2019年夏休みのおすすめ本―その1 成功の普遍的法則 ザ・フォーミュラ

毎日暑い日がつづきます。先日の台風ではリンゴの実が落ちるかと心配しましたが、一つも実が落ちずに順調に色づいています。さて今日からしばらく夏休みにおすすめの本を紹介します。

  先日、本屋にいったら有名なネットワーク科学者バラバシの書いたザ・フォーミュラ 科学が解き明かした成功の普遍的法則という本がありました。即決で買ってきました。これは良い本です。是非皆さん買って読んでみてください。特に学部の学生さん、大学院生、そして若い研究者の方に熟読してほしい本です。
バラバシさんはかつて出版された本、「新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く―」(日本放送出版協会、2002年)(’LINKED:The Science of Networks)日本でもよく読まれた著名なネットワーク科学者です。(こちらの本は品切れのようですが、中古本や図書館で見つけて是非読んでみてください。入門書としてとてもよくできた本でお勧めの本です。)

成功するのには、パフォーマンスだけではだめで、それを社会が評価しなくてはならないことが最初に書いてあります。リーダーとしての成功の秘訣、なぜチームの成果なのにリーダーだけが脚光を浴びるのか‥、などの分析はとても参考になります。筆者らの作成した論文の共著者データからノーベル賞受賞者予測プログラムはほぼ100%過去の受賞者を予測したのに、たった一人だけ、ノーベル化学賞(蛍光蛋白質GFPの研究)を授賞するはずと予測した研究者がどこの大学研究所にもおらず行方不明、もちろんノーベル賞ももらっていませんでした。彼(Douglas C.Prasher)は米国Woods Hole臨海研究所でGFP蛋白質の部分的アミノ酸配列を同定しそれを使って設計したオリゴヌクレオチドプローブで、自らが作成したクラゲのcDNAライブラリをスクリーニングして、GFP遺伝子のクローニングに成功したGFP 研究のパイオニアの研究者です。GFPの研究でノーベル賞を授賞した線虫研究者のチャルフィ(Chalfie)さんにGFP 遺伝子をあげた人です。あちこち探してみるとなんと研究職をやめてしまって、アメリカのトヨタの送迎運転手をしていたのだそうです。GFP遺伝子を同定しクローニングした研究者なのに、なんという不条理。どうしてこんなことになったのでしょうか?

全くアメリカで無名だったアインシュタインが何故か船でアメリカに到着した時、数万人もの群集に歓迎されました。そのせいで、その後、各地で熱狂的に歓迎されました。これはちょっとした間違いに起因するらしい‥などなど面白いトピックも満載で飽きさせません。筆者らの研究(雑誌Scienceにのった論文)をもとに噛み砕いて書かれており、ネットワークサイエンスから導き出された成功の普遍的法則が記載されている必読の本です。ざっと読んだあとは、じっくり参考文献やurlを参照しながら、考えながら読み直すことをすすめます。これから研究者の道を志す人に是非読んでほしい本です。

おすすめ本です。遺伝学の辞書と量子化学(分子軌道法)の入門書の紹介です。

昨日は博多祇園山笠(公式サイトです)の予行演習のような催し(追い山笠ならし)が福岡市内であり、快晴で多くの見物客がつめかけました。今日の博多は梅雨らしい、しっとりと降り続く雨の日でした。写真は6月24日に撮影した設置途上の山笠 千代流(ちよながれ)です。今年の一番山笠が千代流で7月15日早朝の「追い山笠」で他の山笠とタイムを競いあいます。写真は建設中の山笠ですが、その完成版はここ(西日本新聞社のサイト)などでご覧ください。ひさしぶりに2冊、お奨め本を紹介します。
まずは最近買った遺伝学の辞書です。Glossary of Genetics―- Classical and Molecular (Fifth edition) ( R. Rieger, A. Michaelis, and M.M. Green, Springer)という本です。私が以前、英国MRC LMB(ケンブリッジにあるMRC分子生物学研究所)のJohn Whiteラボに留学したとき、遺伝学の話になるとラボの多くの人達がひっぱり出してきて参照していた、ラボメンバーお奨めの一冊の参考書ですので紹介しておきます。発行が1991年ですので、最新の語彙はもちろんありませんが、ちょっと古い論文や本を読む時や、基礎にたちかえって ものを考えるときにとても参考になる辞書です。調べてみるとこの本を引用している論文も今年もでていますので、やはり広く使われているようです。私は書籍版をずっと愛用していたのですが、一番の難点は全文検索ができないことでした。昨日、Springer-Natureの宣伝メールがきたので、セールのリストを見てみると、多くの電子ブックが一冊1259円ほど(為替レートで変動します)で買えるということがわかりました。さっそく上の本の電子ブック版を探したところ、pdf版がありましたので即決で購入しました。この電子ブックは全文検索ができるので とても便利で満足です。7月31日までセールをやっているようですので、皆さんも自分の興味ある本がないか探してみるといいと思います。

