1型糖尿病の画期的治療薬が完成間近だそうです。Vertexという会社が開発している幹細胞治療法です。New England Journal of Medicineに先日掲載され、同時に学会発表があった研究成果で、1型糖尿病が治るという画期的成果です。
会社からの発表はこちら。
https://news.vrtx.com/news-releases/news-release-details/vertex-presents-positive-data-zimislecel-type-1-diabetes
Vertex Presents Positive Data for Zimislecel in Type 1 Diabetes at the American Diabetes Association 85th Scientific Sessions
– Results from the study continue to demonstrate the transformative potential of zimislecel with consistent and durable patient benefit –
– All 12 patients with at least one year of follow-up who received a full dose of zimislecel as a single infusion achieved ADA-recommended target HbA1c levels <7% and >70% time-in-range (70-180 mg/dL), and 10/12 patients were insulin free –
論文はこちらです。
Stem Cell–Derived, Fully Differentiated Islets for Type 1 Diabetes
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2506549
幹細胞から分化させた膵島細胞 Zimislecel(商品名:旧称VX-880)を患者に門脈から注入して移植してインスリンの産生を回復させます。免疫抑制剤を投与しながら、門脈から分化させた膵島細胞0.4×109 cells(半分量)0.8×109 cellsを移植したた1型糖尿病の患者12人についての研究です。この論文によると、10人はインシュリン投与不要になる回復をみせたそうです。また低血糖症なども起きなくなり糖尿病の指標として使われる血中の糖化ヘモグロビン(HbA1c)も7%未満と優れた治療効果が確認されています。HbA1cのHbはヘモグロビンの略で、HbA0が糖化されていないヘモグロビン、HbA1a, HbA1b, and HbA1cなどはカラムクロマトグラフィーでの溶出順を示すフラクション名を反映しています。HbA1cは糖尿病で糖が結合している糖化ヘモグロビンの呼称でその血中濃度を7%未満にコントロールするのがよいとされています。読み方はヘモグロビンエーワンシーです。
この研究成果は、幹細胞研究で有名なMelton教授のリーダーシップで完成しました。Meltonさんはアフリカツメガエルの研究者として素晴らしい業績を挙げた先生です。私も昔はアフリカツメガエルの研究をしていたので、カリフォルニア大学バークレー分校のJohn Gerhart教授との共同研究でバークレーに滞在していた時、同じ部門にあったMeltonラボにお邪魔してMeltonさんに自分の研究の話を聴いてもらったことがあります。その後、教授の二人のお子さんが成人して1型糖尿病を発症されたとのことで、その治療のために幹細胞から膵島細胞を分化させる研究をはじめ、ヒトの幹細胞研究で有名な業績をあげられました。幹細胞研究センターの所長として大学で研究をすすめておられたのですが、治療法の開発には自分で会社を作るのが一番ということでSemma Therapeuticsを創立してI型糖尿病の幹細胞治療研究をすすめました。その後、会社がVertexという会社に買収された後、Meltonさんはこの会社に参加して古巣のSemmaのすすめていた治療法開発を完成させたという経緯だそうです。今回の論文は1/2相の研究成果の報告ですが現在は3相まで研究が進んでおり、来年には治療法として確立すると期待されているそうです。
まるで映画のような経過での治療法開発ですが、完成間近ということで感動もひとしおです。
https://www.biospace.com/harvard-researcher-heads-to-vertex-to-curate-diabetes-portfolio
幹細胞を分化させたものを移植しての治療というのは、誰でも思いつくことですがそれをチームを組んで実用化するというのはとてつもなく大変な作業で、まさに偉業です。このような心ふるえる画期的業績は科学に携わる皆の励みになりますね。Melton先生、おめでとうございます!