The Nomura Institute of Glycosciece Blog

野村一也 「科学を学ぶ人のために」 九大野村研ホームページの拡張版です

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糖鎖生物学の教科書Essentials of Glycobiologyの最新版(第4版)がオンラインで公開されました。

糖鎖生物学の教科書Essentials of Glycobiologyの最新版(第4版)がオンラインで公開されました。
Essentials of Glycobiology [Internet]. 4th edition.
Varki A, Cummings RD, Esko JD, et al., editors.
Cold Spring Harbor (NY): Cold Spring Harbor Laboratory Press; 2022.
これは糖鎖生物学の標準的な教科書ですので是非オンラインで読んでみてください。Cold Spring Harbor Laboratory Pressから書籍としても販売中です。ブラウザでよむので、Life Science Dictionaryを使って辞書を引きながら読むことができます。オンライン版のリンクです。また
こちらは印刷に適したオンライン版の一例です。上の行にあるリンクで好きなページを表示して、ページの右上にあるViewsのところにあるPrint Viewをクリックすると表示されます。

今回の最新版では、表紙が新型コロナウイルスSARS-CoV-2のスパイクタンパク質がウイルスの膜に埋め込まれた状態を示す絵になっています。
左の図はスパイクタンパク質のアミノ酸鎖をシアンで示しており、それに糖鎖がついている様子を様々な形と色の単糖の表記で表しています。右はその糖鎖が空間的に揺れ動いている様子を1マイクロ秒にわたって重ねた結果を示しており、分子動力学によるsimulationの結果のフレームを重ね合わせたものです。濃い青色が糖鎖が動き回っている空間的範囲を示しています。糖鎖がグリカンシールドというシールドを作っている様子がわかります。そしてそのシールドから、にょきっと上に抜け出ている (スパイク蛋白のてっぺんの部分の)シアン色で示しtのタンパク質骨格部分が、ACE2に結合する部分でいわゆる、レセプター結合ドメイン(RBD)です。ウイルスの抗体やリンパ球からの攻撃回避手段としてのグリカンシールドを目で見えるようにした表紙ですね。

生体分子系の分子動力学シミュレーションデータの解析入門―動画の紹介です。

今日は動画を一本紹介します。今年の2月に行われた第4回オンラインサロン「スパコンコロキウム」講演動画
題名:生体分子系の分子動力学シミュレーションデータの解析入門
講演:松永 康佑(埼玉大学大学院理工学研究科)

この動画では松永先生が、分子動力学シミュレーション(Molecular Dynamicsという言葉からMDと呼ばれる解析です)について学部4年レベルで解説してくださっています。MD解析の基本の解析の後、データの解析法、解析例をわかりやすく説明してくださっています。一時間弱の動画ですので是非ご覧ください。」https://youtu.be/xQWCA7vWLLE 
MD解析は以前の記事で紹介したように、新型コロナウイルスが細胞表面のレセプターに結合するとき、糖鎖をスイッチとして結合、侵入を行っていることを明らかにした手法です。現在さまざまな生命科学の解析に使われていますので学んでそんはないテーマです。

PymolをUbuntu にインストールして使おう!

日替わりリンクなどのページのほうに簡単に書いたUbuntu (Linuxのもっとも普及しているディストリビューション)への分子グラフィックスソフトPyMOLのインストール法をまとめておきます。写真はPymolで表示したInaZというバクテリアのタンパク質の立体構造(AlphaFold2による予測構造)です。驚くような不思議な構造をしていますね!
https://alphafold.ebi.ac.uk/files/AF-P06620-F1-model_v2.pdbからInaZタンパク質の立体構造情報が記述されているpdbファイルをダウンロードして、PyMOLの画面(一番下の写真)にドラッグアンドドロップすれば表示されます。タンパク質を立体的に表示することができて、自由に拡大、回転、反転もできます。さらに立体構図の描画方法も様々に変化させて表示することができます。構造生物学には必須のソフトウエアです。

