単一細胞のRNA-Seq(scRNA-Seq)の入門動画とBrenner先生の新技術についての金言の紹介です。

科学の発展には新技術の開発が決定的な役割を果たします。このブログでも次世代シークエンサーの威力と題して、DNase-Seq (ディーエヌエース シークと読みます)などを紹介したことがあります。最近のNIH Videocastの番組で、新技術を紹介している優れた講演がありました。大変勉強になる講演で、スマートフォンからハイビジョンテレビ向けまでの様々な解像度で動画をダウンロードできますので、是非 通勤時間などを利用して動画をご覧ください。

これは、今年の7月24日に行われた講演です。Biowulf Seminar: Single Cell Sequencing: Powerful Applications and Practical Considerations(クリックすると動画サイトにとびます)という題で、一細胞のRNA-Seq (single cell RNA-SeqですのでscRNA-Seqと略します)のいろいろな方法と応用およびバイオインフォマティクスによる解析ツールについてやさしく紹介する優れた入門用の講演です。RNA-Seqというのは、細胞や組織の中にどんなRNAがどれほど存在しているかを、次世代シークエンサーを用いて、網羅的に同定する技術です。演者のMichael Kelly博士はsingle cell biologyの有名な実験研究者で、NIHのLinuxクラスター(9万5000個以上のprocesserと30ぺタバイト以上の容量(1ぺタバイは1000テラバイトです)をもつLinux cluster) Biowulfのユーザーでもあります。それでBiowulfセミナーで講演しているようです。内容は2012/2013年頃及したFluidigm C1 platformとSMARTer chemistryによる一個の細胞のRNA-Seqの方法、スループットが飛躍的に向上した2015年のDrop-Seq/InDropsの方法、そして2017/2018年頃から普及してよりハイスループット、低コストとなったsciRNA-Seq/SPLiT-Seq/Seq-Wellの方法などの紹介からはじまって、単一細胞レベルのRNA-Seqを鳥瞰していて、最適の入門講演と思います。 なおsci-RNA-seq (single-cell combinatorial indexing RNA sequencing)というのは、線虫C. elegansの各細胞のRNA-Seqを行った2017年の論文で使われた方法です。オープンアクセスになっていますので興味のある方は是非読んでみてください。新技術の開発がどれほど科学をすすめるかに感動します。

昔 Current Protocols in Molecular Biologyというプロトコル集を買っていました。その綴じ込みにSydney Brenner先生の言葉:
Progress in science depends on new techniques, new discoveries and new ideas, probably in that order. (科学の進歩は、新しい技術の出現、新しい発見、そして新しいアイデアの誕生によってもたらされる―おそらくこの順番で)
が載っていて感銘をうけました。

たしかに、放射性同位元素の生物学研究への応用、蛍光抗体法、モノクローナル抗体、レーザー共焦点顕微鏡、GFPなどの発明、PCR、DNAシークエンサー、遺伝子クローニングやゲノム編集技術、原子間力顕微鏡、タンパク質や糖鎖、脂質などの質量分析装置による解析技術、核磁気共鳴や電子スピン共鳴、X線結晶回折による生体分子の立体構造の解明、電子顕微鏡、クライオ電子顕微鏡、超高解像度の光学顕微鏡などなど、さまざまな新技術が生命科学の大発展を引き起こしてきています。Brenner先生が言うように、技術ができたらそれで何を研究できるかと考え、それが新発見を生み出し、新発見が新しいアイデアを生み出し、次の技術も開発される‥といった順に科学は発展しているようにみえます。

