宿題と間違えて数学の未解決問題を解決した大学生―都市伝説と本当の話

だいぶ前ですが、ノーベル経済学賞を受賞した数学者ナッシュの伝記本を、「ビューティフルマインド」という彼についての映画を見たあと買って読みました。「ビューティフルマインド―天才数学者の絶望と奇跡」(新潮社)という本です。さっきちょっと読み返してみると、ナッシュはABC予想の研究もはじめていたんですね、驚きました。彼はノーベル経済学賞を受賞したのですが、その後アーベル賞も受賞して、受賞式典の帰り道、ナッシュと奥さん(アリシアさん)は、乗車していたタクシーが事故をおこして亡くなってしまいました。(車の事故でカップルが亡くなった例は結構ありますね。私のお世話になった発生学者のエバート夫妻、同じく中辻憲夫先生が留学されていた発生学者のアン・マクラーレンさんと彼氏など残念なことに、自動車事故で亡くなっています。)

話がそれました。この「ビューティフルマインド」という本の中に、ミルナーという後にフィールズ賞を受賞する数学者が大学一年生の時、数学の授業の黒板に書かれていた宿題の問題を解いて先生に提出したところ、それは宿題ではなくて有名な未解決問題だったという話が書いてありました。先生はさっそくミルナーに彼の解答を論文にするように励まして、ミルナーは大学一年生で若くして画期的な業績をあげた‥‥という話です(邦訳101ページ)
この話は面白いのでよく私の授業でも紹介していたのですが、これは都市伝説だったようです。ミルナー本人に直接聞いた人もいて、確かに彼は未解決問題を解決したのですが宿題と勘違いして解いたのではないとのことでした。
https://mathoverflow.net/questions/54513/the-story-about-milnor-proving-the-f%C3%A1ry-milnor-theorem

ただ本当に、宿題と勘違いして未解決問題を解いた学生はいたそうです。

George Dantzigという数学者のエピソードです。末尾にツイートを載せておきますが、だいたい以下のような話です。

彼がバークレイの一年生だった時、遅刻して数学のNeyman教授の講義にでたところ黒板に2つの宿題が書いてありました。早速写し取って帰ったそうです。数日後、教授のところに行った彼は、「遅れてすみませんでした。いつもより難しい問題だったので時間がかかってしまいました。まだ受け取ってもらえますか?」 教授は「そこの机の上に置いときなさい」
彼、「なんか めちゃめちゃ乱雑に書類があふれている机やなぁ。僕の宿題がまぎれてしまったらどうしよう? 」
こうして提出して6週間がたちました。日曜日の朝、家で彼女と寝ていると8時だというのにドアをバンバンたたく人がいます。なんとNeyman教授。
教授が興奮して言うには、「君の論文の一報目の序文を書いた。読んでくれ、すぐに雑誌に投稿するから! 」
あの2つの問題は宿題ではなく、統計学の未解決問題だったというのがこの朝、初めて分かったという話です。こちらのツイートをご覧ください。