Ubuntu の最新版LTS20.04へのインストール法は簡単です。デスクトップ左端にあるAと書いてあるアイコン(Ubuntu Softwareという、Ubuntuでソフトウエアをインストールするときに使うツールのアイコンです)をクリックします。開いたウインドウで検索窓にpymolといれてエンターを押すとpymol-ossというソフトウエアがヒットします(下の写真)。
上の写真ではインストール済みとなっていますが、初めてのインストール時には、インストールボタンが表示されているので、それを押すとインストールが始まります。インストール中と表示されて、インストールの進み具合がインストール中24%などと表示され、100%になると、権限の設定画面がでます。デフォルトでチェックが入っていない、USB上のファイルの読み書きを許可すると言う英語の表示にもチェックをつけて、閉じるボタンを押したらおしまいです。ソフトを起動すると以下のような画面になります。

この画面に立体構造を表示したいpdfファイルをドラッグアンドドロップすればただちに立体構造が表示されます。これでPyMOLが使えるようになりました。この後は、東京大学の森脇 由隆先生のpymol bookを読むといいでしょう。日本語でほんとうに丁寧に説明されていますし、ページ右上のprinterのアイコンを押せば印刷もできます。そのときプリンタをpdf printerに指定すればpdf版の本もできます。

癌の糖鎖生物学―NIH videocastの紹介です

秋が深まってきたようで、近所では稲刈りの真っ最中です。今日からこのブログのスタイルをちょっと変更して、短い記事をこまめに投稿していこうと思います。長い記事は書くのに時間がかかるので、こちらは今までと同じ頻度になると思います。

いつも紹介しているNIHのvideo castのサイトに今月(2021年)9月16日と9月17日にわたって開催されたGlycobiology of Cancerという講演会の動画リンクがアップロードされています。初日の16日の分がこちら2日目の17日の分がこちらにありますので画面左下の+Moreの部分をクリックして開く画面で、Downloadのボタンをクリックしてダウンロードしてご覧ください。画質はビットレートで、1240k、1440k、1840kの三種類が選べます。ダウンロードした動画は、f4vファイルという形式で作成されており、1840kの場合は2ギガちょっとのサイズですのでダウンロード先の空き容量を確かめてからダウンロードしてください。f4vファイルはMPC-HCなどの無料版動画プレーヤーで再生できます。英語がちょっとと思われる方は同じDownload画面に、スクリプトのダウンロードリンクもありますので、まずは英語の講演のスクリプトをダウンロードして、それを眺めながら自分の興味のある講演だけをみるとよいと思います。
下には講演の演目を並べておきます。

一日目(September 16, 2021)1:00-5:00p.m., EDT
Session I: Cancer Progression & Metastasis(Chair, Dr. Karl Krueger, Program Director, NCI)
1:00p.m., Dr. Gerard C. Blobe, Duke University Medical School
Loss of ALK4 Function Promotes Cancer Progression Through Reprogramming of Receptor Glycosylation
1:30p.m., Dr. Kevin Yarema, Johns Hopkins Medical School
Metabolic Glycoengineering Labeling of Sialic Acid for Early Cancer Detection
2:00p.m., Dr. Prakash Radhakrishnan, University of Nebraska Medical Center
Cancer-associated Short O-glycans in Pancreatic Cancer Malignancy
2:30p.m., Dr. Charles Dimitroff, Florida International University
The Role of Hypoxia Driving Melanoma Glycobiology Signature