Current Protocolsの本は寄贈したので手元になく、 Brenner先生の言葉もうろ覚えではっきりしなかったので、ちょっと出典を探してみました。 Google 検索でSydney Brenner  quotesといれて探すとすぐにみつかって、多くの方がこの言葉をなるほどと思ったことがうかがえます。次にGoogle検索でこの言葉を二重引用符に囲んで”Progress in science depends on new techniques, new discoveries and new ideas, probably in that order.”を検索窓にいれて検索しました。するとなんとBrennerさん自身がこの言葉をどこ喋ったかを思い出せず、自分で探しただした、という記事がヒットしました。その記事によると、Brennerさんにこの言葉を引用したいがどこが出典かという問い合わせがあったのですが、自分でもいつどこで言った言葉か思い出せなかったそうです。そこで Alan Mackayという人のA Dictionary of Scientific Quotationsという本を探すと、この言葉がのっていて、 雑誌Natureの1980年5月5日号より、とあったそうです。さっそくNatureを見たのですが、なんとこの日には雑誌が発行されていないことがわかりました。それで結局わからずじまいだったとのことです。ところが数週間後、積み上げられた論文をいろいろみているとき、手書きの講演原稿が見つかったそうです。それはスイスのバーゼルにある Friedrich Miescher Instituteの10周年記念シンポジュウム(1980年開催)でのBrenner先生の講演の手書き原稿でした。ここでしゃべったんだというのがわかったので、このシンポジュウムについて報道していたNatureの記事を探したところ、1980年6月5日に掲載された記事が見つかって、その中にこの言葉がのっていたそうです。Biology in the 1980s, plus or minus a decadeというタイトルの記事です。ここからpdfがダウンロードできます。

先ほどの本は一か月だけ日にちを間違えていたということでした。講演会でのBrenner先生の手書き原稿にはこの文は以下のように書いてあるそうです。“ I will ask you to mark again that rather typical feature of the development of our subject; how so much progress depends on the interplay of techniques, discoveries and new ideas, probably in that order of decreasing importance.”

以下のサイトにはBrennerさんをはじめ、いろんな科学者の言葉が網羅されていて面白そうです。またそれ以外の面白い記事も多いのでおすすめです。
https://todayinsci.com/B/Brenner_Sydney/BrennerSydney-Quotations.htm
https://todayinsci.com/Quotations/QuotationsIndex.htm

2019年夏休みのおすすめ本―その1 成功の普遍的法則 ザ・フォーミュラ

毎日暑い日がつづきます。先日の台風ではリンゴの実が落ちるかと心配しましたが、一つも実が落ちずに順調に色づいています。さて今日からしばらく夏休みにおすすめの本を紹介します。

  先日、本屋にいったら有名なネットワーク科学者バラバシの書いたザ・フォーミュラ 科学が解き明かした成功の普遍的法則という本がありました。即決で買ってきました。これは良い本です。是非皆さん買って読んでみてください。特に学部の学生さん、大学院生、そして若い研究者の方に熟読してほしい本です。
バラバシさんはかつて出版された本、「新ネットワーク思考―世界のしくみを読み解く―」(日本放送出版協会、2002年)(’LINKED:The Science of Networks)日本でもよく読まれた著名なネットワーク科学者です。(こちらの本は品切れのようですが、中古本や図書館で見つけて是非読んでみてください。入門書としてとてもよくできた本でお勧めの本です。)

成功するのには、パフォーマンスだけではだめで、それを社会が評価しなくてはならないことが最初に書いてあります。リーダーとしての成功の秘訣、なぜチームの成果なのにリーダーだけが脚光を浴びるのか‥、などの分析はとても参考になります。筆者らの作成した論文の共著者データからノーベル賞受賞者予測プログラムはほぼ100%過去の受賞者を予測したのに、たった一人だけ、ノーベル化学賞(蛍光蛋白質GFPの研究)を授賞するはずと予測した研究者がどこの大学研究所にもおらず行方不明、もちろんノーベル賞ももらっていませんでした。彼(Douglas C.Prasher)は米国Woods Hole臨海研究所でGFP蛋白質の部分的アミノ酸配列を同定しそれを使って設計したオリゴヌクレオチドプローブで、自らが作成したクラゲのcDNAライブラリをスクリーニングして、GFP遺伝子のクローニングに成功したGFP 研究のパイオニアの研究者です。GFPの研究でノーベル賞を授賞した線虫研究者のチャルフィ(Chalfie)さんにGFP 遺伝子をあげた人です。あちこち探してみるとなんと研究職をやめてしまって、アメリカのトヨタの送迎運転手をしていたのだそうです。GFP遺伝子を同定しクローニングした研究者なのに、なんという不条理。どうしてこんなことになったのでしょうか?

