糖鎖はタンパク質や脂質、RNAなどに結合して、糖タンパク質、糖脂質、glycoRNAなどの複合糖質となって生体内で働いています。糖鎖はDNA/RNA、タンパク質にならぶ生命の第三の鎖ともよばれる重要な生体分子です。その糖鎖の配列を決定するのは今まで困難だったのですが、最近は質量分析法と糖鎖を切断する酵素などを組み合わせて、配列決定がしだいにスピードアップするようになってきました。先日有名な科学雑誌のScienceに掲載された次の論文は、Electrospray Ion Beam Deposition Scanning Tunneling Microscopy (ESIBD-STM) という、Electron spray方式の質量分析法とscanning tunneling microscopy(走査型トンネル顕微鏡)を組み合わせた新開発の手法で、糖脂質(ガングリオシドなど)や糖蛋白質(ヒトの腸で微生物と相互作用している重要な糖蛋白質であるムチンなど)に付加されている糖鎖を世界ではじめて脂質部分やタンパク質部分と同時に可視化できたというものです。
Kelvin Anggara et al.,
Direct observation of glycans bonded to proteins and lipids at the single-molecule level.
Science382,219-223(2023).DOI:10.1126/science.adh3856
https://www.science.org/doi/10.1126/science.adh3856
このScienceの論文はPay Wallの向うにあるので契約している機関やお金を払ってしか読めませんが、PubMed Centralにのっている原稿は誰でも読むことができます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7615228/
また上にリンクをはったScienceのサイトにあるsupplementary materialsのpdfは誰でもダウンロードできますのでご覧ください。
糖鎖はこんな風に見えるそうです。本文の図2を引用しておきます。図はCC BY 4.0のcreative common ライセンスで利用できるとのことです。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7615228/figure/F2/
こちらから図を順に見ることができます。ムチンについている糖鎖の写真に圧倒されます。
こちらは図3でN型糖鎖の可視化です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7615228/figure/F3/
次はO型糖鎖の典型、ムチンの糖鎖の図4です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7615228/figure/F4/
図1は顕微鏡の原理と糖ペプチドやグリコサミノグリカン(GAG)の糖鎖の可視化例です。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC7615228/figure/F1/