二冊目は量子化学の入門書で、このブルーバックスの本(「はじめて量子化学―量子力学が解き明かす化学のしくみ(平山令明 著)」)を推薦します。以前 量子生物学の記事で紹介した計算分子生物学の本に歯がたたないという方の入門にも最適だと思います。分子軌道法を最短で理解できるように書かれている本で高校生から読めるように書かれている本です。分子軌道法のソフトの使い方も書かれているので、理解が深まると思います。付録には水素分子の分子軌道法の数式を含めた解説もあって式をおって学びたい人にも役立ちます。正誤表がありますので、それをダウンロードしてから訂正して本文を読むといいでしょう。

アインシュタインの旅日記とアインシュタインからの墓碑銘の話―アインシュタインが訪れた九州大学と福岡(その5)

以前「アインシュタインからの墓碑銘」とアインシュタインの日本への旅日記についての記事を書きました。先日、九大医学部図書館からその本(「アインシュタインからの墓碑銘」サイン入りの著者からの寄贈本です)を借りてきて読んでみました。その本のはじめにあったアインシュタインの言葉を再録しておきます。

美しい微笑みをたたえ、お辞儀をし、床に座る人々へ。
願わくは西欧に先んじた自らの偉大な徳を、汚さずに保ち続けることを忘れないでほしい。すなわちそれは、生活を芸術的に築きあげることであり、個人の欲望を抑えた簡明、質素な態度、そして心の清明な静けさである。アルベルト・アインシュタイン(桑折千恵子訳)」

この本には、アインシュタインの博多訪問や三宅 速 教授宅への訪問だけでなく三宅ご夫妻の空襲での殺害、そして九大医学部での米軍爆撃機のパイロットに対する生体解剖事件についても詳しく書かれています。またその事件後の九大第一外科のたてなおしに三宅ご夫妻の息子さんの三宅博さんが尽力されたことも書かれています。
アインシュタインの旅日記の日本訪問の部分の全訳「アインシュタイン日本で相対論を語る」はすでに出版されていましたが、その他のアジア地域とパレスチナ、スペインの旅日記も含む本、アインシュタインの旅行日記も最近、草思社から翻訳版がでたので、上の本と併せてご覧になると考えさせられるところが多いと思います。
写真は一週間ほど前に近所でみつけたねむの木の花です。今年もきれいに咲いていました。

jamoviで学ぶ統計学―統計ソフトRをもとにした統計学のスプレッドシート型グラフィカルインターフェイスの紹介

このブログでは統計解析のためのおすすめソフトとしてRを紹介してきました。

ネットサーフィンしていると、jamovi(ジャモウヴィと読むようです)というソフトがあるのに気づきました。これは無料で使えるRをもとにしたソフトで、スプレッドシートでSPSSなどの高価な有料ソフトと似たわかりやすい使い方ができ、かつ無料のソフトだそうです。jamoviの “syntax mode”をつかえば、解析にjamoviが用いているRのコードが表示されそれをRにコピーして使うことができます。逆に、Rj Editorというjamoviのモジュールをjamoviに入れて使うと、Rのコードをjamovi内で利用することもできます。windows, mac, linux, chrome OSで利用でき、使い方のビデオや、jamoviを使った統計学の教科書(Version 0.70, 2019)も無料で公開されています。これはLearning Statistics with R(Navarro DJ著)に基づいた教科書で、なんと日本語版(Version 0.65の翻訳)も芝田征司先生が作成して公開されています。心理統計と初歩の入門者向けの本とのことですが、Rや RStudioより初心者向きの解析ツールを探しているかたなど、興味のある方は使ってみると良いと思います。

