今日は
「インフルエンザウイルスを発見した日本人―知られざる医学者山内保とは誰か。黄金期のパスツール研究所に連なる病原体の狩人たちの探究のドラマ」山内 一也 著 岩波科学ライブラリー321を読んでみたので紹介します。
https://www.iwanami.co.jp/book/b629840.html
これはとても面白い本でした。インフルエンザを引き起こすのがHibワクチンの標的である肺炎を引き起こすバクテリアである「インフルエンザ菌」ではなくて、濾過性病原体=ウイルスであることを世界ではじめて発見したのは日本人の山内保という医学者だということをこの本で初めて知りました。著者の山内先生は有名なウイルス学者ですが、山内先生のところに古くからの友人の有名な外国のウイルス学者からメールがとどいたのだそうです。インフルエンザウイルスを発見したのは山内保という日本人だということがわかって本にそのことを書くので写真を送ってほしい、きっとあなたの親戚だろうから‥‥という内容のメールだったそうです。山内一也先生は親戚ではなかったのですが、これをきっかけに山内保という知られざる医学者の事績を調べたことからこの本が生まれました。山内保という方はパスツール研究所に留学して、食細胞による細胞性免疫の発見やプロビオティクスで有名なメチニコフ(1908年にノーベル賞受賞しています)のラボで研鑽をつんで素晴らしい業績をあげています。第一次大戦では戦場での戦傷と感染症の調査のためパスツール研究所から派遣されて、戦場での従軍研究もおこなっていたそうです。いかに信頼されている日本人研究者であっかがわかるエピソードです。山内が日本に帰国後、どのようにしてインフルエンザがウイルスによる感染症であることを発見したかについては、是非この本を読んでみることをおすすめします。この本は単に山内のことだけを書いているのではなくて、パスツールやコッホ、ラントシュタイナーの業績や、長野泰一のインターフェロンの発見などについてもとりあげていて大変勉強になります。ラントシュタイナーは糖鎖生物学ではABO式血液型の発見で有名ですが、医学者としてほかにどのような業績があったのかが詳しく書かれていて初めて知ることが満載の本でした。よい本ですので是非、一度手に取って読んでみることをお勧めします。