Session II: Diagnostics & Therapeutics(Chair, Dr. Neeraja Sathyamoorthy, Program Director, NCI)
3:15p.m., Dr. Joseph Contessa, Yale University Medical School
Developing an Inhibitor of N-glycosylation for Cancer Therapy
3:45p.m., Dr. Steven Banik, Stanford University
Targeted Protein Degradation from the Extracellular Space
4:00p.m., Dr. Mia L. Huang, Scripps Department of Molecular Medicine
Tools to Discover and Surveil Glycoconjugate Targets in Cancer Biology
4:15p.m., Dr. Dannielle Engle, Salk Institute for Biological Studies
Interception of the Aberrant Glycan CA19-9 in Pancreatic Disease
4:30p.m., Dr. Edgar Engleman, Stanford University School of Medicine
Targeting Dectin-2 for Tumor Immunotherapy
5:00p.m., Adjourn

二日目(September 17, 2021)1:00-5:15p.m., EDT
Session III. Cell Signaling (Chair, Dr. Neeraja Sathyamoorthy, Program Director, NCI)
1:00p.m., Dr. Mauricio Reginato, Drexel University
O-GlcNAcylation: Linking Signaling and Metabolism in Cancer
1:30p.m., Dr. Virginia Shapiro, Mayo Rochester
ST8Sia6 Promotes Tumor Growth in Mice by Inhibiting Immune Responses
2:00p.m, Dr. Anita Hjelmeland, University of Alabama Birmingham
A Protumorigenic Role for ST6Gal1-Mediated Sialylation in Brain Tumor Initiating Cells
2:30p.m., Dr. Thomas Clausen, University of California San Diego
Binding of Malarial VAR2CSA to Oncofetal Chondroitin Sulfate Depends on Sulfation and Ligand Accessibility

Session IV. Glycoproteomics & Informatics (Chair, Dr. Karl Krueger, Program Director, NCI)
3:15p.m., Dr. Richard Drake, Medical University of South Carolina
Integrated Workflows for Carbohydrate Antigen Immunohistochemistry, N-glycan Imaging Mass Spectrometry and Targeted Glycoproteomics on the Same Tumor Tissue Slide
3:45p.m., Dr. Stacy Malaker, Yale University
Revealing the Cancer-Associated Mucinome
4:00p.m., Dr. Hui Zhang, Johns Hopkins School of Medicine
Characterization of Human Cancers by Glycoproteomics
4:30p.m., Dr. Raja Mazumder, George Washington University
Exploring Cancer Mutations and its Effect on Glycosylation Sites Using GlyGen Supersearch
4:45p.m., Dr. Lingjun Li, University of Wisconsin
Development and Application of Chemical Tags for Quantitative Glycomics and Glycoproteomics
5:15p.m., Adjourn
今日も長くなりましたが、面白そうな講演なので是非聴いてみてください。

英単語の発音を調べるサイト―FASTA, GWAS, RNAseq, glycocalyx, Entrezなど正しく発音できますか?

毎日うだるような暑さですがお元気でしょうか。今日は英語の話です。
英語で発表しようとする時や、会話のとき、この単語の発音でいいのかな?と思うことがよくあります。そんなときはYouGlishというサイト(リンク集にいれてあります)にアクセスして、検索窓に発音を調べたい単語を入れて、Say It!というボタンを押しましょう。するとYouTubeの音声コーパスからその単語を含む動画を選び出して再生してくれます。動画の下には、その単語を含む文(字幕)が表示されます。いくつかの動画をみて比較したいときは、次の動画のボタンを押すと別の動画が同様に再生されます。これは便利なサイトです。Improve your English pronunciation using YouTubeというタイトルのサイトです。

ブックマーク必須のサイトですので、是非試してみてください。
以下はこのサイトを使ってみるための 練習問題です。それぞれの単語を検索窓にいれて発音を調べてみてください。面白い動画も見つかると思います。

