量子もつれが利用されていたり、あるいは光合成中心への効率的なエネルギーの移動にexcitonとよばれる励起子が働いていたりという話が分かりやすく書いてあります。他に匂いの検知メカニズムにも量子効果が働いているという仮説(反論の論文もでています)もあって、読んで大変面白い本です。物理や化学を学んでいる学生さんに特に薦めます。

著者の主張は「生命は量子効果を利用して維持されており、生きているということは量子効果が利用されている状態、死ぬとそれがなくなるということで、まさに量子効果の働く境界で生命が存在している」というものです。光合成の反応中心では量子コンピューターが働いているという論文の紹介もあります。その論文をみて一時間もかからずその間違いがわかったというMassachusetts Institute of Technologyの先生の講演が一番下の動画です。この有名な量子コンピューターの権威Seth Lloyd教授は、自分のラボで量子生物学を研究しているそうです。九州大学の生物学科の教授だった西村光雄先生は留学中、光合成細菌の光合成でのチトクロームの酸化における電子移動が液体窒素の温度でも起こることを発見した論文を有名なBritton Chance先生との共著で書かれました。続く研究でChance先生は液体窒素の温度やそれ以下の温度まで冷却すると100K(ケルビン)以下では電子移動が温度に依存しなくなることを発見、光合成における電子移動には量子トンネル効果が介在していることを示唆する論文を書かれています。西村先生の実験の話はこの本の第3章(翻訳書の98ページ)にのっています。九州大学にも量子生物学の研究室はありますし、最近は大阪大学でもこんな研究がたちあがっています。分子生物学会のワークショップでも量子生物学がとりあげられるなど、面白い研究分野になりそうです。

最近の日本語で書かれた量子生物学の入門書や総説についてはこちらの記事をごらんください。(2019年1月30日追記)

 

プレプリントサーバーとその活用法の紹介4―最新情報の追加です

このブログではプレプリントサーバーの活用について紹介してきました。いつも多数のアクセスありがとうございます。写真は近所でみかけたくずの花です。秋も深まってきました。

何度もNIHのVideoCastを紹介していますが、数日前に米国のポスドクの現状とポスドクとしての能力、存在感をアピールするのにプレプリントを発表することが薦められるという講演があったので紹介しておきます。Jessica PolkaさんのNIHでの講演で、米国のポスドクの現状、最初のfirst author(筆頭著者)の論文を発表するのに要する期間が、これまでになく長くなっており、論文が少ないので研究費を獲得したり、次の職を得るのに困難を覚えるポスドクが増えているのに対する対策、そして査読する能力をどのように向上させるかなどを扱っている、興味深い講演でした。
講演のスライドはここをクリックするとダウンロードできます。Google documentに保存してあるのでFirefoxではうまくいかないので、Google のブラウザChromeかInternetExplorerでアクセスしてください。青字で閲覧のみとか書いてありますが、スライドはダウンロードできます(開いたページの「ファイル」をクリックして開き、「形式を指定してダウンロード」を選んで、Powerpointやpdfなど好きな形式でダウンロードしてください。講演は高画質でダウンロードできますので、たとえば1240kの高画質でダウンロードして、適当なメディアプレーヤーでみればゆっくり講演を聴講できますのでお試しください。ハイビジョンの高画質のムービーでもみられるメディアプレイヤーとして、私はMPC-BEというフリーソフトを使っています。

JessicaさんはASAPbio(エイサプバイオ)という組織―ASAPbio (Accelerating Science and Publication in biology) is a scientist-driven initiative to promote innovation and transparency in life sciences communication. We are a 501(c)3 nonprofit incorporated in the state of California―に属していてプレプリントの利用を推奨するとともに、ポスドクのキャリアパスについても研究している方です。

講演にもありますが、論文に要求されるデータ量が激増していいます。それで昔は4年の大学院(米国の例)の場合、平均3-4年で筆頭著者の論文first author paperがでたが今では平均4-5年と論文の出版が遅れるようになっているようです。これは論文として出版されるために必要な実験量が昔の倍以上になっていることも原因であり、以下の論文で具体的に実証されています。論文中の実験量は図のパネルの数―つまりFig. 1A, Fig. 1B,. Fig. 1Cなどどある場合のA,B,Cなどの数―を数えてそれにTableの数などを加えて算出してます(註1)。下の論文やこのビデオをみてもらうとデータがありますのでご覧ください。実験量が増えたことで、論文として完成するのに時間がかかり、ポスドクや院生が論文をだすのが遅くなってしまうわけです。これは日本で多い5年プロジェクトなどでも経験しますが、ポスドクや院生や研究者にとって深刻な問題です。それをどうして救うかというのがこの講演の内容です。プレプリントを活用できるというのがこの講演の一つのメッセージです。(註1:私見ですが、さらにグラフの場合、統計処理するためサンプルのサイズN=30とかになることがよくありますので、一つのパネルといってもそこには本当に多数の実験が繰り返されている場合があり、これをカウントするともっと実験量が増えると思います)。

Accelerating scientific publication in biology
Ronald D. Vale

プレプリントのメリットは、いろいろあります。
メリットその1) 去年あたりから、グラントの申請や業績報告書にプレプリントを掲載することができる組織が激増しています。つまり就職活動や研究報告、新しい研究費の申請のときに、業績としてプレプリントが使えるようになっているわけです。
日本の方に関係あるところでは
Human Frontiers Science Program (December 12, 2016)でもプレプリントが利用できます。“The Board of Trustees of the International Human Frontier Science Program Organization (HFSPO) has decided that for competitions starting in calendar year 2017, applicants may list preprint articles in the publication section of HFSP proposals. Current HFSP awardees are also permitted to cite publications which are deposited in freely available preprint repositories in interim and final reports to the Organization.”

