John White先生の研究回顧の動画が公開されました。レーザー共焦点顕微鏡の発明者で線虫の全神経回路網の決定、細胞分裂研究などで有名な先生です。

YouTubeをみていたら私が以前MRC LMBでお世話になったJohn White先生のインタビュー動画が丁度公開されたところでした。
https://youtu.be/pprP8pFdyb8

White先生は世界ではじめて、今では皆が使っているレーザー共焦点顕微鏡(コンフォーカル)を開発した先生です。昔Scientific Americanの記事でレーザー共焦点顕微鏡を扱ったものを読みましたが、それにはWhite先生がいなかったらレーザー共焦点顕微鏡の実用化はなかっただろうと書いてありました。A Nobel Fellow on Every Floorという本によると、Aaron Klug (Rosalind Franklinの共同研究者で後にノーベル賞を授賞した有名な先生)が共焦点顕微鏡についての論文をたまたまみつけて、これだと確信し、おなじMRC LMBにいたWhite先生に開発をもちかけたそうです。光学の専門家でもあったWhite先生は先行研究を調べ、俺ならもっとうまくやれると思ったそうです。鏡を動かしてビームを動かしてスキャンする方式(それまではビームは動かず、顕微鏡のステージが動く方式しかなかったそうです)や小さなピンホールを使う方式、通常の顕微鏡のレンズを利用するなど様々な新しいアイデアを導入してMRC LMBの工作室で顕微鏡が組み立てられました。私がMRC LMBに入った時に、ここでレーザー共焦点顕微鏡ができたのだと、工作室をみせてもらいました。先生がレーザー共焦点顕微鏡での研究成果を論文として有名雑誌Journal of Cell Biologyに投稿した時には、アクセプトの通知に編集者の一人からの、すぐにあなたの作った顕微鏡を購入したいという文面が入っていたそうです。そんな論文を書いてみたいですね。先生は他に、世界ではじめて生物の全神経回路網=コネクトーム(神経のどれとどれがつながっているかの全貌;神経コネクションの全部の集合なのでconnectomeと呼びます)を決定したことでも有名です。この全神経回路網を決定した論文がでた時には、雑誌の一巻まるごと全部がWhite先生の一つの論文で占められていた(340ページの論文)のです。これも凄いことですね。

G White, E Southgate, JN Thomson, and S Brenner. (1986) The structure of the nervous system of the nematode Caenorhabditis elegans (The mind of a worm.) Phil. Trans. R. Soc. Lond. B 314: 1-340. という論文でこちらから読めます。
https://www.wormatlas.org/MoW_built0.92/MoW.html

線虫C. elegansのコネクトームの解明の他、四次元顕微鏡(私がラボにいたときには、顕微鏡に日本のパイオニア社製のレーザーディスクをつないで使っておられました)の開発、細胞分裂の研究などでも有名です。私が新しい分野を線虫でやろうとすると、どんな分野でも必ずWhite先生の論文がみつかりました。すごい先生です。今回のYouTub eの動画は、前に紹介した女性科学者を扱ったMRC LMBの歴史の本Ahead of the Curveの著者 Kathy Weston さんによるインタビューで、コネクトームの研究やレーザー共焦点顕微鏡の開発秘話も含まれていてとても面白いので是非見てください。Video transcriptも読むことができます。
https://www3.mrc-lmb.cam.ac.uk/sites/lmbthroughtheyears/transcripts/shortened-transcript-of-interview-with-john-white-jw-27-june-2022/

White先生自身の回顧録はこちら。
White JG. Getting into the mind of a worm—a personal view. In: WormBook: The Online Review of C. elegans Biology [Internet]. Pasadena (CA): WormBook; 2005-2018. Available from: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/books/NBK153591/