RNAseq  (アール・エヌ ・エー・セックという人が多いですが‥本当はどう発音するでしょう)
glycocalyx (細胞表面を覆っている糖衣)
sialic acid  (シアル酸)
GWAS (ゲノムワイド関連解析―この解析でABO式血液型物質合成遺伝子と血液凝固に関係があることや、新型コロナウイルスの劇症化とABO式血液型が関連することも解明されています)
FASTA  (塩基配列やタンパク質のアミノ酸配列を記述する標準記載形式です。ファスタという発音も正しいですが、ファストエイと読む人も多いです)
Entrez (NCBIのデータベースの入り口ですが、フランス語として読むようです), genome (ゲノムですが英米人の発音はどうでしょうか?)
Lucretius (ルクレチウス)
などなど、いろいろ遊んでみてください。

出てくる動画は、基本的なものが選ばれているので、動画をはじめから見るのも勉強になりますよ。

写真は散歩の途中でみつけた錦鯉です。なんと川の中を泳いでいます。梅雨入りのころには上流500メートルあたりに泳いていましたが、梅雨の増水で流されたようで少しづつ下流へ移動して今は橋の下で悠々と泳いでいます。これを書いている最中に町内で野生のサルが出没しているので出会ったら家の中に避難するようにという放送が入りました。イノシシやタヌキは時折見かけますが、サルは怖いですね。京都の家の柿の木には毎年サルが実を食べにやってきていました。飼っていた犬が木の上にいるサルに吠えて、まるで絵本のような情景でした。近くの駅では、小学校の下校時にサルが電車の駅のベンチに座っていて、子供たちが逃げるようにして電車に乗り込んでいたそうです。昔の話です。

あけましておめでとうございます!2021年迎春

新年あけましておめでとうございます。昨年は新型コロナウイルスに社会がひっかきまわされた一年でしたが、今年はもとの平穏な社会がもどってくることを願っています。元旦の今日は、新型コロナウイルスについて詳しく解説したパンフレットと、トランプ大統領などの治療に使われた新型コロナウイルスに対する抗体医薬品について紹介します。

このブログでもコロナウイルスについては何回か触れましたが、ここに「新型コロナウイルス感染症COVID-19 診療の手引き 第4.1版」という医療関係者向けの厚生労働省発行の手引きがあるのをみつけました。どうやってPCRをやるのかとか、潜伏期間はどれくらいとか、症状や、マスクや消毒の効果などなど、各自の知識に応じて興味深く読むことができる内容です。読むと新型コロナウイルス感染症の全貌がわかるのでダウンロードして手元に置いておくのをおすすめします。

Google検索していたら、以前の記事で紹介したVir Biotechnology社の抗体医薬品は第3相の世界規模の試験に入ったのがわかりました。またニュースによると(英語のリンクです。日本語の記事は以下を参照してください)同じ記事で紹介していたvaccinal effect (おおざっぱにいえば抗体を投与した後、まるでワクチンをうたれたような防御効果がでる現象です)がインフルエンザウイルスに対する抗体に関して確認されたという論文を、同社が雑誌Natureに載せているそうです。このNatureの論文についてはここに日本語による紹介の記事をみつけましたのでリンクしておきます。またこちらにもわかりやすい日本語での紹介があります。この論文ではウイルスや癌細胞を殺す抗体(ウイルスや癌細胞にある特異的なタンパク質や糖鎖に対する抗体で治療用に使う抗体です)の根元の部分のアミノ酸配列に3箇所のアミノ酸配列変異、いわゆるGAALIE突然変異を導入するという手法を使っています。GAALIE突然変異というのは、G236A/A330L/I332Eの変異から “GAALIE”と名付けられた変異のことす。抗体の研究で有名なKabatさんのデータベースでの抗体のアミノ酸配列の番号づけ(EU index in Kabat )で、Fc領域にある236番目のアミノ酸グリシン(G)をアラニン(A)、330番目のアラニン(A)をロイシン(L)、332番目のイソロイシン(I)をグルタミン酸(E)に変化させた抗体を作成することです。

