線虫が空を飛ぶという論文がでています。
Caenorhabditis elegans transfers across a gap under an electric field as dispersal behaviorというタイトルで、有名誌のCurrent Biologyに出た論文です。
https://doi.org/10.1016/j.cub.2023.05.042
オープンアクセスの論文なので誰でも読めますのでご覧ください。
モデル生物として研究されている線虫C. elegansは、環境からストレスを受けたり、密集しすぎたり、餌がなくなるなど生育に不利な環境になると、成虫への発生の過程を変化させてL2幼虫にならずに、dauer(ダウアー)とよばれる特殊な状態になって耐え忍ぶようになります。dauer状態では餌もとらず、口も閉じてしまい、腸は電子密度の高い貯蔵顆粒でいっぱいになってしまいます。丁度動物の冬眠のような感じの状態ですね。ほとんど動かなくなりますが、動物や昆虫が近づいて振動などの刺激をうけると、飛びあがってその動物や昆虫にくっついてより良い環境を求めて旅するのです。ダウアーの状態の線虫がよりよい環境に移動できた場合には、発生を再開してL3という幼虫になって正常発生過程に復帰します。ダウアーなんてつまらないものを研究している人がいるんだなぁと思ってはいけません。なんとこのdauerの研究は長寿遺伝子の研究、生物の寿命決定のメカニズムの研究にブレイクスルーをもたらしたのです。そのうちにダウアーの研究をした線虫研究者にノーベル賞が授与されるのは確実だと思います。
ダウアー状態の線虫は尾を下にして立ち上がって、頭を上にした状態で、ときどき頭を揺らして昆虫などが近づくのを待っています。このように動いているダウアーの線虫をnictation状態にあると呼びます。このnictationに関わる神経はIL2ニューロンであることなどもわかっています。今回の論文は、nictation状態にあるダウアー状態の線虫C. elegansが、電場を利用して飛び上がって昆虫(セイヨウオオマルハナバチBumblebee Bombus terrestris―この虫は特定外来生物に指定されています。日本の在来のマルハナバチと競合します。なんと在来種の女王蜂を刺殺するそうです!)にくっつくことを発見したという驚きの報告です。なんと100匹のnictation状態にある線虫の集団も電場を利用して飛び上がるのだそうで、その動画も公開されています。実験室では線虫を寒天をひいたプラスチックシャーレで飼育するのですが、ある時、寒天の上にいたダウアー線虫が突然消えてしまって、探してみるとなんとシャーレの蓋のほうに全部ワープしたかのように移動していたのだそうです。この発見を追及して、今回の電場で線虫が虫にくっつくということを見つけたのだそうです。私達も似た現象を経験をしていたのですが、こんなメカニズムだったとはまるで気づけませんでした!
動画はこちらのtwitterでみられます。面白いです。感動しました。
原著論文「線虫C. elegansが電場を利用して宙を飛び、集団で昆虫に飛び乗り拡散する」がCurrent Biologyに掲載されました(北大中垣研との共同責任著者)。(1/n)https://t.co/fmPIbcYnbo
— Takuma Sugi (@Phageman0911) June 21, 2023
下の写真は私が授業で使おうと思っていた鳥獣戯画の一場面です。鳥獣戯画にも線虫が描かれているというスライドで授業をはじめようと考えて作ったのですが、今回が本邦初公開です。みるからにダウアー風の線虫数匹の集団が、カエルの口の付近を飛行しているように見えませんか?
下のツイートでは、集団で飛ぶ線虫の動画がみられます。
Further surprisingly, a single worm that lifts up to 100 worms can also leap across an electric field, termed “collective multiworm transfer”. pic.twitter.com/GGn5zASPSx
— Sugi Lab (@sugitakulab) June 22, 2023