写真は家で実っているリンゴです。今年は昨年より沢山花が咲いたため、10個以上の実がなっています。

糖鎖生物学入門―4 アルマ望遠鏡がとらえた、宇宙に存在する糖

前回は単糖の構造を簡単に紹介しました。炭水化物は一般にCm(H2O)nと表記され、炭素に水がついたような分子という意味で、carbo hydrate (炭・水化物)というのでした。ではm=2でn=2の化合物、C2(H2O)2というのはどんな分子でしょうか。
グリコールアルデヒドという名がついているこの分子は、PubChemでは下図のような構造であると表示されています。 立体構造はこんな感じです。

図の左の構造式をみると、右端にアルデヒド基-CH=Oがあります(註2)。HOCH2-CH=Oいう構造のこの分子は、diose とよばれ (di-は2という意味の接頭語、-oseは糖を示す接尾語ですので、2-carbon sugarとも言われます。二炭糖といいます。註1参照)、体内で重要な代謝産物として働いており、たとえばアセチルCoAに容易に変化することも知られています。
このdioseは実は宇宙に存在しています。その存在を明らかにしたのは、先日ブラックホールの形をとらえた電波望遠鏡システムALMAです。
The Atacama Large Millimeter/submillimeter Array (ALMA) は、南米チリのAtacama砂漠に展開している電波望遠鏡群=アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計です。上にリンクを張った日本語での紹介ページのトップの「ALMA望遠鏡にまつわる10のこと」の第4番目に「地球外生命の可能性に迫る」という項目があり、そこにグリコールアルデヒドの分子の絵がのっています。説明文にはアミノ酸のことばかり書かれていますが、グリコールアルデヒドは様々な炭水化物のもとにもなる分子です。
発見された場所はIRAS 16293-2422という地球から400光年はなれた連星系のガスの中で、太陽系タイプの星が誕生している現場と考えられているところです。その暖かいガス(200-300K程度の温度だそうです)の中に初めてグリコールアルデヒドが存在することがALMA電波望遠鏡で検出されたのです(論文はここからダウンロードできました)。以下の動画も参考にしてください。

グリコールアルデヒドは上に述べたように最も簡単な糖 diose (二炭糖)であり、ホルムアルデヒドからはじまるホルモース反応(formose reaction)で、触媒の存在下で様々な単糖やリボースなども合成できる素材となる分子でもあります。ホルムアルデヒド(化学式はHCHOでありこれはC(H2O)とかけます)は宇宙空間に存在することがすでに分かっており、グリコールアルデヒドとホルムアルデヒドがホルモース反応をすると三炭糖(グリセルアルデヒドなど)ができあがり、それをもとに様々な糖が合成できるのです。つまり宇宙に、それも太陽系の形成現場にグリコールアルデヒドが検出できたということは、生物によらない触媒で、こうした糖が形成される可能性を補強する発見であり、生命の礎になる炭水化物分子の発見は、宇宙における生命の起源の研究に大きく貢献するというわけです。

最初の有機化合物の一つとして、簡単に糖ができる、というのはとても興味深い可能性です。生命は糖からできたのかもしれない、つまり、RNAワールド云々をするまえに宇宙に豊富な糖の存在が前提としてあって、糖を中心とするタイプの生命がまず最初にできた(RNAの中にも糖がはいっています)可能性すらでてくるわけです。今まで生命の起源の説明に糖を取り込む試みは少なかったのですが、糖鎖生物学者の多くは、RNAワールドより前の糖の形成にこそ、生命の起源を解くカギがあると確信していると思います。

