糖鎖生物学って何だろう?(1) インフルエンザウイルスの話

インフルエンザウイルスは糖鎖を使って感染する。生物の細胞の表面は糖鎖でびっしり覆われています。これを糖衣glycocalyx(グライコ・ケイリクスと発音します。覚えておくとよいのですが、英語では単語の中にあるa という文字は「ア」と発音しないで「エイ」と発音する場合が多いです)と呼びます。細胞は糖のころもを着ているのです。糖衣は細胞の一番外側にありますから、外から細胞に感染するウイルスやバクテリアが最初に接触するのが糖衣の糖鎖です。今話題のインフルエンザウイルスもこの糖衣を介して細胞に感染し、細胞に侵入していきます。H1N1とかH5N1とか表記されるHがヘマグルチニン(赤血球凝集素Haemagglutinin)の略で、これは糖鎖と結合するウイルスの成分蛋白質を表し、1とか5とかいう数字はその亜型を示します。ウイルスは細胞表面にある酸性の糖であるシアル酸 (ノイラミン酸neuraminic acidの誘導体の総称です)を含む糖鎖と結合して細胞内に侵入、細胞内部で複製します。細胞を殺して外へ飛び出そうとするときウイルスをくっつけるシアル酸があると今度はじゃまで出られません。それでノイラミニダーゼという酵素(これがH1N1Nです。NeuraminidaseNです。)をもっていて、これを使ってシアル酸を分解して外に出ます。この酵素を働けなくするのがタミフルリレンザという薬です。

インフルエンザウイルスに限らず、ウイルスのほとんどすべては糖鎖を介して感染します。糖鎖の機能を調べる糖鎖生物学の研究は、ウイルス感染の克服に必須です。

インフルエンザやウイルスと糖鎖については以下のリンクに更に詳しい説明があります。

Glycomicrobiologyのやさしい解説 (日本語)―インフルエンザウイルスやノロウイルス、C型肝炎と糖鎖の関わりがよくわかるサイトです。

glycocalyxの写真はGoogle 画像検索で探してみてください。