全くアメリカで無名だったアインシュタインが何故か船でアメリカに到着した時、数万人もの群集に歓迎されました。そのせいで、その後、各地で熱狂的に歓迎されました。これはちょっとした間違いに起因するらしい‥などなど面白いトピックも満載で飽きさせません。筆者らの研究(雑誌Scienceにのった論文)をもとに噛み砕いて書かれており、ネットワークサイエンスから導き出された成功の普遍的法則が記載されている必読の本です。ざっと読んだあとは、じっくり参考文献やurlを参照しながら、考えながら読み直すことをすすめます。これから研究者の道を志す人に是非読んでほしい本です。

はやぶさ2 二度目のタッチダウン大成功 おめでとうございます!

はやぶさ2が再びタッチダウンとサンプル採取に成功とのニュース、おめでとうございます。
今日はそのニュースでもちきりでした。ストリーミングで管制室の生中継がみられたり、記者会見がみられたり、とてもよい時代ですね。

前回のはやぶさの大気圏突入の時は、テレビはどこのチャンネルでも中継をやっておらず、なんでウーメラ砂漠から生中継がないのかと残念に思ったものです。今回はマスコミも大幅に報道力の強化済みのようで楽しかったです。今この中継をみている子供たちは本当にいい環境でそだっていますね。将来が楽しみです。写真はCAM-Hで撮影したタッチダウン4秒後の画像(画像のクレジット:JAXA) で、以下のページからダウンロードしたものです。
http://www.hayabusa2.jaxa.jp/topics/20190711_PPTD_ImageBulletin/
舞いあがっている岩石片が印象的ですね。

今回はYouTube中継をテレビ(AmazonのfireTVStick)でみました。以前はYouTubeアプリがfireTVstickにあったので、テレビでYouTubeをよく見ていたのですが、しばらくしてGoogleとAmazonが対立して、アプリがfireTVで無効になり、ブラウザでしかYouTubeがみられなくなっていたのです。ChromecastやAndroid TVでamazonのprime videoが見られなかったり、逆にamazonのfire TVでYouTubeがみられなかったりという状態が続いていました。ところが数日前にGoogleとAmazonのYouTubeをめぐる争いが終わり、fireTVstickのYouTubeアプリが久しぶりに復活して使えるようになっていました。そこで、さっそくダウンロードしてはやぶさ2の生中継をテレビでみることができました。パソコン画面よりやはり格段に見やすいのでこれからYouTubeを見るのに活用できそうです。

アインシュタインの旅日記とアインシュタインからの墓碑銘の話―アインシュタインが訪れた九州大学と福岡(その5)

以前「アインシュタインからの墓碑銘」とアインシュタインの日本への旅日記についての記事を書きました。先日、九大医学部図書館からその本(「アインシュタインからの墓碑銘」サイン入りの著者からの寄贈本です)を借りてきて読んでみました。その本のはじめにあったアインシュタインの言葉を再録しておきます。

美しい微笑みをたたえ、お辞儀をし、床に座る人々へ。
願わくは西欧に先んじた自らの偉大な徳を、汚さずに保ち続けることを忘れないでほしい。すなわちそれは、生活を芸術的に築きあげることであり、個人の欲望を抑えた簡明、質素な態度、そして心の清明な静けさである。アルベルト・アインシュタイン(桑折千恵子訳)」

