NIH video castでバクテリアに対する免疫防御メカニズムについての講演がありました。
イスラエルのワイズマン研究所のProf. Rotem Sorekによる講演です。
https://videocast.nih.gov/Summary.asp?file=32893
タイトルはThe Immune System of Bacteria: Beyond CRISPRです。
バクテリアはウイルスであるファージの攻撃を絶え間なくうけています。ファージとバクテリア、相互の生き残りをかけた進化の戦いのなかで、バクテリアは制限酵素とCRISPR-Casのシステムを生み出しました。制限酵素はファージのDNAを特定の配列で切断してファージを無効化するもので、バクテリア自身のDNAが誤って切断されないように自分のもっている酵素で切断される配列はメチル化しておくことで酵素の切断から逃れています。制限酵素は分子生物学の道具として遺伝子クローニングを中心に活用されました。CRISPR-Casのシステムは、これをもっていない大腸菌などもいるため、発見が遅れました。感染してきたウイルスの配列の一部を獲得免疫のようにバクテリア自身のゲノム内にとりこんでおき、次に同じウイルスが感染してきた際に、その配列を利用して相補RNAをこしらえて酵素Casを使ってファージのDNAを切断して無力化します。CRISPR-Casシステムの発見によって、ゲノム編集技術の革命が生み出されました。
この講演では、バクテリアは他に免疫システムをもっていないだろうかという疑問に答える研究の成果がわかりやすく解説されています。バイオインフォマティクス、メタゲノム解析などを駆使した研究の結果、CRISPR-Casを越える新たなバクテリアの免疫システムが沢山発見されました。発見された新しい防御システムの一つは、Cyclic GMP-AMP signaling (cGAS )というシステムで、真核生物ももっているシステムです。ファージが感染したバクテリアは、cGASシステムでphospholipaseを活性化して自分の膜を破壊して自殺します。この手法で、感染したバクテリアがファージの複製前に死んでしまうのでバクテリアのコロニーは死ぬことを免れるわけです。講演ではそのほかの様々な防御システムの発見、そしてヒトの抗ウイルス遺伝子のバクテリアシステムからの起源や、バクテリアの免疫系からヒトの自然免疫への進化に関する仮説なども紹介されています。盛りだくさんの講演ですがわかりやすいのでおすすめします。
YouTubeにも動画がアップロードされています。
https://youtu.be/_COeBSfG53g
雑誌Cellにでた記事、
Tal N, Sorek R.
SnapShot: Bacterial immunity
Cell, 185(3):578 (2022).がまとめになっています。ホームページからダウンロードできるので読んでみてください。
https://www.weizmann.ac.il/molgen/Sorek/publications.html