この三箇所の変異を導入した抗体を人工的に作って投与したらインフルエンザウイルスに対する強いvaccinal effectが観察されたそうです。

このGAALIE突然変異によるvaccinal effectはもともと癌の治療薬として使われた抗体の研究で見つかりました。現在利用されている多くの腫瘍マーカーは糖鎖です。膵臓癌や胃癌、大腸癌などの診断に広く活用されている腫瘍マーカーとしてCA19-9(シーエーナインティーンナイン)というのがあります。これは4つの糖が結合した糖鎖でシアリルルイスa (Sialyl Lewis A (sLeA))と呼ばれる糖鎖(シアル酸がついた糖鎖でシアリルルイスエーと読みます)のことです。この糖鎖の発現がこれらの癌で高まることから、この糖鎖は極めて有用な腫瘍マーカーとして、現在臨床検査で活用されています。

この糖鎖と結合する抗体を投与することで癌細胞を殺す治療法が研究されていました。この治療用のシアリルLewis aに対する抗体の根元部分(Fc部分)にGAALIE突然変異を入れた抗体を作って投与すると、vaccinal effectがみられることが発見されて論文になっています。ここにロックフェラー大学の特許へのリンクがあります)。最初に紹介したNatureの論文では、インフルエンザウイルスに対する抗体で、このアミノ酸配列の三か所での改変を行うと、インフルエンザウイルスに対する高い免疫効果がみられたそうです。同様の改変はもちろんSARS-CoV2の治療抗体でも既に実施されています。

このように新型コロナウイルスに対する治療用抗体薬品の開発もすごい勢いで進んでいますので、COVID-19に感染しても抗体で治療することが容易になる日も近いと思われます。ワクチンの開発もすすんでいますし、今回 phase IIIに進んだというのを紹介したFc部分を改変したヒト型モノクローナル抗体も巨力な治療効果が期待されるので、ちょっと明るい希望が見えてきた元旦だと思います。みなさんもどうぞゆっくり休んで英気を養って、コロナにまけないように今年もがんばっていきましょう。

お正月ですので、写真は床の間の掛軸とハイビスカスの花にしました。般若心経の掛軸を飾っています。

ヒトの細胞の世界:世界で一番詳しい解説図が公開されています

世界一詳しいヒトの細胞の図解が2018年に公開されています。細胞を構成している分子についての知識は飛躍的に増えていて、X線結晶構造解析、核磁気共鳴(Nuclear Magnetic Resonance: NMRと略します)、クライオ電顕などを使って、細胞内での生体分子の様子がずいぶんわかってきました。その成果の集大成の図といえるでしょう。

こんな図です。きれいですね。秘密の花園みたいにきれいです。図には二つの細胞が描かれています。図の右上隅の細胞は、カドヘリンを介して画面のほとんどを占めている細胞と接着しています(この記事の下から二番目の図にカドヘリンのある場所がしめしてあるのでご覧ください)。画面左上からカドヘリンによる接着部位に向かって広がっているのは細胞膜とその膜上および膜外(細胞外基質)にあるいろいろな分子です。画面左下の黄色いバスケットのように見える部分(核膜孔)の周りの膜は、核膜などでその下は核の内部です。青い紐はDNAでいろんな転写因子も描かれています。

Cellular landscape cross-section through a eukaryotic cell, by Evan Ingersoll & Gael McGill – Digizyme’s Molecular Maya custom software, Autodesk Maya, and Foundry Modo used to import, model, rig, populate, and render all structural datasets
こちらには同じ図ですが、図のあちこちをクリックすると分子の名前だとか分子の詳しい説明などがみられる図(クリックしてサイトを開いてみてください)が掲載されています。ページを開くと上の図が大きく表示されていますが、下に6枚、上の図の部分図が表示されています。絵で描かれている分子の部分をクリックすると、分子の名前が英語で表示され、ダブルクリックすると分子の情報を英語で詳細に書いてあるページが開きます。以下の図はこのサイトの使い方の一例です。
図の中の細胞と細胞の接着部位にある分子をクリックしてみましょう。