ALMA望遠鏡の日本語サイトには動画ギャラリーもあり、研究者向けサイトととともに大変わかりやすく望遠鏡の全貌を紹介してくれています。本屋に山積みされていた本『スーパー望遠鏡「アルマ」の創造者たち』もおすすめです。ALMA望遠鏡の建設に日本の科学者たちが決定的な貢献をしているのがよくわかります。

註1:炭素が2つ入ってる糖が二炭糖、3つが三炭糖、4つが四炭糖、5つなら五炭糖、6つなら六炭糖です。英語では、di-が2の接頭辞、tri-が3、tetra-が4、penta-が5、hexa-が6の接頭辞ですから、それぞれdiose, triose, tetrose, pentose, hexoseというう名前となります。pentoseはペントースリン酸サイクルというのを生化学で習った人もいるかもしれません。ヘキソースもよく聞く言葉ではないでしょうか。

註2:単糖でアルデヒド基を含むものをaldose(アルドース)、ケト基をふくむものをketose(ケトース)と呼ぶことも覚えておくと良いと思います。glycolaldehydeはaldoseになります。註1とあわせると、aldotetroseとか、ketopentoseというのがどんな物質かがわかると思います。このようにketoseやpentoseに、炭素数を組み合わせた表現もよくみうけます。

Brenner先生がCurrent Biologyに書かれたコラムの記事や関連本がダウンロードできます。

 

先日亡くなったBrenner先生はCurrent Biology という雑誌に 1994年1月から2000年12月までコラムを執筆されていました。そのコラム( Loose Endsというコラム名が、途中から False Startsにかわりました。これはコラムの掲載場所が雑誌の巻末から巻頭に変わったのに対応して おちゃめにタイトルを変えたようです)がオンラインで読めるようになりましたのでお知らせします。またpdfをダウンロードすることもできます。ダウンロードするには、ページの中央下にあるスピーカーボタンの左隣にある、ダウンロードボタンをおしてください。「パブリケーション全体―8.5MB 出版物をpdfファイルとしてダウンロードします」という表示がでますのでクリックするとpdfが保存されます。

それからEMBO in Perspectiveという本も紹介しておきます。無料ダウンロードはここからできます。

EMBO (ヨーロッパ分子生物学機構)の50周年記念で作られた本だそうで、サイエンスライターでドロシー・ホジキンの伝記を書いたので有名な Georgina Ferryさんが書いた本です。Paul Nurseが序文を書いています。

Based on personal interviews with Sydney Brenner, L. Luca Cavalli-Sforza, Georges Cohen, James Watson and the directors of EMBO, this book tells the story of the journey from the study of molecules and microbes in the nuclear age to the growth and expansion of EMBO and the life sciences. It also provides new perspectives on some of the creation myths of the organization. (上記のEMBOのホームページからの引用)

写真は自宅に実ったサクランボです。毎年、カラスなどに食べられないようネットを張っていたのですが、今年は面倒なので白いビニールの荷づくり紐を、トリの羽が引っ掛かるように張りました(写真右)。これは案外効果がありました。一切鳥がよりつきませんでした。

最近、カラスの代わりにカラスの仲間のカチガラスがご近所のサクランボを食い尽くしていました。カチガラスはかささぎの別称で、佐賀の県鳥ですが福岡にも出没しています。(余談ですが、植松三十里さんの小説「かちがらす-幕末を読みきった男」( 小学館)は、幕末の佐賀藩主の活躍を描いたものでとても面白かったです。) カチガラスは電柱の上に巣を作って停電の原因になったりしている害鳥でもあります。

白いビニール紐を張っておくと、カチガラスはおろか、一切の鳥が寄り付かなくなり、写真のサクランボは今は熟れすぎたまま木に全部残っています。収穫は連休中に終えたので、あとは紐を切って鳥に食べてもらわなくてはと思っています。とにかく、サクランボなどを鳥から守るには、ビニールひもを張り渡すというのがとても効果があることがわかったのは発見でした。