といった具合です。Wellcome Trust , MRCやNIH, HMMIなど大手のグラント母体もそういう方針になっています。これもASAPbioのページにリストがあります。

プレプリントについては以下のページ(ここをクリック)がまとまっています。またpreprintについて投稿してみた人の経験がこのリンクに動画と画像で紹介されています。

プレプリントサーバーは以前にも紹介しましたが、最新のプレプリントサーバーのリストがありますのでご覧ください。Research Preprints:ServerListというページです。

ここにリンクがあります。

メリットその2) プレプリントを公開すると学会の講演のように、研究者の存在感を示すことができます。

メリットその3) フィートバックがくるので論文を改善できます。bioRxivの場合は10%ほどにコメントがつくようです。他の人にコメントをみられたくないという人も多くて、そんな人は著者にemailしてきたり、twitterやFacebookなどのSNSでコメントをくれるようです。プレプリントサーバーのコメントは公開前にチェックが入っているので炎上とかなないようです。

メリットその4) 雑誌の編集者はプレプリントをみていますので、プレプリントをみてうちの雑誌に投稿してくださいといってくることinvitationも結構あるそうです。(PLos GeneticsやProc. Royal Society Bなど)

メリットその5) 研究の早い段階でプレプリントをみて連絡してくる共同研究者が見かる例も多いそうです。

メリットその6) いつどんな研究をしたかを、公開のプレプリントサーバーに記録としてのこせる(doiもプレプリントに付与されますし、プレプリントの引用を許している雑誌も増えています)上に、バージョン管理もできる。

メリットその7) 就職や研究費(グラント)申請の時、研究者としての生産性を示すことができる。これは上にも述べました。今までは論文を投稿してからアクセプトされるまでは業績や研究成果に載せられないことが多かったのですが、プレプリントを業績として認める組織が増えているので大きなメリットです。

メリットその7) そしてなによりも発見を加速させることができるのが最大のメリットでしょう。

では不安点はというと:
I’m going to get scooped!というのが最大の不安なのではないでしょうか。しかしこれは簡単にはやれないと思われます。論文の内容をプレプリントでみて、それをもとにもっとよい論文を書くというのですが、これをやるのはほぼ不可能だと思います。アイデアとか実験とかはプレプリントに書かれており、投稿日もバージョンも公開されているので剽窃は困難です。アイデアや方法、結果のクレジットを早々ととって、研究成果を共有するメリットのほうがいまや大きくなってきているようです。物理とかコンピュータサイエンスの分野でのプレプリントの経験から、scoopするのが困難でリスクをともなうことは明らかなことだと思います。その他の考える不安点も講演で議論されていますのでご覧ください。

どの雑誌がプレプリントへの投稿前の掲載を許可しているかは、ここをごらんください。

またプレプリントの雑誌会というのもネット上にいろいろあるのでその紹介やレフリーのコメントなどを公開する動きが加速しているという話も講演にあります。

夏休みおすすめソフト(3)RstudioにR commanderとそのプラグインEZRを入れてみよう―EZRインストールのトラブルシューティング

前回はRとRstudioの紹介をしました。続いてRstudio上からRのプラグインであるR commanderと、RコマンダーのプラグインであるEZRをインストールする方法を紹介しようと、最新版のRを使って紹介記事を書いていたのですが何故かEZRのインストールがうまくいきませんでした。Rcmdr(R コマンダー)をRstudioからインストールしたあと、EZRをRstudioからインストールする時うまくいきませんでした。解決したのでうまくいったRコマンダーとEZRをインストール法を紹介しておきます。