マウスカーソルが指に変わって、n-cadherinという分子名が表示されます。これはN-cadherinです。

下の図に示すように、各図の左上にSelect a pathwayと書かれているプルダウンメニューがあります。プルダウンして、Cell Structureを選んでみましょう。以下のような細胞の構造に関わっている分子とその分子名が一斉に表示されます。これでチューブリンだのアクチンだのがどこにあるかが一目瞭然ですね。それぞれの分子をクリックすると分子の解説ページが開きます(何故かN-cadherinの場合は開きませんでした)。

この図で灰色っぽい白に表示されているのは、細胞膜です。上の細胞と下の細胞が結合している部分にN-カドヘリンがびっしり膜から生えているように見えるのがわかると思います。この接着部位は、接着結合(adherens junctions)あるいはその一例である 細胞をぐるっと取り囲む接着帯(adhesion beltあるいはzonula adherensとも言う)と呼ばれています。図の細胞膜の表面(図の左上のすみのほう)には、プロテオグリカンの一種であるperlecanが描かれています。図をひらいてみていろいろクリックしてみて細胞がどんな分子で構成されていて、それぞれの分子がどこにあるかなどをみてみてください。
このMcGillさんたちが作った図では分子の密度は実際のものより薄まっていると書かれています。実際はもっと細胞内は分子が込み合っているようです。

オンラインシンポジュウム 糖の起源と進化~宇宙 & 深海~は明日zoom開催です。今日8/20中に参加登録してください

毎日酷暑が続いていますが皆さんお元気ですか。庭の百合も山百合もあちこちで満開です。さて明日21日は、比較グライコーム研究会のzoomシンポジュウムがある日です。

今8月20日木曜日中の参加申し込み受付ですので、ここから是非申し込んでご参加ください。プログラムと申込みリンクはこちらにあります。

私達の新しい論文が公開されました―どんなGPIアンカー型タンパク質が配偶子幹細胞の発生に関与しているかを明らかにしました

私のラボの二人の修士の学生さんの修士論文をもとにできあがった論文が、6月24日に雑誌 Journal of Biochemistryにアクセプトされて、本日公開されました。
Rikitake, Matsuda et al. (2020)
です。
Analysis of GPI-anchored proteins involved in germline stem cell proliferation in the Caenorhabditis elegans germline stem cell niche
「線虫C. elegansの配偶子幹細胞ニッチでの配偶子幹細胞の増殖に関与しているGPIアンカー型タンパク質の解析」
という題です。図書館などでこの雑誌の電子ジャーナル版が見られる方は是非ご覧ください。
Analysis of GPI-anchored proteins involved in germline stem cell proliferation in the Caenorhabditis elegans germline stem cell niche
The Journal of Biochemistry,https://doi.org/10.1093/jb/mvaa075

私達はヒトと共通な糖鎖関連遺伝子を、モデル生物である線虫C. elegans(シーエレガンス)で網羅的に機能阻害してその隠された機能を明らかにしてきました。GPIアンカー型タンパク質(下の模式図と註1参照)を合成する遺伝子について調べたところ、GPIアンカー型タンパク質GPI-APの合成が阻害されている場合には、配偶子がつくれないこと、すなわちGPIアンカー型タンパク質の合成は子孫を作る時に必須であることを明らかにしました(Murata et al. MBoC 2012)
これはGPIアンカーが生命の連鎖に不可欠な分子であるという初めての発見で、学会で大変ほめていただきました。

今回の研究では、GPIアンカー型タンパク質のプロテオーム解析の結果をもとに、RNAi (RNA 干渉法)で網羅的に機能阻害を行い、配偶子幹細胞が正常に発生するために必要なGPIアンカー型タンパク質を3種類同定しました。GPIアンカー型タンパク質の合成阻害で配偶子幹細胞の数が激減するという今回の結果は、おそらくヒトにおいても同様なGPIアンカー型タンパク質の働きが存在しており、不妊の原因の一つにGPIアンカー型タンパク質合成に関わる遺伝子やGPIアンカー型タンパク質をコードしている遺伝子の異常が潜んでいることを強く示唆しています。今回の研究成果が今後、ヒトの不妊研究に役立つ可能性があり、また幹細胞ニッチの形成一般にGPIアンカー型タンパク質がかかわっている可能性が示唆されるとても興味深い成果だと考えています。