Sydney Brenner先生がなくなられました―検索エンジンSemantic Scholarを使ってみよう

分子生物学の開拓者であり、モデル生物C. elegans(線虫シー エレガンス)を世に送Sydeny Brenner先生が先日(4月5日)なくなりました。RIP to a scientific hero.などとtwitterでも惜しむ声が多かったようです。雑誌Natureの追悼記事はこちらにあります。写真はOIST(沖縄科学技術大学院大学)提供のものです。(RIP というのはラテン語のrequiescat in paceの頭文字をとったもので、may he rest in peace, may she rest in peace, may they rest in peaceの意味だそうです。安らかにお眠りくださいという意味ですね。)
Brenner先生は分子生物学の開拓者の一人で、電子顕微鏡のネガティブ染色法の開発者でもあります。突然変異のメカニズムの研究で大きな業績をあげ、それを使ってアミノ酸をコードしている遺伝暗号が3つの塩基の並びからなる(あるいはありそうもないが3の倍数)ことを証明したり、トランスファーRNAの存在を予言、あるいはmRNAの存在をJacobとの共著論文で証明したりしています。これだけでもノーベル賞級の発見ですね。今まで分子生物学で大いに役立ったファージのように使いやすい多細胞生物で、発生や神経の問題を調べるために理想的なモデル生物を探した結果、線虫C. elegansを導入し、プログラムされた細胞死の研究でノーベル賞を授賞されています。私も英国ケンブリッジにいたときに先生のセミナーにでたことがありますが、理論面からの実験への鋭い切り口が印象的なセミナーでした。新しい技術は新しい発見を生むという先生の言葉は特に記憶に残っています。

Brenner先生の自伝的回想のインタビュー(発生生物学者で位置情報の三色旗モデルで有名なLewis Wolpertに語っています)をまとめた、「エレガンスに魅せられて」という本も前に買ってもっていますが、今は中古本でしか入手できないようですね。

YouTubeにはBrenner先生の動画が色々ありますので、適当なのを選んでご覧になるといいと思います。上に載せている動画は2017年に四日間にわたってシンガポールで行われたBrenner先生の講義の動画です。四日分がアップロードされていますのでご覧ください。この講義はIn the Spirit of Science: Lectures by Sydney Brenner on DNA, Worms and Brains という題で、本になっているようです。私はまだ入手していませんが英語が聞き取れない人は買ってみるのも良いと思います。Kindle版は安く入手できるようです。
この動画、まだ最初のあたりしか見ていませんが、 Turingとvon Neumannの話からはじまっています。Brenner先生はSchrodingerのWhat is Life?には全く興味をもてなかったと、上の自叙伝の本で述べていますが、かわりにNeumannの自己増殖オートマトンの理論に深い興味をもたれたようです。このYouTubeの講演でいっている自己増殖オートマトンの本というのは、たぶんノイマンが1948年にHixsonシンポジュウムというシンポジュウムで、THE GENERAL AND LOGICAL THEORY OF AUTOMATAという題で講演した論文で、後に出版されたこの本Theory of Self-Reproducing Automataではないと思います。Hixson symposiumのNeumannの論文は、中央公論社からでた世界の名著66 現代の科学IIに品川嘉也先生の訳で「人工頭脳と自己増殖」という題で邦訳されています。図書館や古本で探して見られると読めると思います。詳しい注釈がついているので翻訳版はおすすめです。英語の論文はここにあります。これはSemantic Scholarという検索エンジンを使って探しました。これは、工学系、生命科学系にかかわらずとても有用な検索エンジンのように思われます。この検索エンジンはマイクロソフトの創設者の一人Paul Allenが設立したAllen Institute for Artificial Intelligenceが作成しているAIベースの検索エンジンです。コンピュータ科学や生命医科学の論文が収録されており、たとえばC. elegans, chondroitin synthaseで検索すると、私達の論文がトップにでてきます。

