新しい私達の論文が公開されました―先天性グリコシル化異常症DPAGT1-CDGを線虫を使って研究するという論文です

先月投稿していた論文がアクセプトされて原稿がオンラインに掲載されました。Kanakiさんの修士論文の内容を主とした論文で、私達のCREST研究の成果を含めた論文です。Dejima君Matsudaさん、Murata君、Nomuraさん他 沢山の方々との共同研究の成果です。Oxford University Press発行の雑誌Glycobiologyを購読している方は是非ご覧ください。アブストラクトへのリンクは以下の論文のタイトルをクリックしてください。

UDP-N-acetylglucosamine-dolichyl-phosphate N-acetylglucosaminephosphotransferase is indispensable for oogenesis, oocyte-to-embryo transition, and larval development of the nematode Caenorhabditis elegans

糖鎖遺伝子の異常というのはアメリカ合衆国の人口の20%程度でみられるとされており、なんか具合が悪いと病院を訪れる患者さんや、100件近くの医療機関を訪れても原因がわからなかった患者さんのゲノム配列やmRNA配列をシークエンサーで調べてみると、糖鎖遺伝子の異常が原因であるということがわかったという例が頻出しています。それでアメリカでは糖鎖生物学者は病院、j研究所でひっぱりだこになっているということです。
今回の研究は先天性グリコシル化異常症CDG(congenital disorders of glycosylation)の原因遺伝子の一つでCDG-IjあるいはDPAGT1-CDGと呼ばれる病気の原因遺伝子DPAGT1の線虫での研究成果です。線虫でわかった結果をヒトの病気の解明に役立てようとする研究手法の実施例でもありますので是非ご覧ください。
先天性グリコシル化異常症についてはGoogle検索で「先天性グリコシル化異常症」といれてすぐにヒットする和田芳直先生の論文「先天性グリコシル化異常症CDGの分子診断」 (Proteomics Letters, 2017, 2, 1-6)をご覧ください。

私達の今回発表した論文ではヒトのN型糖鎖合成の第一段階ではたらく酵素DPAGT1の線虫版遺伝子algn-7を線虫で初めて同定し、遺伝子産物の酵素活性を確認、その遺伝子algn-7を阻害すると幼虫致死、卵母細胞形成異常、卵母細胞から胚への遷移(oocyte-to-embryo transition)が異常となることなどを報告しています。このDPAGT1遺伝子のノックアウトはマウスでは胚発生の初期での致死を引き起こしますが、お母さんマウスの体内でおこる死亡で詳しいことはなかなかわかりません。そこで線虫の登場となるわけです。
線虫は体が透明なので、発生していく卵母細胞などの様子が生きたまま観察できます。そこでこの研究では、この遺伝子の生殖巣での役割(幹細胞ニッチの形成から卵母細胞形成、そして受精)と初期胚分裂と幼虫期での役割を詳しく調べてみました。この遺伝子産物DPAGT1は従来日本で発見されてこの酵素を阻害する定番の薬であるツニカマイシンのターゲットとされてきましたが、ツニカマイシンはN型糖鎖の合成以外にも様々な副作用があります。実際 線虫で調べてみると、線虫でツニカマイシンを与えたときと、DPAGT1遺伝子を阻害したときとでは少々違った結果がでるのがわかりました。ツニカマイシンを使うより遺伝子そのものを阻害するのが一番確実です。線虫ではこの遺伝子の阻害がRNAiで強力かつ安定的に実施できます。そこで今回の研究ではDPAGT1遺伝子の機能をRNAiや遺伝子破壊で阻害したらどうなるかを詳しく調べた研究にもなっています。

このalgn-7遺伝子を阻害するとたしかにN型糖鎖の合成が抑えられることも確認できたので、さらに一歩すすめて生殖巣で発現しているどの「N型糖鎖がついているタンパク質」の阻害がalgn-7遺伝子の阻害でおこるのと同じ異常をひきおこすかも調べてみました。生殖系列で発現している遺伝子のリストとはすでに公開されています(RNA-Seqでの結果がすでに公開されています)。また線虫でN型糖鎖が付加されていることが実験的に確認されている遺伝子のリストもすでに公開されています(これもデータベースGlycoProtDBが公開されています。線虫、ヒト、マウスのデータがあります)、この二つのデータの胸痛部分456個の遺伝子をデータベース検索で選び出し、その遺伝子機能をRNAiで阻害した結果を調べてみました。その結果、同定できた5つの遺伝子は、algn-7の遺伝子阻害と同様の異常を引き起こします。これらの5つの遺伝子には、従来のCDGの原因遺伝子のほか、ごく最近にCDG遺伝子と同定されたもの、およびおそらくCDGでの異常症状の原因となる遺伝子ネットワークに関与していると推定されるものが含まれていることがわかりました。