前回紹介した方法でRをインストールし、次にRstudioをインストールします。
次にRstudioを起動してRcmdrをインストールします。やり方は、

Rコマンダーのインストール:
右下のpane(パネルのようなもの)からpackagesタブを選びます。boot, class, clusterなどのsystem libraryのパッケージがすでに存在するのがわかります。アルファベット順にならんでいるのでずっとリストをみていってもR commanderなどのパッケージ(Rcmdrなど)はありません。これをインストールするのが今回の作業です。 右下パネルのInstallタブをクリックします。すると新しいウインドウが開いてpackagesという部分にカーソルが点滅していますので、そこにrcmdrといれてみましょう。ポップアップがでてきてRcmdr以下、RcmdrMiscとかRcmdrPlugin.aRnovaなどがずらーっと一覧ででてきます。下ののほうにRcmdrPlugin.EZRもありますね。まずRcmdrを選択します。install depencenciesのチェックがはいっているので、そのままにします。そしてInstallボタンを押します。すると左下のコンソールpaneにいろいろいろ赤字で表示がはじまり、packagesを次々と解凍してインストールしているのがわかります。結構な時間がかかると思いますが終わるまで気長に待ちましょう。赤字でいろいろ経過が表示され、その後、カーソルが点滅してすすまなくなったように見えますが、5分も放置しておくと次にすすむようでパッケージの解凍などに時間がかかるようです。コンソールパネルにThe downloaded binary packages are in どこそこ、というパッケージの保存場所の表示がでたら終わりです。終わると右下のPane(パネル)に前にはなかった様々なパッケージがあるのがわかります。パッケージの表示パネルにRcmdrとRcmdrMiscが表示されているのを確認してください。Rcmdrが終わったら次にRcmdrPlugin.EZRも同様にインストールしてください。これを忘れるとR commanderを起動してEZRをロードすることができないので必ずこの段階でインストールしてください。

次に、library(Rcmdr)とコンソールにうちこんでR commanderを起動。see ?effectsTheme for details.という赤字のメッセージでRstudioのコンソール画面は止まるので、Rstudioのウインドウを最小化して画面をみると、「Rcmdrが利用する次のパッケージがありません」というメッセージのでているポップアップウインドウがあり、「これらのパッケージをインストールしますか?」ときいてくるので、はいをクリック。すると、「ないパッケージをインストールする」という画面がでるので、CRANの指定でOKを押します。

Rstudioにもどって見ていると、つぎつぎと赤字でインストールがすすみます。そしてインストールが成功すると>の印がコンソールにでますので、インストール終了です。

コンソールにlibrary(Rcmdr) とうちこんでエンターを押すと、Rコマンダーのポップアップウインドウが自動で開きます(日本語です)。

EZRのインストール:
上の図のR コマンダーのメニューのツール(ヘルプの左)をクリックして、Rcmdrプラグインのロードをクリックします。(ここが大事なのですが、この段階で、Rstudioの右下のPackageのパネルでRcmdrPlugin.EZRにチェックが入っていないことを確認してください。つまりRにロードされていませんので注意してください。私は最初、Rcmdr, RcmdrPlugin.EZRの順にRstudioの右下パネルでチェックをいれて、Rコマンダーを立ちあげていました。そうするとEZRがこのプラグインのロードに表示されない=RコマンダーからEZRが使えないという不具合が起こります。必ずPackageのパネルでEZR pluginにチェックが入っていないことを確認してください。上の図のようにプラグインにEZRが選択されて表示されているので、OKをクリックします。するとRコマンダーを再起動しないとプラグインを利用できません、再起動しますか?(下図)ときいてくるので「はい」をクリックします。

再起動するとEZRの画面がでます(下図)。Rstudioとは別のウインドウに表示されるので注意してください。

メニューの一番右に「標準メニュー」というのがでていたら成功です。ここに本来のRコマンダーのメニューがあつまっていて、Rコマンダープラスアルファの機能がその他のメニューから使えます。解析結果のグラフなどはRstudioのplotパネルではなく独自のポップアップパネルにでてきます。

Rstudioにもどってみると、右下のパネルのPackageのところのRcmdrPlugin.EZRにチェックが入りました。

EZRを閉じるときには、Rコマンダーのメニューから閉じて、その後、Rstudioを閉じてください。

以上です。

その他のRstudioについての注意:
1)RstudioではLinuxとおなじようにTab補完機能が使えます。たとえばコンソールでlibrary(Rとうちこんでtabキーを押すと、RcmdrとかRcmdrPlugin.EZRとかの候補がポップアップしますので、適当なのを選んでエンターをおせば入力の手間がはぶけます。これは便利な機能です。

2)あとR commanderが起動している状態でRstudioを終了するときの注意。Rstudioでquitコマンドをいれても永遠に終わらないので困ります。これは、R commanderの終了画面でOKをおさないとR コマンダーが終了できないためです。RstudioのquitコマンドではRコマンダーはquitできず、quitting sessionsが永遠に続くのです。

3)インストールしたパッケージは、ドキュメントのフォルダにあります(windows7以上の場合)。まっさらにRをしたいときは、Rをアンインストールした後、このドキュメントフォルダ内の、Rフォルダを削除しないとパッケージは残ります。

4)Rstudioでは4つのpaneが表示されるといろんなところに書いてあります。でも一番左上のソースエディタが表示されていない人が多いのではないでしょうか。これを表示させるには、ToolsからGlobal Options、Pane LayoutとすすみEnvironment, History, connections, presentationsと並んである画面にあるViewerのチェックをいれると表示されるようになります。もう一つよくあるのは、ソースエディタが隠れていて見当たらないケースです。この場合は、sourceと書いてあるのでわかります。その部分をマウスでドラッグして拡げればソースエディタが見えるようになります。