遺伝暗号の解読をBrenner先生やCrickたちが進めていたとき、モスクワの学会で全く無名の研究者が遺伝暗号の解読の成功を発表しました。その時、彼の発表会場はほとんど空で人がいなかったそうです。遺伝暗号の最初の解読結果が発表されたというのを友人のMatt Meselsonから聞いたCrickは、その無名のアメリカの科学者Marshall Nirenbergにもう一回、1000人以上が集まるシンポジュウムで同じ話をしてくれと依頼したそうです。シンポジュウムのプログラムにNierenbergの名前を手書きで書き加えたものが残っています。その場でNirenbergは二番目の遺伝暗号の解読の成功も発表したそうです。聴衆は電撃を受けたようなショックを感じたそうです。
これは、私がケンブリッジのMRC LMBのWhite先生のラボに入ったその日に、同時にポスドクにやってきたBob Goldsteinさんが書いているBrenner先生から聞いた話のまとめに載っている話です。自分の研究が抜きさられた(scoopedといいます)時のCrickの態度には学ぶべきところが多いです。Brenner先生の話を聞きに行ったときの別れの際にBrenner先生がGoldsteinさんに語った以下の言葉が印象的です。
As Brenner told me by way of parting advice: “Do the best experiments you can, and always tell the truth. That’s all.”

その他、Brenner先生に関する資料のリンクもGoldsteinさんの以下のページにありますのでご覧ください。

https://goldsteinlab.weebly.com/resources.html

 

京都大学の動画サイトの紹介です―福岡では桜が本日開花しました

今朝 散歩しているとき、桜の花が開花しているのを見つけて写真にとりました。福岡市近郊での写真ですが、福岡市でも桜が開花したそうです。つくしもずいぶん大きくなっていて、近所の奥さんから どっさりいただいて先週おいしくいただきました。春のはじまりです。

今日は京都大学の動画サイトを紹介します。
京都大学OCW (Open Course Ware) というサイトです。理学部や医学部、医学研究科など京都大学の様々な講義、講演のビデオやシラバスが集められて公開されています。

上のリンクからいろいろ探してごらんになるといいですが、たとえば
聴講コース 臨床研究者のための生物統計学 (AMED生物統計家育成支援事業
聴講コース 臨床研究者のための生物統計学)という医学研究科のコースには、ここをコピペしただけですが以下のような講義のビデオがならんでいます。
宇宙怪人しまりす医療統計を学ぶ」(岩波科学ライブラリーに二冊あります)の著者の佐藤先生や挿絵を描いておられるという奥様の講義もみられますので是非ご覧ください。

第1回 2017年5月25日 なぜランダム化が必要なのか?
(日本語字幕あり)
田中 司朗 特定教授 Video
第2回 2017年7月20日 リスクの指標と治療効果の指標
(日本語字幕あり)
田中 司朗 特定教授 Video
第3回 2017年10月19日 仮説検定とP値の誤解
(日本語字幕あり)
佐藤 俊哉 教授 Video
第4回 2017年12月21日 生存時間解析の基礎
(日本語字幕あり)
米本 直裕 助教 Video
第5回 2018年2月1日 メタアナリシス
(日本語字幕あり)
田中 司朗 特定教授 Video
第6回 2018年5月17日 統計家の行動基準
この臨床試験できますか?

(日本語字幕あり)
佐藤 恵子 特任准教授 Video
第7回 2018年7月12日 データマネジメントとは
(日本語字幕あり)
多田 春江 特定准教授 Video
第8回 2018年10月25日 ランダム化ができないとき
(日本語字幕あり)
佐藤 俊哉 教授 Video
第9回 2018年12月20日 交絡とその調整
(日本語字幕あり)
佐藤 俊哉 教授 Video
第10回 2019年2月21日 回帰モデルと傾向スコア 佐藤 俊哉 教授 Video

