Google検索していたら、以前の記事で紹介したVir Biotechnology社の抗体医薬品は第3相の世界規模の試験に入ったのがわかりました。またニュースによると(英語のリンクです。日本語の記事は以下を参照してください)同じ記事で紹介していたvaccinal effect (おおざっぱにいえば抗体を投与した後、まるでワクチンをうたれたような防御効果がでる現象です)がインフルエンザウイルスに対する抗体に関して確認されたという論文を、同社が雑誌Natureに載せているそうです。このNatureの論文についてはここに日本語による紹介の記事をみつけましたのでリンクしておきます。またこちらにもわかりやすい日本語での紹介があります。この論文ではウイルスや癌細胞を殺す抗体(ウイルスや癌細胞にある特異的なタンパク質や糖鎖に対する抗体で治療用に使う抗体です)の根元の部分のアミノ酸配列に3箇所のアミノ酸配列変異、いわゆるGAALIE突然変異を導入するという手法を使っています。GAALIE突然変異というのは、G236A/A330L/I332Eの変異から “GAALIE”と名付けられた変異のことす。抗体の研究で有名なKabatさんのデータベースでの抗体のアミノ酸配列の番号づけ(EU index in Kabat )で、Fc領域にある236番目のアミノ酸グリシン(G)をアラニン(A)、330番目のアラニン(A)をロイシン(L)、332番目のイソロイシン(I)をグルタミン酸(E)に変化させた抗体を作成することです。
このGAALIE突然変異によるvaccinal effectはもともと癌の治療薬として使われた抗体の研究で見つかりました。現在利用されている多くの腫瘍マーカーは糖鎖です。膵臓癌や胃癌、大腸癌などの診断に広く活用されている腫瘍マーカーとしてCA19-9(シーエーナインティーンナイン)というのがあります。これは4つの糖が結合した糖鎖でシアリルルイスa (Sialyl Lewis A (sLeA))と呼ばれる糖鎖(シアル酸がついた糖鎖でシアリルルイスエーと読みます)のことです。この糖鎖の発現がこれらの癌で高まることから、この糖鎖は極めて有用な腫瘍マーカーとして、現在臨床検査で活用されています。
世界一詳しいヒトの細胞の図解が2018年に公開されています。細胞を構成している分子についての知識は飛躍的に増えていて、X線結晶構造解析、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance: NMRと略します)、クライオ電顕などを使って、細胞内での生体分子の様子がずいぶんわかってきました。その成果の集大成の図といえるでしょう。
Cellular landscape cross-section through a eukaryotic cell, by Evan Ingersoll & Gael McGill – Digizyme’s Molecular Maya custom software, Autodesk Maya, and Foundry Modo used to import, model, rig, populate, and render all structural datasets こちらには同じ図ですが、図のあちこちをクリックすると分子の名前だとか分子の詳しい説明などがみられる図(クリックしてサイトを開いてみてください)が掲載されています。ページを開くと上の図が大きく表示されていますが、下に6枚、上の図の部分図が表示されています。絵で描かれている分子の部分をクリックすると、分子の名前が英語で表示され、ダブルクリックすると分子の情報を英語で詳細に書いてあるページが開きます。以下の図はこのサイトの使い方の一例です。
図の中の細胞と細胞の接着部位にある分子をクリックしてみましょう。
マウスカーソルが指に変わって、n-cadherinという分子名が表示されます。これはN-cadherinです。
下の図に示すように、各図の左上にSelect a pathwayと書かれているプルダウンメニューがあります。プルダウンして、Cell Structureを選んでみましょう。以下のような細胞の構造に関わっている分子とその分子名が一斉に表示されます。これでチューブリンだのアクチンだのがどこにあるかが一目瞭然ですね。それぞれの分子をクリックすると分子の解説ページが開きます(何故かN-cadherinの場合は開きませんでした)。
この図で灰色っぽい白に表示されているのは、細胞膜です。上の細胞と下の細胞が結合している部分にN-カドヘリンがびっしり膜から生えているように見えるのがわかると思います。この接着部位は、接着結合(adherens junctions)あるいはその一例である 細胞をぐるっと取り囲む接着帯(adhesion beltあるいはzonula adherensとも言う)と呼ばれています。図の細胞膜の表面(図の左上のすみのほう)には、プロテオグリカンの一種であるperlecanが描かれています。図をひらいてみていろいろクリックしてみて細胞がどんな分子で構成されていて、それぞれの分子がどこにあるかなどをみてみてください。
このMcGillさんたちが作った図では分子の密度は実際のものより薄まっていると書かれています。実際はもっと細胞内は分子が込み合っているようです。
水村さんは、小説家でその他にも多くの賞を授賞されています(野間文芸新人賞や読売文学賞)。12才の時から米国で過ごされた方でイエール大学卒業。プリンストン大学で日本文学を教えておられたこともあり、「日本語が亡びるとき―英語の世紀の中で」という精緻な論説も書かれています。この本は大変評判になり小林秀雄賞を受賞した他、 The Fall of Language in the Age of Englishという題でコロンビア大学出版会から英訳が刊行されています。今は文庫化されているのでこちらも是非お読みください。英語で論文を書くことについて深く考えさせられる本でもあります。松岡正剛さんの千夜千冊にも紹介されています。
毎日猛暑がつづきますが皆さんお元気の事と思います。今日から数回にわたって、面白そうな本、役に立つ本などを紹介していきたいと思います。第一回目はR(アール)の本です。今や統計解析にソフトの定番のプログラミング言語Rは無料で使える素晴らしいソフトですが、統計解析だけではなくゲノム解析にも活躍しているソフトです。昔はグラフィカルインターフェースがなかったのですが、今ではRのパッケージのR commanderや日本の神田善伸先生(自治医科大学)が開発されたEZR(イージーアールと読みます。これも大評判になってRのパッケージになりました)がありますので、グラフィカルインターフェースでRを使うことができて、初心者にもやさしいソフトとなりました R commanderはRをインストールしたあと、パッケージとして追加インストールして使います。EZRはR commanderの追加プラグインになっています。インストールするとどちらも日本語で使えます。EZRを中心に使いたい場合は開発者の神田先生のサイトからダウンロードして使うのもおすすめです)。また、RStudioというRの統合開発環境ソフトを使えば、Rをもっと便利にスムーズに利用することができるようになったので、Rはますます便利で使いやすくなっています。インストール法については以前の記事二つがありますので、こことここを参照してください。
Rはバイオインフォマティクスや次世代シークエンサーのデータ解析、ゲノム解析にも大活躍しているソフトです。最近英語の本ですが、こんな本が公開されています。 Computational Genomics with Rという本です。
紙の本や電子ブックはこの秋にでるようですが、Rをつかって出力されたhtml版が上のリンクから無料で読めます。バイオインフォマティクスの専門家による本ですので、役立ちそうです。
著者は日本にもいたことがある人で、Rのバイオインフォマティクス解析用のBioconductorの多くのパッケージを開発している方たちです。著者紹介によると、この本のほとんどを書いた方は、Dr. Altuna Akalin wrote most of the book and edited the rest. Altuna is a bioinformatics scientist and the head of Bioinformatics and Omics Data Science Platform at the Berlin Institute of Medical Systems Biology, Max Delbrück Center in Berlin.(以下略)ということで、ドイツのベルリンにあるバイオインフォマティクスとオミックスデータセンターのヘッドだそうです。まだ私も読んでいないのですが、勉強してみたい本ですので紹介しておきます。