この本には、アインシュタインの博多訪問や三宅 速 教授宅への訪問だけでなく三宅ご夫妻の空襲での殺害、そして九大医学部での米軍爆撃機のパイロットに対する生体解剖事件についても詳しく書かれています。またその事件後の九大第一外科のたてなおしに三宅ご夫妻の息子さんの三宅博さんが尽力されたことも書かれています。
アインシュタインの旅日記の日本訪問の部分の全訳「アインシュタイン日本で相対論を語る」はすでに出版されていましたが、その他のアジア地域とパレスチナ、スペインの旅日記も含む本、アインシュタインの旅行日記も最近、草思社から翻訳版がでたので、上の本と併せてご覧になると考えさせられるところが多いと思います。
写真は一週間ほど前に近所でみつけたねむの木の花です。今年もきれいに咲いていました。

Brenner先生がCurrent Biologyに書かれたコラムの記事や関連本がダウンロードできます。

 

先日亡くなったBrenner先生はCurrent Biology という雑誌に 1994年1月から2000年12月までコラムを執筆されていました。そのコラム( Loose Endsというコラム名が、途中から False Startsにかわりました。これはコラムの掲載場所が雑誌の巻末から巻頭に変わったのに対応して おちゃめにタイトルを変えたようです)がオンラインで読めるようになりましたのでお知らせします。またpdfをダウンロードすることもできます。ダウンロードするには、ページの中央下にあるスピーカーボタンの左隣にある、ダウンロードボタンをおしてください。「パブリケーション全体―8.5MB 出版物をpdfファイルとしてダウンロードします」という表示がでますのでクリックするとpdfが保存されます。

それからEMBO in Perspectiveという本も紹介しておきます。無料ダウンロードはここからできます。

EMBO (ヨーロッパ分子生物学機構)の50周年記念で作られた本だそうで、サイエンスライターでドロシー・ホジキンの伝記を書いたので有名な Georgina Ferryさんが書いた本です。Paul Nurseが序文を書いています。

Based on personal interviews with Sydney Brenner, L. Luca Cavalli-Sforza, Georges Cohen, James Watson and the directors of EMBO, this book tells the story of the journey from the study of molecules and microbes in the nuclear age to the growth and expansion of EMBO and the life sciences. It also provides new perspectives on some of the creation myths of the organization. (上記のEMBOのホームページからの引用)

写真は自宅に実ったサクランボです。毎年、カラスなどに食べられないようネットを張っていたのですが、今年は面倒なので白いビニールの荷づくり紐を、トリの羽が引っ掛かるように張りました(写真右)。これは案外効果がありました。一切鳥がよりつきませんでした。

最近、カラスの代わりにカラスの仲間のカチガラスがご近所のサクランボを食い尽くしていました。カチガラスはかささぎの別称で、佐賀の県鳥ですが福岡にも出没しています。(余談ですが、植松三十里さんの小説「かちがらす-幕末を読みきった男」( 小学館)は、幕末の佐賀藩主の活躍を描いたものでとても面白かったです。) カチガラスは電柱の上に巣を作って停電の原因になったりしている害鳥でもあります。

白いビニール紐を張っておくと、カチガラスはおろか、一切の鳥が寄り付かなくなり、写真のサクランボは今は熟れすぎたまま木に全部残っています。収穫は連休中に終えたので、あとは紐を切って鳥に食べてもらわなくてはと思っています。とにかく、サクランボなどを鳥から守るには、ビニールひもを張り渡すというのがとても効果があることがわかったのは発見でした。