  今まではN型糖鎖を阻害すると糖鎖付加が不十分なタンパク質が蓄積して小胞体ストレスが引き起こされてその結果、様々な表現型がでると漫然と考えられていましたが、小胞体ストレスはたいした影響は与えておらず、実はpatched遺伝子ネットワークなどいくつかの重要な遺伝子の機能阻害がCDGでの異常を引き起こしているのではないかと考察しています。是非、ご一読ください。

写真は先日 福岡市動物園に行ったときに撮影したお猿の子供たちの写真です。左上でブランコに上り初め、右で上まで到達。左下で下へとジャンプして落下し、右下で回転楕円体のような黄色の部分にのって遊んでいる一連の動きの写真です。朝早くでしたが元気にあそびまわっていて、子ザルの元気さがとてもよかったです。

 

プレプリントサーバーを利用した論文紹介ゼミのすすめ―bioRxivの利用法2

土曜日にサイトのテーマを携帯対応のものに変えました。携帯でアクセスする方は、携帯を横にしてみてもらうと見やすいと思います。

If you want to be one year behind, don’t read bioRxiv– Jeff Leek

今日は5月23日のプレプリントサーバーの紹介に続く記事です。上の言葉は生物統計学などで多くの論文を出しているJeff Leek先生の言葉だそうです。論文投稿前のプレプリントをプレプリントサーバーに投稿していろんな人に読んでもらい、同時に引用できるようなdoiも取得した上で改訂して適当な雑誌に投稿するという人が増えています。また大学や研究室の論文セミナーで、雑誌にでた論文を選ぶのではなく、プレプリントサーバーにアップロードされた論文を選んで紹介するという新しいスタイルの論文紹介ゼミも盛んになっているようです。雑誌に出る論文より一年以上早く最新の成果を把握できることも多いので、PubMed検索だけではなく、プレプリントサーバーの検索も習慣にすることをお奨めします。

論文紹介ゼミでは、プレプリントサーバーにアップロードされた論文を読んで紹介し、論文のレフリー(査読者)になったつもりで内容を批判し吟味します。皆で検討した結果を著者にメールなどで連絡して原稿の改善に役立ててもらうというわけです。
こうしたプレプリントのゼミをやると、研究生活の早い時期に論文のレフリーの役割を学べます。著者への連絡がとても役立ったということで、論文を雑誌に投稿するときに謝辞に名前を書いてもらった学生もいるそうです。
今までレフリーになるのは、博士課程の学生で先生のお手伝いで協力するとか、査読を依頼されたときにレフリーの経験の多い先生に教えてもらうなどしかチャンスがなかったのですが、プレプリントサーバーで原稿が読めるようになったおかげで、学部学生や修士の学生でもレフリーの勉強ができるようになったわけです。米国ではプレプリントをつかったレフリーの練習も盛んになっているとのことです。皆さんも是非お試しください。これはpreprint reviewといいますが、これについてはこのリンクも参考になります。

線虫C. elegansの最近のプレプリントで面白そうなのにこんなのがあります。 配偶子幹細胞ニッチについてのKimbleラボの論文と、ノーベル賞をとったMelloさんのところのCRISPRを用いたゲノム編集の新手法の論文です。

C. elegans germ cells divide and differentiate along a folded epithelium

Hannah S Seidel, Tilmira A Smith, Jessica K Evans, Jarred Q Stamper, Thomas G Mast, Judith Kimble

PubMed以外の便利な論文の探し方―ナショナルバイオリソースプロジェクトでも使っているサイトTextpressoの使い方1

近畿地方の皆様、昨日の地震の被害をお見舞い申し上げます。余震も続いていて昨夜も二回ほど激しい揺れがあったそうですが、どうぞ皆様お疲れがでませんように。
私達のところでも熊本地震や以前の玄海地震など、大きな地震とその後の余震では、夜もぐっすり寝られず疲れたのを思い出します。熊本のときは、緊急地震速報が町内のスピーカーから深夜に何度もながれて特に疲れました。玄海地震以降、私は実は今でも夜寝る時には、ポシェットに財布や携帯、手帳をまとめていれておいてLEDの懐中電灯をポシェットにつきさして寝ています。玄海地震ではあと数秒揺れが続いたら家が倒壊するなと思ったのを思いだします。

