竹市雅俊先生の新刊「あつまる細胞」が出版されました。

今日はカドヘリンを発見された竹市雅俊先生の新刊を紹介します。

「あつまる細胞 体づくりの謎」(岩波科学ライブラリー316)という本です。
https://www.iwanami.co.jp/book/b618302.html

この本は竹市先生が、カドヘリン発見のはげしい国際競争の過程やカドヘリン研究の現況、そして今後の展望をわかりやすくまとめられた本です。

竹市先生が2020年のカナダのガードナー国際賞(ガードCanada Gairdner International Award)を授賞された時は、オンラインの授賞式が行われ私も参加しました。竹市先生は高校の生物の教科書にものっているカルシュウム依存性細胞接着分子カドヘリンの発見で有名です。カドヘリンと相互作用する分子として同定されたβカテニンは、細胞接着以外に、Wnt(ウイントと読みます)シグナル伝達系の構成分子として転写因子としてDNAに結合することも判明し、私達の九大の発生生物学研究室(当時は山名清隆教授)のメインテーマであったアフリカツメガエルの背腹軸の形成の因子(具体的にはβカテニンの作用でアフリカツメガエルの背側構造が誘導されます)であることも衝撃的な発見でした(GumbinerやMoon、Kemler他)。先生は私が大学院生時代に属していた岡田節人教授の研究室で助教授をされていて、丁度私の在籍時はカドヘリンの研究がまさに花開く直前でした。それでカドヘリンの発見への試行錯誤の様子を、研究室内の研究進捗報告セミナーで逐一みせてもらうことができたのは幸いでした。

私が担当していた大学院の分子発生生物学特論の授業では、必ず竹市先生のカドヘリン発見のseminal paper (ある分野での画期的な、新しいパラダイムを導入するような論文)を学生さんに読んでもらって、カドヘリンの発見にいたる試行錯誤の様子を解説していました。今回出版されたこの本では、発見者みずからによる発見談に加えて、カドヘリン研究の現況、将来の展望、竹市先生の科学観なども学べるので、科学を学ぶすべての分野の学生、研究者におすすめできる本だと思います。是非読んでみてください。簡単なカドヘリンの発見談はこちらにすでに公開されています。http://www.cdb.riken.jp/ctp/cadherin.html

またこちらの生命誌研究館の記事「細胞から個体へ - 脇道から到達した発生生物学の本流」は、この本を買うかどうか迷っている方におすすめします。
https://brh.co.jp/s_library/interview/51/