Sydney Brenner先生がなくなられました―検索エンジンSemantic Scholarを使ってみよう

分子生物学の開拓者であり、モデル生物C. elegans(線虫シー エレガンス)を世に送Sydeny Brenner先生が先日(4月5日)なくなりました。RIP to a scientific hero.などとtwitterでも惜しむ声が多かったようです。雑誌Natureの追悼記事はこちらにあります。写真はOIST(沖縄科学技術大学院大学)提供のものです。(RIP というのはラテン語のrequiescat in paceの頭文字をとったもので、may he rest in peace, may she rest in peace, may they rest in peaceの意味だそうです。安らかにお眠りくださいという意味ですね。)
Brenner先生は分子生物学の開拓者の一人で、電子顕微鏡のネガティブ染色法の開発者でもあります。突然変異のメカニズムの研究で大きな業績をあげ、それを使ってアミノ酸をコードしている遺伝暗号が3つの塩基の並びからなる(あるいはありそうもないが3の倍数)ことを証明したり、トランスファーRNAの存在を予言、あるいはmRNAの存在をJacobとの共著論文で証明したりしています。これだけでもノーベル賞級の発見ですね。今まで分子生物学で大いに役立ったファージのように使いやすい多細胞生物で、発生や神経の問題を調べるために理想的なモデル生物を探した結果、線虫C. elegansを導入し、プログラムされた細胞死の研究でノーベル賞を授賞されています。私も英国ケンブリッジにいたときに先生のセミナーにでたことがありますが、理論面からの実験への鋭い切り口が印象的なセミナーでした。新しい技術は新しい発見を生むという先生の言葉は特に記憶に残っています。

Brenner先生の自伝的回想のインタビュー(発生生物学者で位置情報の三色旗モデルで有名なLewis Wolpertに語っています)をまとめた、「エレガンスに魅せられて」という本も前に買ってもっていますが、今は中古本でしか入手できないようですね。

YouTubeにはBrenner先生の動画が色々ありますので、適当なのを選んでご覧になるといいと思います。上に載せている動画は2017年に四日間にわたってシンガポールで行われたBrenner先生の講義の動画です。四日分がアップロードされていますのでご覧ください。この講義はIn the Spirit of Science: Lectures by Sydney Brenner on DNA, Worms and Brains という題で、本になっているようです。私はまだ入手していませんが英語が聞き取れない人は買ってみるのも良いと思います。Kindle版は安く入手できるようです。
この動画、まだ最初のあたりしか見ていませんが、 Turingとvon Neumannの話からはじまっています。Brenner先生はSchrodingerのWhat is Life?には全く興味をもてなかったと、上の自叙伝の本で述べていますが、かわりにNeumannの自己増殖オートマトンの理論に深い興味をもたれたようです。このYouTubeの講演でいっている自己増殖オートマトンの本というのは、たぶんノイマンが1948年にHixsonシンポジュウムというシンポジュウムで、THE GENERAL AND LOGICAL THEORY OF AUTOMATAという題で講演した論文で、後に出版されたこの本Theory of Self-Reproducing Automataではないと思います。Hixson symposiumのNeumannの論文は、中央公論社からでた世界の名著66 現代の科学IIに品川嘉也先生の訳で「人工頭脳と自己増殖」という題で邦訳されています。図書館や古本で探して見られると読めると思います。詳しい注釈がついているので翻訳版はおすすめです。英語の論文はここにあります。これはSemantic Scholarという検索エンジンを使って探しました。これは、工学系、生命科学系にかかわらずとても有用な検索エンジンのように思われます。この検索エンジンはマイクロソフトの創設者の一人Paul Allenが設立したAllen Institute for Artificial Intelligenceが作成しているAIベースの検索エンジンです。コンピュータ科学や生命医科学の論文が収録されており、たとえばC. elegans, chondroitin synthaseで検索すると、私達の論文がトップにでてきます。

遺伝暗号の解読をBrenner先生やCrickたちが進めていたとき、モスクワの学会で全く無名の研究者が遺伝暗号の解読の成功を発表しました。その時、彼の発表会場はほとんど空で人がいなかったそうです。遺伝暗号の最初の解読結果が発表されたというのを友人のMatt Meselsonから聞いたCrickは、その無名のアメリカの科学者Marshall Nirenbergにもう一回、1000人以上が集まるシンポジュウムで同じ話をしてくれと依頼したそうです。シンポジュウムのプログラムにNierenbergの名前を手書きで書き加えたものが残っています。その場でNirenbergは二番目の遺伝暗号の解読の成功も発表したそうです。聴衆は電撃を受けたようなショックを感じたそうです。
これは、私がケンブリッジのMRC LMBのWhite先生のラボに入ったその日に、同時にポスドクにやってきたBob Goldsteinさんが書いているBrenner先生から聞いた話のまとめに載っている話です。自分の研究が抜きさられた(scoopedといいます)時のCrickの態度には学ぶべきところが多いです。Brenner先生の話を聞きに行ったときの別れの際にBrenner先生がGoldsteinさんに語った以下の言葉が印象的です。
As Brenner told me by way of parting advice: “Do the best experiments you can, and always tell the truth. That’s all.”

