国立国会図書館の個人送信資料をみていたら、セントジェルジ博士 (Albert Szent-Györgyi) の名著 「狂ったサル」の初版と、新版が新たに入っているのに気付きました。
ビタミンCの発見でノーベル賞を受賞した博士は、TCAサイクルの発見の礎を築いたことや、アクチン・ミオシンによる筋収縮機構の発見でも有名です。また量子生物学のパイオニアでもあります。政治的にも大きな影響を与えた人で、アメリカに移住した後には、ベトナム反戦活動に大きな影響をあたえたことでも有名です。
セント・ジェルジ博士のこの本は、イスラエルやウクライナでの戦争だらけになってしまったこの世界の、今後を考えるのに必読の本ではないかと思います。
この本での、ベトナム戦争で戦争をおしすすめようとするアメリカの政治家と右派に対する鋭い批判や、中国問題についての博士の意見は傾聴に値します。1987年の新版の訳書には、訳者の国弘正雄さんによるベトナム戦争終結後、ちょうど10年の日に書かれた「あとがき」がついていて、いったんベトナム戦争を人道にもとるものだったと反省していたアメリカの世論が、しだいに 「なぜアメリカは負けたのか、どうしたら勝てたのか」という世論へと変化していく様子が書かれてます。今こそ読み直すべき本ですが、ちょうど個人送信資料で無料で読めるようになっていたのはラッキーでした。
この本の末尾には、セントジェルジ博士の来日時にNHKテレビで同時通訳付き(国弘さんが通訳でした)で放送された博士の講演会「私の歩んだ道―戦争と科学」の講演全文の翻訳が掲載されています。私も高校生の時この放送をノートをとりながら見ていたのを鮮明に覚えています。博士は講演の名手で、ハンガリーでの大学での講演会には一般人のみならず、多くの上流階級の女性もつめかけていたそうです。博士のゲシュタポとの戦い、ハンガリーの大統領になってくれと依頼された話なども満載の講演で、是非一度読んでみることをお勧めします。科学者で発見をするにはどうしたらよいかというようなアドバイスもありますのでご覧ください。
この本は、Crazy Apeという本と、What Next?という二冊の本を合わせて国弘正雄さんが翻訳されたものです。国弘さんはもう亡くなりましたが、国際商科大学教授で英語教育に多大の貢献を多くの英語を学ぶための本も出版されています。同時通訳者としても有名でした。外務省の顧問もつとめられており、護憲派としても有名で国会議員にもなった人です。Szent Györgyi博士が来日された時の同時通訳者をつとめられたことから、博士と親交のあった方でもあります。また日米関係・日米貿易摩擦を考えるための本の翻訳などでも有名で、多くが国立国会図書館の個人送信資料で読めます。
「摩擦を乗り切る 日本のビジネス アメリカのビジネス」(世界的に有名な文化人類学者エドワード T. ホールと奥さんのミルドレッドとの共著)という本は三冊からなる本ですが今読んでも役立ちそうです。https://dl.ndl.go.jp/pid/12103589
最後に、セントジェルジの本で個人送信資料でよめる本のリストを以下にあげておきます。
狂ったサル : 人類は自滅の危機に立っている 新版
A.セント=ジェルジ 著[他] サイマル出版会, 1985.6
https://dl.ndl.go.jp/pid/12128153
狂ったサル
アルバート・セント=ジェルジ 著[他] サイマル出版会, 1972
https://dl.ndl.go.jp/pid/12125958
科学・倫理・政治 : 動乱に生きた一科学者の省察
A.セントージェルジ 著[他] 岩波書店, 1966
https://dl.ndl.go.jp/pid/1381746
分子生物学入門 : 電子レベルからみた生物学 (広川化学シリーズ ; 6)
A.Szent-Györgyi 著[他] 広川書店, 1964
https://dl.ndl.go.jp/pid/2428890
生体とエネルギー
セント・ジェルジ 著[他] みすず書房, 1958
https://dl.ndl.go.jp/pid/1377188
生命の本質 : 筋肉に関する研究
セント・ジェルジ 著[他] 白水社, 1952
https://dl.ndl.go.jp/pid/1371660