阪大でも建物にひびがはいっているそうですが、九大でも玄海地震のときは建物にひびが入ったり、医学部のサンプルが壊れたり、理学部の建物の間の渡り廊下がずれたりと、ひどい被害をうけました。その後、本棚から本がとびでたり、パソコンが揺れで落ちたりしないようにと対策をやかましくとるように指導され建物の補強などもすすみましたので、すこしは耐震性は向上したと思います。まだガスや水道がとまっているところも多いそうですし、大学も休校しているところが多いとのことです。どうぞ体力温存第一でお過ごしください。
さて今日は簡単に、文献検索サービスのTextpressoを紹介しておきます。

PubMed以外の論文検索法 Textpressoの使い方1

極めて精度の高い論文検索サービスにTextpressoがあります(このサイトは2018年末には廃止される予定で、最近改良されてTextpresso Centralになっています。) とりあえずは古い方のサイトをいろいろ使ってみることをお奨めします。リンク集にも線虫版のTextpressoは紹介してありますが、酵母やショウジョウバエ、ゼブラフィッシュ、マウス、カエルその他いろいろな文献を検索することができてとても便利です。日本が世界に誇るナショナルバイオリソースプロジェクト(パンフレットのリンクはここ)の一つであるナショナルバイオリソースプロジェクト線虫(遺伝子破壊株だけでなくバランサーやCreのラインなども続々提供中)では、取得した遺伝子破壊株がどのように活用されているかを調査する目的で、論文をTetpressoで検索して把握しています。私も今、論文を書いていますがこのサービスを活用してデータのチェックやっています。 Textpresso Centralの方の使い方は後日このサイトで紹介しますのでお楽しみに。(写真は今朝道端に咲いていたツユクサです)

ノーベル賞受賞者Sulston先生について

線虫C. elegansの研究でノーベル賞をとられたSulston先生が今年3月6日に75歳で亡くなりました。胃癌だったとのことですが、亡くなる一か月前までは仕事をしておられたとか。先生らしい最後だと思いました。昔、私がケンブリッジのMRC LMB (The MRC Laboratory of Molecular Biology )の John White先生のラボにいたとき、ハロウィーンのパーティーをSulston先生のご自宅でやるからということで、皆でうかがいました。夜でしたが、御庭の池のほとりには日本の提灯が灯をともしてぶらさげられていて、私もお土産に、息子の折った折鶴で口に小さな線虫を咥えているものを、何重もの箱の中にいれてお土産に先生に渡しました。先生は面白そうに箱を何回も開けて、やっとでてきた折鶴が、線虫をくわえているのをみて笑っておられました。

MRC LMBの線虫研究者John White先生の手で、世界で初めてレーザー共焦点顕微鏡が実用化された(MRC LMBの工場で組み立てたそうです)のですが、この MRCの線虫ラボには伝説の床というのがありました。Sulstonさんたちが世界ではじめて、線虫のすべての細胞の系譜Cell Linages(どの細胞がどんな細胞になるかという系譜)を明らかにしました。多細胞生物の細胞系譜の完全な記述は世界初の偉業でした。

その実験ノートが残っています。線虫の胚発生を実体顕微鏡で逐一観察し、丸椅子に腰かけて実体顕微鏡で線虫の発生する様子を逐一観察しては、ノートブックへ発生の様子を書き込み、また顕微鏡にもどって観察するという作業を繰り返していたそうです。その作業のたびに丸椅子がくるくる回るので、とうとう床に穴があいたのだそうです。それが伝説の床なのです。左の写真はその床の場所を私が撮影したものですが、さすがに床は修理されていました。

毎日4時間休みなしで観察する作業を2回くりかえし、18か月におよぶ観察で約1000個の体細胞からなる線虫のすべての細胞の発生の様子(細胞系譜:どの細胞が分裂して、どの細胞になり、どの細胞がいつ死ぬかなど)が明らかになりました(White先生が書かれたSulstonさんへの追悼の辞をごらんください)。そのノートの一例がMRC のサイトにありますのでご覧ください(写真)
A4のノートの一行目に日付が書いてあります。細胞は色鉛筆で色分けされて示してあります。観察しているSulstonさんに一番近い細胞が赤、その下が緑、次に離れているのが黒、次が青、次が紫という色分けで3次元の細胞配置をスケッチしています。、観察している時間が発生中の胚の部分の絵の左上に書き込んであります。丸で囲んであるのは、胚の発生開始後の時間です(分表示で205分、215分とか書いてありますね)。
当時は、自動で胚発生を観察して記録するシステムもなかったので、すべて直接観察で手書きでスケッチしていったのですね。ものすごい努力です。
私がMRC LMBの線虫ラボに留学していたときには、White先生がパイオニアのレーザーディスクに発生の様子を自動記録するシステムを完成させておられて、観察と記録がもうすこし楽にできるようになっていました。ちなみに、White先生はレーザー共焦点顕微鏡の開発の他、線虫の300個程度の全神経回路網(どの神経が体のどこにあって、その神経細胞がどの細胞と接触しているかというのの全貌:今でいうコネクトーム)を解明したのでも有名です。