その他、Brenner先生に関する資料のリンクもGoldsteinさんの以下のページにありますのでご覧ください。

https://goldsteinlab.weebly.com/resources.html

 

はやぶさ2 着陸成功おめでとうございます!

今日は小惑星探査機はやぶさ2の着陸の日でした。朝からYouTubeのライブ中継に釘づけの方も多かったのではないでしょうか。朝6時45分からのLive 中継が9時15分くらいに終わったあとも、記者会見などの中継がYouTubeのTHE PAGEチャンネルであってそれに釘づけでした。

機体からの電波のドップラー効果の数値を、正常な着陸シークエンスで予測されるドップラー効果の変動の数値と比較して着陸の成功を検証するという手法で、着陸の成功を推定するんですね。Live中継では、小学生にでもわかるように解説しようと皆さんが努力しながら話しておられるのが頼もしかったです。おかげで、この中継をみている小学生なら たぶんほとんどの内容が理解できたのではないでしょうか。

このごろの学生さんをみていると、ものすごく優秀で、私の若い時とはくらべものにならないくらい若者(40代から小学生まで)の能力が上がっているのを実感します。私の院生のころアインシュタインの生誕100年の一般向け講演会にいきましたが、前に座っていた小学生の男の子が、その子の前の人の座席を脚でとんとんと、けったりしていたのですが、内山龍雄先生の講演が始まるとちゃんと理解しており、もうすぐエレベータ―の話だ、等価原理の説明が始まるよなどとつぶやいていました。今ではそんな小学生がごろごろしているようですね。

若者は着実に育っています。これからはこうした優れた才能が活きる社会をつくらなくてはなりません。

上の図は記者会見のストリーミングのスクリーンショットです。はやぶさ2がタッチダウンしたあと上昇に転じた直後の画像で、はやぶさ2の影が大きくうつっていて、その下の一番黒い部分ははやぶさ2がホバリングしていてすこし静止していたため一番黒くなっているそうです。またゼ機体の右下の黒いしみのような部分ははやぶさ2の噴射の跡、上のほうにある黒い点々は巻き上がった砂、岩石がうつっているのではないかとのことでした。

 

おすすめ本―量子生物学その2

最近 内田老鶴圃から出版された本で、「計算分子生物学 物質科学からのアプローチ(田中成典 著)」という本があります。この本は、これから量子生物学をやろうという人にお勧めです。私は専門ではないので「たぶんおすすめです‥‥」が正確ですが、一度手に取ってみてはいかがでしょうか。雑誌 実験医学に著者の田中先生は「量子生命科学の展望」という総説を書いておられます。 実験医学 Vol.35 No.14(9月号)2017発行。九州大学などご自分の学校などでメディカルオンラインが使える人は、メディカルオンラインからpdfをダウンロードすることができますのでダウンロードして是非ご覧ください。図書館にバックナンバーがあればそれをみることもできますね。とてもわかりやすい解説で、上の本を読み始めるのにも最適な総説だと思います。量子生物学とか量子生命科学とよばれる研究領域についてのすぐれた解説です。

