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さて血液型と性格に関係があるかという話です。この問題に関しては、どのような論文がでているのか、文献データベースであるPubMedで検索キーワード ABO blood type personality で検索してみました。すると今日現在で42個の論文がヒットし、関係のない論文も入っていますが、たしかにABO式血液型と性格の関係を論じた論文が公表されているのがわかります。こうした論文を自分で読んで考えられるようにすることを目標にABO式血液型の話を続けます。
今回はABO血液型を決定する遺伝子について調べてみましょう。どんな遺伝子が働いてA型やB型の血液型物質が合成されるのでしょうか。そしてその遺伝子はゲノムのどこにあって、周辺にはどんな遺伝子が並んでいるのでしょうか。まわりにある遺伝子には、もしかしたら血液型と性格の関連を示唆するものがあるかもしれませんね。早速調べてみましょう。
<糖鎖は糖転移酵素が合成する>
糖鎖は通常、単糖をグリコシド結合で連結する酵素(糖転移酵素:英語ではグリコシルトランスフェラーゼ glycosyltransferaseです)を使って合成されます。転移酵素という名前がついていますが、糖転移酵素は糖鎖合成酵素です。糖転移酵素には様々な種類があり、ヒトでは現在240種類ほどの酵素が知られています(CAZYデータベース参照。ケイジ―データベースと読みます。CAZYデータベースに関する動画はこちらをみてください。詳しくは註1参照)。
ABO式血液型物質も糖鎖ですから、糖転移酵素によって合成されます。まずO型物質を合成する糖転移酵素を使って、土台のO型物質が合成されます。そのO型物質にGalNAcをα1-3結合させる酵素をGTA、O型物質にGalをα1-3結合させる酵素をGTBと呼びます。この名称に含まれているGTは糖転移酵素glycosyltransferaseの略、AやBは血液型物質を示します。酵素タンパク質であるGTAとGTBはABO糖転移酵素遺伝子(遺伝子名はABO)がコードしています。
<ゲノムブラウザでABO遺伝子を探してみよう>
このABOという名前の遺伝子がヒトゲノム中のどこにあるのかを、ゲノムブラウザで探してみましょう。ゲノムブラウザというのは、いろいろな生物のゲノムの様子を表示してくれるソフトです。オンラインで使えるものが多く、いろいろ種類がありますが、今回は有名なゲノムブラウザであるUCSC genome browser (UCSCというのはUCがカリフォルニア大学 SCがサンタクルーズ分校の意味です)
https://genome.ucsc.edu/index.html
を使ってABO遺伝子を探しだし、この糖転移酵素遺伝子との周辺を眺めみましょう。
上のリンクをクリックして開くトップ画面の
上段部分にあるGenome Browserの部分をクリックすると以下のページが開きます。プルダウンから選ぶとアジアのサイトを使えetcというページがでて面倒なので最初は単に一回クリックしてください。すると以下のヒトゲノムブラウザのページが開きます。
右上にあるgoボタンの左にある検索窓に遺伝子の名前ABOをタイプします。するとポップアップウインドウが 開いて図のように遺伝子のちゃんとした名前が表示されますのでポップアップウインドウの中のABOの遺伝子名(alpha 1,3 GalNAc and alpha1,3 Galtransferaseなどと書いてあります)をクリックします。
すると検索窓にポップアップの内容が自動記入されますので、右側のgoボタンを押します。すると新しいウインドウでABO 遺伝子が表示されます。
検索窓の下にある帯状の図が遺伝子の存在するヒトの染色体の模式図です。赤枠で囲まれている部分にABO遺伝子があることを示しており、染色体の模式図の下には赤枠で囲んでいるあたりを拡大して表示してあります。染色体の模式図の一番左にはchr9 (q34.2)とありますね。これはABO遺伝子が染色体9番のq34.2の位置にあることを教えてくれています。これでこの遺伝子がヒトの第9染色体のバンドq34.2とよばれる部分にあることがわかりました。このようにして遺伝子名を検索窓に入れて検索すると、検索した遺伝子の存在するゲノム内での位置がわかります。
染色体の模式図の下にある拡大図ではABO遺伝子のエクソンとイントロンの構造がよくわかります。このABO遺伝子はGalあるいはGalNAcを転移する活性をもっているタンパク質をコードする遺伝子です。この遺伝子は354個のアミノ酸からなるタンパク質をコードしています。354個のアミノ酸の中の、たった4個のアミノ酸の違いでABO遺伝子の産物がGTAの機能(A型物質合成酵素活性)をもつか、GTBの機能(B型物質合成酵素活性)をもつかが決まるのです。O型の人はこの糖転移酵素遺伝子(ABO)の塩基配列の中に停止コドンが入っており、酵素活性のある糖転移酵素が合成できません。このためO型物質にGalやGalNAcが結合せず、土台のO型物質のみをもつO型の血液型になります。ABO遺伝子という名前の糖転移酵素遺伝子ですが、O型物質をつくる酵素活性はもたないので注意してください。
では、この遺伝子の周辺にどんな遺伝子があるかをゲノムブラウザで眺めてみましょう。
上の図のように開いたゲノムブラウザ画面の上のほうにはzoom in (1.5x 、3x、10x、baseのボタン)とzoom outのボタン(1.5x 、3x、10x、100xのボタン)があります。zoom inのほうのボタンは表示をさらに拡大(遺伝子を大きく拡大表示したりbaseボタンを押して塩基配列を表示)、zoom outのほうは遺伝子をゲノム中でもっと小さく表示して遺伝子の周辺をみるのに使います。
遺伝子の周辺をみたいときにはzoom outのボタンを押します。1.5xを一回押してさらに10xを押すと表示を15倍に拡大というふうに何回かボタンを押してみやすい倍率まで拡大縮小をするのが普通です。
ABO遺伝子の周辺をx10ボタンで拡大表示(zoom out)した例がこれです。
図ではABOの右側にSURF6, MED22その他いろいろな遺伝子があるのがわかります。
100xボタンを一回押した画面を下に載せておきます。
それぞれの遺伝子名をクリックすると、その遺伝子の説明が開きます。100xボタンを押して表示される遺伝子にDBHというのがありますね。これはdopamine beta-hydroxylase (DBH)遺伝子でこの遺伝子がABO式血液型と性格に関連があるという研究のきっかけになったことがある遺伝子です。これが論文です。
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0126983
たしかに染色体の同じバンド内にありますね。この論文はGoogle検索してみると出版以来15回ほど引用されています。Web of Science検索では5回でした。
註1:糖鎖を合成する糖転移酵素や分解酵素など糖に関する様々な酵素が網羅されているデータベースです。ヒトだけでなくバクテリアからC. elegansやショウジョウバエ、ゼブラフィッシュやカエルや植物、マウスなど、さまざまな生物別に糖関連の酵素が網羅されています。