註1; 上の図で模式図を示していますが、GPIアンカー型タンパク質というのは、細胞膜表面(細胞の外界と面しているほうの膜)に存在しており、フォスファチジルイノシトール(PI)という脂質に糖(図にあるグルコサミンGlcNやマンノースMan)が結合し、さらにエタノールアミンリン酸EtNPのアミノ基を介して特定のタンパク質のカルボキシル基とアミド結合している分子です。ヒトのアルツハイマー病をひきおこすプリオンタンパク質には、GPIアンカー型タンパク質として存在しているタイプがあることがわかっています。その他200を超える種類のGPIアンカー型タンパク質(酵素や受容体、接着分子、補体制御因子、その他)が存在すると推定されており、膜上で信号伝達に働くなど様々な役割が知られています。

雨が毎日続きますが、皆様のところは被害がないでしょうか。北海道まで豪雨が到達したようですが、皆様のご無事をお祈り申し上げます。写真は最近撮影した、近所で巣立ったモズの若鳥と実をつけたクリの木の写真です。金蘭の花もねむの木の花も終わって今はアジサイがきれいです。ヒグラシも鳴き始めて季節は着実にすすんでいます。

新型コロナウイルスに対するワクチンはもう存在している?―新型コロナウイルスと闘う糖鎖生物学

先日の記事で新型コロナウイルスSARS-CoV-2について糖鎖生物学からのアプローチを紹介しました。    その記事で紹介していたbioRxivに公開されているプレプリントの論文が査読を終えて有名な科学雑誌Natureに掲載され無料公開されています
   2003年のSARSの流行の時ロンドンで感染から回復した人がいます。その人のもっているメモリーB細胞(memory B cell)をとりだし、SARSウイルスと結合する中和抗体が存在することをつきとめ、その抗体を産生する細胞を不死化してモノクローナル抗体をつくりました(S309と名付けられています)。この抗体分子の全アミノ酸配列もわかっています。この抗体がSARS-CoVおよびSARS-CoV-2の共通の部位(具体的にはウイルスのスパイクタンパク質の、ヒトの細胞表面にあるアンギオテンシンコンバーティングエンザイムACE2分子と結合する部位とその周辺のN型糖鎖)と結合してウイルスを不活性化することがわかりました。Vir Biotechnologyという企業がこの抗体を新型コロナウイルに対する予防薬、治療薬として開発しており、まもなくフェーズ1と2の臨床試験を開始するそうです。これはワクチンではなくて洗練された血清療法のようなものです。新型コロナウイルスにかからないように医療関係者にあらかじめこの抗体を投与しておくとか、コロナウイルスにかかった患者さんの治療薬として使うわけです。この抗体は遺伝子操作で血中の半減期を伸ばしてあり、さらにvaccinal effect という効果で、投与した人に新型コロナウイルスの免疫を与えるように抗体の改変がおこなわれているそうです(Vir Biotechnologyのホームページによる情報)。Natureにでた論文は、前の記事の末尾で紹介したbioRxivにアップロードされていた論文ですので、bioRxivのようなプレプリントサーバーの素晴らしさをこの例からも実感できることと思います。
   このNatureの論文の責任著者は、David Veesler先生(ワシントン大学)で、新型コロナウイルスが結合するヒトの細胞表面分子(ウイルスレセプターと呼ばれます)がアンギオテンシン・コンバーティングエンザイム(ACE2) であることを発見した人です。コンバーティングエンザイムというのは、要するにタンパク質分解酵素のことで、アンギオテンシンの前駆体蛋白質を一定箇所で切断して活性型のアンギオテンシンペプチドを作り出すタンパク分解酵素です。Veesler先生の5月27日に行ったジョンズホプキンス大学セミナーの講演が、NIHのvideo castで公開されていますので下にリンクを載せておきます。SARS, MERS, SARS-CoV, SARS-CoV-2ウイルスのグリカンシールドの解析、ACE2との結合の様子、ウイルスの侵入の様子、様々なコロナウイルスに対する抗体の解析など情報満載の講演です。

