発明の心理(ジャック・アダマール著)は面白い本です。

今夜は皆既月食でしたね!快晴で星もきれいで最初から最後まで雲一つない空で月食を満喫できました。さておそくなりましたが、今日は面白い本を一冊紹介します。
ジャック・アダマール(Jacques Hadamard)というフランスの有名な数学者が書いた「発明の心理」(みすず・ぶっくす)という本があります。原著はAn Eassay on the Psychology of Invention in the Mathematical Fieldというタイトルです。著者のアダマール(1865年生まれ、1963年没)はほとんどすべての数学分野で有名な業績をあげており、アダマール行列や量子コンピュータのアダマールゲイトも彼にちなんだ命名です。有名なアンリ・ポアンカレが「科学と方法」という本でポアンカレ自身の発見体験について詳しく考察しているのは有名です。アダマールのこの本は、ポアンカレの考察をさらに深く追求したものになっています。ポアンカレ、パスカル、ガウス、デカルト、ヘルムホルツなど有名な科学者の発見体験について詳しく考察している他、アインシュタインをはじめ、多くの当時生きていた数学者、物理学者、芸術家などに発見体験についてのアンケートをとって、その回答についても深く考察しています。付録にはアインシュタインからの返事も載せられています。さらに大数学者のアダマール自身の発見と失敗についての考察も含まれています。意識的な研究作業の後、ちょっと他の事をしていると突然、解けなかった問題の解が浮かび上がってくるというのが、多くの科学者が体験している発見のプロセスだそうです。無意識のあいだに発見が熟成されているというようなイメージでしょうか。アダマール自身も眠っていて目が覚めた瞬間に答えが浮かび上がってきたという経験をしたと書いています。とにかく発見について知りたい人には、とても興味深い必読書ですので、一読をおすすめします。余談ですが、私が高校生のときこの訳本をはじめて読んで一番印象にのこったのは、数学者の中には、言葉で考えるのではなくてイメージや画像で考えている人がいるという部分でした。私は言葉で考えているのでイメージで考えるとはどんなことなのか当時は想像できませんでした。その後、結婚してみると、奥さんや子供たちは、考える時、目の前の空間に映像が浮かんでそれで考えているということがわかりました。びっくりです。私が知らなかっただけで、そういう人も多いのかもしれませんね。

さて、今調べてみると、私の持っている本(180円で買ったみすず・ブックス版)はもう絶版で、amazonの古本で7千円以上の値がついていました。その後、「数学における発明の心理」というタイトルで再販されていましたが、これももう古本でしか入手できず、今のところ送料込みで千円ほどで買えるようです。残念ながら国立国会図書館の個人送信資料の「みすず・ぶっくす」のコレクションにはこの本は入っていません。古本が入手できない方はお近くの図書館をあたってみてください。また英語版で良ければInternet Archiveに原書がアップロードされているので読んでみるとよいでしょう。 pdf版やKindle版(なんかタイポが目立つ本でおすすめしません)や画像版が無料でダウンロードできます。
https://archive.org/details/eassayonthepsych006281mbp
ポアンカレ自身による発見についての考察については、「科学と方法」の他に、フランス心理学会での回想講演のの英訳をご覧になると面白いと思います。

https://fabricebaudoin.files.wordpress.com/2013/07/www-ias-ac-in_resonance_feb2000_pdf_feb2000reflections.pdf