映画『オッペンハイマー』が評判になっているようです。私はまだ見ていませんが、3回もみたという先生もいるそうです。私は藤永茂さんが書かれた『ロバート・オッペンハイマー―愚者としての科学』(ちくま学芸文庫2021)を読みました。Kindle版で読んだのですがこの本は本当に良い本です。まだ読んだことがない方には是非購入して読むことをおすすめします。科学と戦争、科学と社会、科学者と戦争・社会について考える際の基盤になる、よく調べて書かれた立派な本です。
私が小学生のころ、キューバ危機がありました。核戦争になるかもしれないと大人の人たちがみんなで集まって新聞を囲んで心配していた姿が目に焼き付いています。広島・長崎の原爆攻撃の惨禍を体験した大人の人たちの心配は、どれほどだったでしょう。私が中学、高校にすすむ頃も、核戦争についての危機感は日本社会にあふれていたと思います。小学校のころは水爆実験や原爆実験でまき散らされた放射性物質が雨にまじって空から降ってきて、雨水にガイガーカウンターをむけるとガリガリ鳴っているニュース映像があったのも覚えています。戦略爆撃といって一般市民のすんでいる街に爆弾の雨を降らせるという、今では考えられないようなこと(人の住んでいるところに空から爆弾を無差別に落とすというのは、テロですよね)が行われていた時代です。焼夷弾や爆弾だけでなく、爆撃機と一緒に飛んできた戦闘機が。小学生が船をこいで魚をとっているとき、子供めがけて機銃掃射して殺すというようなことをするのが戦略的爆撃です(私のお世話になった先生のお友達がこのように殺されたそうです)。ソビエトが原爆を作る前に原爆攻撃して滅ぼしてしまえとか、水爆ができたら先に戦略的にソビエトに使用すべきだとかいう政府や軍関係者があふれていた時代です。オッペンハイマーが水爆の開発に反対したのは戦略的使用を止めたかったのだと思われます。悲惨な戦争の直後だったので、こうした人道的な風潮は今よりもっと強く、核兵器反対の運動をしている人たちの危機感もひとしおだったと思います。今はヨーロッパやイスラエルで核兵器が使用される可能性が高まっているわけですから、再び広島・長崎への関心、核兵器開発史への関心が高まっていることはよいことだと思います。映画『オッペンハイマー』も、そういう平和につながる知識の入り口として役立つとよいと思っています。
藤永先生はこの映画に批判的です。こちらの先生の記事をお読みください。映画『オッペンハイマー』に物申す
https://blog.goo.ne.jp/goo1818sigeru/e/bfa8ece4a6a3879b312f54d766c3260f
藤永先生の本は映画をみた人が是非読むべき本ですし、映画をまだみていない人も見る前に読むことをおすすめします。
藤永先生の記事には、おすすめのオッペンハイマーの伝記や、オッペンハイマーの聴聞会についての本なども紹介されているので是非読んでみてください。また、先生のおすすめの映画とオペラのYouTube動画も紹介されていましたので埋め込んでおきます。
戦後まもなくつくられた『ひろしま』という映画です。
https://youtu.be/O66BcBeoSj8?si=O7GpAfkp50wB2EEM
オペラはこちらから聞けます。https://youtube.com/playlist?list=OLAK5uy_ng1r_d5GwbJ4hhgqApPNPYd1p0zSV8LEE&si=FB6BrU3gM6NreKbz
最後の部分には鐘の音をバックに、日本語で「お水をください。子供たちがお水を欲しがっているんです。たにもとさん、たすけてください。夫がみあたらないんです。」といった被爆者の言葉が続いて終わります。