量子生物学というのは結構古くから研究が試みられていました。ビタミンCの発見でノーベル賞を授賞し、その後、アクチンとミオシンで筋肉が収縮することを発見し、さらにクレブスサイクルの基礎になる発見をしたハンガリー出身の生化学者Albert Szent-Györgyiは、量子生化学の重要性をはやくからのべていた科学者です。DNAやタンパク質が半導体になるとか、いろいろ面白いアイデアをだしておられました。日本の筋肉の研究は世界のトップを走っていましたが多くの日本人研究者に感銘を与えたのは彼の筋収縮の本だったときいています。私が高校生のころ、来日してNHKで講演会が放送されていたのを観ました。その講演会の内容は「狂ったサル」(サイマル双書)という題名の本に収録されていて今も古書店から入手可能ですので是非ご覧ください。私は講演会をテレビで見て、興味を持ち、その後、彼の書いたIntroduction to a Submolecular Biologyという本の邦訳「分子生物学入門―電子レベルからみた生物学(廣川書店)」などの本を読んで、量子生物学も面白そうと思い京大で行われていた分子軌道法講習会などにも参加して勉強していました。
以前の記事に書きましたが、東京で開催された国際発生生物学会のオプショナルツアーに同行させていただいたとき、私がセントジェルジ博士の仕事が魅力的だと話したところ、一緒にツアーに参加されていた発生生物学者のご夫妻からセントジェルジ博士は、科学の業績でも偉大だが、人間としても偉大な方だという話を聞きました。反戦・平和にもつくした方でした。

大学院生のとき、ちょうど京都で開催された国際量子化学会に参加してサテライトミーティングにも参加して量子生物学の講演をいっぱいきいて、Szent-Györgyiと共同研究しているハンガリーのLadik先生や京都府立医科大学の品川嘉也先生ご夫妻などに懇親会でいろいろ質問していたのを思い出します。この国際学会は京都大学の福井謙一先生が会長で主催されたのでしたが、会場では参加者の大先生たちの「これで福井謙一先生のノーベル賞は確実ですなぁ」という会話を耳にし、ほどなく福井先生がノーベル化学賞を受賞されたのも印象にのこる経験でした。当時はまだまだ量子生物学は始まったばかりで研究は困難と判断しましたが、ここ数年、分子生物学会でもワークショップが開かれるようになったのに象徴されるように、ようやく開花し始めたように思われます。

写真は国際宇宙ステーションISS「きぼう」が先日1月22日に福岡上空を通過した時のものです。翌日を含めて2日続けて夕方に通過がみられました。皆さんの近所で通過をみるにはJAXAの「きぼう」を見ようのホームページをごらんください。場所を選ぶと観測できる日付などが表示されますので、日付をクリックすると空のどのあたりを飛行するかも表示されます。以前に紹介した天文ソフトStellariumでもISSの軌道を表示できますので、どのあたりを通過するかをあらかじめStellariumで確認してから観察にでかけると間違いがありません。詳しくは後日書きます。写真はiphoneでとった写真で、左の電線の交差しているあたりの光点が「きぼう」です。とてもあかるくすーっと高速に空をよこぎっていきます。二枚目の写真では右の屋根に近い光点が「きぼう」です。

秋のおすすめ本その1―量子生物学(1)

ノーベル賞の発表がはじまり、本庶佑先生が授賞されてみなが大喜びですね。秋も深まってきて福岡では農家の稲刈りも9割がた終わったようです。

量子生物学 Quantum Biologyというのを聞いたことがありますか?数年前にでた本でLife on the Edgeという面白い本があります。細胞生物学の授業で物理や化学専攻の2年生にお奨めと紹介した本です。日本語訳もされていて「量子力学で生命の謎を解く」(水谷淳訳、SBクリエイティブ発行)といいうタイトルで本屋に並んでいます。

動画は英国のRoyal Institutionでのこの本の著者の講演です。この本が出たときにはイギリスで大評判になり、ベストセラーとなりました。雑誌NatureやNew Scientistでも紹介されたほどです。Royal Institutionは、かのマイケル・ファラデーが「ロウソクの科学」などの講演をした場所ですが、様々な演者を呼んでの講演が常に行われており、講演は公開されています。YouTubeのチャンネルもありますので、ご覧ください。電車の待ち時間や通勤時間に視聴すると楽しいです。英語が聞き取りにくいときは字幕を表示させるとよくわかると思います。Royal Institutionでは評判の科学書の著者を読んで講演してもらうことも多く、この本もそうですが、ほかに例えばHow to clone a mammothという評判の本の著者のBeth Shapiroさんの講演など、本の内容がよくわかる講演がいろいろありますので、本を買う前に聞いてみてください。本を買わなくても良いかもしれないほど面白い講演が多いです。