高画質でダウンロードも可能ですのでこちらにアクセスしてご覧ください

コロナウイルスは、ウイルスの表面にあるSpike タンパク質(S protein) が三つ集まった複合体(三量体といいます)でACE2分子と結合します。Veesler先生たちの研究で、このSタンパク質三量体が開いたり閉じたりして、ACE2と結合することがわかりました(上の動画にありますので探してみてください)。さらに上で述べたようにS309抗体はACE2分子に結合するウイルスのSタンパク質の、特定のアミノ酸配列と付近のN型糖鎖と結合する抗体であることもわかっています。この配列はすべてのコロナウイルスに共通しており、S309抗体はSARSウイルス、コロナウイルスSARS-Co-V、そして新型コロナウイルスSARS-CoV-2を中和することができるのです。S309抗体(抗体は糖鎖が付加されたタンパク質です)の全アミノ酸配列も遺伝子配列もわかっており、ウイルスのS タンパク質と結合する部分であるFab(Fragment antigen bindingといいます)よりは、IgGの抗体分子そのものの方が中和活性は強いようです。S309といくつかのコロナウイルスに対するモノクローナル抗体を混ぜたものが最も中和活性が強く、この抗体カクテルを使えば、変異したコロナウイルスがまじっていてもきれいに中和できるのでウイルスが変異したものがまじっていても一網打尽に中和・不活性化できると期待されています。

S309抗体は、そのままでは予防薬、治療薬になるだけなのですが、遺伝子配列を変更することでSタンパク質への結合力を上げたり(分子進化の手法)、血清中での安定性を高めたりできます。またIgG抗体は糖鎖修飾されているのですが、その糖鎖からフコースを取り去ると抗体依存性細胞傷害活性(ADCC)が劇的に上がります(日本の糖鎖生物学の有名な成果です)。こうした様々な方法で抗体の作用を高めることもできます。もちろんADCCとかがやたらにおこると致命的になるかもしれませんし、予備的な十分な研究が必要なのはいうまでもありません。また上で述べたvaccinal effectというのも期待できそうです。癌の治療に使うモノクローナル抗体を投与した後、抗体が消えたあとにも癌細胞を攻撃する免疫が生み出される場合があることで有名です。エイズの治療とかでもvaccinal effectはみられるようで、S309モノクローナル抗体で新型コロナウイルスに対してvaccinal effectをひきおこすことができればこれは、ワクチンにもなるわけです。

昔はウイルス感染症から回復したり、感染しても症状が出ない人がみつかってもS309のような抗体を分離することは不可能でした(映画やSFではそれができるかのように描いているものが多かったですね。たとえばアウトブレイクという映画では、ウイルスの宿主で症状がまったくでないサルをみつければその宿主の血清から治療薬がすぐできたりしていたと思います。アウトブレイクの映画をもとにした看護学の教科書―アウトブレイクの映画をみて間違い探しをしながら学ぶという趣旨の本も図書館でみたことがあります。時代が進んだ今では、新型コロナウイルスに感染して回復した人の免疫細胞から抗体をとりだすというアプローチが盛んにおこなわれているそうです。たとえばこちらの雑誌Scienceにのった記事です。生命科学の飛躍的発展によっていまやそれが可能になってきているのですね。新型コロナ対策のみならず多くの感染症対策の一つの道が拓かれていっているのが実感されます。