そのほか、理学部をみると、細胞内情報発信学という講義が掲載されおり森 和俊 先生(理学研究科教授)の講義がみられます。3年生向けの講義ですが、面白そうです。

その他いろいろ探して各人の興味にあった講義を聴講してみてください。

おすすめ本―量子生物学その2

最近 内田老鶴圃から出版された本で、「計算分子生物学 物質科学からのアプローチ(田中成典 著)」という本があります。この本は、これから量子生物学をやろうという人にお勧めです。私は専門ではないので「たぶんおすすめです‥‥」が正確ですが、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。雑誌 実験医学に著者の田中先生は「量子生命科学の展望」という総説を書いておられます。 実験医学 Vol.35 No.14(9月号)2017発行。九州大学などご自分の学校などでメディカルオンラインが使える人は、メディカルオンラインからpdfをダウンロードすることができますのでダウンロードして是非ご覧ください。図書館にバックナンバーがあればそれをみることもできますね。とてもわかりやすい解説で、上の本を読み始めるのにも最適な総説だと思います。量子生物学とか量子生命科学とよばれる研究領域についてのすぐれた解説です。

量子生物学というのは結構古くから研究が試みられていました。ビタミンCの発見でノーベル賞を授賞し、その後、アクチンとミオシンで筋肉が収縮することを発見し、さらにクレブスサイクルの基礎になる発見をしたハンガリー出身の生化学者Albert Szent-Györgyiは、量子生化学の重要性をはやくからのべていた科学者です。DNAやタンパク質が半導体になるとか、いろいろ面白いアイデアをだしておられました。日本の筋肉の研究は世界のトップを走っていましたが多くの日本人研究者に感銘を与えたのは彼の筋収縮の本だったときいています。私が高校生のころ、来日してNHKで講演会が放送されていたのを観ました。その講演会の内容は「狂ったサル」(サイマル双書)という題名の本に収録されていて今も古書店から入手可能ですので是非ご覧ください。私は講演会をテレビで見て、興味を持ち、その後、彼の書いたIntroduction to a Submolecular Biologyという本の邦訳「分子生物学入門―電子レベルからみた生物学(廣川書店)」などの本を読んで、量子生物学も面白そうと思い京大で行われていた分子軌道法講習会などにも参加して勉強していました。
以前の記事に書きましたが、東京で開催された国際発生生物学会のオプショナルツアーに同行させていただいたとき、私がセントジェルジ博士の仕事が魅力的だと話したところ、一緒にツアーに参加されていた発生生物学者のご夫妻からセントジェルジ博士は、科学の業績でも偉大だが、人間としても偉大な方だという話を聞きました。反戦・平和にもつくした方でした。

大学院生のとき、ちょうど京都で開催された国際量子化学会に参加してサテライトミーティングにも参加して量子生物学の講演をいっぱいきいて、Szent-Györgyiと共同研究しているハンガリーのLadik先生や京都府立医科大学の品川嘉也先生ご夫妻などに懇親会でいろいろ質問していたのを思い出します。この国際学会は京都大学の福井謙一先生が会長で主催されたのでしたが、会場では参加者の大先生たちの「これで福井謙一先生のノーベル賞は確実ですなぁ」という会話を耳にし、ほどなく福井先生がノーベル化学賞を受賞されたのも印象にのこる経験でした。当時はまだまだ量子生物学は始まったばかりで研究は困難と判断しましたが、ここ数年、分子生物学会でもワークショップが開かれるようになったのに象徴されるように、ようやく開花し始めたように思われます。

写真は国際宇宙ステーションISS「きぼう」が先日1月22日に福岡上空を通過した時のものです。翌日を含めて2日続けて夕方に通過がみられました。皆さんの近所で通過をみるにはJAXAの「きぼう」を見ようのホームページをごらんください。場所を選ぶと観測できる日付などが表示されますので、日付をクリックすると空のどのあたりを飛行するかも表示されます。以前に紹介した天文ソフトStellariumでもISSの軌道を表示できますので、どのあたりを通過するかをあらかじめStellariumで確認してから観察にでかけると間違いがありません。詳しくは後日書きます。写真はiphoneでとった写真で、左の電線の交差しているあたりの光点が「きぼう」です。とてもあかるくすーっと高速に空をよこぎっていきます。二枚目の写真では右の屋根に近い光点が「きぼう」です。