さて量子生物学ですが、この本では酵素反応にプロトンのトンネル効果が働いて効率化に寄与していたり、コマドリの季節の渡り(地磁気を感知するコンパス)にコマドリの体内にあるクリプトクロームというタンパク質分子内の電子の量子もつれが利用されていたり、あるいは光合成中心への効率的なエネルギーの移動にexcitonとよばれる励起子が働いていたりという話が分かりやすく書いてあります。他に匂いの検知メカニズムにも量子効果が働いているという仮説(反論の論文もでています)もあって、読んで大変面白い本です。物理や化学を学んでいる学生さんに特に薦めます。

著者の主張は「生命は量子効果を利用して維持されており、生きているということは量子効果が利用されている状態、死ぬとそれがなくなるということで、まさに量子効果の働く境界で生命が存在している」というものです。光合成の反応中心では量子コンピューターが働いているという論文の紹介もあります。その論文をみて一時間もかからずその間違いがわかったというMassachusetts Institute of Technologyの先生の講演が一番下の動画です。この有名な量子コンピューターの権威Seth Lloyd教授は、自分のラボで量子生物学を研究しているそうです。九州大学の生物学科の教授だった西村光雄先生は留学中、光合成細菌の光合成でのチトクロームの酸化における電子移動が液体窒素の温度でも起こることを発見した論文を有名なBritton Chance先生との共著で書かれました。続く研究でChance先生は液体窒素の温度やそれ以下の温度まで冷却すると100K(ケルビン)以下では電子移動が温度に依存しなくなることを発見、光合成における電子移動には量子トンネル効果が介在していることを示唆する論文を書かれています。西村先生の実験の話はこの本の第3章(翻訳書の98ページ)にのっています。九州大学にも量子生物学の研究室はありますし、最近は大阪大学でもこんな研究がたちあがっています。分子生物学会のワークショップでも量子生物学がとりあげられるなど、面白い研究分野になりそうです。

最近の日本語で書かれた量子生物学の入門書や総説についてはこちらの記事をごらんください。(2019年1月30日追記)

 

福岡にアインシュタインの脳があった!アインシュタインが訪れた九州大学と福岡(その4)

この前、アインシュタインの脳についての番組をNHKスペシャルでやっていました(アインシュタイン 消えた“天才脳”を追え )。とても興味深い番組で番組について書こうとおもっていたのですが、本日9月2日午後10時からBS1で、NHKスペシャルの番組の未収録場面を含めた特別編の放送(BS1スペシャル「アインシュタイン 消えた“天才脳”を追え 特別編」)があるようです。是非ご覧ください。
この番組の冒頭で、福岡市の近くの直方(のうがた)におられる先生がアインシュタインの脳をもっているといって見せておられるシーンがありました。先日私が生化学会の九州支部会で講演したときの懇親会で、NHKが取材に来てアインシュタインの脳をみせたという話をされていた杉元先生です。お兄さんがアインシュタインの脳を探る旅にでた方で、BBCでアインシュタインの脳を探るという番組がつくられたと記憶しています。九州には結構、アインシュタイン関係者がおられるのでびっくりしました。杉元先生のお兄さんの本は、「大追跡!!アインシュタインの天才脳 (講談社SOPHIA BOOKS)  2001/1 杉元 賢治 (著)」というもので、どこかで表紙をみた覚えがあります。いつも紹介しているInternetArchiveのWayBack Machine(昔のホームページを収集しているサイト)アインシュタインの脳についての杉元先生の日本語論文が集まっていますのでご覧ください。WayBack Machineは知財関係の調査などで企業などでも大活用されているサイトだそうです。
福岡もだんだん秋めいてきました。