Sulston先生はその後、線虫ゲノムの配列解析の偉業にとりくまれて、完成。多細胞生物ではじめての全ゲノム配列の決定に成功しました。このプロジェクトの経験は、続いてSulstonさんと Bob Waterston先生(当時MRC LMBのポスドクで、セントルイスのワシントン大学へ移動)がとりくんだヒトゲノム配列の決定に大きく寄与したのです。Sulstonさんや線虫の研究者は、得られた成果を囲いこむことなく広く皆で共有するという秀逸な方針をもちつづけたため、ヒトゲノム配列の決定結果を売りだしたVenterたちとは対立し、急いでヒトゲノム計画を完成させました。、他にも乳癌遺伝子の成果を特許で囲い込もうとする動きにも鋭く対立しておられたと記憶しています。近年は生命科学と倫理の問題にとりくんでおられたと聞いています。

ここに載せている実験ノートの写真もCC BY 4.0といういう自由に利用できるという宣言がなされているものです。Sulstonさんの研究データの公開、共有という方針とおなじですね。

歴史にのこる科学者Sulston先生のご冥福をお祈りするとともに、その精神を受けついていくのが大事だと思います。

実験ノートについて(1)

科学を研究することはそれを職業にするにしろ、楽しみにするにしろ、とても楽しいことです。その楽しさを分かち合い、そして皆の共通の財産にできるようにするため、そしてせっかくやった研究や実験の結果を忘れないようにするためには、得られた結果はきちんと誰がみても理解できるような形で残しておくことが大切です。

実験ノートをきちんととりながら実験や研究をすること、そしてそれを保存しておくことはとても大切です。左と右下の写真は私達が英国ケンブリッジにあるMRC Laboratory of Molecular Biology (MRC LMB)にいって講演させてもらったときに撮したものです。たくさん並んでいる緑のノートは2002年のノーベル賞医学生理学賞受賞者 Sydney Brennerさんの実験ノートです。線虫シーエレガンス(C. elegans)の研究はここ MRC LMB(分子生物学研究所)で始まりました。線虫に薬剤を与えて遺伝子に異常を引きおこして、突然変異をもった線虫を次々と取得していった様子がこのノートに生き生きと書かれています。最初は突然変異をおこす方法とかもまだまだ試行錯誤だったので、なかなか変異体がとれませんが、やがて条件検討の結果、とれる数がどんどん増えていく様子、そして観察眼も向上していって微妙な異常も見逃さなくなっていき、突然変異体がどんどんとれていくという様子がよくわかります。もう40年以上もたつノートもありますがちゃんと保存されているのですね。イギリスにはもっと古い実験ノートも保存されています。次回はそんな実験ノートの話をしたいと思います。

 

虫の写真 C. elegansではなくて昆虫です!

昆虫の写真です!

リンク集に紹介してあるBiotechniqueという雑誌をみていたら昆虫の写真を集めたサイトが紹介してありました。生物を研究している人は昆虫採集を子供のときから趣味にしている人も多いようです。それも蝶々だけとか、カミキリムシだけとかいろいろテーマをきめて集めている人がいます。
このサイト(Insect Images)には昆虫図鑑をしのぐほどの、いろいろな虫の写真(35252枚)がのっています。

英語のサイトですが、butterfly (蝶々)とかのキーワードで検索すると (web pageの上の方にあるSearchの後の箱の中にbutterflyとかタイプしてリターンを押してみて下さい)きれいな蝶々の写真が楽しめます。英語でごちゃごちゃしていてわからないという人はここをクリックして下さい。

モルフォ蝶とかもあってきれいです。いろいろ適当にランダムにクリックすると恐ろしげな昆虫、有益な昆虫、きれいな昆虫などいろいろあって、生物の多様性が実感できるのではないでしょうか。写真はダウンロードできますし、無料で登録すると更に高解像度の写真がダウンロードできるそうです。Georgia 大学の方々が学術研究費で創っているサイトなので是非、世界のいろんな方々に登録してもらって使ってほしいと書いてありました。

虫の集い(むしのつどい)というのがあります。
これはモデル生物線虫C. elegansの研究をしている人たちの集いです。私はこれを昆虫採集同好会と思っていた時期があります。