Oumuamuaは宇宙人の探査機か?プレプリントサーバーとその活用法の紹介その5

OUMUAMUAというのを聞いたことがありますか?昨年発見された、人類がはじめて確認した太陽系外からの侵入してきた物体で、宇宙人がつくった宇宙探査機ではないかという説がささやかれていたものです。これに関する多くのプレプリントがプレプリントサーバーにアップロードされていますので、興味のある方は読んでみるのをおすすめします。Cornell大学のプレプリントサーバーarXiv.orgにアクセスして、oumuamuaで検索してみてください。50ほどのプレプリントがヒットします。

2017年10月にみつかったOumuamuaは、見つかった時すでに地球からは遠ざかっており、毎秒26 km/sという高速で太陽系に侵入して通過していったのですが、形がみえるほどの高解像度の望遠鏡はなかったので、望遠鏡ではその姿はとらえられておらず、光りかたなどからは幅:長さの比が1-5~10とみつもられているそうです。その起源は太陽系のオールトの雲由来ではなく、また近くの恒星系の外辺にある星(たとえばαケンタウリ)なの周辺にあるオールトの雲由来とも考えられないそうです。とても遠い宇宙からの来訪者のようでこれが彗星か小惑星かなど皆が注目して観測したそうです。光の反射などから推定されたその形は通常の小惑星や彗星のものではなく、とても明るい表面をもつ物体のようで宇宙人のつくった探査機かもしれないとうわさされていました。形の想像図はヨーロッパ南天天文台(ヨーロッパなんてんてんもんだい、European Southern Observatory、略称:ESO)の機関誌The Messenger の173に載っているRendezvous with `Oumuamuaという記事のp15をご覧ください。プレプリントサーバーの論文にもありますが、探査機なら電波を出しているのではないかということで、FM波長で電波が放出されていないかの観測がつづけられたそうですが、電波は検出できなかったとのことです。ただ面白いのは、太陽の重力だけでは説明できない、異常な加速がみられたとのことで、これがもし彗星などなら太陽の熱で氷がとけて尾をひいて加速したと思われるのですが、尾の形成もなくただ原因不明の加速がみられたのでした。このブログで紹介しているプレプリントサーバーをご覧になるとそれを説明する論文がだいぶ前に掲載されていたのがわかります。ハーバード大学のLoeb先生たちの論文で、Oumuamuaの加速は、日本のイカロスで実用化されたsolar sail(太陽帆)によって引き起こされたとすると説明が容易であるというのです。このプレプリントは最近、査読にとおってAstrophysical Journal Lettersという雑誌に発表されて、最近新聞やネットニュースで大きくとりあげられました。
著者はさらに多くのプレプリントをアップロードしていますが、その中で最近Scientific Americanのブログにも公開されたプレプリントは著者の考えをわかりやすく書いていておすすめです。

ブログには埋め込みできないようですが、以下の動画に Loeb先生のインタビューがあります。
https://www.youtube.com/watch?v=WBekHr6nrU8

もしOumuamuaが宇宙人の探査機のようなものだったとしたら、それを追いかけて確認するというのも将来可能になるかもしれません。しかしもっと簡単なのは太陽と木星の重力にとらえられている宇宙人の作った人工物を探すことではないだろうかと書いています。太陽と木星の重力場は宇宙に張られた網のようなもので、この重力網にとらえられているであろう人工物(宇宙人の作った探査機など)を探すのが、電波で宇宙人からのメッセージを探すより手っ取り早いのかもしれないというわけです。Loeb先生たちはそのような物体の頻度を見積もる論文も最近プレプリントサーバーにアップしているようです。みなさんもプレプリントサーバーをいろいろ見て、活用してみてください。

Oumuamuaの論文は、アーサー・クラークの書いたRendezvous with Ramaという作品(「宇宙のランデヴー」という題で邦訳がでています)のラストシーンが思い起こさせます。またScientific Americanの記事のプレプリントを読むと、野尻抱介さんの「沈黙のフライバイ」のラストも思い起こされました。