雪の話 2022 その2

雪といえば雪の結晶の美しさは有名です。雪ができるためには摂氏マイナス40度以上では氷晶核の存在が必要とされています(その温度以下では自発的に雪になるそうです)。地上に積もったばかりの新雪で、地面や樹木に汚染されていない部分を慎重に調べたところ、世界各地の新雪のほとんどの核が生物由来だとわかったという論文が2007年に雑誌Scienceに掲載されています。核をリゾチームで消化するとか、100度で熱処理すると核としての活性を失うそうで、まちがいなくバクテリアが雪の結晶ができるための最初の段階で働いていることがわかったそうです。最近の論文では実際バクテリアが回収されたりもしています。バクテリアは糖鎖をふんだんにふくんだ外膜などをもっていますから、おそらくバクテリアの周期的に配列している糖鎖が、水分子を配向させて雪をつくっているのだろうと私は考えています。人工雪をつくるときには、殺菌したPseudomonas syringae (グラム陰性菌) を加えているそうです。このグラム陰性菌は植物に感染すると霜害をひきおこすバクテリアです。一般にグラム陰性菌は外膜という構造をもっていますが、このバクテリアの外膜に存在するタンパク質であるinaZが氷晶形成をするように水分子を配置するのだそうです。それでマイナス2度くらいでもバクテリアが氷晶核形成に働いて氷ができるそうです。 inaZはアイナ ジーと読みます。ice-nucleation active bacteriaが持っているタンパク質なのでinaと命名されているのです。inaXとかいうタンパク質もあります。詳しく書いてある論文を一つ紹介しておきます。タイトルは
Ice-nucleating proteins are activated by low temperatures to control the structureof interfacial waterというもので、以下のリンクからpdfがダウンロードできます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7895962/pdf/41467_2021_Article_21349.pdf

この氷核細菌は空にも飛んでいて、雪や雲の形成に働いていると考えられています。氷晶核形成の能力が高いので、人工降雪機では氷晶核形成のためにinaZをもつバクテリア菌体を添加した水を使っているそうです。inaZってどんな形をしているかは以前の記事で紹介しました。こんな形のタンパク質です。


これは面白い形ですね。βシートがやたらに長いです。これを見ると、たしかに氷晶核をつくりそうな気がしませんか?二つほどYouTubeの動画を貼り付けておきますのでご覧ください。

ソチオリンピックでこのバクテリアが人工雪つくりに使われたという動画も貼り付けておきます。